※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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第5話 境遇

 一方、大翔さんのこれまでも、相当に波乱万丈なもの。まず、二度目の人生を生きる転生者であることから始まり、正式な婚約者となったすずかさんとの出会いがあって。

 すずかさんの家は色々秘密を抱えているらしく、彼女との契約めいたものがあるため、詳細は伏せられてしまいましたが、大翔さんは将来の婚約者候補として、月村家に保護されたそうです。なので、立場上、ご両親代わりの方はいますが、月村家の不評を買えばいつ施設に入れられてもおかしくなかったそうです。実際には、大翔さんへのすずかさんの傾倒ぶりから、施設入りはあり得ない話だったと思うとの、アリシアさんの補足もありましたが。

 

 その後、九歳の頃から、『魔導師』として戦いに身を投じていたことや、すずかさんやアリサさんという、今も彼を支え続ける二人との関係であったり。携帯に入っていた写真も見せてもらったけれど、二人とも彼の隣にいられることで幸せそうに微笑んでいました。大翔さんの力を受け取ることを積極的に望んだ二人も、優れた術者として、共に戦いを駆け抜ける相棒的存在でもあるそうです。

 そして、プライベートでは、二人ともが大翔さんの妻になるために、法律を変えるまでの運動をして、重婚制度を確立したり、互いの両親を巻き込んで、両家がいかに強固な蜜月関係を結んでいるかという宣伝活動や、大翔さん自身の実績作り……こちらの世界で言うなら、オーダーメイドによる人工神器の生産を担い、要人に防御機能を持ったアクセサリー等の販売等、すずかさんの月村財閥やアリサさんのバニングス財閥が潤うように動いたのだそうです。

 簡単なものなら、と見せてもらったのですが、中級悪魔の一撃ならば十分に防げるような防御術式と、さらに精神に作用するような魔術に対する防御も練り込まれた黒曜石のネックレスを渡されました。

 

「暴走した車にぶつかられても、せいぜい打撲ぐらいで済むように、身内や友人にはもれなく渡しているようなもんだよ。まぁ、ただのお守りだとしか言っていないことも多いけど……。後、周りが操られたりすると、色々洒落にならない事態になるから、その辺の対策も兼ねているんだ」

 

 あまり魔力を込めすぎると、石が耐え切れずに割れてしまうので、石それぞれの限界を見定めて、魔力を込める制御練習を兼ねていると、大翔さんは言います。

 

「とことん凝り性なんだよね……朱璃さんもちょっと呆れてるよ、ひろ兄ちゃん」

 

 お母様と話が出来るアリシアさん達が、感想を代弁しています。時折、私の隣に目をやっていますから、お母様の意識は私のすぐ傍にあるようです。ずっと、お母様は私の隣にいてくれたのだと、アリシアさん達から聞かされて、また涙をこぼしてしまうことになりましたが、涙腺が緩くなってしまっている今日の私ですから、仕方がないと割り切るしかありませんわ。……嬉し涙なのですから、悪いことではありませんし。

 

「いつ突然砲撃を食らったり、次元を超えて稲妻を落とされたりするか分からないだろ?」

 

「いや、その基準はどうなの……なのはちゃんとか、ママは規格外でしょうに……」

 

『ひーちゃん、そのりくつはおかしい』

 

「……解せぬ」

 

 アリシアさんのお母様、プレシアさんも雷系統の魔法を得意としており、さらに次元魔法に造詣が深いらしく、大翔さんに徹底的に雷と次元魔法を指導したそうです。世界を超えた目標に雷を正確に当てる練習とか、一体どんな仮想敵を想定していたのでしょうか。

 一瞬、遠い目をされた大翔さんを見て、私同様の加虐嗜好を持つ方の相手をしてこられた悲哀を感じてしまって、ゾクゾクする感覚が湧き上がってくるのを抑えるのが大変ですわ、うふふ。

 

「あー、朱璃さんと朱乃さんもそうなんだ……」

 

『みたいだね……似たような雰囲気だし』

 

 あらあら、女性陣には分かってしまいますか? ただ、大翔さんが分かっていらっしゃらないようなので、特に問題はありませんね。

 

『傷つけるようなら、承知はしないから』

 

 私だけに向けられた、紗月さんからの強い意思が込められた念話。ええ、恐怖症を抱える大翔さんにこの嗜好を向けるのは、トラウマをえぐるのと同じですもの。

 

『大丈夫です、私は両方いける性質ですから。大翔さんになら、責められる立場になるのも悪くありませんわ』

 

『いや、それって安心できないよっ!?』

 

 だって、暖かな陽だまりのような魔力を持つ大翔さんの心を凍らせるなんて、出来るわけがないじゃありませんか。どちらでもいける私が合わせればいいのです、うふふ。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 話が進む中、私は覚悟を決めて、彼が息を飲むのも知らない振りをして、背中を向け白衣と襦袢を緩めて肌を晒し、私は忌まわしき羽を広げました。

 

「私の羽根……片方が悪魔、もう一方が堕天使の羽根……。堕天使の身体を手離したくて、悪魔に転生したのですが、このような半端な身体になってしまいましたわ。ふふふ、みっともないでしょう?」

 

 お母様との会話が可能となったとはいえ、自分自身に流れる血への嫌悪感が消えるわけでもありません。ですから、どうしてもこんな自虐的な言い方になってしまうのですが、私は身勝手な希望を抱いていたのです。

 あの暖かさを持つ大翔さんなら、あっさり認めて、受け入れてくれるのではないかと。アリシアさん達がお母様から聞き取りをした後も、態度が変わらなかったことも私の決意をそっと後押ししてくれていました。こういう女性達が慕う男性であれば、大丈夫と。

 

「年頃の女の子が、会ったばかりの男に肌を見せたら駄目だって……」

 

 まず、私の視界を覆ったのは彼の上着。その上着を私の身体の前側を隠すようにしてから、大翔さんは目線を逸らして……頬が少し赤くしながら、ハッキリと言ってくれました。

 

「先程も言った通りだよ。親から受け継いだ血筋も含めて、力はあくまで力だ。それに、俺は朱乃さんから力を受け取ったことで、こういうことも出来るようになった」

 

 今度は大翔さんが上半身を急に肌蹴させたかと思えば、数々の古傷が残っている鍛えられた背中に、それぞれ一対ずつ、悪魔と堕天使の羽を広げたのです。

 

「ほら、姫島さんと一緒だろ?……って、あれ? 多い?」

 

「うん、合計で四枚の羽根だね、ひーちゃん」

 

『おぉー。少年心をくすぐるよ!』

 

「アリシア、私達もう十八よ……」

 

『辛い現実など知りとぅなかった……』

 

 ノリツッコミのお二人は別にして、私は大翔さんの適応力の早さに驚きを隠せずにいました。そして、広げた二対の羽の力強さにも目を奪われて。

 

「あれ、まだ制御が甘いのかな……まぁ、言いたいのはさ。同じ力を持った俺が、姫島さんをみっともないとか、忌み嫌う理由なんて、無いよね?」

 

 どこか締まらない顔で、苦笑いを浮かべつつ、そう問いかける大翔さんに、私は湧き上がる衝動のまま、思い切り抱き着いて、そのまま幾度も彼の名を呼びながら、今日何度目かの涙を流すことになりました。

 同時に自覚します。私は、大翔さんに惹かれている。このまま、何日か彼と過ごすことになれば、私は彼から離れがたくなっていくと。

 

「朱乃さん! 朱乃さん落ち着いて! ひーちゃん泡吹きそう!」

 

 感極まった私は完全に彼の恐怖症のことが抜け落ちていたため、急に抱き着かれた彼が気を失う寸前までなっていることに気付かず、アリシアさん達の必死の懇願が続く中、込み上げる感情のまま、安堵感を感じながら、彼の胸に顔を埋めて、一人喜びの涙を流すのでした。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 「『悪魔の駒』か、なるほどね。駒に封じてある悪魔の力を用いて、転生するわけか……」

 

 我に返った私は、大翔さん達にこの世界の情勢など、説明を続けていました。大翔さんに悪魔と堕天使の力が宿った以上、最低限、知っておいてもらわなければならない事柄があります。

 ただ、大翔さんと紗月さん達は並列思考という、同時にいくつもの思考を処理出来る力……いえ、彼らに言わせれば、訓練次第で取得できる技能というのですが、それがあるために、一度の説明で難なく理解を示してくれました。

 

「……駒、か。しばらく時間はかかるだろうけど、悪魔であることを気取られると厄介なこともあるみたいだね。うん、まずは着脱自在の状態に持っていくことだな。解析の優先事項にするとして……俺が任意で取外しが出来るようになれば、すずか達に複写した時の懸念事項も減らせるし、俺の魔力から朱乃さんも学習出来る」

 

 ええ、彼の呼び方が変わったのは、此方のお願いでもあり、非常に喜ばしいことなのですけど、私はそれどころではありません。悪魔の駒はそもそも受け入れれば、一生外れないもの。アクセサリーのように、着けるも外すも自由に出来れば、それこそとんでもないことです。

 

「む、無茶苦茶ですわ……」

 

「外付けの転生装置というのが分かったからだよ。概念が分かれば、後は集中して解析を進めるだけだよ。恐ろしく優れた魔法技術が使われているから、時間はかかると思うけど、何より俺も貴重な技術を学べる絶好の機会だ。絶対にモノにするさ」

 

 言葉からは、不可能という雰囲気は一切なく、貪欲に知識や技術を自分のモノにするという強い意欲しか感じられなくて、視界の隅に映るアリシアさんからは苦笑いと共に念話が飛んできます。

 

『こうなったら絶対に何が何でも解析するよ、ひーちゃんは』

 

『こういう技術体系とか魔術体系とか、ひろ兄ちゃんの大好物だしねぇ……』

 

『私は二週間以内に、翠屋のシュークリームをかけるよ』

 

『私は一週間! レアチーズケーキを!』

 

 いつしか賭けの対象に変わっていますが、二人は大翔さんが『悪魔の駒』の全容をつかむことを疑ってもいませんでした。

 

「朱乃さんの説明を聞く限り、安易に魔力とか、悪魔や堕天使の気配を気取られないほうが良さそうだしね……可能な限り、感じられないようにしておかないと」

 

 大翔さんの魔力も含めて、力に対する制御力の高さには驚かされてしまいます。

 なにせ、手に触れたりしていれば、大翔さんの暖かな魔力はしっかり感じられますけど、アリシアさんを間に挟んだ程度のこの距離で、私の目には特殊な力のない、普通の人間に見えています。アリシアさんも近しい距離であれば僅かに漏れ出ている部分がありますが、ほとんど魔力を察知できないようにされていました。

 大翔さんが強制転移されてきた時に魔力を感じたのは気を失っていたからで、普段の睡眠時間などは結界を張った寝室で休むようにしているとのことです。先程の防御術式のネックレスのように、装飾品で対応しないのかと聞いてみたところ、ネックレスなどが阻害要因になって魔力の瞬時解放が出来なくなるため、普段は自分の意識下で制御しているのだとか。

 

「大きい企業の経営側となると、割と狙われやすいんだ。だから、アイテムとかで魔力を封じておくのは割と怖いんだよ。それに、魔力制御は日々の積み重ねだからね」

 

「次元跳躍の雷をいつ撃たれるか常に構えていると、こうなってしまうのでした」

 

『ママェ……』

 

 常在戦場みたいな感じになってしまっていますね……。しかし、次元跳躍の雷ですか。私も訓練次第で、視認出来ないほど遠く離れた相手に雷撃を放てたりするのでしょうか?

 

「朱璃さんの一件が片付くまでは、お世話になるつもりだから、その間にひーちゃんから手ほどき受けてみる?」

 

「あらあら。……私、顔に出てました?」

 

「朱乃さんも雷の魔法、得意なんでしょ? あと、ひーちゃんの魔力を取り込んだのなら、炎とか氷とかも使えるだろうし、幅が広がるはずだよ」

 

 炎を司る姫島の血。お母様は私を産んだことで超常の力をほとんど失ってしまったと聞きますが、変質した私の魔力が馴染むにつれ、雷と同じ感覚で、炎の力が扱えると分かってきました。

 指一本一本に、使える属性を少しずつ発現させると良く分かります。殆ど意識せずとも使えるのが、雷と炎。多少の集中が必要なのが、氷と風といった塩梅です。

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