小猫ちゃんが会長のことよりも私のことを書くのが先でしょうって、
腹パンしながら言ってくるもんだから(吐血)
「『子宮が疼く』って言葉、知ってる? 大好きな男の人に抱かれる感覚を知って、ましてそれが仙術の『気』を扱える人が相手だから、こうやって気を巡らせてもらうだけで身体が一つに交わりあった時の感覚を思い出すんだよ」
鈍痛の合間に『きゅうっ』と生命を産み出すための器官が収縮を繰り返す。その感覚を望んで受け入れているアリシアさん。下腹部の熱は増すばかりで怖さすら感じる私に対してあまりに対照的な彼女。
「……兄、さまぁ……♪」
「し、白音?」
「猫魈の発情、だにゃ……周期から外れてるかもしれないけど、こんな、こんな感覚を教えられたら、うう、私も我慢できなくなるにゃ……」
黒歌の声に何とか顔を上げれば、とろんと瞳を潤ませた塔城さんが『戦車』の力を迷いなく使い、アリシアさんを半分押しのける形で強引に空知さんの膝上を確保していました。
「ごめんなさい、アリシアさん。でも、我慢できないんです……もう。こんなの教えられたら、もう……!」
「大丈夫だよ、白音ちゃん。ねえ、せっかくだから、私と貴女の感覚を合わせてみようよ。二人分だから、もっとすごいことになるよ……同時にひーちゃんに甘えてみよう?」
「はい、わかりましたぁ……」
熱に浮かされたように術式を発動させる塔城さん。手の動きは少し散漫であっても、魔法陣の発動は非常にスムーズなもので、アリシアさんと合わせた多重起動の状態も問題なく保たれています。
「ふふ、アリシアさん、フォローありがとうです。私の鼓動が激しくなってるの伝わってますよね?」
「うん、大丈夫だよ。とってもドキドキしてるね、白音ちゃん」
「ああっ、兄さまの匂いもより強く感じられて、これだめです、だめになるのっ……!」
自分の感覚ではないと分かっていても、まるで自分自身の鼓動が高鳴り、彼の匂いに興奮して、収縮と膨張の頻度がどんどん休みなく続くようになって──。
「す、ごいですぅ……軽く、きちゃい、ましたぁ……」
「うん、連れて行かれ、ちゃった……ほら、他の皆も蕩けてるでしょ、白音ちゃん」
頭が真っ白になって何が自分の身に起きたのか理解できないまま、意識の空白から戻ってきた私は散漫な動きで他の人の顔を見渡せば、皆同じような顔をしていました。口元が開き、やや虚ろになった潤んだ瞳は空知さんへ向けられていて、肌は紅潮し熱を持ち始めて、足元はだらしなく思えるほどに開かれていました。
「はい、皆発情、してるんですね……」
「シトリーさんと真羅さん、陣の外に出した方が……」
「ダ・メ・で・す。兄さま、今はちゃんとアリシアさんや私を見て下さい……その後は、すずか姉さまやアリサさん達が順番を待ってるんですからぁ」
発情……これが、発情。まるで漏らしてしまったようにしとどに濡れてしまったショーツの冷たさを少しも感じさせないぐらい、彼女達の感覚と同調し私の身体は火照りを感じてしまっています。
「うふふ、小猫ちゃんにつられてイッてしまいましたわ……でも、大翔さんのモノに貫かれてイケるようになると今の何倍も気持ちいいんですよ?」
「早く、そうなりたいです。ねえ、兄さま……私に、白音に兄さまをもっと教え込んで欲しいです……」
空知さんを求める衝動からか、自然に輪を狭めていく姫島さん達。完全に飲まれている椿姫がその輪に加わっていますが、私だって少しでも気を抜けば、身体に引きずられるように心までこの熱に引き込まれてしまいかねない。
「だって、兄さまも反応してくれてます……お尻に当たってるの、硬くてぇ、ものすごく熱を持っている兄さまのモノがぐいぐい突き上げてきてる……」
塔城さんの言葉で、その感覚を明確に認識してしまう。この強く押し上げる熱の感覚が、彼の……。アリシアさんと塔城さんの感覚に引きずられる私は、その感覚に嫌悪感を持つことが出来なくて。むしろ、喜びさえ感じてしまう自分に恐れを感じるしかありません。
「これで私か白音ちゃんがひーちゃんと繋がったら……どうなるかな? ね、『椿姫』ちゃん?」
「いけませんよぉ……そんなすごいことされたらぁ、完全に空知さんのモノになっちゃいますぅ……ショーツももうぐしょぐしょなのにぃ、トドメ刺されちゃうじゃないですかぁ」
「私達が穿いてない理由、分かったでしょう? 下着なんて役に立たなくなるから……」
「はい……♪」
普段の引き締まった真面目な姿は完全に鳴りを潜め、椿姫は私にも見せたことのない『女』の顔になっていました。日々の勉学や鍛錬、生徒会業務に真面目に取り組む反動か、自分の欲求には素直な一面があった椿姫。女として男性を求める本能的欲求を留めることなく、露わに曝け出している姿がそこにはありました。
「椿姫……!」
「ソーナお嬢様ぁ、お嬢様だけでも陣の外へお逃げ下さい……私が代わりにこの身を捧げますからぁ、あはっ」
自己正当化するための都合のいい言い訳。家に戻ったわけでもないのに、お嬢様呼びに戻っていることも意識していないのでしょう。私の声は椿姫の耳に届いても、心まで届いていない。絶望感が襲い掛かり、このまま飲まれてしまおうかという気持ちが身体の熱と繋がってしまいそうになった時、その声は響いたのです。
「汝の心に平穏を齎せ、
空知さんの詠唱した魔法の光が私と椿姫を包み、そのまま柔らかな風が私達の身体をふわりと浮かせて、陣の外へと運び出してくれます。返す手で魔法陣も解除され、湯立っていた意識が明晰なものへと戻り、身体の熱も引き、下着の冷たさに思わず身震いしてしまいます。椿姫も同様でしょう、どこか唖然とした顔に変わっていたのです。
「アリシア、紗月、もういいだろう。俺は自分が家族にすると決めた女性しか受け付けないんだから。体験としては十分過ぎる。それに、白音や黒歌さんをこのまま放っておくわけにもいかないだろう?」
「兄、さまぁ……」
「白音が望むのなら、俺は受け入れる。ただ、白音。知ってるよな。俺は独占欲の塊だから、自分の女だと認識してしまえば二度と離さないし自分に縛り付ける。俺と一度交わったら、そうなるぞ?」
「元々、猫って気まぐれだから首輪をつけられるぐらいでちょうどいいんです……兄さま」
「分かった。取消は利かないからな?」
「はい。私に首輪を下さい……♪」
「全く、朱乃といい白音といい……俺には勿体ない女ばかりだよ、本当に」
塔城さんを抱えて立ち上がる空知さんは彼女へ掛けていた声色とは打って変わり、アリシアさんに事務的な口調で指示を飛ばしていきます。それに冷静に戻って気づいたこととはいえ、アリシアさんは急に口調が変わることがあります。『紗月』と呼ばれるのはそれに関連があるのでしょうが。
……しかし、理知的にと言いながら、情けないことです。完全に飲み込まれていた私は、感情や情欲などの力強さをなんと甘く見ていたのでしょうか。
「アリシア、紗月。彼女達の着替えはそちらで手配してくれ。それと、自分達の身体のことも簡単に説明しておくようにな。自分で提案したことだ、最後までフォローしろ」
「はーい、ひーちゃん」
『わかったよ、ひろ兄ちゃん。でも、後で……』
「ああ、ちゃんと出来たら『鎮めて』やる。……なんてな。こんな言い方、やっぱ柄じゃないか」
どこか照れ臭そうにする空知さんに、似合っているしゾクゾクすると身体を寄せる姫島さんやフェイトさん。その様子に逆に慌てる空知さんですが、なぜか今の反応が『らしい』と思えるのはなぜなのでしょうか。
月村さんやバニングスさん、グラシアさんはその様子を微笑ましい様子で見ていますし、発情した風貌を隠そうともしない黒歌は彼と姫島さん達の間に割り込むように押し入っていこうとしています。
「大翔ぉ、ごめん、ごめんにゃあ……私、私も耐えられなくて……拒否反応出るの分かってるけど、大翔にくっついてないとおかしくなりそうで」
「うん。鎮静化すればいいんだろうけど、白音と黒歌さんは切っても切れない関係だから。白音を抱くと決めた時点で覚悟を決めようと思って。ただ、前置きなしだから、反応が多少出てしまってるのはごめんな?」
「そんな、そんなの構わないにゃ! 私もちゃんと大翔に伝えられれば良かったのに、白音みたいに気持ちをそのままぶつけるのが怖くて仕方なくて……ううーっ、大翔に負担かけてるの分かってるのに、大翔の匂いがすごくいい匂いで満たされちゃってるにゃ……でも、でも、大翔に負担かけたくない気持ちも本当で!」
「大丈夫です、姉さま。兄さまの両腕が塞がってるので、私の手で申し訳ないですけど」
空知さんに抱えられた塔城さんの手が優しく何度も何度も黒歌の頭や頬を撫でていきます。大丈夫だと、空知さんにはちゃんと伝わっているからと。
「姉さまが自分の気持ちには不器用で、それで身体で誘惑したりふざけてしまうことぐらい、兄さまにはお見通しです。私をちゃんと見てくれているように、兄さまはしっかり姉さまのことも見ていますから」
「白音ぇ……大翔ぉ……」
「兄さま、この後兄さまの女にしてもらう間、姉さまと感覚共有してもいいですか?」
「二人が良ければ、そうしたらいい。カリムさん、貴女も大丈夫か?」
「……ええ。とても甘美な感覚ですけど、耐えられないわけではないですから。ただ、もしよろしければ、白音さんと黒歌さんの後で寵愛を賜われるなら大変嬉しく思います」
「分かった。予定を早めるようだけど、カリムさんもそのつもりでいてくれ」
「……お待ちしております」
なんて幸せそうに、満ち足りたように笑うのだろう。心から慕う人にその身を捧げたいと願い、思いが叶うと確定した瞬間のグラシアさんは、今この場にいる誰よりも美しく華やかでまた色香に溢れていました。
「すずか、アリサ。済まないが、タオルや温かいお湯の準備を頼むよ」
「わかったよ、ひろくん。すぐ持ってくるね」
「ええ、任せときなさい」
月村さんやバニングスさんがすぐに動き始めたと思えば、姫島さんも手短に声をかけます。役割の分担が、互いへの気遣いをもって自然に為されていました。
「大翔さん、浴室も準備しましょうか。カリムさんはこのまま、大翔さんや小猫ちゃん達の傍に」
「助かるよ、朱乃。シトリーさんや真羅さんにもお湯を浴びてもらったほうがいいだろうし」
姫島さんも頷きすぐに歩み去り、空知さん達は寝台へ移動する中、アリシアさんが私や椿姫へと声を掛けて来ました。オーガズムの余韻なのかどこか気怠そうなのに隠せない色香が滲む彼女の姿に、私より小柄な体型であっても彼女の方が『女』なのだと圧倒されそうになります。
「さて、ソーナちゃん、椿姫ちゃん。理性を大事にするのは結構だし、上に立つ者としては絶対に必要な資質だけど……理性で抑えきれないモノもあるってなんとなくでも感じてもらえたかなー? ああ、椿姫ちゃんはどちらといえば巻き込まれた感じだけど」
「ソーナちゃん、ですか」
「嫌かな?」
「いえ、こちらもアリシアさんとお呼びしていることですし」
アリシアさんと紗月さん。一つの身体に二つの魂が同居しているという稀有な存在。その関連で幽霊などの精神体と意思疎通が可能という特殊能力をお持ちで、彼女の力が姫島さんのお父様との関係修復に繋がったのだと言います。
「ソーナちゃんが理性や理知的なものを何より優先するようになったのは、朱乃ちゃんから聞いた背景を聞く限り無理も無いとは思ったんだ。ブレーキ役を出来るのが自分しかいなくて、それが染みついてしまったとしたら頑なにもなるのかなってね」
「その反動で視野狭窄に陥っていたと痛感しました。情けない限りです……」
感情の力を低く見積もり過ぎるあまり、思い返せば私は元婚約者のあの方にも酷い仕打ちをしていたのだと今更ながら気づきました。寄せられる好意を全て理屈で片付けられては、余りに居た堪れないのだと。
「……私もとんでもないことを口走ってしまいました。申し訳ありません、会長」
「いえ、普段側近である貴女にもより強い自制を求めていますから、反動で心地良さ、気持ち良さを求めてしまったのでしょう。私もあんな感覚は知らなかったのです。愛する男性に愛されると、女の身体はこんなにも激しく反応し幸せな気持ちに包まれてしまう。その結果、彼に溺れてしまうわけなのでしょうが……ただ」
そう、彼は。睦み合いの時はとても甘く蕩けさせてくれるのでしょうが、普段からの堕落を許すような方ではない。鍛錬の厳しさ、容赦のなさ……姫島さんや塔城さんの急成長ぶりを見れば愛されることで発奮するだけで到達できるものではないと分かります。
「うん、切替をしっかり求めてくるからね、ひーちゃんは」
『鍛錬の時はほんとに容赦ないよ、ひろ兄ちゃんは。まして自分自身へは苛めかと思うぐらいだし……』
「その辺りは自分を壊すレベルまで行く前に止めるのが私達の仕事だよ」
「自分を強く律するから、アリシアさん達に溺れきることもない……」
『ちょっと違うかも~。すずかちゃんとかが発情期に入ってる時とか、一日中繋がり合ってる時もあるしね。繋がったまま水分補給する程度じゃなくて、食事したりお風呂で洗いっこしたり身体が火照り過ぎるからってバルコニーに出たりとか……』
「もっ、もしかして移動する時はずっと駅弁の格好ですか……!?」
「そうだよ~。体力鍛えてるひーちゃんだから出来る荒業だねぇ……くくく」
突然、鼻息荒く問いかける椿姫にものすごく小物感を醸し出して笑うアリシアさん。その答えに椿姫は『excellent……!!』と呟き、空知さんの立ち去った方向を畏敬の眼差しで見つめています。
「あの、何の話でしょうか。ふしだらなことだというのは分かりますが」
「大丈夫、シトリーさんが知るにはまだ早い話だよ……」
「そうです会長まで穢れてはなりません!」
「それだと椿姫、貴女は手遅れというようにも聞こえますが」
「職務には真面目に取り組みますのでご安心を」
アリシアさんがわざと呼び方まで戻す辺り、私的時間は他には漏らせない程度に特殊な趣味なのですね。確かに自室へは入り込ませない椿姫ですが、一度監督者として立ち入り調査をするべきでしょうか。
(副会長は)腐ってやがる……遅すぎたんだ……!