本年も宜しくお願い致します。
年末年始は家庭の用事が多くて、かえって普段より更新が遅れてしまいました。
3日分の更新となります。
勢い余ったものの殺めてしまっては同じ穴の狢。我に返ったフェイトさんは大翔さんの指示もあり、内臓をやられて心臓が止まりかけた相手にリンカーコア以外の部分へ回復魔法を施します。最後に電気ショックの要領で心臓の鼓動を戻し、気を失ったままではありますが命に別状がないところまで戻したところで、私達は再び海鳴に戻ったのです。
「お帰りなさいまし~。流石の早さですねぇ。あとは私達の仕業ということで、喧伝に使わせて頂きますよ~」
「宜しく頼むわ。こっちで映像は確認してたのよね?」
「バッチリですよぉ、アリサさん。フェイトさんが使った雷についてはぁ、こちらの陣営で鹵獲した成果とさせてもらいますけどいいですよね~? フェイトさん自体を洗脳してるとするか、あるいは彼女を解剖した結果とするかはドクター達と相談しますけどぉ」
「ごめんね、クアットロ。面倒をかけるけど……」
「いえいえ~。無能な上司への怒りはごもっともって奴で~。大翔さんのあの結界が無かったら、実際フェイトさんは壊れてたとしか思えないですしね……あっち側からは行方不明扱いになるでしょうし、その辺りを利用させてもらうだけですので~」
変身魔法を解除しながら、アリサに続いてフェイトさんがクアットロさんに今回の件の後始末がややこしくなったことを詫びています。そして、大翔さんもお礼の言葉をかけたところ、持ちつ持たれつなのだからとさらっと流されてしまったあげく、逆に注文が一つ出たのです。
「大翔さんはそれよりもあのケモミミパワーを安定して使えるように、鍛錬に励んでくださいねぇ? もふもふが大嫌いな女はそういないんですぅ。早く他の人達にケモミミの普及を進められるように精進して下さいよぉ?」
目が本気でした。クアットロさんは月村家の滞在が長くなったことで猫好き属性を得てしまったらしく……すずかさん程に無いにせよ、姉妹や友人に被り物などのつけ耳ではなく、本物の猫耳や尻尾をつけられる可能性が出来たと知って、鼻息を荒くしているようです。
「どうしてこうなった……」
「あ、あの……お兄ちゃん、お猫さんに変身できるの?」
「キャ、キャロ!?」
頭を抱える大翔さんに問いかけたのは、強襲前に入れ違いとなったキャロちゃんという肩口辺りで切り揃えられた桃髪の女の子です。なのはさんやフェイトさんが保護していたという子供達の一人ですね。慌てて声を出したのはもう一人の男の子、エリオくんでしたか。同行した少女の突然の行動に慌てて制止に入ります。
「大丈夫、慌てる必要は無いよ。えっと二人ともさっきは急な用事があったから、挨拶が遅れてごめんね。俺は空知大翔。なのはやフェイトの古い友人だよ。大翔と呼んでもらえればいい」
膝を下ろし少年少女の目線に合わせて、大翔さんは自分の名前を告げました。その言葉に二人ともわたわたしながら、返す言葉で自分達の名乗りをあげていきます。
「ごっ、ごめんなさい。キャロ・ル・ルシエって言います! こちらはわたしの使役竜のフリードリヒ、普段はフリードって呼んでます!」
「キュクルー」
フリード違いですが、鞄から顔を出している白銀の子竜はどこか愛らしさを感じるものでした。彼女の言葉に合わせてちゃんと挨拶とばかりに鳴き声をあげています。
「僕はエリオ・モンディアル。なのはさんやフェイトさんから、貴方の話はよく聞いてました」
「む、それは怖いな。どんな話をされてるやら……」
「大丈夫です! いっつもお話を聞く時は、大翔さんがすごく優し……もがもが」
「キャロ? ちょ、ちょっと向こうの部屋でお話しようね?」
「エリオ、うまく説明しておいて欲しいの! お願いね!」
子竜ごとキャロちゃんを抱え上げ、隣室へと素早く姿を消した二人を見て、エリオくんはため息を一つこぼします。大翔さんも苦笑いしながら、彼の今までの苦労を察して労うような言葉をかけました。
「どうにも、苦労していたみたいだね。兄代わりの立場として謝らせてくれ」
「い、いえ。キャロもそうですけど、二人とも天然なところがあって……任務中はピシッとしていてカッコいいんですけど。でも、なんだか聞いた通りの人で良かったです」
二人の名誉を守る範囲でエリオくんが教えてくれたのは、おおむね私達が知る大翔さんの人物像を誇張表現込みで聞かされていたという話でした。そして、自慢の兄にいつか逢って欲しいと語っていたのだとか。
「なのはさんやフェイトさんを模擬戦で同時に捌けるって、どんな人だろう。そんな人いるのかなって思ってたんですけど……貴方を見て分かった気がします」
「模擬戦のお陰で全力全壊の二人が相手じゃないからね。勝つことに拘らないことで辛うじて何とかなってるだけというか」
「……普通、あの二人を同時に相手にする時点で、何とか出来るのがおかしなレベルです。捌くのを前提に話をする人なんて初めて見ました」
「一応、二人のお師匠役みたいなところもあるから、そう簡単に負けるわけにはいかないじゃないか。二人に負けないように努力し続けるだけだよ。目標であり続けるのも兄としての役割と思ってるからね」
そんな大翔さんの言葉にエリオくんの瞳が驚きからか大きくなり、そして何か納得したように深く一度頷いています。
「なのはさんやフェイトさんが『私なんてまだまだだよ。もっと努力しなきゃね』って結構口癖のように言っていたのは、貴方の影響だったんですね……それに……」
そこでエリオくんは今まで静かに様子を見守っていたユーノさんを振り向いて、再び大翔さんに向き直りました。強い意思を感じさせる瞳は、どこか大翔さんに重なるものを思わせます。
「なのはさんにはユーノさんがいる。だけど、フェイトさんは……」
問いかけるような眼差しに、大翔さんは目を逸らすことはありません。私達に向けてくれる真っ直ぐな瞳で、エリオくんをしっかりと見つめています。
「大丈夫だよ、エリオ。君達を連れてくるようになのは達に言ったのは、俺がフェイトを受け入れると決めたからだ。フェイトにはもう二度と孤独を感じさせたりしない」
「大翔さん……」
「フェイトが弟や妹として君達を守りたいと思うなら、俺も全力で二人を守る。なのはにしたって、ユーノのパートナーだけども俺にとって可愛い妹分であることに変わりは無い。だから、同じことなんだよ」
言い終わると大翔さんは照れ臭そうに笑います。つられてエリオくんも笑い、周りで話を聞いていた私達も笑みがこぼれました。身内と認識する者に対しては溢れんばかりの慈愛を注ぐ。付き合いの長さは関係なく、彼の中でそう位置づけられた人は全力で守り抜く──それが大翔さんの生き方。
「なのはさんから、こちらでお世話になるのだと話は聞いています。僕も正直、ミッドには拘りがあるわけでもないので……。どうぞ宜しくお願いします、大翔さん」
大翔さんはエリオくんから差し出された手を、しっかりと両手で包み込み大きく頷きました。
「それと、僕にもどうか稽古をつけてください。僕もキャロやなのはさん、フェイトさんを守るために強くなりたいんです」
「ああ、俺で良ければ全力で君を鍛えよう。俺の家族も随分と増えてきた。もちろんこれからも皆を守っていくけれど、もしこぼれてしまうようなところがあれば、エリオが助けてくれると嬉しいな」
「……はい。遠慮なく任せてもらえるように、頑張りますから。僕だって男なんです。大切な人は自分で守り抜きたいじゃないですか」
その言葉に大翔さんはエリオくんの頭を少し乱暴そうに撫で付けて、とても嬉しそうに笑います。そして、ユーノさんとも拳を合わせて、黙って頷き合って。……男の子の世界、って感じで、周りの私達はどこか置いてけぼり。話を終えて戻ってきたなのはさん達も、急に仲を深めた様子の男性三人の雰囲気に戸惑う表情を見せています。
「エリオくん、どうしたの?」
「大丈夫だよ、キャロ。大翔さんにこれから宜しくお願いしますって挨拶と、これから稽古をつけてくれるって聞いて、頑張らなきゃって自分に気合を入れていたんだ」
「えー!? 大翔さんが稽古をつけてくれるのなら、キャロもやる!」
「キュクルー!」
そんな雰囲気をお構い無しに入っていったのは、キャロちゃんでした。フリードくんも一緒に鳴き声をあげて、自分も参加すると訴えているようです。
「大翔くん、あの」
「大丈夫だ、なのは。この子達は絶対に守ってみせるから。自分のけじめをつけて、海鳴に帰ってくればいい」
「う、うん。ごめんね、今見ている子達だけはしっかり最後まで見てあげたいんだ。でも、それが終わったら強引にでも帰ってくるし……エリオやキャロにも逢いたいから、出来るだけ早く目処をつけてくるよ」
教導隊の今の教え子達をせめて一人前にしてから──それまでは管理局に、というのがなのはさんの願いでした。ユーノさんも内々での引継ぎがあるので、しばらくは戻りたいとのことでした。ただ、二人ともエリオくんやキャロちゃんの安全が確保できる場所を……という希望を大翔さんが快く受け入れた以上、必ず戻ってくると誓ったのです。
「次元閉鎖がまもなく終わりますけどぉ、海鳴への転移経路は適時変わりますのでぇ。というか、変えますぅ。なのはさん達がその辺りのデータが入った演算補助の魔法具をもらえない以上、基本的には迎えに来てもらうしかないと思っておいて下さいね~。海鳴の座標が分かってるからって不用意に飛ぼうとすると、次元の狭間で行方不明になりますからぁ」
「状況が落ち着けば仕事場にはこちらから通うことになると思いますので、私の方へ連絡頂くのが早いかもしれません」
「カリムさんの一件はこっちも噛むかも知れないのでぇ、二週間ぐらいを一つ目安と思っておいて頂ければ~」
カリムさんとクアットロさんの言葉に、ユーノさんはなぜか唸り声を上げます。その理由を口にするのですが、なんともブラック企業さながらの発言が飛び出してきました。
「うーん。二週間では無限書庫の引継は終われないな。だから問題ないと思うよ。手当てを出すから、大翔も泊り込みで手伝いに来て欲しいぐらいだ」
「ごめんこうむる。なのはにでも頼んでくれ。いい並列思考の訓練になるだろ」
「にゃ!? とばっちりなの! ユーノくんや大翔くんみたいに、あんな同時にいくつもの本を開いて速読して内容をまとめ続けろなんて、すぐに頭が痛くなるんだから!」
抗議の声をあげるなのはさんを軽くあしらうユーノさんのやり取りを横目に、大翔さんはキャロちゃんにもう一度声を掛けてから、猫又の力を発動してみせました。はい、例の猫耳と尻尾です。大翔さんの尻尾が出た瞬間、すずかさんが間を空けずに絡まりに行っている辺りは流石ですよね。
「わぁ……! すごいです! 本当に猫の耳です! アルフさんに狼の耳を触らせてもらったことがあるんですけど、また違うんですね!」
「ほれほれ、私も出せるにゃ」
「すごいです! もふもふです!」
喜んで黒歌や大翔さんの耳や尻尾と戯れるキャロちゃんやすずかさん。小猫ちゃんはどこか呆れ顔になりながらも、すずかさんの懇願にやむなく耳や尻尾を出していました。
「大翔くん、わ、私もいいかな?」
「ああ。ほら、ここにも触ることに夢中でもふってる人もいるから、問題ないよ」
「にゃ、にゃははは……ほんとだ。フェイトちゃんも素直になったんだねぇ……」
すずかさんに遅れながらも、大翔さんの尻尾をマフラーのように首に巻きつけてご機嫌のフェイトさんを見て、なのはさんも苦笑いです。次元閉鎖が終わり、転移経路のパターンを自分の記憶に叩き込んでいる大翔さんがなのはさんとユーノさんを送る時間になるまで、私達はファリンさん達が淹れてくれた紅茶を楽しみながら、しばしの癒しの時間を過ごしたのでした。
……余談ですけど、クアットロさんも三人に懇願した上で、耳や尻尾の感触をしっかり堪能していましたね。