※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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10日分です。

取り急ぎ更新しますが、自分でも腑に落ちない部分もあって、
後日、修正を入れるかもです。

※若干修正入れました。


第65話 乱入者

 なんという素晴らしい魔法陣なのだろう。複雑に組み上げられた術式はまさしく芸術の域に達していると言っても過言ではない。台座に寝かされている妙齢の女性の姿にも少し目を凝らせば、人工的に作られた生命体で心臓に当たる部分に膨大な魔力を有した魔石が埋め込まれているのが見て取れる。

 

「ぐ、ぅぅぅぅ!」

 

『あ、ぐぅ、あああああああっ!』

 

 そんな儀式魔術の場が乱れ、苦悶の声が中心の術者である彼の口から漏れ出す。同時に直接頭に響く女性の悲鳴。俺達の侵入により彼以外の術者が集中力を乱し、魔力供給を担う者達も動揺により供給が滞る事態を招いたか。その結果、負担はこの儀式魔術を形作った彼に集中してしまっている。

 

「集中しろっ! 朱璃さんを! 朱璃さんの魂を、砕けさせてたまるものかっ!」

 

 魔法陣の外で白龍皇や堕天使の総督、魔王少女達と相対し、一触即発の状況となっている曹操やオーフィスを尻目に、俺は彼から目を離せなかった。

 

 四大魔王の親族二人が暮らす駒王町は元々、俺の監視対象だった。そんな折に彼が展開する結界を一目見たときから、俺は惹かれたのだ。魔術を極めたはずの俺がその結界の構築術式に自分の知らない理論が含まれていることに気づく。相手に気取られるなという曹操の厳命もあり直接接触することなく、のめりこむように解析を進めることに夢中になった。

 結界内外での時間の流れが異なると知り! 時空に関する魔術も含まれていると分かり! こうして彼と接触できる許可が出るのを待ち侘びていたのだ、俺は!

 

 そんな彼が瞳から血涙を流しながら雄叫びを上げた。ああ、急激に高まる魔力はおそらく幾ばくかの命を即座に捧げたのか──!

 

「朱乃っ! バラキエルさん! 外に囚われるな! 朱璃さんを取り戻さなければ、何も始められないだろう! 家族としてやり直すんだろう! 余所見をするなぁぁぁぁっ!」

 

 崩れかけた儀式魔術を一時とはいえ、ほぼ一人で支えきろうとする不屈の精神。そのために生命の力を差し出す躊躇の無さ。悪魔や堕天使の力を内包しながらその力に頼ることなく、彼は人としての生き様を貫こうとするようだ。意思の力を剥き出しにする彼は、英雄派の目指す形の一つを示しているじゃないか!

 

「!……お母様、苦しめてごめんなさい! どうか頑張って、お願いです!」

 

「ああ! すまん朱璃! お前を……そうだ、お前をもう失ってたまるものか!」

 

『だ、大丈夫よ……そうよ、ここまで来て、大翔くんの生命すら捧げてもらって、この程度の痛みに屈してなるものですか──!』

 

 魔法陣の中にいる者達も、彼の叫びに意思を取り戻す。乱れていた魔力の流れが再び、静粛なものへと戻っていく。その光景に、曹操が。オーフィスが。白龍皇達が動きを止める。一人の男の感情の発露に引きつけられている。紅一点の女魔王はどうも違った熱の篭った視線で見ている節もあるようだが。

 

「ひーちゃん……もう、なんて無茶を……!」

 

「せいぜい、十年ぐらいで済んでいるさ。ナハトもヘカティーも精一杯力を貸してくれている……朱璃さんが消えることを思えば、これぐらい!」

 

「ひろくんの馬鹿っ! 後でお説教だからね……!」

 

「馬鹿大翔! すずかとしっかり絞ってやるんだからぁ!」

 

 涙を流すのは彼の恋人達か。彼への怒りだけでなく自分のふがいなさに怒りの涙を流しながらも、もう魔力は乱れることは無い。

 

「馬鹿息子……ほんとにね。そいつらの足止めは任せるわよ。私も儀式のフォローに入る。匙とやら、私と大翔の間にもラインを繋ぎなさい、早く!」

 

 あの紫のローブの魔法使いに追随するように、俺はらしくもない行動を取ろうとしていた。英雄派へ勧誘を何度か掛けている顔見知りの黒歌に向かって叫ぶ。

 

「黒歌、俺の力も使え! そもそも乱入した俺が言えることじゃないが、稀代の魔法使いたりえる彼を儀式魔術の失敗で失うなど耐えられるものではない!」

 

「ゲオルク!? 何を考えている!」

 

「決まっている! 魔法使いの端くれとして、儀式魔法の完成に加わるだけのことだ! やれ、黒歌! 持っていけぇえええええ!!!」

 

「な、なんだかよくわかんにゃいけど、アンタほどの魔力量なら助かる……にゃ!」

 

 曹操の制止を完全に無視した俺は、仙術の応用からか黒歌により一気に魔力が吸い上げられて思わず膝をつく。俺の魔力が経路を通りあの青年に流れ込んだところで彼はこちらに振り向き、頭に直接意思を伝えてくる。

 

『ありがとう、魔力使わせてもらう。ただ、稀代の魔法使いなんて、そんなものじゃない……幸せな家族の形を取り戻す。失いたくないっていう、俺のわがままなんだ──!』

 

 俺は彼が魔法の完成局面に入るのを見据えていた。彼は集約された膨大な魔力を迷うことなく扱い、人工生命体の素体へと注ぎ込んでいく──。

 

「姫島朱璃の魂よ! 今こそ融合騎の核に宿り、新たな身体を得て具現せよ──!」

 

 そうか、彼は──悪魔達がやるような転生の外法を、膨大な儀式術式を使い魔術だけでやってのけるというのか──。はははははっ、そのために自分の命すら払っただと? 恋人の母親のために? ああ、歪んでいるんだな、彼も。だが『魔法使い』らしくもあるじゃないか、くくくっ。

 

「あの身体に、魂……宿った」

 

 オーフィスの言葉が全てを物語る。ゆっくりと身を起こす生命体の姿は、あの黒髪の娘の血族と思わせる風貌だった。夫と娘を優しく抱擁する様子は、まぎれもなく母親そのものだったと言えよう。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 儀式がトラブルはあったものの無事に終わり、朱璃さんが融合騎として実体を得た後、俺はすずか達からお説教を受けることになった。といっても激しく怒るようなものではなく、切々と俺を失うことの怖さを訴え、泣かれるというものだったんだが……。

 

「大丈夫。大翔の言ったとおり、せいぜい十年程度の消費で済んでいる。優れた技量があるからこそ、消費も最小限で済んだ。あと、この蛇を渡す。飼い慣らせば、寿命を取り戻してお釣りがくる」

 

 無限の龍神と呼ばれるオーフィスと名乗る少女が俺の見通しを保証し、アザゼルさんが追認することで、ひとまず精神を責められ続ける時間は終わりを告げた。なお、渡された蛇はなぜか俺の頭の上でとぐろを巻いて寛いでいる状態だ。

 体内のナハトからは、魔力が不足して万全でない状態で取り込めばオーフィスの下僕として自意識を乗っ取られかねないという指摘を受けていた。また、彼女を通じて俺やすずか達とは魔力の経路が常時繋がっているような状態だから、俺が制御に失敗した場合すずか達にまで影響が及びかねないこともあり、すぐに受け入れるわけにはいかなかったんだけど……。

 

 さて、そのオーフィスを含めた侵入者は過激派組織のトップと組織の一会派と名乗り、人間だけで構成された一派とのことだった。アザゼルさんが顔色を変えていたあたり、相当に危険な組織というのは推測できたんだが……。

 

「永遠の静寂……擬似的に体験できるとは思わなかった。お前、面白い」

 

 その組織の長に気に入られてしまったのだ、俺が。

 

 何も存在しない『次元の狭間』で真の静寂を得たいから、次元の狭間を実質的に支配している真龍グレートレッドを倒す協力を要請され、要請を拒否する場合は世界を破壊してでも連れて行くと脅しをかけられたのだが……。

 抱いた印象として、絶対的強者というのは勿論だけど。静寂が何百年、何千年と続くことに耐えられるように正直見えなかったというのがあった。彼女は同行者である漢服の青年──曹操や魔術師の青年──ゲオルクとの会話を拒否する様子が無かったから。

 

 ドクターのお陰でそういう世界にも飛ばされたこともあり、俺は別の封時結界内にあの世界──転生時やあちらからの接触があった時に呼ばれる白一色の世界を再現し、音の類も完全に遮断した上で、彼女をそこに連れて行った。後は俺の転移と同時に結界内の超時間加速が発動するようにして、実際に疑似体験をしてもらったのだ。

 すると、計算上百年も経たない内に彼女は結界を破って出てきた。なんだかつまらなかった、という感想と共に。

 

「お前、鍛えればどこまでも伸びる存在。だけど、まだまだ弱い。初めて体験させてもらった静寂のお礼に、お前強くする。お前の仲間達もついでに強くしてやる」

 

 そんな言葉と共に、強引にしばらく居座ることを宣言されてしまったわけだ。アザゼルさんは魂が抜けかけていたし、ヴァーリさんは瞳を輝かせて俺も居候になると言い出して我に返ったアザゼルさんに全力のツッコミを受け、曹操さんは本気で焦り顔になるし、ゲオルクさんもそれならば俺も居候すると言い出して、そこにセラフォルーさんも悪乗りするという……。

 

 そんな混沌を鎮めたのはプレシアさんと朱璃さん。母親は強し。オーフィスまでもが雰囲気につられて一緒に正座してお説教を聞くという不思議な空間が展開された。

 

「『黄昏の聖槍』……! 触れればただでは済まんな!」

 

「こちらこそ身体がただの人間、触れれば終わりだ! 模擬戦とはいえ、全力でやらせてもらう!」

 

 そんなやり取りの後で場所を庭先に移した俺達は、無限龍に同行していた聖遺物の聖槍を扱う漢服の青年と朱乃達の世界で二天龍と呼ばれる白龍皇の模擬戦を観戦しながら、俺の状態について詳細な確認を進められている。曹操さんは少しやけっぱち気味なのか、身体を動かさないとやってられないという感覚になってしまっているようだ。

 

「大翔……お前はもっと怒ってもいいところなんだぜ。まぁよ、実際に激怒されてオーフィスに突っかかられても困るんだけどよ」

 

「一人の女性の天命を捻じ曲げたんです、アザゼルさん。幸い、元々すずかの一族は長命だし、朱乃から種族としての力も引き継いだ。普段は弱点が増えることにもなりますから、ナハトに力そのものを預けたり後は封じていたりしますけど……寿命はちゃっかり伸びているようですから、即座に死にはしないと思ってましたよ」

 

 結局、周りから魔力を供給してもらう必要があった時点で、俺の魔力量不足から祟ったことだ。幸運にも結果は望むものになったが、そもそも俺自身の力量不足といって差し支えない。

 

「お前は一体どこを目指してるんだ……あの儀式魔術を一人でやるだと? 超越者にでもなるつもりかよ……ったく」

 

「超越者かなんだか知らないけど、必要ならもっと限界を超えなさい。分かっているわね、大翔」

 

「……はい、プレシアさん」

 

「ええー? それは私もどん引きかな、ひーくん……」

 

 セラフォルーさんが頭を抱えてしまったが、守るのに必要な力が足りなかったのだから、やるべきことは決まっている。当然のように頷くプレシアさんに対して、リアスさん達も表情が引き攣っているが……まあ、それが俺と師匠たるプレシアさんの認識なわけで。

 

「大丈夫、我頑張って鍛える」

 

「うん、ありがとうオーフィス」

 

 頭を撫でるとどこか擽ったそうにしながらも、満足げに目を細めるオーフィス。俺が不安がる白音の髪を撫でるのを見て、自分にもしてみて欲しいと言われて同じようにしたら気に入った様子だ。

 姪っ子の女の子といった風貌だから俺も拒否反応が出ない相手のため、接しやすさは段違いだ。すずかの助言もあり、当面は少女の格好でいると決めたらしい。

 

「ねえイッセー。規格外というのはやっぱりどこか狂ってなければいけないんだって痛感したわ。オーフィスを娘のように扱うって、大翔ってやっぱり変よ……」

 

「ういっす……。大翔さん、さっきも迷い無く生命力を魔力に変換してましたからね……なんかネジが飛んでるというか」

 

「魔術師というのは、どこかしらイカレてる部分があるものさ。彼とは馬が合いそうだ。しばらくは色々観察させてもらうとするよ」

 

「帰れにゃ! オーフィスだけでお腹一杯だし、大翔はテロリストの協力なんてしないにゃ!」

 

「『禍の団』のことかい? オーフィスは別格としても、どうせ次元を超える転移となれば彼や彼の女以外使えないそうじゃないか。また、精神面への防御も徹底しているみたいだし、防御を崩す間に彼がすっ飛んでこれる寸法だろ。じゃあ、装置はって話なんだが、転移装置自体も彼か彼の許可を受けた者しか起動すら出来ないし、無理やり動かそうとしたら装置自体が爆発するようになってる」

 

「そりゃそうにゃ。悪用されたらたまったもんじゃないし、私達の平穏がどんどん遠くなるにゃ」

 

「つまりだな。この後強制転移でお帰り願う曹操も含めて、禍の団の連中はここに来れない。可能性があるとすれば魔術を友とする俺だが……俺は魔術の深遠を見たいんだよ、何よりね。その足がかりになる彼との友好関係を築こうと思えば、組織にはオサラバしても構わないのさ」

 

 リアスさん達は怯えの混じった表情でひそひそ何かを話していて、そこに黒歌やあのゲオルクさんが加わって話をしていた。彼は組織を抜けるからこちらの魔術を研究させてくれと俺に訴えてきている。制約をつけてもらって勿論構わないから、と。

 

「ねえ、ひーくん。本当に受け入れるつもりなの?」

 

 心配そうに話しかけてくるセラフォルーさんは『誰が』とは言わない。ただ、当然その相手はオーフィスやゲオルクという青年のことを言っている。あの曹操という人には強制的にお帰り願うので、この場合は当面の脅威から外す。

 

「ええ、そもそも実力差があり過ぎて話にもならないというか。鍛えてもらえるということですし、こっちに興味は持ってくれてるようですから話も出来ます。まずは、家族ってものを知ってもらえたらいいのかなと思ってます。まだ本人は気づいていないでしょうけど、繋がりを求めているところがありますから」

 

 あとはゲオルクだけど……アザゼルさんと似た感覚をものすごく感じるんだよ。魔法使いって言ってるから、魔術関連になるだろうけど。術式の改良を見つけてはものすごく興奮してたから、その点で幻滅されない限り彼は逆に裏切らない予感がある。

 

「あと俺も魔術馬鹿ですから。当面制約はつけますけど、結局アザゼルさんとの関係性に似かよってくると思いますけどね」

 

 既に今だって、デイウォーカーの力を持つすずかを筆頭にして、妖怪に堕天使、悪魔、神道の家系、宗教の次代指導者候補……出自がみんなバラバラなのだ。

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