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「うふふ……♪」
「ご機嫌だね、朱乃」
「大翔さんに髪を梳いてもらうの、本当に気持ちいいんですもの。毎朝必ずしてもらえるすずかさんやアリサが羨ましいです」
大翔さんと一緒に海鳴で過ごす生活も現実時間で週の後半に入りました。時間の流れがゆっくりと流れる封時結界内にいることも多く、その何倍もの時間を大翔さん達と過ごす中、朝の生活習慣に大翔さんによる髪のブラッシングを受けられるというものがあります。
元々、月村家の先代メイド長である女性が大翔さんに仕込んだことだったのだそうで。すずかさんが大翔さんと過ごす時間を増やしたいと相談する中で、大翔さんが彼女の身の回りの世話を出来るようにと……入浴後や朝の髪の手入れ等、厳しく躾けられたとのことです。そこから、大翔さんのもう一人の婚約者であるアリサさんや、大翔さん達にとって特別な存在であるアリシアさんも同じようにするようにせがんで、こういう習慣が出来上がったのだとか。
すずかさん達三人は大翔さんが仕事や外せない用件などで朝の時間が無くならない限りは、大翔さんに必ず髪の手入れをお願いしているのだとか。もう何年も彼女達の髪を手入れしているからか、なんとも堂に入った手つきで。三人以上に髪の痛みとか乾燥など気づくこともあると言います。さすがにカットは専属の美容師さんに頼んでいるのですが、日常の手入れは大翔さんの大切な役割になっていました。
「……順番で二、三日に一度なのが本当に残念ですわ」
「封時結界を毎朝展開して……というのもね。出来なくはないけど、短い時間の引き延ばしは魔力の消費も激しいし、制御も難しくなるから」
毎日の約束事であるすずかさん達三人の髪を整えるだけでやはりある程度時間は取られるものですから、残りの五人から一人か二人、こうして大翔さんにお願いして髪を整えて頂くのです。逆に大翔さんの髪を整えたり、コーディネートを考えるのは私達の楽しみの一つですから、喜んでやらせてもらっています。ネクタイを調えて差し上げたりするのも……うふふ、女の子の憧れの一つですもの。
朝目覚めればおでこやほっぺたにキスを贈り合って、歯磨きを済ませた後に今度は唇同士を触れ合わせる。夜の営みのような舌を絡め合わせるような激しいものとは違って、心が温かくなるようなそんなキスをして。
結界内にいる時は食事の用意も皆でわいわい言いながら台所に立って、そんな大翔さんと周りの皆と過ごすのがとても幸せだと思えます。自然に笑ってることも増えて、作り笑いもすることもありません。
自分で少し心配なのは、学校に戻った時に以前の自分の雰囲気とは明らかに違うと思われそうだということですけど……既に指摘を受けている小猫ちゃんとも話した結論が、今の自然体で過ごして何か問題が起こるようであればその時に考えればいいという、何とも行き当たりばったりなものでした。結局、私も小猫ちゃんもリアス以外にも理解者を得て、大翔さんが絶対に味方であり続けてくれると信じられることが大きいのでしょうね。
「封時結界は確かに便利ですものね……デバイスの微調整を済ませる目的もありましたけど、あのセラフォルー様が時間を気にすることなく心行くまで変身を楽しんでおられましたから。ソーナが巻き込まれてゲンナリしてましたもの」
「色違いのバリアジャケットを着せられることになってたもんな……。あの魔法少女を強調する格好は仮にお芝居としてもかなり恥ずかしいだろうからね……うん」
ソーナ達は二日間を結界内で過ごして駒王町へ戻っていったのですが、その晩にもう一度海鳴に飛んでくる羽目になっていました。原因はもちろんセラフォルー様。デバイスの試作品を見せられた魔王様は、すぐにでも使用感を確認するのだと仕事を恐ろしい勢いで片付けて、数時間の余暇を確保。あとは結界内で心行くまで変身ショーを楽しまれたのです。
また、セラフォルー様とソーナからの提案で、黒歌の保護などに関連して大翔さんをソーナの眷属『候補』に位置づけしないかと持ちかけがあり、皆で相談の結果、それをひとまず受ける方向になりました。候補に留めているのは、仮に眷属にしても大翔さんはすぐに駒を抜いてしまえるということが一つ。また候補であってもソーナ、つまりシトリー家と協力関係にあると示すことは出来るので、悪魔勢力との軋轢も少しは回避しやすくなるだろうという話です。
この辺り、最初は眷属にするという話も持ち上がったようですが、セラフォルー様との繋がりを知ったアザゼルおじ様が動いてくれたようで、悪魔勢力だけでもなく堕天使も含めて二勢力と友好関係にあるように持っていってくれたのでした。
連絡を受けた際にお礼にならないかもしれないけれど、大翔さんからお母様の魂を宿らせるための融合型デバイスの試作品を送るので個人の範囲で検証して構わないと申し出たところ、それで十分動いた甲斐があったと喜んでいましたから、やはり技術者気質の方は人も堕天使も悪魔も変わっているのだと改めて感じたものです。
「友好関係になるからって、騎士の駒まで見せてもらえたのは嬉しい話だったけど……まさか、その駒がソーナさんの駒だったからなぁ」
大翔さんもそう言いながらも、騎士の駒を見せられた時は目の色を変えてその場で解析を始めてしまう始末でした。余りの集中力にセラフォルー様やソーナ、椿姫も感心してしまって、すずかさん達と一緒にお茶をしながら解析を終わるのを待ったのです。
並列思考の全てを解析に割くとあんな感じになるとすずかさんから説明があり、並列思考とはとか、デバイスは変身アイテムだけの役割ではないとか……本来は詠唱処理の代行であったり、魔法制御を補足したりなど、魔導師の技能を補佐するものである……など、そんな内容を話しながら、大翔さんの周辺に展開される透過ディスプレイに走る怒涛の数式や文字列が収まるのを見守る時間となっていました。
『技術統括のアジュカちゃんもスイッチが入るとあんな感じだからね~☆ この不思議な結界で思った以上に自由時間ももらえて、こうやってソーナたんとも……』
『「たん」付けは止めて下さい。本気で絶縁を考えますよ?』
『……ソーナちゃんともゆっくり話す時間も取れたしね☆ うん、ソーナちゃん、だからその笑顔だけどすっごく怒ってるのが分かる顔を止めて欲しいかな~?』
そんな力関係が分かるやり取りもあった中で、セラフォルー様は駒の件など大翔さんの力については自分の中だけで収めておくと約束して下さいました。アザゼルのおじ様が大翔さんの味方についていることも分かった以上、悪魔の勢力自体に害を及ぼさない限りは、契約等で縛ることなく大翔さんの人となりを信じるのが一番だろう……と。
普段は羽目を外した態度を取られていることも多いセラフォルー様ですが、他勢力との外交担当を任されるだけの洞察力は優れたものをお持ちです。善意には善意で答え、悪意には悪意で答える──そういう彼の特性を、短い付き合いの中でセラフォルー様は看破していました。そして、すずかさんを始めとした私達がそんな彼をずっと支えていくつもりであることも。
『ソーナちゃん、あ、椿姫ちゃんも同じことだけど、ひーくんとの付き合いに対して変に搦め手とかを使わないようにね☆ そういうのは、すずかちゃんやアリサちゃん達がたいてい勘付くだろうし、狭量な子じゃないから困ったことや疑問を感じた時とかは素直に訴えた方がいいよ☆ レヴィアたんの太鼓判をあげちゃう☆』
『……覚えておきます、お姉様』
何か実際に今困っていることは……という話になると、ソーナ本人や眷属達がリアスの元に有力な眷属が集まっていることを受けて、実力不足を感じていることを遠慮がちに口にしたのです。すると、眷属との顔合わせをした上で手すきの時に早朝や夕方の鍛錬に交じればいいと大翔さんから即答があり、ソーナがぽかんとした驚き顔をしたりとか、そういう出来事もありました。
「朱く染まった変異の駒になりましたけど、使用には問題ないことも分かりましたから、ソーナが問題ないと口にした以上気にされなくて大丈夫ですわ。それに眷属も含めて、こちらの鍛錬に参加できるのが実になるって喜んでいましたし」
「……確かに俺もすずか達も実戦経験は多いからね。模擬戦も含めて、今まで戦いの場に身を置くことがなかったというソーナさんやその眷属さん達にとってはいい経験になるだろうけど。あ、そういえば、ソーナさんの眷属に一人だけ男性がいるんだよね。どんな人なのか、それもちょっと楽しみなんだよな」
日常が女性と共に過ごすことが多い大翔さんですから、男の子と知己を得る機会が楽しみな様子。ああ、男の子なんだなぁとそんなことを感じたりして、可愛いと感じてしまいます。私達と過ごすことに不満があるのとは違うのは重々伝わっていますけれど、別枠での楽しみですものね、こういうのは。私にしてもリアスだったりすずかさんやアリサ達との他愛もないお喋りが楽しかったりしますから。
「よし、終わったよ朱乃」
「あらあら、なんだかあっという間でしたわ。ありがとうございました、大翔さん。うふふっ」
実質の二人きりの時間には互いに介入しないという不文律を守ってくれていたすずかさんや小猫ちゃん達が声をかけてくる。朝食をみんなで頂いた後は、それぞれが通う学校へと登校する。私はその間、すずかさんのお母様である飛鳥さんの助けを借りながらの大翔さんが担当する業務の勉強や、昼休みの時間には転移魔法で大翔さん達の学び舎へ移動し、通行許可証を下げつつ一緒に食事をする時間帯です。
さぁ、今日も大翔さんの仕事への理解を深めるとしましょう。一生懸命に、けれど焦らず確実に……。
◇◇◇◇
「……だから、教会には絶対に近づいちゃダメ。いいわね、イッセー」
朽ちた教会に赴任するために駒王町へやってきたというシスター。日本語を話すこともできなかったため、悪魔になったことで自動翻訳技能を身につけたイッセー先輩が道案内をしたのですが、そりゃ教会は天界に属しますし天使は光力を使えるので悪魔の天敵です。寒気もするってものです。
しかし、傷を癒せる神器ですか……兄さま達の回復魔法を知っているから極端に驚くことはありませんでしたが、各勢力で取り合いになりかねない相手です。それなのに、この街の何年も放置されている教会に赴任……?
『キナくさいですよね、姉さま』
『うん、真っ黒黒助黒糖味にゃ。弱り切っていた私に襲い掛かってきた独断で動いてる堕天使の件といい、多分、そういうことじゃにゃい?』
『魔王の血縁者が二人もいる街でやらかすって何を考えているんでしょうか。間違いなく馬鹿なんでしょうね』
黒猫の姿となり、かつ悪魔の気配を完全に消し去っている膝上の姉さまと念話で内緒話。こういう幻術に関わる類のものは姉さまの得意とする系統の一つ。兄さまも勝てば官軍、戦う時にはもう勝っているを地で行く性格ですから、姉さまと技術や使用方法の意見交換は密にやってますから……姉さまの隠遁術は相当なレベルに達しているでしょう。ソーナ先輩も姉さまに集中して観ることで何とか違和感を察知できる程度と絶賛していましたし、少なくとも部長は全く察知できないレベルのようです。
『検知用の探索式は数体放ってあるから、街の無関係な連中に手を出そうとしたらすぐに分かるにゃ。朱乃も戻ってないことだし、今は静観でいいと思うけどにゃ』
潰してもいいけどね……と仰る姉さまですが、堕天使達の規模も分かりませんし変に動けばさすがに部長に気づかれる可能性もあがってしまいます。ソーナ先輩達も一時的に人数が減っており、また索敵を正直得意とするわけでもないグレモリー眷属を助けるということで街中の警戒をしてくれてますしね。
「部長……」
「貴方に何かあってからでは遅いのよ。わかってちょうだい、イッセー」
部長、優しい言葉をかけられるのは素敵だと思います。ですが、同時に抱擁したせいか、部長の見事な谷間に埋もれて明らかにゲスい顔をしているイッセー先輩には聞こえていないと思いますよ? あ、でも触れる勇気はないんですね。変態なのにヘタレだったんですか、イッセー先輩。抱き締め返すぐらいはやっても部長は怒らないと思いますけど。
「祐斗先輩、紅茶のお代わり淹れますか?」
「あ、ああ、頂くよ」
仙術や妖力を受け入れたことで、私の身体は異常な食欲を訴えることも無くなりつつありました。もちろん頂けるのなら食べますけど、以前のように飢えるような感じは無くなっています。今の私は幻術で以前の小柄な体格に見せてはいますが、実際にはアリシアさんの身長を超えて、部長や朱乃先輩の胸部を見ても歯ぎしりする必要が無くなる程度には育ってきていました。こればかりは姉さまの予測どおりとなりましたが、実にいいことです。兄さまにも喜んでもらえるし、心に余裕が生まれますよね。
「最近の小猫ちゃん変わったよね。すごく落ち着きがあるというか、とてもどっしり構えてる気がするよ」
「そうでしょうか? 私自身はいつも通りだと思ってますけど」
嘘です。ああ、アスキーアートがあったら張りたい感じ……ギャー君に後で送ってもらおうかな。人も悪魔も切っ掛けなしでそんな変化をするなんて難しい話です。紅茶の淹れ方を朱乃先輩に教えてもらおうと思えるようになったのも、兄さまやすずか姉さま達に会えたから。兄さま、すずか姉さま、これからも末永く宜しくお願いしますね?
方向性が迷走しているという自覚もありますが、
視点を集約しながら完結までいきたいと思います。
今後も宜しくお願い致します。