※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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第42話 魔法少女

 「それなら、私の眷属にでもなるー?」

 

「お姉様、終わったのですか?」

 

「うん、確認してよ~☆ 早くソーナちゃんと話したくて頑張ったんだから☆」

 

 すずかさんが複雑そうな顔をしていますね。似たような声できゃぴきゃぴした口調で話されるのは結構キツいのです。目を閉じればすずかさんが乱心したようにも聞こえますもの……。

 

「大丈夫、すずかはすずかだ」

 

「もう、狡い。ちゃんとこういう時、見ていてくれるんだもん」

 

 そんなすずかさんの頭を優しく撫でる大翔さん。すずかさんも嬉しそうに彼と腕を組んで寄り添っていらっしゃいます。小猫ちゃんといえば再び彼に背負われて、修復後のリビングの様子を確認していました。

 リビングの様子を確認する間に、会長はセラフォルー様に事情の説明を手早く進めています。その説明がひと段落した頃、セラフォルー様からこちらに声を掛けてこられたのです。

 

「君も人気者だねー☆ 私の早とちりで迷惑かけちゃったけど、ごめんなさい☆ 私、魔王セラフォルー・レヴィアタンだよ☆ 『レヴィアたん』って呼んでね☆」

 

「……えっと」

 

「無視して頂いて結構です、空知さん」

 

「えー? ぶーぶー☆ ソーナちゃんが冷たい~☆ ブリザードみたい~」

 

「それなら、あちらの黒歌のはぐれ認定の取消、お願い出来ますね?」

 

「事情は聞いたけどぉ……裏を取るのに多少時間がかかるから、しばらくは隠れておいてもらえると助かるかな~? でも、私だってソーナちゃんのお願いだからと言っても、無償では出来ないよ?」

 

「ルシファー様への報告はやめておきましょう」

 

「ぐぬぬ……もう一声!」

 

「では……空知さん、一つ協力をして頂けますか」

 

「なんでしょう?」

 

「バリアジャケットは任意で形状を決められるのですよね? それを起動する媒体として、デバイスがあると」

 

「そうですね。例えばすずかもグローブ型のデバイスを持ってますし、普段は待機状態ですので、こんな感じでペンダントにしています」

 

 会長がその話をし始めた途端、一気に挙動不審になるセラフォルー様。目の色を変えて、大翔さんと会長の話に聞き入っています。副会長も何か要領を得たのか、会長の言葉に幾度も頷いていました。

 

「月村さん、お願いがあります。一度、待機状態から起動状態へ、そして変身までの流れを見せて頂けないでしょうか」

 

「変身!?」

 

 なるほど、そうでした……! セラフォルー様は魔法少女大好き魔王様ですから、普段着から変身具を通して変身できるとなれば、それこそ憧れのアイテムのはず……!

 

「えっと、一連の流れを見せればいいんだね? ひろくん、構わないよね?」

 

「ああ、なんかレヴィアタンさんの瞳もものすごく輝いているし……お願い、すずか」

 

「じゃあ、行くね。スノーホワイト、起動」

 

 まず、その掛け声と共に、すずかさんのデバイスが格闘爪付き両手グローブとして具現化されます。この時点で既にセラフォルー様の鼻息は荒くなる一方で、会長が『待て』をしていますが、実姉にそれは大丈夫なのでしょうか?

 

「まず、これが起動状態です。そして──スノーホワイト、セットアップ」

 

 深紅の魔力光に包まれたすずかさんの光が収まった後、現れたのはバリアジャケット装着後の姿。

 白のフリルブラウスに菫色のジャボ、同系色のコルセットを身に着け、淡い桃色の丈が短めなフリルスカートに、黒ストッキングといった装いです。普段は縛っていない髪もポニーテールにまとめられていて、トレードマークの白いヘアバンドに合わせて、結び目に白色のリボンが結ばれています。

 そして外装として、前襟が大きい紺色のトレンチコートをまとっている……これがすずかさんのバリアジャケット姿です。

 

「私の夢がついに現実になった! 魔法少女は実在してたんだ! 夢は叶う! 願い続ければ叶うのよ!」

 

 拳を高く突き上げ、滂沱の涙を流し、セラフォルー様は歓喜の雄叫びを上げます。魂の叫びと思える姿に、私達は黙って魔王様が落ち着くのを待ちます。血縁である会長は引いてますけれど。

 

「あ、あのっ、彼女のように変身機能がついたステッキって作れるの!?」

 

 我に戻ったセラフォルー様は大翔さんに詰め寄ります。鼻息は荒いままなので、整った愛らしい顔立ちも非常に残念なものになっていますが、本人は気にする様子もありません。

 

「可能です。私達の世界の魔法使い、魔導師と呼称していますが……物理や魔法の防護服としてバリアジャケットを展開して戦うのです。また、魔法を発動する際に計算や演算も必要になる魔法体系のために、その発動補助や相手の命を奪わず捕らえるための非殺傷設定機能も常備されています」

 

「な、なんと……! あ、あとは変身時にはああやって魔力の光で身体を覆うことが出来るの!?」

 

「まぁ、そうしないと人前で変身できないですし……。基本機能です、あれは」

 

「お願いします! ステッキタイプのデバイスだっけ、それを手に入れてくれませんか! なんでもします! 黒歌のはぐれ解除だけで足りないなら、他に私に出来ることならどんなことでもやるから!」

 

 必死の形相です。自分のあらゆるモノを差し出してでも、夢を叶えるために……セラフォルー様は大翔さんに縋っていました。

 

「ん? いまなんでもやるって言いましたよね?」

 

「言ったにゃ。私のはぐれ解除以外にも何でもやるって言ったにゃ……」

 

 ……黒白姉妹、ちょっと黙りなさい。フラグなのは分かりますが、魔王様に突っ込む貴女達の後始末は全て大翔さんが被るのですよ? とりあえず電撃を走らせておきましょう。雷光よ、お仕置きの時間ですよ。

 

「あばばばばば……」

 

「か、身体が痺れて……」

 

 光力は限界近くまで絞っていますので、痺れ毒のような効力を発揮します。さっき、黒歌相手に襲い掛かってきた追手相手で実験しましたし、命に別状が無いように調整済みです。

 なお、駒を抜いていたはずの黒歌はすずかさんに駒を体内へと押し込まれていました。同じように腹を立てていた彼女は私の意図をすぐに察知し、光力が効くように動いてくれたのです。

 

「しばらく身体がうまく動かないでしょうから、そのまま反省しましょうね?」

 

「うん、ひろくんを困らせる子はちゃんとお仕置きを受けないと」

 

 二人にニッコリ笑いかけ、悪魔相手には有効な手段だと再認識します。魔力や光力の消費も少なめですし、一時的な足止めなどにこれから重宝しそうですね。すずかさんの笑顔も形だけのもので、二人に十分な威圧感を与えています。

 

「見事な出力調整ですね、姫島さん」

 

「ありがとうございます、会長。会長にそう言って頂けると、訓練の成果が出ていると安心できますわ」

 

 さて、肝心の大翔さんとセラフォルー様に目を戻してみれば、セラフォルー様が大翔さんの手を両手で包みながら額を押し当てて、止まらない涙を拭いもせず繰り返しお礼を言い続ける姿がありました。

 

「ありがとう、本当にありがとう……この格好をしていて笑いもせず、真剣にいいモノを作るって言ってくれた相手は初めてなの……キミに出会えて私はすっごく嬉しい。本当にありがとう……」

 

「まだお礼を言われることはしてませんよ、レヴィアタンさん。貴女の希望に沿う形でデバイスを試作し、まずは使用感の確認をしてもらって細かな微調整を加えて、しっかり貴女に完成品をお渡しできて初めて、お礼を受け取れる資格が出来ますから」

 

 セラフォルー様のデバイスを大翔さんが作成すると告げ、またすずかさんが彼の作成実績を説明したところ、あのように大翔さんに礼を尽くし始めてしまったようでした。

 

「……驕らないんだね、キミは。キミの周りに女の子が集う理由、分かる気がするよ☆」

 

「俺には、勿体ないほどの人達です。俺を支えてくれる彼女達には、いつも感謝しています。感謝だけじゃ足りないんでしょうけど……」

 

 やっと涙を拭い、セラフォルー様は立ち上がります。そして、真剣な声色で改めて黒歌のはぐれ解除に全力をあげることと、もう一度大翔さんへの協力を惜しまない意思を口にしたのです。

 

「黒歌のはぐれ解除は、任せて。今日明日でというのは難しいけど、必ずいい結果を持ってくるから。それに、リアスちゃんの女王ちゃんや戦車ちゃんの件も含めて、何か困るようなことがあれば遠慮なく連絡してきて。これが私の連絡先。次元を越えても連絡できるキミなら問題ないよね?」

 

「はい、デザインの希望についても遠慮なくご指摘下さい。しばらくは図案の段階ですし、何度でも修正をかけますから」

 

「うん。キミに会えて本当に良かった。キミ達の一件は私やソーナちゃんの中に収めるから、安心してね☆ ソーナちゃん、彼との協力体制は密にするんだよ? 私が彼の後ろ盾って言い切ってもらっていいから、うまくやってちょうだいな☆」

 

「はい、お姉様」

 

「眷属になる気は無いだろうけど、眷属候補って言っとくのも手かな? その辺りはキミやソーナちゃんで相談して決めてね☆ じゃあ、ひーくん、また連絡するよ☆」

 

 セラフォルー様が発した言葉に場の全員が反応します。眷属候補はさておき、『ひーくん』……彼女が大翔さんを愛称めいたもので呼んだものですから、皆一気にざわめきます。

 

「お、お姉様! いきなり砕けた呼び方をなさっても、空知さんが困るでしょう!」

 

「えー、そーかなー☆ そっちの子が『ひろくん』って呼んでるでしょ? だから被らないようにしたじゃない☆」

 

「お姉様が愛称で相手を呼ぶことがどれだけ波紋を呼ぶのか理解して下さい……」

 

「……え? だって、これからずっとお世話になるよ? デバイスを造った後もメンテナンスしてくれるって言ってくれてるし☆ ねえ、この呼び方じゃまずいかな?」

 

「えっと……」

 

 問いかけられる大翔さんも困惑するのは無理ありません。すずかさんは能面のような顔に変わってしまい、大翔さんとセラフォルー様の間に割り込むように前に出て行きます。

 

「私達の家族になるつもりが無い方に、その呼び方をされるのは流石に許容できません」

 

「む~☆ 正妻さんがそう言うんだったら、考えなきゃだけど……あ、そっか☆ 家族になればいいんだね?」

 

「……え?」

 

「私かソーナちゃんがひーくんの家族になれば解決だね☆ 人でありながら内包する魔力がソーナちゃんより多いし、技術力も高いとなれば前途有望だ☆ 立ち振る舞いもとっても紳士さんだし☆ イケメン過ぎないのもいいよね~☆ 変に気構えせずに自然体で傍にいられそうだし……うんうん☆」

 

 すずかさんや会長が絶句してしまい、私達も発言内容に呆然とする中、唯一すぐに動けたのは副会長。先程と同じように会長を庇うように前に立ち、自重をして欲しいと訴えます。

 

「お待ち下さい、セラフォルー様! ソーナ様の婚約問題は少し前にやっと解消したばかりではありませんか! いくら彼がお眼鏡に叶ったとはいえ、あまりにもそれは性急すぎます……!」

 

「んー、でも、椿姫ちゃん。リアスちゃんの所の話じゃないけど、ソーナちゃんもその話を避けては通れないからね? ひーくんの周りに集う子達を見えば分かるでしょ、ひーくんはちゃんと女の子の気持ちを尊重してくれる人だよ。だから、皆表情が明るいし、彼のためなら迷いなく身体を張ろうとする。今の椿姫ちゃんのようにね」

 

「しかし……!」

 

「レヴィアタンさん、真羅さん、話に割り込むのを許して下さい」

 

 副会長に次いで動いたのは、やはり大翔さんでした。副会長とセラフォルー様の間に入り込み、セラフォルー様と再び相対しようとしています。

 

「その話はお受けできません。望まない婚姻を強要するのは、俺は絶対に出来ません」

 

「……私の魔力量、ひーくんはちゃんと分かってるよね?」

 

「ええ。貴女が本気になれば、俺は跡形も残らないでしょう」

 

「それでも、言うの? 私やソーナちゃんとの誼が強くなれば、貴女の大切な女の子達を守ることにも繋がるよ。それが分からないキミじゃないよね?」

 

「それでも、です。レヴィアタンさん。俺は俺自身が本気で愛せて、そして愛してもらえる相手じゃ無ければ……どんなに地位や力があっても、絶世の美人であっても、優れた才を持っていても、俺は『身体』が受け付けないんです」

 

 声色を圧を込めたものに変え、コミカルな雰囲気を払ったセラフォルー様に対して、大翔さんは自分の抱える女性への恐怖心、そして……すずかさんや私を受け入れるに至った過程を話し、握手程度であれば大丈夫なものの、抱き締め合う等の行為となった途端、体調が急変する自分の体質を説明していきました。

 

「男女の関係にでもなろうとしない限り、話す必要も無いので話してなかったですけど……そういうわけで、無理なんです」

 

「なるほど、じゃあ確認させてもらうよ?」

 

 セラフォルー様からの短いハグ、それだけで十分でした。避けようとはしなかった大翔さんの顔色は一気に青ざめ、肌には強い蕁麻疹のような症状が表れます。ぐらりと体勢を崩しかけた大翔さんをすずかさんと私はすぐに両脇から支え、回復魔法を発動させました。このまま休ませてあげたいのが本音ですが、そうはいかないのですから。

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