※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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17日分です。なかなか追いつけ(ry

インフルの後遺症が主に気管支にまとわりついています。
元々呼吸器系が弱い私には辛い体調が続いております……。


第58話 俺の女

「どうぞ、大翔様。朱乃さんに習い、私が淹れてみたのですが……お口に合えばいいのですけど」

 

「ありがとう、カリムさん。味はもちろん美味しいけど、それだけじゃなくて飲みやすい温度にしてくれたんだね」

 

「はい。動かれた後ですので、最初は温めに致しました。お代わりはもう少し熱めに用意しておりますが、いかがですか」

 

「頂くよ。ん……さっきより熱い分、香りもより強く感じられるし、同じお茶なのに面白いね」

 

 すずかさんや朱乃さんに教えて頂いた淹れ方を忠実になぞり、あとは模擬戦の後ということを踏まえて、温度別に分けた三つの急須を用意しました。大翔様のお言葉を頂き、柔らかな表情を見せて頂けたことで従者としての役目が少しでも果たせたことに安堵する私でした。

 兵藤さんとは模擬戦の形式ではなく、彼が納得するまで幾度も打ち込ませて大翔様がいなすという稽古の一種となったことで、汗をかく程度に長い時間立ち会うことになったのです。

 

「むぎぎぎぎ……綺麗なお姉さんに付き人のようなことをさせてからに……。互いに慣れた対応なのが余計に腹立つぅぅぅぅぅぅ!」

 

 どうにもあの兵藤さんという方は感じたことをありのままに表に出される様子。それは正の感情、負の感情問わず。ある意味清々しいものを感じますが、公私を分けるのが当然という環境でずっと過ごしてきた私には距離を空けて接さなければという危機感を覚えてしまうところがありました。

 

「でも、イッセーくんも大きめのお椀に温めのお茶をもらって喜んで飲んでいたじゃないか。へばっていたのに一瞬で復活したのには驚いたよ」

 

「木場ぁ、お前は分かってないっ! きれーなおねーさんにお茶を淹れてもらえた事実自体が滾るシチュエーションなんだよ! 営業スマイルと分かっていても笑顔と一緒にお茶をもらえたんだぞ!?」

 

 あまりに赤裸々な女性への欲情を隠さない彼に、すずかさんが一切話しかけず、接触を徹底的に避けるのも分かる気がします。特にすずかさんは大翔様以外にそういう視線を向けられることに強い嫌悪感を覚える人。私と同じように柔和な立ち居振る舞いを求められる以上、普段は絶対に態度に出されませんが……今は、半分プライベート的な時間にもなっていますし、対応に慣れている朱乃さんや小猫さんが動かれていますから。

 

 男性がもちろんそういう欲を持ち、多かれ少なかれ異性の胸部や臀部に目を向けてしまうのは、この私でも存じています。大翔様のそういう視線を感じれば嬉しく思いますし、身体の奥が熱くなる感覚も幾度となく覚えています。ただ、自分が認めた方以外の男性に色目で見られるのには気持ち悪さだけが澱みのように絡み付く。わがままとも思いますが、自分の心はごまかしようがありません。せめて不快感を相手に感じさせないように、笑顔の仮面を上手に被るように自分を律するだけです。

 

「あー、グレモリーの兵士くん。大翔の周りの女は見られることで自分に女の価値を感じて喜ぶタイプはいないにゃ。だから、そういう発言するたびにみんな好感度がマイナス一直線ってことは言っておいてあげるにゃ」

 

「……え!?」

 

「『いいおっぱい』とか『いいお尻』だって口にするなら、あっちでまだ説教中の主に言ってやるといいにゃ。グレモリーは褒められるの大好きそうだから、多分喜ぶにゃ」

 

 黒歌さんは大翔様という特定の相手を得るまでは視線を集めることで悦を感じることもあったのだとか。ただ、その根底には鼻の下を伸ばして身体ばかり見てる浅い男という蔑視的な感情があり……心の内を見てほしいと訴えることも出来ずにただ馬鹿にしていた自分も、結局は同じ穴の狢だったと自嘲されていました。

 

「アンタも根性だけはあると認めてやるにゃ。稽古形式になったけど体力の限界まで大翔に挑み続けて、最後は無拍子に近い動きで拳を動かしてみせた。その感覚はちゃんと残ってるでしょ」

 

「う、うっす」

 

「元士郎も毎日、その感覚で動けるようになるまで大翔と鍛錬を積んでる。師匠格である大翔はもっときつい鍛錬を自分に課してる。強くなるための目的があって、その努力を惜しまないからこそ、大翔や元士郎の周りには女が集うにゃ。ボロボロになるのがカッコ悪いわけじゃない。勝手に卑屈になって、カッコいい男になるための努力を捨てて燻るのが一番カッコ悪いにゃ」

 

 黒歌さんが口にしたように、元士郎さんの仲間の方達の視線は日々変わりつつあります。大翔様達との実力差を知り愕然となりながらも、それを契機と捉え日々大翔様の鍛錬に食らいついていく彼を好ましく思わない仲間などいない、ということです。

 大翔様に惹かれているソーナさんや椿姫さんは頼りになる弟的存在として、その他の方達が向ける感情は徐々にですが、私達が大翔様に向けるものに近しくなっているのを感じますから。

 

「『元ちゃん』は本当に頑張ってるもの。だから、私も早く防御障壁の付加効果もつけられるように頑張るからね!」

 

「おう、花戒ならそうかからねえさ」

 

「『元ちゃん』? 桃ばっかりじゃなくて、私は?」

 

「草下は実はもう出来るだろが、知ってんだぞ。障壁の強度は花戒が上だけど、付与効果はいろいろつけて試してるし、離れた前衛の前に障壁を張れるように練習してるじゃねえか」

 

「え、な、なんでバレてるの!?」

 

「大翔さんと小休憩中に。黒歌や月村さんの教えを必死に生かしてるじゃないか。堂々としてりゃいいのに」

 

 元士郎さんは口にはしませんでしたが、ソーナさん達の鍛錬内容は大翔様も全てご承知の上です。すずかさんや黒歌さんはしっかり報告を入れていますので、ソーナさんや椿姫さん以外に、大翔様との鍛錬を共にする時間が長い元士郎さんも結果的に他の方の訓練の進捗具合は大よそ把握されているのです。だから、鍛錬など無理が過ぎる仲間には同僚の立場から声をかけられたりもされています。

 

「あ、あう……」

 

「ふふふ、元士郎もどっしり肝が据わってきて、周りに目を配る余裕も出てきたってことさ」

 

「ぬかせ、翼紗。体術では引き離されてるけど、いずれ追いついてやる」

 

「ふふっ、そう簡単に追いつかせはしないぞ。私はもっと高みに行く。留流子と一緒に必死で追ってくるといいさ」

 

「由良先輩、匙先輩と必ず追いついてみせますから!」

 

「……うーん、私だけこの置いてけぼり感。元士郎は所詮同級生だしねぇ……頼り甲斐は出てきたと思うけど」

 

 元士郎さんを中心に出来ている輪。ソーナさんの眷属はソーナさんと椿姫さんが全体を統括しつつ、元士郎さんがもう一つの中軸にならんと成長を続けていらっしゃって……大翔様と私達の輪にどこか重なるものを感じるのです。

 もちろん、元士郎さんと彼女達は男女の仲ではありませんけれど、唯一の眷属内の男性として、女性陣が信を置くに相応しいと認める雰囲気が深まってきていました。彼女達の一部が彼を名前で呼びながらも彼には自分の名前を呼ぶことを認めていない辺りが、微妙な距離感なのだと感じます。どう縮めていくのか測りかねているから、特別を意味する名前で呼ばれるのはまだ早い。だけど、親愛は示したいから自分達は名前や愛称で呼ぶ……。武人的な気質のある翼紗さんは例外でしょうけど。

 

「え、さ、匙は元々生徒会で自分以外が女役員で……」

 

「そうね。元士郎はそれを意識してやったわけじゃにゃい。男のそういうゲスい計算なんて、女は感覚であっさり分かるんだし。アンタも朱乃や白音と同じ眷属。このまま害にしかならない詰まらない男で終わるようなら、いつか……もぐわよ?」

 

「ひっ……」

 

「いい女はいい男の傍に集うにゃ。外見とかそういうのじゃない。覚悟であったり、その姿勢を見る。僻んでばかりいないで大翔や元士郎をしっかり見ることね。特にハーレム志望のアンタには」

 

 黒歌さんの言葉は兵藤さんを気遣うものではありましたが、声の色はどこか冷たいもの。詰まらない男が朱乃さんや小猫さんの近くにいることなんて許さない──そんな警告にも聞こえたのです。

 

「イッセーくん。相手の状態に合わせてお茶の温度を変えるのって、元はとある戦国武将の『三献の茶』という逸話なんだ。気配りの見本ってヤツだね、朱乃先輩に教えてもらったことがある。グラシアさんは空知さんを本当によく見て理解しようとしているからこそ、適切な温度のお茶を出すことができる……」

 

「分かるさ。おねーさんが本気で思うからこそ本当に気を使ってることぐらい……だけど、俺は龍の手ぐらいしか」

 

「……兵藤君。君の神器、龍の手という有り触れたものだと君は言ったけど、長い時間打ち合ったからこそ感じた。それは龍の手とは違うものだ。もっと何だろう……大きな力を内に宿している。ただ、目覚めていないだけで」

 

 大翔様の言葉に兵藤さんだけでなく、グレモリーさんやソーナさんまで大翔様の言に耳を傾けています。もちろん、すずかさん達や椿姫さん達も。

 

「俺の神器はもっと強力なものってことか……!?」

 

「おい、大翔。お前は工程さえ知れば人工神器を作れるようなぶっ飛んだ技術者だ。だから、武具や神器の真贋が見通せるのもおかしくねえ。まして、お前は戦いの場にも身を置くし、魔力や気の流れも分かる。……その感覚で一体、何を感じた」

 

「とんでもない大きな力が眠っている。休火山や大型の不発弾のような、恐ろしい力が起動せずにそこにある。そんな感じなんです。ただ、無理やり起こせば兵藤君の身体に影響が出かねません……迂闊には触れるべきじゃないし、兵藤君がこの神器の所有者である以上、彼の成長に呼応して自然に目覚めるのを待つのが真っ当な方法かなと。すいません、感覚的なものなので曖昧ですけど」

 

「いや、俺も迂闊だった。言われてからってのが情けねえ。しっかり見てみれば……ああ、龍の手なんかじゃねえ。内包する力がそんなちゃちなもんじゃない。推測はいくつか立つがどちらにせよ、グレモリーの兵士は自分を守る意味でも強くなる必要があるな。下手すると神器の暴走で主や仲間を食い殺しかねん」

 

 皆さんがアザゼル総督の言葉に押し黙ってしまう中、真っ先に反応してみせたのは妹を案じる黒歌さんです。

 

「待つにゃ! そんなの白音や朱乃を近くに置いておけるわけが……」

 

「落ち着きなさい、黒歌☆」

 

「セラフォルー、何を企んでるにゃ!」

 

「企みもなにも、私達は焦る必要がないのよ?」

 

 セラフォルーさんの目線はまず大翔様に向き、次いで兵藤さんへと向けられます。すずかさんの顔が強張るのを見れば、私や他の皆様もすぐに察します。大翔様を元士郎さん同様、彼の師匠格に据えるつもりなのだと。

 

「兵藤君だっけ? 強くなりたい? その強さでハーレムが築けるほどに、圧倒的な強さが欲しい?」

 

「……なりたいです! そりゃハーレムももちろんですけど、部長や朱乃さん達を傷つけるような暴走なんてさせるわけにはいかねえ!」

 

「うん、わかったよ☆ ……ひーくん、すずかちゃん。私から正式な依頼を出すよ、褒賞もある程度無茶を聞くから……お願い、彼をソーナちゃんの眷属ちゃん達みたいに鍛え上げてくれないかな? 悪魔の一員でかつリアスちゃんの眷属だもの、一勢力の幹部としても強力な神器保有者を放っておくわけにはいかないの」

 

「私は、ひろくんの結論に従うだけです」

 

 すずかさんは内心の思いは別のものであろうと、大翔様の意思を尊重しそれを叶えるという生き方を自身に定めています。自分の幸福のために自分の家の事情に巻き込んだ──そういう想いを一時も忘れることはないと。

 私の立場に起因する事情に大翔様を引き込んだ時点で、私とて同じこと。だからこそ、大翔様に尽くすのは当然という気持ちを絶対に忘れてはならないし、自分に常に言い聞かせているのですから。

 

 ただ、大翔様はすずかさんが苦しむような選択肢を、好き好んで選ぶ方ではありません。だから、私は心配をしていませんでした。

 

「セラフォルーさん、条件をつけさせて頂きたいです」

 

「うん、何かな? あ、ソーナちゃん、リアスちゃんはもうちょっと黙らせといてね☆ 四大魔王として今は話しているからね☆」

 

「……では、二つほど。一つ、彼がすずか達に邪な視線を向けたら、激しい頭痛に襲われるような暗示を入れさせて欲しいんです。情けない嫉妬と言われればそれまでですが、俺も彼の欲に塗れた視線ですずか達を見られるのは気分がいいものではないので」

 

「くうーっ、愛されてるねすずかちゃん達! いいよいいよ、朱乃ちゃんや小猫ちゃんはもちろんだけど、その範囲にソーナちゃんやソーナちゃんの女性眷属も入れておいて☆」

 

 大翔様は嫉妬と仰いますが、パートナーである私達は彼が人前であまり表現されない『俺の女』的発言に秘匿性の念話でこっそり大はしゃぎです。大翔様の人となりを知るソーナさんや眷属の女性陣もしても、可愛い一面があるんだとか保護欲をそそられるとか、概ね好意的な発言が漏れ聞こえてきます。

 私ももっと堂々と求めてくださればいいのにと考えるようになっている辺り、女として欲張りになってしまったと自分でもはしたなく思う反面……今の私自身に生きやすさを感じてしまっているのもまた事実なのです。つい先日、はやてや皇貴さんを恐喝してでも強引に私の様子を確認にきたシャッハも、私の変わり様にショックのあまり直立したまましばらくの間、半ば気を失った状態になってしまっていましたから。

 

 なお、強制的に連れ帰ろうとしたシャッハは私のみならずアリサさんやすずかさん達の逆鱗に触れ、数の暴力で圧倒された上で逆にベルカ自治領へと強制送還されました。そもそも、はやてが海鳴への里帰りをしたいという連絡で転移を許可したところ、実ははやて達を裏で脅していたシャッハがやってきたのが原因でしたから……。

 ただ、聖王教会内での私の不在は思ったよりも影響が大きかったのもシャッハからの直接の聞き取りで分かってしまいました。大翔様が本日のグレモリーさんの一件が終われば、私と共にベルカに行こうと言って下さったのが嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが入り混じった複雑な心持ちを覚えていました。




チョロインすぎるソーナ眷属との指摘があったので、
自分でも思う所があり加筆及び文面の修正をかけました。
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