本年もどうぞ宜しくお願い致します。
追記:ごめんなさい。3日の更新も日替わりギリギリになりそうです。
「大翔、アンタ一人だけで行かせはしないわよ。これを見る限り意外とターゲットの数が多いしね、無茶をするのが見えるようだわ」
「転移魔法と変身魔法はほぼ必須技能ということで、ここにいる皆さんは優先して身に着けていますから。顔バレを防ぐための準備もしていますわ」
「至近距離で魔法への抵抗力が高い人なら偽の姿と気づくでしょうけど、画面を通して見る人達は少なくとも分かりません。それに転移に使う演算補助の魔法具もみんな兄さまから頂いてます。この家の座標が登録されていますし、強襲した後すぐに離脱が出来ます」
アリサ、朱乃、白音ちゃんが逃がすなとばかりに、こちらに抱きついたままのすずかと一緒に俺を取り囲んでいく。
「どうしましょう、私はまだ変身魔法までは……」
「その辺りはこの黒歌さんにお任せにゃ。……ただ、貴女はまだあっちに籍が残ってるけど、本当に手伝うのかにゃ?」
「私は大翔様にこの身を捧げる者です。主が危険に飛び込むのに、なぜ安全な場所で待っていられますでしょうか。それに黒歌さんの幻術についての技量は本当に素晴らしいものですから、安心してお願いできます」
「う、ううん、確かにきっちりやるけどね? ……いいのかにゃ、ほんと」
黒歌さんが窺うようにこちらを見るけれど、俺がカリムさんの意思が覆せるとは思えない。
この数日間で分かったのは、彼女は柔らかな雰囲気の中に頑固とも思える強い意思を包んでいて、自分で決意したことを簡単に撤回する女性ではないということ。
「だから、ひろくん。一人で行くなんて絶対にやらせないからね?」
『どうしたの、ひろくん?』
「分かってる。もう一人で行こうとしないからさ」
『……本当にこれでいいのかって、今更だけど』
「信用できないからこうやって捕まえてるんだよ?」
『まだ抱いていないから間に合うかもと思ってるなら、無理だと思うよ』
個別念話でのすずかとのやり取り。彼女を押し留める振りをして、すずかも即座にこうやって合わせてくれている。声帯を通して交わす言葉は、無茶をする男を強引にでも引き留める姿だけど……それも言葉や演技による遊びみたいなもの。
『それに……閉塞した環境を自分から壊すことも出来なくて、仮にやったとしてもその後の展望が持てないから尻込みしてしまう……。かつての私やアリサちゃんにそっくりだよね?』
『カリムさんがそれだけ自分を圧し殺していた。すずかはそう感じているんだね』
『だからひろくんにベルカの聖王の力を見てとった時、カリムさんは自分のこれからを賭けた。ほら、はやてちゃんも驚いていたでしょ? 別人みたいだって。家名も地位もなくした自分になったとしても、ひろくんは家族として自分を守り尊重してくれるって……私やアリサちゃんを見て分かったんだと思う』
身体を差し出すことで心の平穏と自由を得る……。俺が無茶な要求はしないだろうという計算は入っているだろうけど、随分無茶なことをするものだと思う。はやてや皇貴から人となりを聞いていたとして、実際に逢ったことが無い人に自分の身を預けようと決められるものなのか?
「やろうとしてるコアの破壊が手早く出来るのは、大翔以外だと……早くに蒐集技能を受け取って応用もある程度身につけてるアタシやすずかか……」
「私も出来るけど、魔力量が少ないから出力足りなくてレジストされちゃうかもだしね……」
「アリシアや紗月は技術面は間違いないんだけどね。魔石で無理やりブーストするのも身体に負担がかかるから却下よね」
「それならば大翔様、すずかさん、アリサさんを中心に三組に分かれますか? 転移魔法は全員が身につけていますし、三人以外がサポートに集中すればより短時間で成果が上がると思います」
自分からも案を出していくカリムさんに俺は思わず声を掛けようとするものの、そんな俺の口をそっと塞ぐ柔らかな手が伸びてきていた。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
「フェイト……」
「私や朱乃もこの何日間かで色々とカリムと話したよ。お兄ちゃんの輪に加わった新人同士、話も弾んでこうして『さん』付けをやめる程度にはなったんだ。ナハトとのラインを繋ぐのを受け入れる時点で、もうカリムに迷いは無いから」
フェイトの言葉にカリムさんへと改めて視線を向けると、それに気づいてか彼女が微笑みながらこちらへと歩み寄ってきた。
◇◇◇◇
数日前の私の決断は間違いなかったと思いながら、大翔様の家族に仇なした愚者達への報復を如何に速やかに済ませるか思考を巡らせる。
最後の聖王、オリヴィエ聖王女の力を宿した方。切っ掛けが聖遺物から取り出したDNAを取り込んだからといっても、実際に大翔様は『聖者の印』を発現させてみせた。本来、聖王様の血筋に現れる虹色の魔力光にしても、大翔様の持つ元来の色、深紅の魔力光に内包されてしまっていると考えればおかしくはありません。この方が持つ稀少技能が受けた魔力に宿る性質等を写し取り、自分の力へと変えるものなのですから。
『預言者の著書』による未来視の一節に、大翔様の記述があった時……いえ、その時には相手がまだ大翔様とは分かっていなかったのですが……私の心は歓喜に震えたのです。自分の置かれた環境に深い諦観がありながらも、どこかでこの現状を壊したくて自分で壊す勇気が持てない私にとって、それは希望の光に等しいものでした。囚われることへの怖さはなく、心の安息を得ることへの喜びが大きく勝っていたのです。それだけ、私が鬱屈していたということでもあるのでしょう。
「カリムさん……」
出会って知ったのは、感情が意外と表に出やすい方だということ。今だって出会ってまだ数日の私が自分に尽くす道を選んだことを、このまま本当に選ばせていいのかといった苦悩や迷いが浮かんでいます。……本当に甘い方。けれど、そんな彼だからこそ救われ、彼を支え続けている人達がここには集っています。
そんな顔をさせたくない。貴方の魔力はとても温かくて、そんな貴方の気質を守りその安らぎに包まれていたい。私はこの短期間でそう思えるようになりましたし、きっと他の皆さんはもっと強く思っているだろうから。
「大丈夫です。私は自分の意思で貴方に仕えたいと思い、この数日でそれは間違いなかったと思えました」
企みなどを内に秘めるのが苦手ということにもなりますが、感情を殺す──こちらの言葉で『仏頂面』と言うそうですね──それは出来るとのことなので、謀略が必要であれば私達が務めればいいだけのこと。他にもそのつもりでいる方もいらっしゃるようですし。
「心配は無用です。私はこれからの生活が楽しみで仕方がないのです、ふふっ。さあ、大翔様の家族の敵を討ちに参りましょう」
ここからは皆さんの動きも迅速なものに変わります。黒歌さんが私に変身魔法をかけながら、自分で唱えられる他の皆さんに幻術を使って魔力光の色も変えるように助言したと思えば、クアットロさんが自分達の関係者の犯行を匂わすように、姿を彼女達に似せるように依頼してきます。
さすがに、クアットロさんの服のデザインは身体のラインが露骨に出てしまうということで反対の意見が上がったため、管理局の制服で揃えることに落ち着きます。魔力光の色もクアットロさんのエネルギー光と同じ緑で統一することになりました。
「……和気藹々なのに話してる内容はなんて物騒なんだよ……」
女性陣の結束を甘く見てはいけませんよ、大翔様。皆、それぞれに怒っているんです。貴方が感じた怒りを鏡のように写して自分の怒りに変えて、貴方の敵を討つことに高揚感を感じていますから。
「お兄ちゃんには、私と朱乃がつくよ。私も直接痛い目に遭わせたい奴がいるしね……」
「私には、カリムさんと黒歌ちゃんだね。今回限りはフェイトちゃんにひろくんの隣を譲るとするよ」
「アタシにはアリシアと白音ね。二人とも補助は任せるわ」
なお、変身魔法の造形はクアットロさんによく似た人がたくさんいる感じになっています。自分で言い出しておきながらなんとも複雑そうな顔をしていらっしゃいますが、後から後悔しても遅いですよ?
「お、同じ顔の人が一杯だよ、エリオくんっ」
「いや、キャロ。どう見ても変身魔法か何かだろ……?」
「ユ、ユーノくん! クアットロさんがたくさんいるの!」
「……なのは、エリオが言ってた言葉聞いてた?」
次元封鎖が完全に終わる前に、高町さん達が保護した二人の少年少女をミッドから連れ出してきたようです。ちょうど強襲に出かける直前の私達とばったり会った状態ですが、反応が全く女の子と一緒ですよ高町さん。
「クアットロさん、ユーノ、すぐ戻る。ファリンにお茶でも淹れてもらって待っていてくれ」
「はいはい~。こっちは封鎖状況の進捗を見ておきますよ~」
「大翔も何かあればすぐに連絡ちょうだい。ばれない程度にフォローはするからさ」
◇◇◇◇
「がはっ……!?」
背後から一気にコアに直接触れ、握り潰すように砕く。再生など二度と出来なくなるように粉々に。ひろくんの家族を、フェイトちゃんを傷つけた報いを一生悔いればいい。幻術で私達の姿が見えないとはいえ、転移時にどうしても魔法陣は現れる。その魔法陣に驚いた数秒で充分に目的は果たすことが出来る。
『次のターゲット、行こう。緊急通信する隙は与えてないけど、さっさと終わらせるに限るよね』
『すずかさん、お見事ですわ……次はこの男ですね』
『転移魔法、発動するにゃ』
カリムさんの様子にも動揺は無い。それだけひろくんに本気になったということだけど、ひろくんの魔力は特定の相手がいない女性に対して求心力が強過ぎるよね。朱乃さんの言う通り、本当に気をつけないと……。
「転移魔法陣!?」
次の人も本当、隙だらけ。驚く間にバリアジャケット展開するのが先と思うけど、ねっ。
「がふっ、ぐぅ……」
破壊が終わり崩れ落ちる目標を見下ろしながら、こんな人たちがフェイトちゃんを潰す直前まで酷使していたのかと思うと……やり切れなくなる。ひろくんが言うように、私達にとっては管理局はどこまでも害悪でしかない。はやてちゃんは内部からの改革を目指しているけど、なのはちゃんが選ぼうとするように距離を空ける道を選んでくれればいいのにな……。
「貴様らは、一体……!」
答えはせず、黒歌ちゃんが昏倒させるための一撃を放つ。私をフォローする黒歌ちゃんは他班とも連絡を取り合い、進捗を確認してくれている。
『白音や朱乃に聞いても順調なようにゃ。ただ、先に昏倒した奴らを部下の連中が見つけて、騒ぎになり始めたにゃ。各班あと一人か二人ずつ、さっさと片をつけるにゃ』
黒歌ちゃんに頷き、私達は次の目標を捕捉し魔導師としての核を迷いなく砕いていく。ラスト一人となり合流した私達はフェイトちゃんが直接手を下すのを見届けることになった。
「ぐ、ぐあぁぁぁ!」
『お兄ちゃんみたいにまだうまく砕けないな……もういいか、無理やり魔力流し込んで強引に割ってしまえばいいよね?』
『いいんじゃないでしょうか、フェイトさん。二度と魔導師として復帰できなければいいわけですから』
「ぎゃあああああ!!!!!」
蒐集技能は覚えたばかりのフェイトちゃん。リンカーコアへの干渉は出来たものの、抜き取りの応用で崩壊を起こさせるのはなかなか難しかったらしく、雷の魔力で無理やり砕いたんだけど……。
『内臓まで焼いちゃったかも。まぁ、怨みを晴らしにきたんだしいいよね』
念話でのやり取りとはいえ、どこか飄々とした言い方が逆にフェイトちゃんが相当キていたんだなぁと思わせるものだった。敵対相手への容赦のなさは、ひろくんやプレシアさんの影響を受けたのかな。私も人のことは言えないけどね。