結界解除を皆と相談の上で、少し早めて解除を行った。現実時間を再確認すると、朝五時。悪くない時間帯だ。
「まずは一旦海鳴だな。白音ちゃん、でも、本当に手伝ってもらっていいのか?」
「くどいですよ、兄さま。私達は家族になるんでしょう? それなら、フェイト姉さまをこき使った連中への報復をするのなら、私が参加するのは何もおかしくありません。さっさと必要なものを取って、クアットロさんの情報交換が終わり次第動ける態勢を作ってしまいましょう」
まず、海鳴に戻るのは彼女が必要な着替えを取りに行く必要があるからだ。この結界内での一週間は紗月やアリシアの服を借りたり、ファリンに手作りインナーを作ってもらったりしていたという。すずか達も驚いていたから知らない間にそんな技能を身につけて、かつ完成度も目を見張るものがあったらしい。
俺も恥ずかしながらも、ちゃんと見て欲しいと願った白音ちゃんのインナー姿を見せてもらったけど、小柄な彼女によく似合う可愛いブラジャーやショーツだった。というか既製品にしか見えなかったから、姉のノエルさんから引継いだ月村家メイド長の実力は伊達じゃない。
たまに慌ててドジをすることは今でもあるというけど、大きなミスはほんとしなくなった。海外にいる忍さんの代わりに彼女のメンテ担当になったこともあって、彼女の成長は俺にとっても嬉しい。いくら自動人形であっても自意識が確立している女性だから、俺に調整をされるのはどうかと思う所もあったんだけど、当のファリンや主であるすずかがその形を望んでいるから、彼女達の判断に従っているといったところだ。
「メールは部長に送りましたし、すぐ電話もかかってきましたから。本当に別次元でも繋がるようになっていて驚きました」
白音ちゃん曰く『学校と今日の活動休みますメール』をグレモリーさんへ送り、無事休みも確保出来たとのこと。学校関係にはグレモリーさんから連絡を回してもらえるらしい。ただ、お見舞いに行くような雰囲気があったので、実際には海鳴にいる白音ちゃんとしては困ったことになるため、『一日で直すためにも静かに休ませてほしい』という希望を丁寧に伝えたところ、少し凹む様子がありながらも希望を受け入れてくれたとのことだ。
「丁寧……うふふ、そうですわね。言葉は確かに丁寧でしたわ」
「仕方ないじゃありませんか、朱乃先輩。方便とはいえ、家に来られたらゆっくり休めないから来るなとは言えないです。だからせめて声色にその想いを乗せるしかないですから」
迫真の演技であったようで、とにかく白音ちゃんは本日の自由行動を確保出来ている。なお、俺達も今日の学校は休む。ドクターの動き次第でもあるけど、今日一日で次元閉鎖と報復措置まで一気に進めるつもりだから。
あとは俺と共に暮らすことを公言したフェイトに朱乃や黒歌、白音ちゃんやカリムさんの衣類等の収容棚も必要となったから、俺達の私室の隣部屋を衣類部屋として使うことになった。それに関連するクローゼットなどの移動作業もやらなければいけない。あとは学生や業務を持ち帰る人が増えることも考えると、学習机もあといくつか追加する必要もあるだろう。
衣類部屋に行くための経路は、ひとまず簡易転移装置をドア替わりに設置した。中で移動できるように壁を抜くとなれば大がかりにもなるし、当面は代替手段で運用となりそうだ。学習机の手配はファリンに任せたけど、部屋に皆他人を入れたがらないので自分達で邸内の移動や設置はやらないといけないな。女性陣も身体強化でどうにかなるのが恐ろしい。見た目華奢なすずか達が箪笥などをひょいひょいと運ぶ風景は、外部の人間に見せるわけにもいかない。
「戦車としての力の活用の時です。任せて下さい」
グレモリーさんの眷属をすぐに抜けるわけにもいかない、頼もしい発言をしてくれる白音ちゃんや……朱乃もそうだが、当面は海鳴と駒王町での二重生活をするという。転移に必要な魔導具は渡してあるし座標位置も教えてあるから、最悪魔導具が壊されても時間をかけて演算してもらって一日で自然回復できる限界近くの魔力を払えば、こちらへと戻ってこれる。
なお、一日で自然回復というのは現在の朱乃や白音ちゃんでということだから、日々鍛錬を続ける二人なら徐々に負担は減っていくだろう。魔力と気の転用であったり、朱乃に比べて魔力総量が少ない白音ちゃんも妖力をさらに転用することで補えるわけだしな。
「しかし朝五時でよく連絡がついたね」
「部長、悪魔らしい夜型なので結構眠りが浅いんです。メール打ったらすぐに反応があるぐらいには。電話の終わり際にもう一度寝直すって言ってました」
いずれは話をしなければいけない相手ではある。だから、それまでは知己を得る機会があったとしても、出来るだけ友好的な関係を結んでおくべきだな。そんなやり取りをしながら、白音ちゃんからもらった情報を元に彼女の自室へと転移魔法を展開し無事繋がることを確認した後は、部屋に固定してある転移装置に座標を登録し生活に必要なものの移動を始めていた。
白音ちゃんや朱乃に了解を取った後、家族各人の携帯型転移装置にも二人の自宅位置座標を登録した上で、手分けして駒王町の二人が必要なものをひとまず移動していく。あらかた目処が見えてきた頃、カリムさんとクアットロが俺の元へと報告に姿を見せた。
「大翔様、お手伝い出来なくて申し訳ありません……」
「いや、気にしないで。そちらも無事に行けたのかな」
「ええ。頂いた携帯型の装置で転移テストしましたが、直接私の執務室や私室に飛べるのを確認しました。座標を皆さんに送っておきますね。はやてや伊集院さんも一緒に飛ばされてきたので、私の執務室へ戻った後、各関係者への連絡へ追われているようです」
「カリムさんは誘拐未遂に遭って、出先で療養中って話、でっち上げできそうですかぁ~?」
「やってもらいますわ、必ず。そうでなければ、機動六課設立の後ろ盾を止めると通告しましたもの」
カリムさんも話し合いの結果、最終的にはここから教会へ出勤する毎日をすることになった。ただ、すぐに教会に戻るつもりはなく、しばらく身を隠す期間を作ると宣言していた。
「シャッハやお父様だけは、最悪こちらへ直接連絡をしてもらっても構わないといいましたから。ただ、体調が優れないから、先方の療養場所と調整した上で申し付けています。ふふ、調整をするのは勿論私や大翔様ですし、教会の立場が大翔様への干渉を多少なりとも防げるのであれば、利用できる限り利用すればいいのですから」
「お、おおぅ……教会所属の人とは思えない黒い発言ですよぉ……」
「私にとって信仰を捧げる聖王様に出会えたのですし、私は教会の組織に忠誠を誓うわけではありませんからね、ふふふ」
穏やかに微笑むカリムさんだが、口にする中身は関係者が聞けば過激に過ぎるものだろう。クアットロさんの顔が引きつっているから、一般的な教会関係者からすればマズい発言であるのは間違いなさそうだ。
「私が持ち込む衣類等はそれほどありませんので、このトランクケースで全部入りましたから。私もすずかさん達に声を掛けて、今からお手伝いしてきますね」
身体強化の練習を兼ねてやってきますとカリムさんはやる気を見せながら、転移装置から一旦戻ってきていた朱乃等と一緒に駒王町へと移動をしていった。作業ではあるけれど、会話をしながらのものだから、彼女達も楽しみながらやってくれている。
「え、えっと。割り出し終わりましたよぉ。次元封鎖についてもこっちの時間で午前中を目処に完了できるって言ってましたぁ。なお、封鎖とカリムさん誘拐未遂とこの後の襲撃はドクターの仕業だって、宣伝に使わせてもらうから思い切りやってこいとのことです~」
「ありがたいけどさ、宣伝って意味あるのかな……?」
「ヘイトを自分に集めると楽しいことになるとかどーとか? 私達全員、変身魔法使えますからねぇ。この間に色々やれることがあるってことで~」
報復を行う連中のデータに目を通す。管理局での正式な役職。図面と合わせた執務室の位置。本日の予定。……ああ、今日中に全部潰せるな。
「ふ、ふふふ……やっぱりいいですよぉ……」
「どうしたんだ、クアットロさん。あ、データありがとう。本当に助かるよ」
「いえいえ~。大翔さんという検体のデータが私達のパワーアップに役立ってますからぁ。しっかし、やっぱり大翔さんはいいですねぇ~」
クアットロさんの瞳が妖しげに揺らめき、どこか恍惚とした表情を浮かべる。すずか達が俺へ情欲を見せる時の表情に似てはいるが、彼女は決してそうじゃない。
「家族にはどこまでも甘くて、真剣に助けを願う子供や女の子にはとことんお人好しで……家族とみなす者以外は容赦なく切り捨てる非情さがあってぇ、敵に対しては身震いするほどの憎悪を向ける瞳がぁ。私達ナンバーズはドクターへ忠誠を誓う身ですがぁ、身内以外への対立相手への苛烈さがもぅ……相手を潰すことに何も躊躇わないでしょうぉ?」
「ああ、長く命を終えるまでの苦痛で無ければ、フェイトの痛みを思い知らせることなど到底叶わない。リンカーコアを再生不可になるように潰し、かつ医療魔法等で再生を試みれば、体内に激痛を入らせるようにコアの欠片に細工をする。空のエリートと呼ばれる者が魔導師ですら無くなり、一生地を這う気分はどうだろうな?」
「アハハハハ……だから、大翔さんとはうまくやれるんですぅ。今後ともよろしくお願いしますねぇ?」
「クアットロさん達が俺達の敵に回らない限りは、こうして協力し合えるだろうさ」
似た者同士。情を向ける相手が違うものの、大切な人に手を出す存在に対しては徹底的に叩く。クアットロさんと俺は、そういう感じだった。
「さて、行ってくるよ」
そう言って転移しようとした瞬間、服を引っ張られる。その方向を見れば、いい笑顔に変わったクアットロさんが転移装置を静かに指し示していた。
「一人でどこに行こうと言うのかな、ひろくん? 一人での強襲は厳禁。必ずツーマンセル以上で対応するって話だったよね? 汚れ仕事だといって、一人で全部やろうとしない。一緒に喜んで手を汚すから、先走らないでって約束だったよね?」
ハイライトが完全に抜け落ちた空虚な瞳を湛える最愛の人がそこには立っていた。ゆっくりと近づいてくる虚ろな笑顔に、俺は動こうにも動けなくなってしまった。
「まーた、一人でやろうとしたのね大翔は」
「クアットロさんに一人になった時間は何気なく見て欲しいと言って正解だったねぇ」
『ひろ兄ちゃん、何でも一人でやりたがり屋さんだからね困っちゃうね』
「大翔さんに必ず誰かがついておくようにしようという意味が良く分かりますわ。小鬼ちゃん達を順番に大翔さんについてもらうようにしましょうか」
「それだと空を飛ばれると追えなくなります、朱乃先輩。黒歌姉さま、仙術と妖術の組み合わせとかでどうにかならないんですか」
「白音、私は二十二世紀から来る猫型便利ロボットじゃないにゃ……」
意外と使えない人ですと呟く白音ちゃんに、崩れ落ちる黒歌さん。まずいと思いつつも、俺は俺で『どうして? どうしてなのかな?』とこちらを拘束しながら同じ言葉を繰り返すすずかを宥めるのに精一杯だ。
「ナハトさんから魔力のラインを繋いでいる、すずかさんかアリサさんにSOSを飛ばして頂いて、念話で全員へ連絡というのはいかがでしょうか。安全と言う意味ではナハトさんがいれば殆ど担保されているのかもしれませんが、一人で行動できると思われるのはいいことでもありませんし……」
「むしろお兄ちゃんやすずか達が常にナハトへの魔力供給をしていることを考えると、お兄ちゃんの家族になる人みんなナハトと追加契約を結んで、ラインを確保するといいんじゃないかな。ナハトはお兄ちゃんが大好きだけど、お兄ちゃんが無茶することを望むわけじゃないから」
カリムさんやフェイトの言葉にナハトが俺の体内から飛び出してきて、実体を形取る。神話上の生物、スキュラの形をしたリインフォースに良く似た顔のナハトが、アリシア達や朱乃・黒歌・白音ちゃん・フェイト・カリムさんに向かって下半身の蛸足を浮かして伸ばしていく。
「えっと、確かこっちの世界の使い魔ってのは、魔力供給する代わりに意思疎通もある程度出来るって奴だったにゃ。ナハト、私達とも契約してくれるってことかにゃ?」
黒歌さんの言葉に頷くナハトに、黒歌さんは迷いなく足を取り叫ぶ。他の五人にしても、伸ばされた足を両手で包むように取り、力強く頷いている。
「持ってけにゃ! 減った魔力とかはまだ修行ですぐに増やしてやるにゃ! 吸った分、ナハトも強くなるといいにゃ!」
黒歌さんの声に応えて、契約の魔法陣がナハトの手により展開される。魔法陣が終息し魔力光が収まっていく中で、ナハトへの魔力供給量が少なくなるのが分かる。すずか達の魔法運用に負荷がかからないように、ナハトには俺から供給の九割ほどを取ってもらうように調整してもらっているが……。
「再調整して、それぞれの契約相手から一割程度力を供給した結果、そこまで俺の負担が減ったのか……」
「私達もそれぞれ訓練を続けて個々の魔力量も増えて、ひろくんをフォローする人も増えてきたよ。だから、魔力を取られ過ぎてる感じはしないもん」
「まぁ、流石に吸われてるというのは自覚できるけど、普段の運用に影響が出るかと言われれば、そんなことはないわね」
瞳の光が戻ってきたすずかにアリサの言動からも負担を感じている様子もなく、ナハトの様子は変わりない。むしろ魔力の流れを示す身体に浮かび上がる回路数が分かりやすく増えている。
使い魔の側から追加契約を結べるという時点で異質ではあるんだけど、古代からの知識を集めてきた夜天の魔導書を引継いでるから、それほど驚かないというか。
「ナハト、怒ってなんかないから。俺のためにしてくれたことを、俺は怒れないし、感謝してるんだ」
すずか達に手を出させる前に終わらせたかったのは本音なんだけど、こうなった以上はやむを得ない。ナハトの頭を軽く撫でてやりながら、リストに目を通したアリサの進言を聞くとしようか。
エリオくんやキャロちゃん出せず。31日の更新冒頭で出てもらうことにします。