体調が完全ではありませんが、週1ペースにまずは戻していければと思います。
「どうした黒歌?」
不意に顔を上げて窓の方向を向いた黒歌が何かを確認するように瞳を閉じる仕草をした後、改めて俺にくっつきながら問いかけに答えてくれる。
「汚い打ち上げ花火が上がったみたいにゃ」
「そうですね……またやらかしたんですね、あの人は」
黒歌と白音姉妹は遮音してある部屋の中でも、気の動きで外で何が起こっているのかある程度把握できるらしい。俺やすずか達も仙術を扱うようになったとはいえ意識しないと探れないのに対して、元々種族として仙術への適正が高いことから先程の儀式のように一方向に集中し過ぎていない限りは大丈夫なんだそうだ。
その黒歌や白音は俺にピタリと寄り添って離れない。仙術の力を使って失った寿命の回復を図るためだという。悲壮な表情をしながら懇願してきた二人に俺も大人しく受け入れたんだが……。
「にゃにゃにゃ~♪」
「えへへ、兄さまあったかいです……」
駒王町はまだ4月だが、次元間のズレもあり海鳴ではもう7月。夏の暑さが日を追うごとに近づいてきているが、寝室内は年中室温を一定に保つように魔道具で調整されている。確かに薄着で過ごしても、体調を崩すことはないようになってはいる。
「ひろくんの温もりを直に感じてるから、大丈夫だよ」
左腕にすずか。右腕に黒歌。仰向けの俺の上には白音。みんなネグリジェすら羽織っていない。さらに俺も寝間着の着用を禁じられていた。
「すずか、俺の心を読んでるのを前提にした会話は勘弁してくれ。いや、寒くないのかとは思ったけどな」
「ふふふ。寿命を少しでも多く回復させるために、間に布一枚挟まるだけでも良くないんだよ。本格的に寝る時には掛け毛布を羽織るわけだし」
言ってることは分からなくもない。ただ、下半身の象徴を前に話しこむ、すずか達と同じく何も着ていないアリサとフェイトの話し声を聞いていると、自分が裸であることをまざまざと意識させられるわけで。
「お兄ちゃん、疲れているはずのなのに……とっても、元気だよね?」
「疲れマラという奴よね。生命活動に危機を察知すると、生殖器の活動が活発になって自分が死ぬ前に子孫を残そうとする本能……だったかしら。ふふ、ぴくぴくして可愛いと思うようになってる辺り、アタシもたいがいだけど」
「そ、そうなんだ……子供を残そうとする、本能……」
「でも、これって迷信らしいわ。だから、疲れさせたら子供が宿しやすくなるわけでもないのよ」
「……えっ」
想像力が豊かな所があるフェイトはなにやら怪しげな方向に思考を飛ばしかけたようだけど、アリサのツッコミですぐに現実に引き戻されている。
「メカニズムとして、疲れた脳を覚醒させるための神経伝達物質が血圧を上げることで、こちらにも血液が流れ込んでしまって強制的に元気になってしまうってわけ。だから、身体には結局イイことじゃないのよ」
「そ、そっか」
「だから疲れさせたらいいって訳じゃないからね、フェイト。それとカリムも」
「はっ、はい! 肝に銘じますね!」
既に眠りに入った体で聞き耳を立てていたカリムもがばっと身を起こしてしっかり言葉を返す。ああ、あれだけ大騒ぎしていたのに、寝室の俺達はなんていつも通りなのか。
『大翔さん──末永く、あなたのお傍に……』
『いつも通り』に一つだけ足りないピース。朱乃の微笑みが、声が、潤んだ瞳が……目を閉じればハッキリと思い浮かべることが出来る。一心に俺に愛情を向けてくれる彼女は、今日は家族水入らずの一晩を過ごしているはずだ。
ただ、危うかった。俺の力が足りなかったことから儀式魔法を皆に協力してもらった結果、一時崩壊の危機に陥った。オーフィスが、ゲオルク達が俺達を害する意思がなかったとしても、儀式参加者の集中力が乱れたことにより、朱璃さんの魂が失われかねないところだった。あるいは、俺が命を落としていたのかもしれない。
俺が今、命を落とせば俺自身は勝手な満足感の中で逝くのかもしれないけど……自惚れであって欲しいと思いながらも、一つ確信できることがある。
「……ひろくん、本当に無事で、良かった……」
「ああ、すずか達を置いて先に逝くもんか」
──月村すずかという人は生きながらの死人となるか、あるいは俺と同じく現世の住人では無くなるということ。多分に後者の選択を選びかねないということも。すずかだけじゃない、朱乃や白音からも同じ傾向が感じられる。『文字通り』俺と共に生き共に死すのが当たり前なんだと。
彼女達の想いに安心こそすれ重たさは感じず喜びすら覚える俺だが、どれだけみっともなくても必ず生き抜く覚悟がいると痛感する。だから、絶対に──もっと俺は力をつける。
「ねえ、なんで我だけパジャマを着てる?」
「ひーちゃんの彼女にならないとこの部屋では裸になっちゃ駄目って決まりなの。ひーちゃんの子供をいつでも孕んでよくて、ひーちゃんに愛されてる女の子じゃないとね」
「つがいじゃないと駄目?」
「そういうこと~♪」
俺に囚われ過ぎず、絶妙な距離感を保ってくれる存在としてはアリサ以外に紗月やアリシアがそうなんだけど、フェイトや他の子に淫語を仕込むのはそろそろ止めようよ。え? 身体は正直だからやめない?
「そもそも、私達はひーちゃん以外の男性に誘惑なんてしないんだから、健気な努力と言って頂きたいですなぁ。ひーちゃん以外には塩対応か役人対応しかしないんだから」
したり顔で言う紗月だけど、一誠や元士郎、祐斗を弄る時の言動はどうみても塩対応じゃないんだよな……。玩具扱いというか。
『だって紗月からしたら、ただのガキンチョだもん。異性として認められてないもんね』
アリシアへの秘匿性念話で聞いてみればなかなか手厳しい答えが返ってきたため、自分自身惚れられるにもっと相応しい男にならなければと改めて自覚するのだった。
◇◇◇◇
「もういやぁイッセー、空知の周りが人外魔境すぎるわ……なんでオーフィスを普通に受け入れてるのよ……
「ぶ、部長……」
抱きついてくる部長のおっぱいの柔かさは今日も最高だ! 寝る時は全裸主義の部長の乳首が俺の脇下や腕をツンツンしてきて、思わずポチっと押したくなる衝動に駆られる……!
寂しいからと俺を抱き枕にさせろとやってきた部長だけど、朱乃さんや小猫ちゃんがドンドン離れていく感じがして仕方ないらしい。そこに今回の龍神さまの騒動だから気が滅入ってしまってる。セラフォルーさまはどうにも大翔さんの肩を持つし、部長が可哀想だと思ってたんだ。
そういや、祐斗の奴は気を利かせて部屋から出て行ってくれたみたいだな。俺とアイツに貸し出された寝室だったけど、一人寝が嫌だと言う部長がやってきたからな。ぐへへへへ……掛け毛布で直接見えないとはいえ、感触が楽しめるから、俺からすれば部長の眷属は最高だぜ!
「だ、大丈夫っすよ部長。部長は俺が守りますからっ! この籠手の中の奴もヴァーリって奴に触発されて目覚めたようですし」
『はぁ……今代の宿主よ。そんな悠長なことを言ってる場合ではないぞ。オーフィスがあの男の隣にいるということは、奴自身がさらなる力を呼び寄せることにもなりかねんのだ。龍は力と女を呼び寄せる。オーフィスの守護を得たということは龍を身につけたのに等しい』
「なるほど! 大翔さんのハーレムが増えて、俺もハーレムが近づくと!」
「もう、イッセーったら。今は私が横にいるのに、そんなことを言うのね?」
「うぇっ!? だ、大丈夫っすよ部長! 部長はナンバーワンですから!」
『白いのが切っ掛けで目覚めたものの、宿主が煩悩まみれとは……』
「なんだよドライグ、男ならおっぱいは最高だろ! ああ、もう割れた大胸筋はみたくない……マッチョな朱乃さんとか小猫ちゃんなんて需要無いんだぞ……」
大翔さん自身は鼻につく感じも受けないし、俺も話しやすいんだけど……周りの女性陣が怖いんだよ。俺が女性の敵だと団結してるし、生徒会の面々もマッチョになる暗示を叩き込まれてしまってさ……。
「よしよし、イッセー。トラウマを刺激されたのね。ふふっ、私のおっぱいに埋もれて癒されなさいな──」
ぶ、部長! ずっとついていきます! ああ、こんな柔らかくていい匂いなんだ……! 俺はこの人を、この貴重なおっぱいを絶対に守り抜くんだ!
『白いの、血沸き踊る戦いは出来ないかもしれん……人の話を都合のいい部分だけ聞くからかな……』
◇◇◇◇
「木場、大丈夫か」
「ごめん、匙くん。流石にあの部屋にはいられなくて……」
明日に備えてそろそろ休もうかと、眷属での話し合いを終え宛がわれている寝室に戻ろうとした俺はしょんぼりしている様子で廊下を歩く木場の奴を捕まえた。
部屋に引き込んで事情を聞けば、恋人未満先輩後輩以上の乳繰り合いを見せつけられて、居た堪れなくなって部屋から出てきてしまったという。なに盛ってんだあの二人は……。
「はい、木場くん。カモミールのハーブティーを淹れたわ。心が落ち着く作用があると言われているの。朱乃みたいにはいかないけど、どうぞ?」
「すいません、真羅先輩まで。もう休むところだったというのに」
会長の指示でこっちには副会長がついてくれている。その会長の傍には翼紗や花戒、草下達、さらにセラフォルー様がいる。こっちはこっちでそれぞれ単騎で逃げに徹すれば何とかなる奴ばかりだし、何よりここは大翔さんやすずかさんの封時結界の中。何かあればすぐにあの人たちが駆けつけてくる確信もある。まあ、あの曹操やゲオルクが何かしようとしても、あの無限の龍神が大翔さんに明確についた以上、下手な手は打てないだろうが。
「グレモリー先輩も不安定なんだろうけどな。姫島先輩や塔城さんを完全に取られたと思ってるだろうし」
「あの人を慕うのとグレモリーさんの眷属を続けるのは全く別問題なんですけどね。大翔さんは今までの関係を断ち切れと仰る方ではありませんから」
現に大翔さんを慕ってる副会長があの人の女に加わるので眷属辞めますとなると、会長や俺達は相当な痛手になってしまう。戦力的な話だけじゃない、副会長はいまや俺達の精神的支柱になりつつある。本気の想いは、この人の急成長を促したのだ。女の感情ってものの恐ろしさと眩しさを同時に知ってちょっと戦慄したのは内緒だな。
乱戦となっても物ともしない長刀捌きや体捌きを身につけて、接近戦でこっちの攻撃に反射機能がある『追憶の鏡』を合わせる位に神器の扱いにも慣れてきている。
五大宗家である真羅家の一族の力を目覚めさせたことで金属や鉱物に対しての有効な攻撃が出来るようになってるから、武器破壊も可能らしい。得物持ちには相性抜群ってわけだ。長刀で武器を狙うだけでなく、大翔さんの提案と指導により無属性の攻撃魔法に武器強度の弱体化性質を付与したりとか……。副会長の成長次第ではあの神滅具の聖槍にも通じるのかもしれない。
恋する乙女って最強っていうが、大翔さんは熱心に教えを請う副会長に真面目に答えて魔改造しちゃったんだな。もちろん強さだけじゃなくて、毎日接していても日々すげぇ綺麗になっていってるし……実は姫島先輩の影に隠れつつも、副会長の魅力増し増しぶりってのは学校でもちょっとしたミステリーになってる。
パジャマ姿でも胸部の主張は圧倒的だ。姫島先輩や黒歌にも全く劣らない一品。ま、兵藤みたいなガン見はしないけどな。ただ、視界に入るだけでも強烈なもんがある。意外に木場もムッツリだよな。落ち着きを取り戻したらチラ見してたし。……姫島先輩とかに言わせると絶対に気づくもんらしい。男の子の習性だから目が行くのは仕方ないものの、兵藤みたいな露骨なやり方は嫌悪感を覚えてしまうってな。
『桃や憐耶の前では厳禁よ、分かってるとは思うけど』
しっかり釘を刺された俺は木場との会話にもう一度向き直る。そうなんだよな……最近花戒や草下が兵藤だけじゃなくて、俺に対しても性的な感覚にすごく厳しい。そんな様子に翼紗がちょっかいをかけてきて、俺をわざと抱き寄せたりすると……俺が酷い目に遭うんだよな、理不尽だ。
「部長も頭では分かってるんだろうけど、実際朱乃先輩や小猫ちゃんがあれだけ大翔さんにベッタリだと離れていく不安が消えないんだろうね」
「まあなあ……会長みたいにどっしり構えられるかっていうと、なかなか難しいよな。実際にはさ」
グレモリー先輩は良くも悪くも感情を素直に表に出す性格だから、いらぬ本音は隠してなんぼの会長とは正反対ではある。だからそういう不安を姫島先輩達だけじゃなく、祐斗やイッセーの奴にまで気づかれてるんだが。
「こればっかりはね。大翔さんの立ち位置は眷属の王に似ている。部長はどうしても自分と比べてしまうんだろうけど……」
「『王』としての自信かぁ。グレモリー部長が自分なりの『王』のありかたを見つけるまでは、大翔さんの影に怯えざるを得ないのかもな……」
王としてのあり方、自分なりのリーダー像みたいなもんだと俺は解釈してるが。大翔さんや会長は自分なりに『こうありたい』『こうあろう』という形をしっかり持っているのに対して、グレモリー先輩はあやふやなところがあるんだろう。
ぼんやりとした理想はあっても自分の中で形にはなっていない。俺らぐらいの年じゃそれも仕方無いと思う。俺だって大翔さんと会ってなければそんなことを考えることも無かっただろう。ただ、あの人は大翔さんや会長を見て焦りを覚えざるを得なかった。でも答えなんてそんな簡単に見つかるわけもないし……俺だって分からないから。
ハッキリしてるのは大翔さんや会長や副会長、花戒達に誇れる自分でいたい。そんなところかな。
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