※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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仕掛ける会長。周りの反応は素早い。


第40話 交渉

 「ふぅ……少し混乱してしまいました。覚悟をして聞きますから、貴方のことや姫島さん達との関係を説明頂けますか? 黒歌の件については聞いてから判断させて頂くとします。こちらに害を与えるつもりはどうやら無いようですし」

 

「その通りにゃ。私は大翔やすずかの飼い猫でもあって勝手に攻撃したら捨てられてしまうし、こちらから仕掛けるつもりは無いにゃ」

 

「か、飼い猫? いえ、それは私が気にすることでは無いのでしょう……椿姫、拘束はもう解けてるわよ。しゃんとなさいな」

 

「えっ、あっ、申し訳ありません、会長!」

 

 会長の掛け声で透明の座椅子の上で正座の姿勢に変わる副会長。その際にぷるんと揺れてしまった両胸に対して、私とすずかさんが即座に大翔さんの視界を手で覆うことで見せないように動きます。すずかさん以上私未満の彼女は相当な破壊力を持つと判断し、大翔さんの気持ちは別にして、あまり視界に入れたくないという気持ちがありました。

 

「……うふふ、貴女達は本当にその人が好きなのね」

 

「はい、ひろくんは私や朱乃さん達の旦那様ですから」

 

「……えっ、ね、姉さんの声にそっくり……?」

 

「どうか、しましたか?」

 

「い、いえ。姉の声と非常に似ていたもので。ただ、貴女の方がとても落ち着きがある感じです。姉も貴女のような落ち着きを多少持ってくれれば……すいません、これでは愚痴ですね」

 

 会長のお姉さんといえば、四大魔王の一柱であるセラフォルー・レヴィアタン様。元々、会長と同じシトリー家の出身ですが、魔王を襲名する際に家の相続権を悪魔界のルール上失っているのです。

 あの方はシトリー家によく発現する水や氷の魔力を膨大な威力を持って使いこなす優れた術者なのですが、それよりも有名なのが、アニメで登場するような魔法少女のコスプレが大好きで平時からその服装を着用していることでしょうか。

 よっぽどの正規の式典でも無い限り、その格好を貫くというのですから拘り様が尋常ではありません。また、絶対的強者の一人ですからあまり強く言える方も少ないのですよね……。

 

 氷属性が得意で変身するとなると、すずかさんもバリアジャケットを着用するので近いものがありますが、極端に魔法少女色が強い格好でも無いですし……。

 

「朱乃さん、不思議そうにこちらを見てどうかした?」

 

「いえ、バリアジャケットのことを考えて……」

 

「あ~。確かに、あの格好も魔法少女っぽいかな。魔導師になった頃から、基本はあのデザインだからあまり気にしてなかったけど。スカートの丈を調整したり、ズボンタイプに変えたりするぐらいだもんね」

 

 可愛さを重視するならあのレースの入った桃色のスカートでしょうけど、接近戦もこなすすずかさんの場合は動きにくくなることもあるからと、バリアジャケットの細かな形状を場合によって変化させています。模擬戦の際にも幾度かお見かけしていますから。

 私の場合は巫女服がやはりしっくり来ることもあり、実質それをバリアジャケットとして採用しています。ここにはいないフェイトさんはレオタードのような薄い装甲の高速戦用形態を実質封印してしまって、軍服調しか使わなくなっていたりとか。けれど、夜の寝台の上では高速戦用形態にあえてなることもありますね。大翔さんにしか見せたくない……そういうことなんでしょうし、着衣プレイというアリシアさんの入れ知恵でしょうね。

 

「えっと、改めてまずは自己紹介からかな」

 

 お互いに名乗りを交わし、また会長側のこの後の予定を確認します。二、三時間後には会長や眷属のほぼ全員で暮らす館に帰るということでしたので、大翔さんがいつもの封時結界を展開しました。

 

「……全く、私も制御能力は相当磨いてきたつもりでしたが。空知さん、貴方は本当に優れた術者なのですね。結界内の時間経過をここまで遅らせられるとは、アガレス家の者でも出来るかどうか……」

 

「一応、得意な系統なので。あと、鍛錬時間が物理的に足りない時とか便利なんですよね。頼り過ぎるのは良くないと思ってるんですが……」

 

 封時結界で時間を確保した後は、踏み込み過ぎない範囲で大翔さんや私達との馴れ初めを話し、出会う理由となった大翔さんにとってのスカリエッティさんが会長のお姉様と重なる部分もあったらしく、会長は大翔さんへちょっとした同胞意識を持たれたようでした。

 

「お陰でこういう時空や次元に関わる魔法は得意にならざるを得ませんでしたし、どうにも憎めない人なんです。だから、仕方のない人だなってそんな感じで」

 

「……分かる気がします。私にとってもお姉様は困ってしまう部分もありますが、それでも大切な姉には何の変わりもありませんから。あ、この焼き菓子美味しい……」

 

「……ほんとですね、会長。これ、月村さんが作られたんですか。とっても美味しいです」

 

「ひろくんが料理全般が得意だからね。私はせめてお菓子作りで上を行かなきゃって頑張ったの、ふふふ」

 

 女子会+男性一人、のような感じになってきていますが、それはそれ。黒歌のはぐれ悪魔になった理由や、会長から見て私や小猫ちゃんが急に魔力が増したように見える理由についても話し終える頃には、会長は難しい顔つきに変わっていました。

 

「空知さん、事情は分かりました。当時の主の黒歌や塔城さんに対しての仕打ちも。ただ、それを裏付けるものが無いのです。いくら貴方が悪魔の駒を彼女から取り出したといっても、悪魔にとっての指名手配者であることに変わりはありません」

 

「ええ、そうでしょうね。だから、私は黒歌さんを自分の世界に住ませるつもりです。別次元まで追ってくるとなればとんでもない労力がかかるでしょうし」

 

「そもそも別世界への転移魔法は聞いたことがありません。私の出身である冥界とこの駒王町を行き来するのであればまだ分かりますが……」

 

「シトリーさん。お時間が許せるのならば、お連れしますよ?」

 

「今日の所は遠慮しておきましょう。別の魔法体系、リンカーコアという魔力を蓄積する器官……貴方の発言内容を虚偽だと断じるのはとても難しい。そう私が感じたのですから、十分です」

 

 ここで一呼吸置き、会長はお茶を口に含んでから、副会長と入れ替わるように空気座椅子に腰を下ろします。座り心地を確認しながら会長は一つの提案を持ち出しました。

 

「ところで、少し話は変わりますが。この風の力を利用するような魔力制御能力、多種多様な魔法への造詣。空知さん、私の眷属になる気はありませんか?」

 

「私はいずれ世界に跨る会社を継ぎ、何千何万という人の生活を守っていく身です。貴女の眷属として十分な働きが出来るとは思えません」

 

「……ならば。黒歌の件を上層部に伝えず、私の腹の中に収める代わりに……と言えば?」

 

 会長の言葉に、一気に魔力を解放するすずかさん、黒歌。そして私や小猫ちゃんも我慢できるわけもなく、一気に堕天使の力であったり、仙術や妖術を発動できる準備を済ませます。一方、副会長も身体を会長の前に割り込ませ、私達の殺気を震えながらも受け止めようとしました。

 

「皆、待ってくれ」

 

 それでも大翔さんの制止に、私も含めこちら側は動きを止めます。私達の中心は大翔さん。彼が待てと言うならば、待つ。止まれない者は彼の伴侶に相応しくないのです。

 

「……見事です。既に空知さんのあり方は『王(キング)』なのですね。先程の失言、試すような真似をして申し訳ありません。取り下げさせて下さい」

 

 冷たい汗を一筋、額から流しながらも佇まいを崩さなかった会長は一度頭を下げました。そして、肩で息を吐きながら両手を床につく副会長。息は荒く、一気に疲労したように映ります。

 

「お戯れにしても、少しやり過ぎではありませんか?」

 

「搦め手を使ってでも、貴方を眷属にしたいと思ったのは本当ですよ。ただ、空知さんを眷属にしたとしても……自分で駒を取り出せる技術があるならばあまり意味を為さないでしょう。それにしても……姫島さんや塔城さんも秘めていた力を受け入れ、しっかり自分の力として行使出来るようになったのですね」

 

「兄さまやすずか姉さまがいてくれたからこそ、受け入れる勇気が持てたんです。部長の眷属を止めるとは言いませんが、私は兄さまから離れるつもりはありません」

 

「先を越されましたが。私とてリアスの女王とは別の話として、大翔さんの妻の役割も務め上げるつもりです。幸い、大翔さんの暮らす世界とこちらとの行き来を行う技術は私も取得しました。両立させてみせるだけですわ」

 

 小猫ちゃんに続き、私もしっかりと意思表明を示します。実際に妻として彼を支えるのは少し先の話かもしれませんが、覆すつもりなどありません。私は彼と彼を同じように慕う女性達と歩んでいく将来に向けて、日々準備を進めているのですから。

 

「貴女達の意思は確かに聞きました。椿姫、ありがとう。大丈夫?」

 

「す、すいません会長。ああいう剥き出しの殺気をこの至近距離で受けたのは初めてでしたから、ちょっと動けません」

 

「私も正直まだ震えているから、気にしないで」

 

「お二人とも……特に真羅さんは魔力を消耗していることもあって、疲労感が強いでしょう。少しだけ、手に触れることを許して下さい」

 

 大翔さんがスイッチを切替えて、魔導師としての顔になっています。彼があの意識づけを出来ている間は異性に触れることによる拒否反応が出ません。相手を女性としてではなく、治療対象者や患者さんとして認識するからなのでしょう。

 

「え、ええ。しかし何を……」

 

「身体の力を出来るだけ抜いて下さい。極限まで緊張した直後ですから、なかなか難しいとは思いますが……」

 

 大翔さんの回復魔法が発動していきます。浮かび上がる複数の深紅の魔法陣に誰かの唇から感嘆の声が漏れ出ますが、私とて声を出さないものの緊急時でも無ければこうして見惚れてしまうのです。地平線に沈む直前の夕日にも似たこの色合いが、すっかり私は大好きになってしまっていました。

 

「え……身体の倦怠感が取れていく……?」

 

「丁寧なマッサージを受けているような感じ、でしょうか。貴方は回復系の神器を……いえ、でもこれは魔力や他の力も感じる……」

 

「私の世界には回復魔法が存在します。もちろん万能というわけではありませんが、術者の力により、多少の傷や疲労を回復させることが可能です。私は風と水系統の回復魔法を併用して、また魔力を持つ相手に対しては魔力を分け与えることでそちらの回復も促しています」

 

 彼女達に説明をしながら、会長や副会長の様子や魔力の流れを感知しつつ、適時微調整をしている大翔さん。見る見る間にお二人の顔色が良くなり、副会長に至っては血の巡りが良くなり過ぎたのか、頬に赤みすら差してきています。

 

「すごい……肩が、軽い……! ありがとうございます!」

 

 大翔さんの手を握り返し、嬉しそうにぶんぶんと手を振る副会長。……よっぽど凝っていたんですね、ええ、私も大翔さんに出会うまでは密かな悩みの種の一つでした。

 

「それは良かった。シトリーさんはもう少しかかりそうです。駒王学園の生徒会長とはなかなかに激務なようですね。人に比べて強靭な身体とはいえ無理し過ぎていらっしゃるのか、身体が不調を訴える一歩前だったようです」

 

「会長、そんな素振りは……」

 

「眷属に王がそうそう疲れを見せるわけにもいきません。ただ、こうして倦怠感が抜けていくのを感じると、根を詰め過ぎていたのだと分かりますね。ふふ、本日空知さんと知己を得られたのは、私個人にとっては幸運だったようです」

 

 会長によれば目の疲れや、時にかすみまで感じていたのだとか。大翔さんが仕事を任せられる部下の方はいないのかと問いかけるも、皆精一杯やってくれていてこの状況なのだと、会長は苦笑いしています。

 

「ところで、今私に施している回復の技術は魔力だけではありませんね?」

 

「ええ、仙術……黒歌さん達に教えてもらった『気』の力もブレンドしています」

 

「二種類の回復の魔力と仙術を使いつつ、相手の状態に合わせて、細かく出力も変えてしまえるのが大翔にゃ。自慢の弟子で私も鼻が高いのにゃ」

 

 ふふん、と鼻を鳴らす黒歌。大翔さんの献身に私達も攻撃の意思は収めていますが、羽であったり耳や尻尾は出たままです。ですので、機嫌良さそうに黒歌の尻尾がぱたぱた動いているのに思わず笑みがこぼれてしまいます。

 

「本当に空知さんを慕っているのね、黒歌。耳や尻尾はより素直だわ」

 

「にゃ!? うう、こればっかりは本能だから、なかなか隠せないにゃ」

 

 そんな黒歌や小猫ちゃんの耳や尻尾の反応を皆で微笑ましく見る中で、小猫ちゃんが尻尾を『ぴんっ!』と立てて、なぜか声を潜めて内緒話をするように語り出しました。

 

「ソーナ会長、実は兄さまも仙術を深く理解する中で、耳や尻尾が出せるようになってしまったんですよ……」

 

「……本当ですか。仙術にはそこまで詳しくないのだけど、ある種猫又の力を得るような感じなのでしょうか」

 

 嘘八百ですね、ええ。ただ、大翔さんのレアスキルは伏せられる間は伏せておくに限りますし、仙術ってなんでもありの印象が多少なりありますから。なにせ使用者が悪魔の世界には極端に少ないのです。

 

「見てみたいです! ……あっ、す、すいません。急に大声を出して……」

 

 先程から色んな意外性を見せる副会長。普段は真面目な方と聞いていますが、妄想が豊かだったり可愛いモノ好きであったり、なんだか親しみやすい方なのかもしれません。

 

「白音ちゃん。俺の猫耳や尻尾触っても楽しくないでしょうに……」

 

「いいえ、ものすごく楽しいです。ね、すずか姉さま」

 

「その通りだよ、白音ちゃん。癒しです。マイナスイオンが出てるんだよ」

 

 この件については残念ながら大翔さんの味方はいません。私達にとってみれば、パートナーである大翔さんの別の一面が見られる日々の生活のエッセンスとも言えるもの。愛しい人が可愛らしい格好になることや、その格好に羞恥心を覚える様子がさらに親しみを増してくれるのです。

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