3月6日(日曜)分となります。
明日も含めて、あと2話分でやっと追い付く計算……!
「なんか、こちらの事情なのに駆けつけてもらって、本当にすいません」
「気にするなよ。堕天使から見てお前はとっくに保護対象だ、家族も含めてな。基本俺らは隠れて待機してるからよ。ただ、ヤバくなったら俺もバラキエルも飛び込む」
「うむ、未来の息子をむざむざ手に掛けさせる理由は無い」
「だから、グレモリーの嬢ちゃんを堂々と相手してやればいい。サーゼクスの奴にも事情は通した。俺んとこの秘蔵っ子兼セラフォルーの愛妾だからなって」
え? 別の魔王様に? それに愛妾!? えらい誤解が広がった気が……。
「男妾って言うべきだったか?」
「そうじゃないでしょアザゼルちゃん! うんもうっ☆ ただ、私の庇護下ってことはサーゼクスちゃんにも伝えたから、多少おイタしてもいいからね☆ 私と違って甘やかし過ぎたってサーゼクスちゃんも言ってたし☆」
「私と違って?」
「なによアザゼルちゃん文句あるのっ!?」
「あの交渉前に戦争勃発とか辞めて下さいね。デバイスのメンテとか開発案とかこれでサヨナラになっちゃいますよ……」
デバイスの件をチラつかせるだけで私達仲良しアピールを始めた魔王様と堕天使の総督様。……ほんと自由だなあ。胸の辺りを擦ってるバラキエルさんにはまた胃薬差し入れしないと。
「大翔さん。微力ながら屋敷や屋敷周りの保護結界は全力で俺らが張るからよ。結界維持を得意とするカリムさんや黒歌もこっちに回してもらうんだし、何とかしてみせるぜ」
「うん、ありがとう元士郎。椿姫さん達も負担をおかけしますが、宜しくお願いします」
「同席するソーナ会長の安全はお任せしますから、宜しくお願い致しますね」
「大丈夫よ、椿姫。リアスの魔力の集積能力はまだまだ甘いものがあるのだから。仮に飛んできても散らしてあげますから」
場に臨むのは、あちら側はグレモリーさんご本人と眷属の皆さん。白音も相手側だし、朱乃は場の設定役も兼ねている。俺達の側はソーナさん、すずか、アリサ、アリシアにフェイトだ。
「部長。お連れしましたわ」
「……貴方が空知大翔ね。話は聞いているわ。私はリアス・グレモリー。朱乃や小猫の王よ。大人しく朱乃や小猫の元から姿を消すならばよし、そうでなければ私の滅びの魔力でこの世から即座に消してあげるわ!」
「部長……いえ、リアス! 話が違うわ!」
「黙ってなさい朱乃! すぐに目を覚まさせてあげる!」
襖を引いた朱乃の向こう側には、殺気を隠すことなく既に滅びの魔力を手に宿したグレモリーさんの姿があり、端から話し合いをする気などないのだということを明確に表していた。だが、恭也さんの殺気に比べればなんとも生温い。彼女は本格的な戦いの場にまだ身を置いたことがないのがすぐに分かる。
ナハトとの戦いの時もそうだったし、傭兵としてミッドで幾度も経験した戦場に比べれば、何も臆することは無い。すずか、アリサ、アリシア、フェイト。四人とも平気な顔をしているし、むしろグレモリーさんの言葉に不快感を隠そうともしていない。ソーナさんにしても俺達との共同鍛錬の成果が出始めているのだろう。少し殺気に押されたように見えたが、一つ深呼吸をして、既に表面上は平静な彼女を取り戻している。
「仰るように私が空知大翔です。ただ、事情を聞いていると仰るのと貴女の行動が一致しないと思えますが」
「朱乃のご両親との和解も実際には貴方が画策した。この場にはいないようだけど、はぐれ悪魔の黒歌と小猫の再会も貴方が仕組んだ。朱乃と小猫の引き抜きが目的なのが透けて見えるわよ!」
「……引き抜かずとも、私は彼女達と添い遂げると誓いを立てた。それは貴女の眷属であり続けることと必ずしも相反しないと思いますが」
「二人の心は、二人の忠誠は私だけに捧げられるべきものよ!」
え、それじゃ俺のことは差し置いても、二人は恋愛すらままならないじゃないか。それにまずい、すずか達だけじゃない、朱乃や白音も爆発する寸前になっている。グレモリーさんに同行した眷属の男性二人も主の剣幕に正直困惑してしまっているし……。
「いい加減になさい、リアス。交渉相手にいきなり武器を向けるなど恫喝と同じよ」
その時、予備動作無しで水球を彼女の頭にぶつけたのがソーナさんだ。急な衝撃に滅びの力も霧散し、唖然とするグレモリーさんに視線は冷たく声も平坦なまま、ソーナさんは彼女へ言葉を投げかけていく。
「少しは頭が冷えたかしら」
「っ……ソーナ! 貴女まで」
「貴女まで、なに? まさか私が操られているとでも宣うつもりかしら、リアス。そういう見分けすらつかないほどに自分を見失っているの?」
おもむろに近づき、取り出したハンドタオルで彼女の髪や顔をぬぐうソーナさん。仕草は丁寧なものだが、瞳や声の冷たさは変わることは無い。
「わ、私は……」
「伝えたはずです。彼は私の正式な眷属候補であると。彼への侮辱は私への侮辱と同義。それを分かっての恫喝ですね?」
「そ、そんなつもりは!」
「同じことだと言っているのです。私の力が足りないが故に、彼は眷属候補となっているのですから。リアスの行動は私やシトリー眷属への敵対行為だわ。もう一度聞きましょう。彼を無条件に排そうとするのですか? それとも話し合いの場につくのですか?」
「……! 話を、するわ……」
「分かりました。それと追い打ちをかけるようですが、姫島さんや塔城さんは恋愛をしてはいけないと言っているのと同じですよ、先程の言い分は。忠誠を、つまり心を自分だけに向けろというのは、自分だけを愛せと命じるのと同義。眷属の王であっても、眷属の心の在り様まで縛り付けるのならば、それは人形と変わりません」
「そんなつもりも無かった、のよ……ただ、私は朱乃や小猫が離れていくような感じが怖くて仕方なくて……」
「か、会長! その辺りで部長を許してあげて下さい!」
ソーナさんの言葉に割り込んだのは、グレモリーさんの眷属。おそらく兵藤君という眷属になって間もない少年だろう。真っ直ぐな瞳をしてるけど、すずか達へ下種な視線を飛ばしていたから後でしっかり問い詰めないとね。
「兵藤くん、貴方の発言を許可したわけではありませんよ。必要があればこちらから問いかけます」
「で、でも! 部長も反省してます!」
「貴方の勝手な発言がリアスの評価を落とすと言っているのです。王同士の話に割り込むということは、その場で厳しく罰せられても仕方ないのですよ、本来は」
「わ、わかりました……」
「リアス。兵藤君の教育はさておき、貴方のその不安をまず素直に二人に伝えるべきなのよ。姫島さんや塔城さんともう何年一緒に過ごしてきたの? 貴女達の関係はそんな脆いものだったかしら」
ソーナさんの仲裁で一旦場は中断となり、グレモリーさんは髪や顔を整えて、兵藤君には朱乃からの雷(本物)が落ちた後に、再度話し合いの場を持つこととなったのだった。
「……取り乱して、それに情けないところを見せたわ。威嚇までしてごめんなさい。改めて、話をさせてほしいわ」
「いえ、俺としては話をさせてもらえればそれでいいですから」
「本当に、全く動じないんだもの。ソーナが眷属に出来ないってことは相当の実力者でしょうし。頭が冷えれば、私は無謀なことをしようとしてたのね……まさか、堕天使の総督やセラフォルー様の保護を受けているなんて……」
俺達が話し合う部屋の隅に別にちゃぶ台ひとつ。そこに集う面子はなかなかにカオスだ。
「あ、俺らのことは気にせずにな。立会人ってだけだからよ。かーっ、この一杯のために生きてるなっ! 大翔の世界の酒もイケるイケる!」
「私としては~このリキュールすごく甘口で美味しいかなって☆ このチーズも合うよねー☆ ささ、バラキエルちゃんも飲みなよ~☆」
「あなた。大翔さんの試作品のお陰である程度このデバイスの力を借りて実体化していられるようですから、多少飲まれても大丈夫ですよ」
グレモリーさん、肩をがっくりと落としたよ。気持ちは分かるな、ダメな大人が揃ってる感が強いよね。朱璃さんが最後の希望みたいなものだ。
「朱璃さん、異常を感じたらすぐに仰って下さい。試作品とはいえ手を抜くことはありませんが、あくまで仮の融合化ですから術式も略式ですし、違和感を感じたら逆に切り離して頂くぐらいでいいので」
「おかしいと思ったらすぐに言うわね。ありがとう、大翔くん。ふふ、夫やアザゼルさんのお酌を出来るのも貴方のお陰よ」
「……霊体の朱乃のお母様を魔力が籠った宝石に宿らせて実体化させるって……いえ、朱乃にとってはとても喜ばしいことだろうけど」
「だから言ったとおりでしょ、リアス。大翔さんは技術屋さんなのよ、本来は」
「ただ、アザゼル総督。釘は刺させてもらうけど、貴方が私の領地内で勝手な行動をしたら……」
「しねえよ。せいぜい姫島家で一家団欒に親戚の伯父さん枠で混ぜてもらうだけだ。サーゼクスやセラフォルーの許可ももらってる。お前の敷地を荒らすことはねえよ」
「何を持ってその言葉を信用しろと……」
「簡単よ、リアス。デバイスを取り上げる。この一言で大丈夫だから」
軽く笑みを浮かべながら朱乃が言葉を口にした途端、アザゼルさんが完全に固まる。頷いたソーナさんも続けて似たような言葉を口にする。
「お姉様相手にも、今後のメンテ中止……で大丈夫ですから。止まります」
「お、お前らなぁ……」
「ちょ、直接ひーくんに頼むもん!」
「大翔さんはまず私達の味方です。それに直接交渉をさせるとでも?」
「鬼! 悪魔! ソーナちゃん!」
「いや、そもそもシトリーは悪魔なんじゃ」
「つまらないツッコミ入れないの、アザゼルちゃん!」
カオスである。こんなやり取りの間にグレモリーさんも朱乃から聞いていた俺達の関係性を直接聞くことで補足していき、下種な目を向けた彼には再び雷光がきらめき、イケメンの剣士くんが介抱する図式が出来上がっていた。なお、白音はしっかり俺の膝上を確保している。
「二人とも本当に人間界で大きな家の娘なのね……」
「規模で言えば、アリサなんて世界規模だから私達で言う所の領民の数も桁が違うもの」
「ま、その分贅沢もさせてもらってるけど、やらなきゃいけない仕事も多いわ」
「うん、私達の発言、行動一つで何千、何万の人に影響が出るから、元の世界では部屋に戻らない限り、絶対に気は抜けないかな……」
俺がついて回ることで刹那刹那で一瞬息を抜くことはできても、基本緊張を強いられることに変わりは無い。ただ、それがすずかやアリサにとっては日常だし、近くで支える俺にとっての日常でもある。
「二人と関わりを持つようになってから、私もシトリー家の次期当主である重みをより強く感じるようになったわ。私の行動がシトリー領全体の評価に直結する。だからこそ、公の場では絶対に気を抜けないし、逆に私的な時間でいかに自分がリラックスできるようにするか、そういう切替の大切さも身に沁みるようになったの」
「耳が痛いわね……私もグレモリー家の次期当主だもの。私の行動が、領地全体の評価になる。何千何万の領民の生活に直結する……それが当たり前になれば、軽率な行動は出来ない、か」
「自制できないのなら、上に立つ資格は無い。アタシはそう思ってやってるのよ」
「節制や節約とはまた違うんだけどね。ただ、本心を漏らしていいのは、ひろくんや家族だけがいる場だけって決めてるから」
グレモリーさんはすずかやアリサが日々自分を律する行動を取るのが当たり前という認識に、少なからず衝撃を受けたようだった。俺にしてもこういう生活が始まって五年が経過するかしないかといったところだけど、すずか達と外回りに出た時の心理的疲労度は未だに慣れるものじゃない。
「自分の部屋に戻るとき以外、気を抜けない生活……。正直、考えたこともなかった。私は朱乃や小猫達に当主としての仕事を共に支えてもらおうって漠然と考えていたのよ。でも、考えてるだけじゃ、そうよね……駄目なのよね……」
「正直、俺も日々ずっと勉強です。もちろん、すずかとアリサ両家の家業を把握しなければいけないので、量も単純に多いこともありますけど、最初から継ぐことを前提で教育された二人とは土台からして大きな差がありますから。止まってしまえば、すぐに二人に不利益なことを仕出かしてしまいそうで。それに、俺が必死でやってる姿を見せ続けるからこそ、まだ周りの人達も支えようとしてくれるのかなって」
実際にデビットさんや征二さんにも言われたことだ。折れることなく毎日後継者として勉強し続ける姿をバニングス財閥や月村工業の経営幹部の人達に少しでも認めてもらえてるからこそ、周辺も盛り立てていこうという風土が生まれてくるのだと。