この物語のヒロイン(?)である、リリカルな白い魔王の世界に転生した少年は、
闇の書事件の後は管理局とは出来る限り接触せずをポリシーに、海鳴の地ですずかやアリサの付き人をしながら過ごしていた。
だが、深窓(?)の令嬢達を立派な魔導師や騎士に魔改造してしまうような少年を
マッドなドクターは放っておくわけもなく、彼からの過干渉の結果、
気まぐれに異次元へ強制転移する生体実験の被験者ともなっていた。
無駄に優秀なドクターのため、転移前と転移後の時間経過は僅かなものとなっており、
一年あまりの大冒険が、海鳴では一日病に臥せっていた扱いになっているなど、なかなかにカオスな調整も効いていた。
そんな強制転移が不定期に繰り返される日々に対して、次元転移のプロとなってしまった頃、またもや少年、いや青年は悪魔や堕天使、妖怪、天使が実際に具現化している世界へと送り込まれる。
そんな彼や彼を囲う女性達が自重をわりと投げ捨てた結果、
ヒロインを狙う女性達が増え、契りを交わす者も増える中、悪魔や堕天使のみならず、伝説のドラゴンとご対面した上、ご執心されることになってしまっていた。
契りを交わした美しい黒髪の娘の家族の魂を実体化するという儀式魔法を成功させたことにより、疲労の極地にあるヒロインはパートナー達に(物理的に)ガードされる中、一晩の休息を得たところであった。
私も自分で随分と変わったものだと思う。美男子の木場くんは以前の私には気になる年下の男の子だったけれど、今こうして彼と話していても心がざわめくことはない。
桃や憐耶にしても同じかもしれない。私の見た限りではあるけれど、木場くんへの憧れがそのまま恋に変わることもなく、目の前で彼と話している匙くんの真っ直ぐさやひたむきさに心惹かれつつあるのが分かる。匙くんに置いていかれまいと懸命に訓練に励み、共に過ごす時間の濃密さがそのまま慕情を積み重ねていくみたいに。
「ある種の『覚悟』が必要なのかもしれませんね。大翔さんや会長を見ていると、そう感じるのです」
私も匙くんもいい目をするようになった、と会長は仰います。自分も負けていられないとも。
「すずかさんに指摘されたこともあります。他人に厳しさを求めるなら、自分が自分自身に何より厳しくないといけないと」
大翔さんも会長も自分に甘えを許さない方。また、すずかさんも大翔さんに甘えるだけの女は不要だからと、自分を鍛え上げ磨きあげることに妥協を許しません。
自分にどこか甘い部分があった私はそこを指摘され、大翔さんのパートナーを目指すのであれば甘えるだけの女にはならないでと警告されたのです。
「自分の性質はそんな簡単に変えられるものではないから、常に意識して自分を甘やかさない『決意』を持ち続けるのだと私も自分に言い聞かせています。それをさらに徹底しているのが大翔さんや会長ではないかと」
「……副会長の言う通り、ストイックだよね。あの二人は」
「生き急いでる感もすごいけどな……。なんつーか、気を抜く時間も真剣に気を抜こうとしているというか」
「それってリラックスしてるとは言わないんじゃ……」
感覚共有で知ったことですが、大翔さんは欲望を赤裸々にするはずの夜の営みでも相手を心身ともに悦楽で満たす方向に全力です。深く考え過ぎずに楽しむだけのひとときでもいいはずなのに。ですから、自分の甘えた気質を律することが出来ないと私はおそらく大変なことになって……。
『椿姫も本当に淫乱になっちゃったね。オープンブラとショーツが当たり前になって、制服の上からでも乳首が硬く勃起してるのが分かるよ?』
『はい……いつでも、私は大翔さんに犯されたい……節操なし、なんです……』
意識のある間はずっと下腹部の熱と疼きが収まらず、太ももまで下の口の涎が垂れてしまうのも日常と化して。並列思考のお陰で辛うじて生活は送れるものの、強く発情してしまえば思考全てが大翔さんと大翔さんの逞しい下半身のことしか考えられなくなるんです。
『こうして制服のままで、生徒会室で俺に貫かれるのが毎日の習慣になってる椿姫。いま思考の全てがセックスのことだけ考えてるから、感覚も何倍にもなってて軽く動くだけですぐに飛んじゃうんだよね?』
大翔さんの言う通りほとんどイキっぱなしになってる私はまともな返事も出来ずに、何とか大翔さんにしがみついて止まらないアクメの波に完全に翻弄されたまま、自分の中にお迎えしている大翔さんのソレを無意識に子宮の入口に押し付けるように……!
「……く会長~? 副会長~? あ、駄目だこれ。妄想に完全に入って帰ってこない奴だわ」
「表情が崩れきってないのが何というか……」
「顔が緩んでいるとからかい半分に会長に言われたことがあったんだとさ。それから表情筋の引き締めを行うようにしたって言うんだが、努力の方向がずれてるんだよなぁ……何を想像してるのか顔は真っ赤だし」
匙くん達が声かけしてくれているのにも気付かず暫し夢の世界に浸っていた私は、我に返るとお休みの挨拶もそこそこに匙くん達の部屋を後にするのでした。
ある程度木場くんも落ち着きを取り戻していましたし、あとは匙くんに任せて大丈夫でしょう。
「寝る前に下着を変えないと……やってしまいましたね」
実際に抱かれたこともないのにこんな状態になる私。夜の大翔さんに溺れきらずにいることが出来るのかしら。……ううん、その前に。
「ちゃんと、想いを伝えないと……空想だけ先走ってどうするのよ、私」
セラフォルー様やソーナお嬢様が本腰を入れる前に……そうじゃないと……。
「見向きもしてもらえなくなる……」
呟いた一人言に私はすぐに頭を左右に振り、その考えを振り払います。だって、大翔さんですもの。
「ふふ、変な感じ。でもそう思わせてくれるのがあの人だわ」
すずかさんやアリシアさん、アリサさんは別格としても、それでも不満を感じさせることの無いように恋人達全員に時間や愛情を惜しみ無く注ぐ人だから。
「朱乃も言ってたものね。自分との時間が彼にとっても何かしらプラスになる時間にしてあげたいし、そうするために色々考えてるって……」
むしろ負担がかかり過ぎて疲労で倒れそうな未来のほうが簡単に想像できるというか。
「一緒にいる時間が癒しに繋がるように……となれば、求め過ぎるのは論外だから。うん、それに私自身、きっと」
想像してみる。大翔さんと寄り添ったまま、彼は自分の魔術やデバイス研究をして、私は夕御飯の献立を考えたり大翔さんの研究資料の整理をしつつ、読書に耽る時間。
「……よし、頑張ろう」
私はその場面を幸せな時間だと自然に思えていた。なら……さあ、進もう。真羅椿姫。もう燻っている場合じゃないのだから。
◇◇◇◇
目覚ましを特に鳴らさなくとも、習慣となっている普段通りの起床時間に私は目を覚まし、朝の身だしなみを整えトレーニングウェアに身を通す。本来悪魔は種族的に朝が苦手なものではあるけれど、大翔さん達と共に日々鍛えることで弱点を克服できる程度の強さが身についたことや、普段は近くで感じられるはずの彼の匂いや温もりがないことに違和感を感じたところもあるのだと思う。
「朱乃とこうして並んで鏡の前に座る日が来るなんて……なんだか不思議な感じ。でも、ちゃんと現実なのよね」
「ええ、お母様」
二人並んで笑い合える時間が再びこうしてここにある。お母様も私も人の枠を完全に外れてしまったけれど、私達母娘の関係が変わるわけもなくて。
「髪や肌の手入れも一切手を抜いていないようだし、うふふ。私も負けていられないわね」
「お母様はこれまでもこれからも、私の憧れで自慢のお母様ですわ」
「ありがとう、朱乃。さて、近い未来の息子くんのために久し振りに腕を奮わないと。プレシアさんも手伝ってくれるそうだけど、大人数の朝食の用意なんてなかなか経験がないものだし……」
昨晩のうちにお母様は今日の朝食づくりの役目まで手を回していたみたい。私達はあのオーフィスを交えた初朝練ということでそちらに集中するようにしてくれていた。
「……お母様、ありがとうございます」
「うふふ、母親らしいことがやっと出来るのだもの。こちらこそ『ありがとう』よ」
二人の会話に寝た振りをして聞き耳を立てていたお父様にも声をかけて、かの龍神が加わる朝練の間の結界維持の力添えをお願いしつつ……準備を終えた私は大翔さん達と合流しました。
「おはよう、朱乃」
「おはようございます、大翔さん」
少し遅れたけれど、お父様の視線が外れた隙に互いのおでこに朝の口づけを贈り合う。私がいなくて寂しかったか冗談半分で問いかけてみれば、真顔で朱乃が近くにいない夜は自分の一部が欠けたような感覚だったと返されて私のほうが赤面してしまって。
「……そんな言葉、急に言うなんて不意打ち過ぎます」
オーフィスに発熱かと問われるほどに私はものすごく真っ赤になってしまっていたのです。
「くっ、訓練を始めましょうっ!」
「これは貴重な朱乃の恥じらい顔が見れたわっ! ふふふ……しばらくは楽しめそう……」
ああ、そうだった。貴女も朝練だからこの場にいたのよね、リアス。そうね、こういう出来事があったら調子良くしばらく弄り続けてくる性格だったわね。気安い私相手だからこそではあるけれど、大翔さんとのやり取りをネタにされるのは……我慢ならないのよ!
「いい機会だわ。記憶ごと消し炭にしてあげるわ、リアス!」
必中のつもりで放った攻撃なのに悪運の強いこと……っ! イッセーくんを避雷針にして咄嗟に難を逃れるなんて!
「イッセーくん!? しっかり、しっかりするんだイッセーくん!」
「ナイス、おっぱ、い……!」
世迷い言を呟きながら崩れ落ちる彼を木場くんが支える中、私は即座にリアスへ向けて雷光を立て続けに放つ!
「墜ちなさい、リアス!」
「イッセー、貴方の犠牲は忘れないわ……! さて、朱乃、貴女の力は私の滅びの力で相殺できるのを忘れたのっ?」
「その滅びの力が短期間で強まったのも大翔さんのお陰でしょうにっ! ならば雷に光力だけでなく、気の力を合わせた姫島の炎もまとめて喰らわせて差し上げますわっ!」
ちょうどいい機会よ。その性根ごと浄化してあげるわ、リアス!
◇◇◇◇
「色んな力を、交ぜ合わせて力を増してる。朱乃、結構器用」
我から見れば小細工の範疇、弱い者同士の喧嘩だ。ただ人型同士の戦いなら、10と100ぐらいの差は出てくるだろう。
「あれは反復練習の成果にゃ。毎日繰り返してきたから、出力もスムーズになってるにゃあ」
「仙術は元々の素養がないとなかなか身に付かないと聞いたことがあるが……彼が手を打ったのかな?」
「ええ、だいたい兄さまのせいですね」
「才能なしと素養ありの差はでかいさ。才能の芽を与えられるって辺りが大翔のヤバいところだな。ただ、成長速度という点じゃアイツの女かそうじゃないかで一気に差が出るが」
「アザゼル。つまりそれは俺も性転換すればさらに強くなれる可能性が……?」
「ちっ、血迷うな白龍皇!」
「おっ、性転換の魔術か? 準備や色々レア素材の用意が必要だが出来なくはないぞ」
「火種を投げ込むな、ゲオルク! ニヤケ顔をしてお前は面白がっているだけだろう!」
こんな収拾のつかない状況を「かおす」というのだと、昨日アリシアが教えてくれた。でも、何だろう。この賑やかさは悪くない。静寂な世界を実際に味わったことで、我自身変わったのかもしれない。
「いつも騒いでばっかりだと疲れるけど、こういうのがあるからこそ静かな夜が愛おしくなるというか。ひーちゃんに寄り添って眠る前の静かな微睡みがすごく幸せに思えるんだよ」
「我、静寂を望むことに変わりはない。ただ、静寂だけでは退屈するのも分かった。大翔は喧騒も静寂も我が望むようにもたらすことが出来る。だからすごく貴重」
強さ以外で我が惹かれるものを持つ大翔。我から分かたれた蛇も鱗を一枚ずつ剥がしては大翔に渡して、少しずつ我の力を馴染ませようとしている。その度に蛇はすぐに回復の魔術を施してもらっていた。その様子を見るたびに、我はなんだか不快な気分になっていた。我の一部が狙い通りに大翔に取り込まれるわけだし不快になる原因は無いのに、我自身にも良く分からない。
その大翔が動こうとしているのを見て、我は隣へと近づく。大翔の隣にはすずかがたいてい付いているから、片側しか空いてないことが殆どだ。
「ん。どうした、オーフィス?」
大翔の手が我の頭をそっと撫でる。なぜだろう、我は自然に目を細めて大翔の手にされるがままになっていた。大翔の手は我を無抵抗にしようとする。恐ろしい手と思うべきなのに、我は居心地のよさを感じている?
「さて。このままじゃ朝練が始められないし、せっかくこうしてオーフィスが稽古をつけてくれるっていうんだ。そろそろ止めるかな……黒歌、白音」
「はいにゃ」
「どうします、兄さま」
「すずかと一緒にあの二人の魔力の流れを乱すから、あとは気の動きを遮って無力化してくれ」
「じゃあ私がグレモリーのお嬢様を殺るにゃ」
「黒歌姉さま、イントネーションがおかしいです。じゃあ私が朱乃先輩を」
「出力の調整はこちらで全部やるから、ひろくんは思いきり干渉しちゃって。速度重視で大丈夫」
「三人とも頼む。……始めようか」
大翔やすずかの魔術発動はゲオルクが感心するぐらいには早いらしい。あっという間に二人の魔力は自由にならなくなったあげく尻すぼみになって、猫又姉妹に触れられただけで動けなくなっていた。
「なんで黒歌は私の関節を極めてるのよっ! いっ、いだだだだっ!」
「グレモリー、女が出しちゃいけない声が出てるにゃ。私は大翔に無力化するように言われたのを忠実に実行してるだけにゃ~♪」
「小猫ちゃん、離してくださいっ。ここでリアスには思い知ってもらわないと……っ!」
「光力に仙術や姫島家の神道の力も加えた朱乃先輩の攻撃は、悪魔である限り部長といえど直撃すれば再起不能に成りかねません。……先輩は兄さまの手を煩わせたいのですか?」
猫又姉妹の耳や尻尾の出し入れはお手のものらしい。仙術を使う時はもちろん出している。ふさふさふわふわ。あの感触は癖になる。静寂な世界にも持ち込みたい。そういえば大翔も出せると聞いた。稽古の相手の代償に求めるのもいいかもしれない。
「わっ、私の髪がっ!」
「直撃したって朱乃の攻撃はなんてことないって言うから、同じ力を髪の毛に当ててみただけにゃ。光力混じりの雷に仙術、邪なものを滅するという姫島の炎。大翔の女である私も朱乃の力は使えるのよ? そろそろ大法螺吹くのも大概にするにゃ」
「髪の傷んでる部分で試すってそういう意味だったのね……うう、灰すら残らないなんて」
「五大宗家の力は悪魔だけへの特効ってわけじゃにゃいけどね。古来からの討伐対象としては私みたいな妖怪が多かっただろうしにゃ」
「それでも光力と合わせたら洒落にならないのは……よく分かったわよ」
「ま、ここだけ髪が短いのもアレだし、少し揃えてやるにゃ。あ、首が飛ぶから動いちゃ駄目にゃ」
「……ねえ、やけに慣れてない?」
「一人の逃亡生活だと髪の長さを整えるのも自分でやるしかなかったからにゃ~。今は大翔やすずかがやってくれるからいいんだけどね」
……紅い髪の女が余計なこと言ったから、髪が少し短くなった。黒歌も光力や雷、炎の魔術が使えるようになっている。……不思議、大翔を仲介すれば互いが互いの力を使える。
「我がもし大翔と交われば、大翔は我と同じ無限の存在になる……?」
我の呟きにすずかが少し困った顔をしながら我のおでこをそっと指で押してくる。
「そういうこと簡単に言っちゃ駄目だよ、オーフィスちゃん。……確かにオーフィスちゃんの力はすごいよ。私達が束になっても全く相手にならないぐらいに。だけど、そのためだけにひろくんが貴女と交わろうとはしない。だって、それじゃオーフィスちゃんから奪うだけになってしまうから」
「我、よく分からない。我は奪われても無限。尽きることはない」
「これから一緒に過ごす中でゆっくり分かってくれたらいいかな。ひろくんはいきなりオーフィスちゃんの力をもらっても逆に困っちゃう理由、きっと見えてくるから」
すずかの言うように我はしばらくの間大翔たちと過ごす。確かに今分からないからと焦ることはない。
「はっ! 部長のおっぱいの危機!?」
「復活がやけに早いと思えば、目覚めて一発目の台詞がそれですか。変態先輩、やっぱりサイテーです」
「ぐはぁ!」
わりと復活の早い赤龍帝だけど、あの銀髪の猫又の一言でまた口から血を吐いて突っ伏した。まるでゾンビ……ドラゴンゾンビ?
『やめろぉオーフィス! そんな目で俺を見るなぁ! ぐぉぉぉぉおん!』
ドライグ、いつから泣き虫になった? 我が知らない間に世界は不思議なことになっていたのかもしれない。
長らく臥せっておりましたが、復帰いたします。
実はこの話、別視点でもっとぶっ飛んだ構成になっていたのですが、
「なにやってんだおれ」と我に返り、更新に至っております。
気が弱ると作者すら置いてけぼりにする展開が始まりそうになるのだと
恐怖を感じた今日この頃です。
今後ともお願い致します。
更新ペースは週1がやっとだとは思いますが……。
※削った文章は2,3話先で生かせないかなと、まだ残して修正を試みております。