「……ちょっと、貴方。ほんとに魅了とか掛けてないんでしょうね? 朱乃の動き、小猫の威嚇。椿姫のあの反応……疑わしいわ」
「あら、リアス。大翔さんは『女性恐怖症』なの。だから小猫ちゃんはこれ以上近づくなと威嚇してるのよ」
「え? でも小猫は膝の上で密着してるじゃない」
「彼の認識で小猫ちゃんや私が家族になっている証拠です。家族と認めた女性に恐怖感を感じる必要はあって?」
「……私、お母様は怖いわよ?」
「それは屁理屈でしょ、リアス。身内と信じた女性に裏切られたら、それは大翔さんが人間を信じるのを止める時よ。ただ、もし彼に寄り添う女同士で裏切り者がいれば、大翔さんに害がある前に滅するわ。それは互いの大切な約束だから」
膝立ちで一歩分グレモリーさんへ顔を近づける朱乃。一歩引くグレモリーさん。守勢に回ると意外と弱いところがあるのかな。こんな思考の余力があるのも、朱乃が全身で盾になってくれているのと膝上の白音の温もりを感じていられるからだ。
「こ、怖いわよ、朱乃」
「だって、本来女は男の愛を独占したいと思うものじゃない? それが色んな理由や事情があって、彼じゃなければ駄目で、彼の傍に集うことを選んだ女が複数いるわけだもの。だから、女同士での協定は必須だわ」
「うっ……ちょ、ちょっと祐斗、イッセー。貴方達も朱乃にどうにか言ってちょうだい」
きっぱり言い切る朱乃にやっぱり怯んでしまうグレモリーさん。ただ、そこで話を振られても眷属の男性陣の反応は分かりやすいもので……。
「拒否します、部長。朱乃先輩が自分で決められた道にどうして僕が何か言えるでしょうか」
「……悔しいっすけど、そいつが朱乃さんや小猫ちゃんのことをものすごく真剣に思って考えてるのは伝わってきます。それに朱乃さんや小猫ちゃん、すげーいい顔してるじゃないですか」
「うん、自然に笑うことが多くなったよね。笑顔を作ってることが少なくなった」
「……うふふ、祐斗くん、イッセーくん。それは間違いなく大翔さんのお陰ですわ」
「はい、兄さまがいつも見守ってくれてるって思うと、肩肘張る必要がないですから」
「な、なによぉ。私だけ理解がないみたいじゃない……」
「いやそうでしょリアス、どうみても。あと、お話が終わったとは言ってないわ。王としての心構え、しっかり教えてあげる」
ソーナさん本当に容赦なく心を抉りにいってる。しかもそれとなく俺の傍からグレモリーさんを引き離してくれた。ありがとう……ただ、グレモリーさんの瞳から完全に色が落ちたね。完全に折れてしまったのかな。
「うふふ……お説教が終わったら慰めてあげましょうか。鞭の後には少しばかりの飴も必要でしょう」
「朱乃先輩、いい笑顔です」
「会長の話もまだ長引きそうかな。聞けば朱乃先輩と小猫ちゃんを同時に相手しても貴方は苦にしないという。空知さん、どうだろう。僕と手合わせをしてくれないだろうか」
グレモリーさん達の様子を見た木場君の提案に、俺は騎士としての充足は得られない戦い方になると断りを入れる。俺の戦い方は正々堂々といったものからは程遠いものだから。
「俺は接近戦が得意なわけじゃないから、そういうのは期待されると困るけど……それでもいいかな」
「もちろんだよ。戦車の小猫ちゃん、女王の朱乃先輩を同時に稽古をつけられるという貴方の戦い方を学びたいんだ」
「じゃあ、やろう。すずか、アリサ、結界の強化を頼むよ」
「ま、待てよ! 俺だってお前の強さを認めたわけじゃないぞ!」
「そうか。じゃあ兵藤君、君も順番に相手をさせてもらうよ」
グレモリーさんの妙な圧力を感じるよりはこの敵対心や対抗心の方がよほど気が楽だ。縁側にちゃぶ台を移した総督さんや魔王様はそれでいいのかと突っ込みを入れたくなるけどね。
「おじ様? 大翔さんの模擬戦を酒の肴にするなんて……」
「朱璃も久し振りに見たがってるんだよ、将来の息子の勇姿をな」
「……まぁ」
「朱乃先輩、丸め込まれてると気づきましょう」
緊張感には欠ける部分はあっても、無駄な力が抜ける環境と思えばちょうどいい。縁側から極力離れた位置で、まず俺と木場君は向き合い、立会いを始めるのだった。
◇◇◇◇
ひろくんは、戦いを否定しない。言葉だけでは分かり合えないことがある。ぶつけ合う剣や拳を通じて伝わる意思があると恭也さんに教えられたのだと言う。私は正直、ちゃんとその感覚を理解出来たわけじゃない。ただ、ひろくんがそういうものだというのなら、私もそういうものと認識するだけのことだった。
「魔剣創造──自分が想像した魔剣を創造できる、か」
手に生み出した西洋剣を持った木場さんの速度は確かに恐ろしく早いもの。だけど、彼の剣の軌道はとても素直なもので、ひろくんは前もって障壁を自分の前面へと張っておくだけで事足りた。ひろくんは本来中遠距離を主戦場とする。だからこそ、前もって防御障壁を展開しておくのは当然のことでもある。
恭也さんという速度については人非ざる速さを出せる人を師匠の一人としてこの十年近く鍛え続けてきたひろくんだ。目も対応方法についてもしっかり磨いてきている。
「なっ──!」
「君はもっと明確な想像を持って剣を生成するべきだ。障壁を切り裂く切れ味を重視するのか、貫通力を重視して鋭い突きとともに障壁を穿つのか。それに真正面からの攻撃って、何のための速度なんだい? 確かに驚いたよ。縮地を使わずしてこの早さだ。さすが騎士を名乗るものだと思ったけど、フェイントの10や20は混ぜるべきだった」
それでも、ただ障壁を張るだけでは前衛の攻撃力にいずれ押し負けるだけ。だから、ひろくんは当たり前のように仕込みを打っていた。
「ぐっ、剣が障壁に吸い付いて離れない!?」
「障壁は防ぐためのものだなんて誰が決めた? 吸着の能力を持たせれば相手の得物を奪う事だってできる。固定観念なんてくそ喰らえ、ってね」
そしてひろくんは予備動作なしで動揺した彼の腹部に気を纏わせた拳を一つ合わせた。拳自体で意識を奪うのが目的ではなく、相手の体内へ接点から送り込んだ気で強引に相手の魔力の流れや五感を狂わせて、まともに立っていられなくすること。
途端に立ちくらみを起こし、膝をついた彼の首筋に奪った彼の魔剣をそのまま当てて、試合終了。開始十秒と経たず、決着はついてしまっていた。
「はい、チェックメイト」
「参り、ました……」
「よし。じゃあ乱した気を戻すから、ちょっとだけ待ってね。発ッ!」
ひろくんの気合と一緒に発せられた気の発動により、つむじ風が巻き起こる。ひろくんの気をもう一度受けた木場さんは頭を振ってひろくんの手を借り立ち上がると、手で拳を作っては広げてみたり、少し跳ねてみたりして自分の感覚が戻っていることを確認した後、ひろくんに向かって対戦のお礼として頭を下げていた。
「はい、ひろくん。木場さんも使って下さい」
「ああ、すずか。ありがとう。でも、この後兵藤くんとも戦うぞ?」
「もちろん、その時のタオルは別に用意してあるよ。大丈夫」
「相変わらず俺を甘やかし過ぎだぞ、すずか」
「すいません、助かります」
模擬戦が始まると決まってすぐに水と氷魔法で冷やして準備しておいたタオルを二人へ差し出す。甘やかし過ぎとひろくんは言うものの、いつも無茶ばかりするひろくんには説得力が無いので問題はないもんね。無傷の勝利で回復魔法や気の循環まではやらないから、甘やかしてるとは言わないもの。
「嘘だろ、木場が何もさせてもらえなかったなんて……」
「剣を一度振るっただけだな」
呆然とする煩悩さんに匙くんが淡々と内容を告げる。そういえばソーナさんの眷属の子達は椿姫さんを除いて、私のことは『月村さん』呼びだ。皆で話し合って徹底しているかのように。会長と同じく名前呼びなんて恐れ多くてというんだけど、私そんなに怖い所を駒王町の人達には見せてないはずなんだけどね。
「木場きゅんが怪我しないようにしてくれる辺り、さすがお師匠さんだねー」
「あの防御障壁に別機能を付与するやり方……早く身につけないとね、私達も」
「貴女達。そもそもすずかさんが傍に近づいたの、ちゃんと認識できていた?」
「あ……」
「気づけば至近距離にいるインファイター。これほど怖いものはないわ。元士郎、貴方は見えていた?」
「副会長、見えてはいましたよ。ただ、月村さんは気配を辺りに溶け込ませて音をほとんど立てずに移動してましたから、意識して見てなければ認識できずに近寄られてますよ」
こちらを見ている椿姫さん達の声が漏れ聞こえてくる。『悪魔の駒』の力は五感をより研ぎ澄ますけれど、夜の一族の力も身体能力を一般人の何倍にも能力を引き上げる以上、似たような力がある。ひろくんと共に恭也さんから習った縮地移動の技術に普段から慣れるようにしているからか、視線を切っていればまるで瞬間移動したような感覚に囚われるのも仕方ないかな。
「話に聞いていただけでは分からない差を痛感しました。実際に手合わせしてもらえて良かった。ありがとうございました」
「接近戦というなら俺よりもアリサやすずかなんだけど……何か参考になれたのなら何よりだよ」
私達は基本、荒事に巻き込まれた時は必ず一人で動かないようにするから、全体指示を出すひろくんの前後を固めるような態勢になる。アリサちゃんが前に立ち、槍も使える私がアリサちゃんのすぐ後ろ、ひろくん、アリシアちゃん&紗月さんの並びで、過去になのはちゃん達の任務を手伝ったこともあった。基本介入しないんだけど、なのはちゃんも大概オーバーワークが過ぎるから、ひろくんが忠告がてら傭兵としての業務を請け負うような感じだった。変身魔法とお面みたいなもので顔を見せないようにしてたから、ちょっとした話題にはなっていたらしい。
なお、正体は突き止められないように忍お姉ちゃん・プレシアさん・ドクターのホットラインで情報統制が行われていたから管理局は涙目状態だったみたいだね。なのはちゃんやフェイトちゃん、はやてちゃんに下手に手を出したら、報復を食らって闇に葬られる……みたいな。それでもフェイトちゃんに対しての一件があったから、結局ひろくんはミッドチルダとの移動手段の封鎖に至ったんだけど。
「ただ、速く動くだけが早さじゃない。貴方や月村さんの動きの無駄の無さを見て思い知らされました」
憂いのある表情を見せたイケメンくんにソーナさん眷属の一部が色めき立つけど、椿姫さんの一声ですぐに鎮静化しているあたり、あの人達にとって会長と副会長の威厳はやはり大きいんだね。いくらひろくんの前では女の子になってしまう椿姫さんの姿を見ていたとしても。
そう、椿姫さんはあの悦楽体験を経て、ソーナさんのように一歩距離を取りつかず離れずの関係性に退くことなく……逆に心を決めた発言や行動を示していた。
『どうして、ひろくんだと思ったの?』
『自分でも全部理解出来た訳じゃないんですけどね。あの強烈なオーガズムの体験を知って、彼から──大翔さんからなら喜んで受け入れると感じた自分に気づかされたと言いますか。私……多分、そういう欲が強い方なんだと、今は分かってしまったんです』
生徒会副会長という模範を求められる行動を普段取っている分、反動めいたものはこの一年ぐらい強まっていたと彼女は教えてくれた。また、朱乃さんという──『女王』兼五行を司るという五大宗家の生まれである、彼女にとって近しい立場の女の子が、羨ましく感じる変化をしたというのも大きかったのだと。
『女として満たされて自信に溢れ、また自分の抱えていた問題も整理がついた朱乃は悔しいぐらいに綺麗になって。その変化を与えた大翔さんを知ってしまって……自分も、って思いが抑えられなくなったんです』
相手が望むやり方で愛してくれるひろくん。それはパートナーを失う恐怖心が未だ残るからこそ、どうしても相手の意に沿ってしまう、自分でも制御しきれない心の動きがあるからだけど……表面だけ見れば、ひろくんの愛し方は女の子が憧れる理想形の一つ。
まして、複数の女性が集うことを許容する集団と知ってしまえば……うん、その原因は私にあるけど……。いや、何でもかんでもじゃないし、正直これ以上は思う部分もある。ひろくんからの愛情や接する時間が減っていないと感じていられるということは、ひろくんが結界内時間での調整も含め、自分の時間の殆どを私達に割いてくれているということだから。
『ひろくんは……セラピストなんかじゃない』
『はい、朱乃から私も伺っています。私も──頂く以上のものを、大翔さんに与えたい。パートナーでもない今ですら、どれだけあの人が私に気を払ってくれているか。必ず毎日、私のためだけの時間を作り出してくれる。もちろん私だけじゃなくて、すずかさん達一人ひとりに。あの人にとっての家族は絶対に守りぬくもので、自分の全てを賭けるものなんだって。お父様やお母様に怖れられて家族を失った私には、あまりにも眩しくて、また愛しくて──』
ひろくんを好きになる人は、何かしらの強い空虚感を抱えていることが殆どだ。椿姫さんにとっては、それは家族のあり方で。ひろくんを夫として、父親として進む未来を、椿姫さんは見てしまった。
私が自分の体質等の問題から恋愛を諦めかけた時に、ひろくんが躊躇無くその身を差し出してくれたことで救われ、今も応え続けてくれているように……。
ひろくんは、近々椿姫さんを受け入れるだろう。そして、椿姫さんも朱乃さん同様、ひろくんが異性への恐怖を超えて、家族として終生寄り添える存在になることに迷いを持たない。それこそ、悪魔の契約として自分を縛ってでも。朱乃さんが既にそうしたように。
うまくまとめきれてない今話になってますが……。
すずかが受け入れると決めて広がった輪について、
自分の制御下を外れつつあることを、この辺りで触れておきたかったんです。
ただ、もうちょっと心の動きを分かりやすく文章化してあげたいけど、
作者の力量が足りない感。