※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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3月10日(木)分です。

さぁ、あと一回分だ。ガンバルゾーガンバルゾー(白目


第56話 数年後を見据えて

 「ただ、俺は二人と夫婦になって幸せになるんだって決めました。誓い合いました。だから、絶対に折れるわけにはいかないんです。そんな俺を認め、共に家族になると言ってくれたのが、朱乃であり、白音なんです」

 

「朱乃、小猫……」

 

「リアス。私は貴女の眷属を辞めるつもりはありません。逆にそれは大翔さんにも強く言われてることなの。愛情だけに溺れて、今までの親友を失うことをするなと」

 

「部長。私は先のことを考えられる余裕ができたんです。兄さまは人間界の大企業の後継者ですけど、その任期はどれだけ長く見ても五、六十年。その間に兄さまがソーナ会長の眷属になって悪魔に転生したとして、そこから長い悪魔としての生が待っています」

 

「小猫……?」

 

「小猫ちゃん?」

 

 一旦言葉を切る白音にグレモリーさんも朱乃まで疑問符を浮かべて、続きの言葉を待っている。白音は俺の手を自分の両手で包んで温もりを離さないようにしながら、明瞭に言葉を紡いでいった。

 朱乃が翌日から学園に復帰する前日の夜、内々に相談を持ちかけてきたあの一件だろう。俺は白音の意思を出来る限り汲み取れるように頑張ると答え、白音は自分に甘過ぎると呟きながらも、笑顔でお礼と愛情を告げる言葉を返してくれていた。

 

「兄さまの仕事を手伝うことで、領地経営に通じるところが非常に大きいと思うんです。部長が本格的に当主を引き継がれるのはまだ百年単位で先ですよね。その前に実践で類似体験が出来るというのはものすごく大きいんじゃないでしょうか。別に私や朱乃先輩だけじゃなくていいんです。兄さまとの相談次第ですけど、会長の眷属さん達が参加してもいいですし、祐斗先輩が加わったっていいんですから」

 

「あ、あれ、小猫ちゃん。俺が入ってないんだけど……」

 

「女性のおっぱいのことばかり考えているイッセー先輩では無理です」

 

「ぐふっ」

 

「ま、まぁ、イッセーは将来に期待として……小猫はそこまで考えていたのね……」

 

 実際に俺は悪魔の駒の力がなくても、夜の一族の力を引き継いだお陰で数百年単位の寿命があるが、白音はあえて触れずに先の見通しを口にしてくれていた。グレモリーさんの眷属、俺との家族としての営みを両方続けるにはどうするのか、どうしたらいいのか。朱乃は最悪はグレモリーさんとの離別を想定していたが、白音は違った視点で考え続けてくれていた。

 

「私にとっては部長も兄さまも大切な人なんです。替えのきかない存在です。だから、悪魔らしく欲張りになって両方失わないための方法だけを考えました。ただ、私や朱乃先輩をまるで自分のモノ扱いなのは直してもらいたいですけど……」

 

「うぐっ……あ、あれは言葉のあやで」

 

「じゃあ私の意思を尊重して、この案真剣に考えて下さいね、部長」

 

「……参ったわね、ええ、考えるわ。というか良案に聞こえるもの。あーもう、小猫がすっごく強かになっちゃったじゃない! 空知、やってくれたじゃない……」

 

「兄さまがこうなれって言ったわけじゃないですよ、部長。だからそれは八つ当たりです」

 

「イ、イッセー、小猫が容赦ないわ……」

 

「部長ー!? しっかりしてください部長ー!」

 

「待ちなさい、リアス。都合が悪くなったら眷属に逃げるその癖……直すように扱いてあげるから」

 

 ふらつく演技をしながら兵藤君に倒れ掛かってみせるグレモリーさんに、ソーナさんが容赦なく追撃をかけていく中──性格はそう簡単に変わるものじゃないし、本人が心から変わりたいと思えるかでも大きく変わるから、多分、グレモリーさんの問題は繰り返し起こるだろう──、今まで状況を見守っていたグレモリー眷属の騎士、木場君が俺に向かって手を差し出してくる。

 

「改めて、木場祐斗です。小猫ちゃんや朱乃先輩を変えたのは貴方だったんですね。二人とも過去としっかり向き合って、かつ前を見据えて歩こうとしている。その変化を齎してくれた貴方には仲間として感謝しています。ただ、二人がまるで別人のように感じるのにはかなり衝撃を受けましたけど。小猫ちゃんに至っては外観まで完全に別人ですしね」

 

「たまたま運良く関わることが出来て、俺に解決の手段があっただけのことです。巡り合わせが良かった、そう俺は考えています。ただ、白音については特にそうですよね。一気にここまで少女から女性に変われば、以前の彼女を知る人にとっては困惑するのも無理ないかな」

 

 イケメンは仕草からしてイケメンなのだなとずれた事を思いつつも、握手を交わす。少し困ったように微笑む仕草も決まっている。すずかやアリサが外向きの笑顔を浮かべているから、欠片も興味ないのが伝わってくるけど……。

 

『美形ではあるんだろうけど、それだけの話だよね』

 

『見て楽しむにはいいけどね、それだけね』

 

『あれ、全然美形とも思えないんだけど、私ってやっぱり感覚がずれてる……?』

 

『フェイトは男性の区別がひーちゃんかそれ以外だもん、仕方ないよ』

 

 四人の念話のやり取りも俺や朱乃、白音には聞こえるようにやり合ってるようで、膝上の白音が一瞬吹き出していた。なんでもないですと木場君には答えているものの、自分にとって馴染みの先輩が鑑賞物扱いにツボに入ってしまったようだ。

 なお、兵藤君はまた四人の胸に視線を向けていたのだろう。フェイトのフォトンランサーがまた瞬いていた。巻き込まれたグレモリーさんも一緒に痺れてしまっていて、思わず兵藤くんと距離を取ったようだ。つまりソーナさんと一対一できっちりお説教タイムの続き。頑張れグレモリーさん。

 

「学校は結構な騒ぎなんですよ。あの二大お姉様の一人にいい人が出来てしまったとか、一年生のマスコット的立場だった小猫ちゃんが一気にアイドル化してたり……」

 

「そろそろ痺れが癖になりそうだぜ……。それはさておき、学年違う俺らですらそうだもんな。実際三年生とか一年とか大変じゃないのかなぁ。俺らは元浜が灰になったのと、休み時間ごとに朱乃先輩や小猫ちゃんのクラスへの見学組が押し寄せていってるもんな……」

 

「そうだぞ兵藤! 生徒会は休み時間が無い状態なんだからな! ずっと区画整理やらされてるようなもんなんだぞ! ずっと休んでた人気絶頂アイドルが登校してきたらきっとこんな感じなんだぜ……?」

 

「お、おう。生徒会の人達は確かにえぐいよな……」

 

「匙君。こちらでも手伝えることがあれば言ってくれ。明日以降もしばらく騒ぎは続くだろうしさ」

 

 乱入してきた元士郎の言葉も合わせれば、学園は相当な騒ぎになっているようだ。膝上にいる白音も隣にいる朱乃も引き攣った笑顔になっているから、なかなかに拙い状況のようで。うん、朱乃も白音も学園でも有数の美女美少女だろうから……。

 

「ごめんなさいね、元士郎くん。私や小猫ちゃん自身は人が入れ替わったわけでもないし、私個人としても何が変わったわけではないと思っていたのだけど……」

 

「身長と髪が伸びて、女らしい身体にはなったかなぁとは思いますが。兄さま以外の評価は興味ありませんし、どうでもいいです」

 

「お二人がそうやって構えてなくて自然体だからこそ、周りが勝手にヒートアップしてるだけなんだよなぁ……というか、小猫ちゃんぶっちゃけ過ぎ」

 

 白音の言葉に元士郎がため息をついたところに、なぜか兵藤君が剣幕を変えて噛み付いていく。君の部長はソーナさんの説教の真っ最中だけど、放っておいて大丈夫? なんかグレモリーさん涙目だよ。朱乃が動いてないってことは大丈夫なんだろうけどさ。

 

「おっ、お前、いつの間に小猫ちゃんを名前呼びしてるんだ匙っ!」

 

「噛み付くのそこかよ兵藤!? むしろ大翔さんが兄さま呼びに突っ込めよ!」

 

「指摘したさ。そしたら虫けらを見るような目で俺には関係ないって言われてさ……」

 

「興奮したんだな」

 

「そうそうゾクゾク……って、俺にそんな趣味はねえよ!」

 

 コントめいたやりとりを経て、元士郎は兵藤くんに説明をしていく。顔はどこか呆れ顔になってるけど。

 

「んで、俺がこんな呼び方をするのは大翔さんや小猫ちゃん達に許されたからだよ、私的な場だったらそう呼んで構わないって。さっきだって朱乃先輩が俺のこと名前で呼んでただろが」

 

「貴様ぁああああああっ! 表出ろぉ! そもそも生徒会というハーレムにいて、オカルト研究部にまで手を伸ばすとはっ!」

 

「駄目だこいつ。そもそも朱乃先輩も小猫ちゃんも大翔さんの女だろ。お前じゃ勝負にならないっての」

 

「がはっ!」

 

「あ、倒れた」

 

「ご、ごめんね匙君。イッセーくんはハーレム願望が強いみたいで……」

 

「男の夢とは言うけどなぁ。平和に維持するとなると、大翔さんみたいに細かいフォローが当たり前ぐらいに思ってないと面倒臭くてしょうがないもんだってのは見てて思うぜ。兵藤にはそういう意味でも無理じゃねーか? 自分の女同士で揉めるのを毎日見る羽目になっていずれ刺されるパターンだわ」

 

 元士郎の言葉に同じく合流したソーナさんの眷属の女の子達が深く頷いているあたり、兵藤くんの願望の実現は果てしなく遠いようだ。

 

「あと、強さも足りないんじゃないか? 眷属の中で一番頼りになるぐらいじゃねえとな。ちょっと尖った連中の集まりでそうなんだから、ハーレムだったら余計だろ」

 

「元士郎、それは実体験?」

 

「昔のやんちゃしてた頃の話ですよ、副会長」

 

 器用だな兵藤くん、今度は痙攣してみせている。ただ、ハーレムって彼は言うけど、男が好き勝手に女性を侍らせるのがハーレムだと思っているのなら……結局は不幸な未来しか生まれないだろうね。まあこれも身勝手な男の言い分といえばそれまでのこと。

 

『兄さま、大丈夫です。兄さまはイッセー先輩とは違って、一人ひとりをしっかり見て向き合い続けてくれてます』

 

『白音。顔に出てた……?』

 

『自分を責めるときの兄さまの顔はとても分かりやすいです』

 

 白音は念話で。朱乃はそっと俺の手を取り、慈しむようにそっと撫でてくれる。俺への朱乃や白音の想いは勿体ないものだと今も思うところがあるんだけど……二人の真剣さを知った今では、それは口にしてはならないこと。こうして常に気にかけてくれる二人にも、もちろん元々大切なすずか達も含めて、俺に賭けてくれる人の分、俺は前を向いていく。そうしなきゃいけないし、そうしたい。そうあるように、皆支えてくれている。

 

「話題を戻しますと、木場君の言うように朱乃や小猫さんは元々人気があったんですが、この何日かのフィーバーはすごいことになっていますからね。共同訓練で体力を底上げしていて本当に良かったです。ただ、朱乃や小猫さんが変に反応せずに堂々と振舞ってくれているから、こちらとしてもやりやすいわ」

 

「正直、騒がれても答えようがないのよ。それに椿姫も知ってるでしょ。髪や肌の管理には確かにより気を使うようにはなってるものの、皆に騒いでもらうためにやっているわけではありませんから」

 

「はいはい。朱乃も大翔さんのためでしょ、分かってるわよ」

 

「も、もう! 椿姫、茶化さないでちょうだい!」

 

「朱乃先輩も小猫ちゃんも綺麗になっただけじゃなくて、なんだろう。より柔らかい雰囲気を感じるようになったから、余計にその変化に皆が騒いでしまうんだろうね」

 

「そりゃすずか達みたいな連中に毎日揉まれてるのよ、自然と洗練されていくってものにゃ。いい意味での女らしさ、女にしか出せない魅力ってとこにゃ。あとは、自分が慕う男に愛され満たされてる感覚って、すごいのよ? それだけでも劇的な変化を生むんだからにゃ」

 

「確かに……すずかさんやアリサみたいな人達に囲まれて過ごせば、髪や肌の質もどんどん変わっていきそう。手入れのやり方が自然に変わっていくものね。その変化のベースに好きな人に愛されてるって実感があったら、うん、綺麗になるのは当たり前か」

 

 やり取りを見ながら考えていた様子の木場君が指摘した雰囲気の変化に、黒歌が一つの答えを示す。椿姫さんはお泊りしていく回数が増えていたりする。さすがに同じベッドで休んだりはしないけど。彼女から向けられる想いが、当初の朱乃やカリムから感じたものと似たような感覚を受けているから、きっとそういうことなんだろう。

 

『椿姫を知ろうとしてあげて下さい、気が向いた時だけでも結構です。そして、大翔さんの色んな一面を彼女に少しずつでいいから見せてあげてもらえれば、より有難いですね』

 

 ソーナさんからはそんなお願いをされている。ただ、急ぐ必要は決してありませんとも。黒歌や椿姫さんの言葉にはしゃぐソーナさんの眷属に混じるように、説教から逃げ出すようにやってきたグレモリーさんがそんな椿姫さんの変化を指摘する。

 

「椿姫も髪や肌の調子、すっごく良くなってるわよね……? ま、まさか、貴女まで毒牙に?!」

 

「毒牙って大翔さんに失礼ですわ、リアス様。確かに私はお慕いしていますが、だからといってすぐに手を出されるような軽薄な方ではありませんから」

 

「えっ、あ、ご、ごめんなさい。失礼な言い方だったわね」

 

 面食らうような表情を浮かべ謝罪の言葉を口にしたグレモリーさんは、悪魔の身体能力を生かし俺のすぐ近くまでにじり寄ってくる。硬直する身体に朱乃はすぐに割って入る位置に移動し、白音は威嚇するように圧を彼女だけに向けて放ってくれる。この反射的な身体の反応だけは、ほんとにどうしようもない。正直、グレモリーさんみたいな勝気な美人は特に身体の拒否反応がひどい。いっそ、殺気を向けられたら敵対者にしか感じなくなるからまだ動けるっていうのに。




彼にとってリアスさんは身内にならない限り、
一番身体の拒否反応がひどいタイプだと思います。
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