「すいません、連日お時間を取って頂いて」
「いえ、お気になさらず。えっと、外での一時間が結界内での一日に相当するので、時間は取れますから」
初対面のメンバーとも挨拶を終えた後、頭を下げたシトリーさんにひろくんは笑って応じました。一緒に頭を下げて身を起こした真羅さんは、ベッドの側面に身体を預ける形でぐったりしている朱乃さんや黒歌ちゃんに気付いて、少し心配そうな表情を浮かべます。
「……えっと、姫島さんや黒歌がグロッキー状態なのは……」
「ああ、真羅さん。それは彼女達に結界の構築をしてもらったからです。演算とか細かい制御とか、維持するための魔力をどれだけ注ぐのか……まぁ、慣れていないと疲れる作業なんです。一度構築してしまえば、この部屋に設置した魔導具が補助してくれるので魔力を注ぎ続ける必要は無いんですけどね」
「当面やりたくないにゃ……」
「黒歌に同意しますわ……」
シトリーさん達に断りを入れて、ひろくんが二人にいつもの循環を施していきます。これは私がわざと勧めたところもあって、シトリーさん達の反応を見るためという側面もありました。ひろくんには念話で私の意図は伝えたので、躊躇いなくひろくんも動いてくれます。
「あああ……いい湯加減だにゃあ……」
「なにか違う気がするのですけど……あんっ、でも相変わらず気持ちいいですわ……」
黒歌ちゃんも朱乃さんも頬が上気したような感じになって、口元が程良く緩んだ状態になってくる。下衆な言い方をあえてするなら、発情した雌の顔とでもいう感じかな。でも、その情欲はひろくんにだけ向けられるものだし、二人ともシトリーさん達のことを気にする様子も無くて、ひろくんを真っ直ぐに見つめていた。
「……姫島さん、なんだかとても色っぽい……」
「黒歌を完全に手なづけていらっしゃいますね……」
素直な感想を口にする真羅さんに、平静な様子を見せるシトリーさん。対照的だけど、二人とも首筋がほんのり赤くなっている。ひろくんの力が巡る感覚を思い出している、そう推測が出来た。
「さて、まずは本日の来訪の一番の目的を済ませるということで。こちらが姉が書き上げた設計図になります」
朱乃さんや黒歌の体調が整えられたところで、皆でセラフォルーさんが作成した設計図を見せてもらったんだけど……ものすごい情報量。
「うわなにこれ。デザインの細かさもそうだけど、寸法とか厚みとかびっしり書き込んであるじゃない」
「そうだね、アリサちゃん。ひろくんじゃなくても、ここまで細かく指定してくれていれば私がこのまま作ってしまえると思う。バリアジャケットの形状は確か朱乃さんの世界の魔法少女アニメがモチーフだったよね。希望する生地の質感までしっかり書いてあるし……うん」
「この熱心さを職務になぜ向けて頂けないのか……」
感心したり軽く引いたりする私達を余所目に、シトリーさんは深いため息をつく。真羅さんも一緒に苦笑いしているということは、きっとアザゼルさんみたいな感じなのかな。
「アザゼルと同じタイプにゃ」
「ええ、おじ様と同じような感じだと思います」
「アザゼル? あの堕天使の総督ですか?」
「ええ、会長。父やシェムハザ様が同じような悩みを抱えているのです」
「塔城さんの部屋で確か、お父様と和解したと伺いましたが……総督とも親しいのですか?」
「昔、おじ様のような存在としてよく遊んでもらっていたのです。父との和解に伴って、おじ様との交友も復活しましたから」
昨晩の歓談時間の時に、朱乃さんはその辺りの話にも触れていた。ただ、バラキエルさんとの話が中心だったのでアザゼルさんの話は出てきてなかったね、確かに。
「昨日もシトリー達と別れた後に、また仕事抜け出してきて追手にしっかり引き渡したのにゃ……ちょっとは大翔を見習えって感じにゃ!」
封時結界の活用をしつつ、ひろくんは月村やバニングスの企業経営に関わる勉強や与えられた一部の業務も並行して熟している。そういう姿を黒歌ちゃんも見ているから、どうしても比べてしまうみたい。
「私達の相手をしてくれる時間とは別に、書類に向かう時間も長いですもんね、兄さまは……」
「俺だけじゃないよ。すずかもアリサもそういう時は一緒に紙やパソコンとにらめっこしてるだろ?」
「単純に二つの会社に関わる以上、私やすずかの倍の作業量じゃない、アンタは」
「んー、でも、両方見てると色々組み合わせたら面白いことが出来そうだなとか、気づくことも多いんだよ? これはこれで結構楽しいんだ。後はいかに早く終わらせるか自分で色々試したりとか……」
ふふっ……改良とか作業効率化するのが大好きなひろくんらしいね。私も一緒にお父さんやお母さんに任せてもらった案件を受け持つ時に、相談しながらアイデアを出し合ったりするのが楽しいし。それに、朱乃さんが専属秘書になるために少しずつ可能な範囲でひろくんの業務を補助したりするようになってるから、視点が増えて意外なことに気付いたり……。
「まあ、その話は後にして。これ、皆も見てみて」
デバイスの作成となればひろくんの得意分野。私も好きな分野でひろくんの作業を補助することも多いから、一緒に空中ディスプレイを出現させた後、立体図を簡易作成するのを手伝いしていく。その手際の良さにシトリーさんや真羅さんが感心しているけど、ひろくんのやり方を知っているからこそスムーズに出来るだけの話だよ。
「立体図に起こしてみたんだけど、この辺り、実際に持つと重心が悪くなるかもしれない。その辺りをセラフォルーさんに伝えてもらえると……」
「それとこれはお節介だけど、スカートが短すぎて色々見えちゃうんじゃないかなぁ……」
「月村さんの助言も含めて『必ず』姉に伝えます。破廉恥に過ぎますよね」
渾身の一作を立体にしてみれば、細かい修正点が出てくる。その辺りをシトリーさんは控えて、ひとまずデザインの件は持ち帰りになる。ひろくんはひろくんで一度試作をしておいて、次の機会に見せられるようにしておくという話になっていた。
「しかし、塔城さんも雰囲気が変わりましたね。上級生の間でも結構話題になっているんですよ」
「?……私ですか?」
「ええ、会長の仰る通りです。気分を悪くしないで頂きたいのですが、マスコットのような可愛らしさがあった塔城さんが、急に大人びた印象を持ったという話で」
「現実世界ではまだ二日程度しか経っていないので、二、三センチぐらい伸びたように幻術で見せていますから……そんなに変わったつもりは無いです。実際に十センチ近く伸びたこの姿はまだ見せられないですし」
「外見だけの話では無いと思いますよ、塔城さん。それこそ、数日後に休校明けとなる姫島さんも大騒ぎになると思いますが」
シトリーさんと真羅さんは、二人の雰囲気が以前と全然違うと指摘する。朱乃さんも白音ちゃんもそれぞれ女性らしい身体つきに変わっていっているけれど、それだけじゃないという。ひろくんの存在を知った今は納得できるけれど、それを知らない他の生徒からすれば大騒ぎになるはずだと。
「もともとお二人は学年で一番を争う美女や美少女と呼ばれてますけど、そこからさらに突き抜けた感じなんです。同性でもドキッとするような色香というか……」
「男が出来たとか、その相手の男性は誰だとかで騒ぎになったり、元浜くんが倒れただの……実は今日、塔城さん関連で生徒会も引っ張りだこだったのです」
「そういえば、イッセー先輩は今日私を見て固まって……その後、ものすごく泣いてました。すごく挙動不審だった感じです」
「思った以上に塔城さんが与えたインパクトが強烈だった、ということですよ。しばらくの間、生徒会役員が事前に騒ぎの芽を摘むために近くについていることが多いかもしれませんが、宜しくお願いしますね」
「……私、登校するのが怖くなってきましたわ」
「『朱に交われば赤くなる』……日本のことわざですが、姫島さんや塔城さんは今一緒に過ごしている人達の影響を受けているでしょうから。月村さんやバニングスさん達のような、容姿に優れた方達が少しも妥協せず自分の身体や肌の手入れを徹底している。そういう日常が当たり前になると、お二人も自然と精練されてきますから」
微笑むシトリーさんに対して、戸惑う様子を見せた朱乃さんと白音ちゃん。私にとっても長年の当たり前の習慣が、その習慣にひろくんとの営みであったり魔力や気の循環が入っているから、朱乃さんや白音ちゃんにはより顕著な影響を与えたんだろう。
「姫島さん、空知さんに向かって時々すごく扇情的な仕草や表情をされる時があって、こちらまでドキッとしたりするんです。空知さんが堂々と対応してるのが信じられないぐらいで」
「もう、真羅さん。真剣な顔をしてそんなことを言わないでください。そんな、誘うような顔……してました?」
「ええ、とても」
「……恥ずかしい、ですわ」
恥ずかしがりながら、ひろくんに寄り掛かる朱乃さんは本当に恥ずかしいのかな。反対側は私が確保しているから、別にいいんだけど。
ただ、確かに朱乃さんは驚くほど艶やかな色気をまとう時が出てきているし、白音ちゃんも出る所は出て丸みを帯びる所は帯びてきて、異性により魅力的に映るようになってきている。それが全部ひろくんに向かうんだけど、ひろくんは受け入れると決めた相手に対してはその瞬間のありのままの相手を受け止めるし、そういう覚悟が出来ている。だから、傍目には動揺せずにどっしりと構えているように見えるんだろう。
黒歌ちゃんのようにそういう心持ちになっていない相手には、どうしようもないぐらいに取り乱してしまうけど、それがひろくんだから。ひろくんの特別、という感覚はとても満たされるものだもん。
「月村さん。改めて、貴女にもお詫びを。姉がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「……セラフォルーさんがどこまで本気であのようなことを口にしたのかは分かりませんが、私も最終的な判断はひろくんに委ねていますので」
介入する気であっても、一応はこう答えておくべきだろう。最終的な判断に至る前に色々入れ知恵やお願いをするだけの話だから。それに、シトリーさんが尻拭いするのも違うという感じがするもん。
「正直、姉がどこまでそのつもりなのか……私にも測りきれないのです。姉は直感に従って動く時も多……いえ、あるので」
多いって言いかけたよね、シトリーさん。ただ、あの人は直感だけじゃなく、蓄積された経験も合わせて瞬時に判断してるようにも思える。そうでなければ、一つの種族の長などやっていられるものじゃない。
「あの、それでですね。もう一度、マッサージをお願いできませんか?」
「ええっと……」
そんなやり取りに、直球を投げ込む女性が一人。慌てて声の主に振り直る私やシトリーさんの視線の先には、真羅さんがひろくんにお願いする姿がありました。ただ、昨日と違って今は私だけではなく、アリサちゃんやアリシアちゃん達という頼れる存在がいてくれます。
「すとっぷ。だよ~、椿姫さん」
「ええと。テスタロッサさん、ですよね。やっぱりマズいでしょうか……空知さんも困ってますし……」
「いやそもそも、アンタから受ける印象としてそれほど親しくも無い男に身体に触れられるのが平気なようには見えないんだけど」
「バニングスさん、私ってやっぱりそんな印象ですか?」
「ええ、とっても」
「真面目一直線って感じ。あ、私はアリシアでいいよ~」
二人の率直な物言いに口に手を当てながら、少し俯く真羅さん。ただ、すぐに顔を上げて、アリサちゃん達に向き合っていきます。
「その、自分でも不思議なんです。空知さんに触れられるのは平気で、むしろとても安心できて。彼の魔力や『気』がそのまま彼の性格を表しているんでしょうか……他の方ではこうはいかないです。もう一度その……してもらえたら、自分の中でハッキリするものがあるかなって」
「あー、真っ直ぐだー。素直に来ましたよ、アリサさんや」
「平常運転のアンタに安心するわよ、アリシア。そっか、真羅さん。アンタは真面目だけじゃなくて、自分の感情には素直になる一面もあるわけね」
アリサちゃんは私に一つ目配せを飛ばして、シトリーさんも含めて聞いておきなさいとひろくんの魔力や気脈がもたらす影響について二人に説明をしていきます。二人は驚くというよりは、どこか納得した表情でアリサちゃんの説明に頷いていたのです。
「元は月村さんやバニングスさんの調子を整えるために、空知さんが試行錯誤をした結果なのですね……そこに気脈が加わって、異性に対しては魅了にも似た効果を発揮すると。身を委ねたいと思う感覚はそこからだったんですね」
「大翔に自覚させてなかった私達も悪かったのよ。ただ、アンタらは今なら間に合うわけ。中毒性があるから、繰り返しになると本当に大翔から離れられなくなっていく。断言しておくわ」
「私が実際に変わっていく自分を自覚する日々ですから……リアスのことは大切な存在であることに変わりないけれど、正直、私は大翔さんを優先してしまうと思います。そのことに迷いが無くなっていくのが分かって、そんな変化を受け入れている自分がいるのです」
復活してきた朱乃さんも続けて自分の変化を口にしたことで、シトリーさんも渋い表情に変わってしまいます。
「恐ろしい話ですね。知らぬ間に眷属との絆が揺らぎかけていたのね、リアスは」
ひろくんがグレモリーさんの眷属を抜けて欲しいと願えば、白音ちゃんも含めて二人は首を縦に振ってしまうだろうと言います。実際にひろくんが言う言わないは別の話ですが、それぐらい気持ちが傾いてしまっているということなのです。
次話も含めてちょっと強引になるけど、エロスのためなので
勘弁してつかぁさい……!