※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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3月3日分となります。

※なんとかインフルの症状から脱しました。少しずつ更新再開してまいります。


第54話 深愛

 「下手するとこれは夢に見そうですね……」

 

「いざとなれば記憶をぼやかすお手伝いはしますから、ソーナさん」

 

「すずかさん、ありがとうございます。もしそうなればお願いします」

 

 私が暴走したことで模擬戦の雰囲気でも無くなり、大翔さん達と匙くんたちも軽い手合せだけを行って、私達は汗を流した後で夕焼けのテラスに集合していました。その短い手合わせでも指導役と生徒といった様相になっていたので、匙くんや巡さん達も実力差に衝撃を覚えていましたが、何よりやり過ぎた私の雷撃魔法が強烈な印象だったようで……。

 

「ごめんなさい、椿姫……」

 

「気持ちは分かるわよ、朱乃。大翔さんの前で発破掛けられてものすごく頑張っちゃったんでしょうし。ただ、会長や私以外の二人は確実にトラウマ化よ、これ」

 

 花戒さんや草下さんはまだ震えが止まらず、巡さんや由良さんにずっと抱き締められている状態です。興が乗り過ぎた私はやらかした反動に頭を抱えていました。

 

「姫島先輩との模擬戦は今後遠慮させてください……」

 

「無理です本当に死んでしまいます。副会長の『追憶の鏡』で跳ね返った衝撃もまとめて雷の力で押し込んでくるなんて、どんな威力なんですかぁ……」

 

「しかし、フェイトさんが得意とし、朱乃も運用してみせた自分以外にも魔力の発射台を浮かべて一斉掃射……あの制圧力、私の水の力でも可能でしょうか。これは試してみなければなりませんね」

 

「会長!?」

 

「試射の的は遠慮しますから!」

 

「いえ、貴女達? どうして的になるのが前提なの。まずは朱乃の言うように数基を同時に制御出来るようになってからの話だわ」

 

 最終的に標的になるのは否定しないのね、ソーナ。貴女も大翔さんと出逢ってから、自重というものを投げ捨てて動く一面が出てきている。王としての役割に関わるところではハッチャけたりしないけど、強くなる・成長するということにとても貪欲になった。だから今のソーナはいきいきしていて、そんな彼女を好ましくも思うけれども、今はさすがに自重して欲しいと思ってしまう。

 

「ソーナ。やり過ぎた私が言うのもなんだけど、試射の相手なら私がやってもいいから勘弁してあげて。ね?」

 

「あら。それは助かります、朱乃。貴女相手ならしっかり防御してくれるでしょうから、全力で試すことが出来ますね。ふふふ」

 

 花戒さんや草下さんにはまだ震えを止められないのに、心からのお礼を伝えられて私の方が困惑する始末。二人に要望されテラスから少し離れて話を聞けば、ソーナは自他共に厳格に接するのが当たり前だからこそ口に出した以上は確実に標的になりかねなかったと。

 

「その、姫島先輩は戦いの時と普段で切り替えてるんだなっていうのは分かるので……今だってこれ治癒魔法の一種ですよね? 神器とかでしか発現していないって会長からも教えられていたのに……」

 

 大翔さんのように上手くはやれませんが、体内の魔力の詰まりや澱みを緩和できればと思い、お二人の魔力の状態を確認しつつ魔力や気を巡らせていきます。すずかさん達も同じことを考えていましたが、大翔さんの体調が悪くなった時など、私達が効果は落ちても似たようなことが出来ないと困ることも出てくるという考えの元で、こういう練習は重ねてきていたのです。

 相手の様子を常に見ながら、流す強さや早さを変える。練習を始めてみて分かったことですが、相手の体や心の状態に合わせて秒単位での出力調整はかなりの集中力を必要とします。しかも、今回は気や魔力の性質をつかめていない初見の人が相手。今の私ではマルチタスクを含めた私の思考数……三つのうち二つを完全に割く必要がありました。

 

「朱乃、一人受け持つわ。それで少しは余力を持っていられるでしょ。余裕がないのが顔に出てたわよ」

 

「アリサ……助かるわ」

 

 見かねたアリサの手助けも得て、花戒さん達との会話に意識を割く余力も戻ります。ソーナは眷属全員に契約をさせる形で、こちらから許可しない限りは大翔さん達や大翔さん達を通じて身に着けた能力について、存在を認知している者以外に他言しない制約を課してくれています。もともとの悪魔や堕天使の力は別ですので、主に治癒の力がそういうものに該当するでしょうか。

 

「ついうっかり喋っちゃうのも防げるから、逆に制約をつけてくれて良かったのかも……姫島先輩だけの力だけでも何というかすごく欲しがる悪魔がすごく多そう……」

 

 治癒の力というのはそれだけ希少です、この世界では。該当する能力の神器所有者は各勢力でも奪い合いになります。黒歌や小猫ちゃんが使う仙術も自己回復を促す術を内包しているため、種族としても猫ショウは狙われやすいものですしね。

 

「万能じゃないのよ、それでも。傷と体力の同時回復は出来ないし、個々の熟練度合いや向き不向きもあるからね。大怪我とかの場合は血を止めるのが精一杯ってことだってある。今回は何人もいたから分担して、一気に治療できただけのことだし……何より、すずかやカリムがいたからね」

 

 カリムさんは治癒魔法の能力の伸びが著しく、すずかさんは大翔さんに追い付け追い越せの人なので、全分野が得意分野を地で行く人です。想いの強さで元々高かった才能がさらに花開いたという、アリサ曰くすずかさんは幼い頃から人の枠からとっくに逸脱していたと苦笑いしています。

 

「アタシだって大翔のことは強く想ってるし、愛してるって公言してるけど……すずかのは、本当に心も身体も全てを賭けてるからね。大翔にもし何かあれば、すずかも迷いなく後を追っかけるだろうから」

 

「そこまで一人の男の人を想えるって、すごいですね……」

 

「花戒さんだっけ。いいことばかりじゃないのよ? 相手からしたら、ものすごく重たい女にしか過ぎないわけだし。大翔がそういうのを受け入れるのに躊躇ない性質だったからこそ、うまくいってるだけだから」

 

 すずかさんだけじゃありません。私もフェイトさんもすずかさんと同じような結論を出すでしょうし、アリシアさん、小猫ちゃんやひょっとしたらカリムさんも自失状態に近しくなるでしょう。ショックはあれど何とか動けるのは、それを自分に課すアリサと黒歌ぐらい……。

 

「自分でも自覚してますけど、大翔さんの周りは愛が重い女性が多いですものね」

 

「一歩間違えばヤンデレというものですね、ええ」

 

 椿姫、貴女はそういう本に毒され過ぎじゃないかしら。喜んで話に入ってくる場面じゃないと思うわよ?

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 「しかし、驚いたぜ。姫島先輩は実質一か月程度であそこまで強くなったのか……」

 

「基礎能力と得意分野を主に伸ばした結果だよ。苦手の接近戦の対処とかは今からだし」

 

 テラスで夕食前の紅茶を楽しみながら、しばし匙君たちと歓談タイムだ。年の近い同性同士、友好的にやれればという思いもある。今はちょうど互いに見知っている朱乃や白音の話となっていた。

 

「いやいや、レーティングゲームや眷属全体で戦うって考えるなら、十分な強化だろうさ。塔城さんも本来は髪が伸びて会長とそんなに背丈も変わらない今の状態が本当なんだろう? 戦車の能力を考えたらある程度タッパがあるだけでも随分と変わってくるし、仙術や妖術も使いこなすって前衛としてはおっそろしいものがあるじゃないか」

 

「幻術で姿を変えてますが、以前の小さい姿でいる方が魔力や気の消費が多いんですね。無理やり力を押さえつけてた格好だからでしょうけど。それなら猫の姿でいる方がよっぽど消費も少ないですし、そろそろ学校では今の格好で行こうかなって考えてます」

 

 それに髪を伸ばした今の姿の方が兄さまの反応がいいですし、と微笑む白音。確かに言う通りだし、その微笑みも破壊力抜群なんだけど、匙君の前でやらなくてもいいんじゃないかな。ダメだ、顔赤くなってるな、俺。

 

「……ハーレムの主だからムカつく奴と正直思ってたけど、基本初心なんだな、あんたって。囲ってるんじゃなくて、逆に囲われているわけだ」

 

「そうですよ、匙先輩。私や朱乃先輩達が兄さまを捕まえてるんです。それにちゃんと決める時はきちっと決めてくれますから、普段は私達がリードしていればいいんですし」

 

「うーん、すっげぇなぁ。なんというか、塔城さんから……いや塔城さんだけじゃないけどさ、芯が通ってるっていうか簡単にぶれたりしないんだろうなって強さを感じるんだよ。女の子って短期間で一気に変わるんだなぁ……」

 

 感心する様子を見せる匙君に俺も彼女達の優秀さだけでなく、心の強さに支えられていると同意してみせる。心から信じてくれているからこそ、前向きに応え続けようと思い続けられる部分が大きいのだから。

 

「匙。貴方が正しく大翔さんを理解しようとしてくれて、私も嬉しく思いますよ。まだ付き合いは長くなくとも、大翔さんは私にとって自慢の友人ですから」

 

「か、会長はコイ……空知のこと、女として好いたり、とか……」

 

「それは私ではないでしょう、見たら分かりますよね?」

 

「へ? じゃ、じゃあ……」

 

「長い時間語り合ったり、食事や鍛錬を共にし楽しいのは確かなのですよ。ただ、彼に触れたい触れられたいとか、抱き締めて欲しいといった感覚とはまた違うものです。この感覚がいずれ変化するのか、あるいは今の状態を私が望み続けるのかは正直分かりません。自分の心がどう移ろっていくのか、固まっていない私には分かり様が無いのですから」

 

 匙君、テーブルの下で思いきりガッツポーズ。その様子を見て微笑むソーナさん。ああ、彼の成長次第では、彼を男女としての視点で見られる可能性を否定するわけではないのだと感じられる。

 

「以前の疑似体験は非常に貴重な機会となりました。それゆえに、私も自分の変化そのものを楽しんでいこうと、そう考えるようになったのです。大翔さんは尊敬する友人ですし、匙、貴方は私が期待する男性眷属である。そこからどう変わっていくのかはこれからの私達次第でしょう」

 

「……ビックリです、ソーナ先輩からそんな言葉が出るだなんて」

 

「不確定だからこそ未来は面白い。今さらですが、そんな言葉を改めて思っただけですよ。小猫さん」

 

 この後、ソーナさんや俺達が私的な場では名前で呼び合っていることから、匙君や他のソーナさんの眷属さん達とも互いに名前で呼び合うことを了承し合って、これ以降俺は元士郎という貴重な同世代の友人を得ることが出来たのだった。

 元士郎は一応、俺より年下ということもあって『さん』付けする方向で行くと決めたらしい。

 

「えっと、学校内では今まで通り苗字呼びなんすね、会長」

 

「ええ、リアスに大翔さん達の存在をどう説明するべきか、まだ思案中だから。私達と朱乃達が親しいということはまだ公には出来ないの」

 

「あー。そっか、そうですよね……」

 

 元士郎もソーナさんの言葉に即座に納得した声を出している。それほどリアスさんって難しい人なのだろうか?

 

「なんつーか、身内にはすげえ優しいけど、プライドの高い良家のお嬢様だな。多分、グレモリー先輩からすると、親友や愛する眷属に手を出した不逞な輩にしか見えないはずだぜ。特に朱乃先輩の心が完全に大翔さんに移ってると知ったら……うん、やべえな」

 

「私や朱乃先輩が留めたところで、洗脳されていると聞き入れてもらえない可能性もあると思います……」

 

「自分のモノを取られたって癇癪を起こす感じでしょうか。ですので、大翔さんを私の眷属候補と位置付けて、少しでもリアスに身内に近しい相手なのだと認識させるのも説得の一端となります」

 

「アレだな。グレモリー先輩との顔合わせまでに、俺達会長の眷属も力を付けていざとなれば力尽くで止められるぐらいになっとくべきかもな……うし、大翔さん。よろしく鍛えてくれよ」

 

 この日以降、封時結界も利用しつつの朝夕の合同訓練が日常化していく。ただ、朱乃が駒王学園へ復帰するのもすぐの話だったため、朱乃や白音の変化にグレモリーさんが気づかないわけもなく……。

 

『私の朱乃や小猫に手を出した男なんて、この滅びの力で無に変えてやるわ!』

 

 ほどなくお怒りになられたとの連絡がソーナさんを通じ入り、セラフォルーさんやアザゼルさん達にもそれぞれのルートで連絡が行き、姫島家にて面通しの場を持つことになったのだった。




リアスさんとの邂逅編開始。
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