※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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ストックがつきそう。
ストックが尽きたら、不定期更新に移行です。


第7話 宣誓

 「ごめんなさい、熱く語り過ぎたわ。節操無いけど、アタシも一日以上離れていて、そろそろ抑えが利かない、のよね。……悪いけど、結界内にもう一段防音壁を張るから、あっちの部屋、貸切にさせてもらっていいかしら」

 

「え、ええ……」

 

「ありがとう。ま、アタシ達の方が、色んな意味で大翔を手放せないのよ……」

 

 同性の私が見惚れる程に、情欲に身を任せようとするアリサさんはとても扇情的で、すずかさんも含めて、ここまで虜にしている大翔さん。

 美女に分類されるアリサさんとすずかさん、美女というよりは美少女寄りのアリシアさん。イッセーくんが知れば激しく反応するでしょうけど、一人ひとりと強い絆を築き上げているからこその関係でしょうし、本当にこの人達に加わりたいと思うのなら、今までの虚構の私は、完全に捨て去る必要があるでしょう。

 

「……まずは、すずかさんにも許可と言いますか、宣言をしなければなりませんしね」

 

 すずかさんやアリサさんの領域まで想いを重ねた果てに、もし大翔さんを喪えば、心の調和を崩し自我を失うかもしれない。けれど、自分が心から慕い、想い、愛情を捧げる人を失った後に、生きる意味はあるのでしょうか。

 こういう考え方をする辺り、本当の私は重たい女。けれど、この人ならばきっと受け容れてくれる。だから、私も全力で支えてあげたいと思える、そんな予感がするのです。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 「朱乃さん、だっけ。すずか、でいいよ。貴女は私に似てるね」

 

 結界内での翌日、頭を下げつつも大翔さんへの想いを告げた私に、すずかさんはあっさりと挑戦権の許可をくれました。

 何せ彼女ばかりか、朝からアリサさんも上機嫌で、大翔さんが少しばかりやつれた様子ですから、つまりはそういうことなのです。しかし、雌豹となった女二人を満足させられる辺り、大翔さんは相当にお強いご様子。思わず、身震いしてしまいそうです。

 

「……よろしいの、ですか?」

 

「諦めろ、と言ってそう簡単に引く性格じゃないよね、朱乃さんは。それに、軽い気持ちなら即座に記憶を削ぎ落とすけど、本気でしょ?」

 

 顔を上げて、すずかさんを真っ直ぐに見つめて、私は短く肯定します。

 

「……はい」

 

「うん。ひろくんに、絶対に振り向かせてみせると宣言した、昔の私の目にそっくり。だけど……分からないのは、どこに惹かれたのかなって。私にとっては、ひろくんの外見内面全てが自分の嗜好と合致するけど、一般的な価値観からは外れていると認識してるから」

 

 一般的なハンサムと言われる類の男性を見ても、造形が整っているとは思っても、魅力を感じないのだ、とすずかさんは言います。実家関連の付き合いで、美術展や音楽発表会に出席しても、周りの評価と自分の評価が噛み合わないことが多く、当たり触りの無い言動に終始するのだ、と苦笑いで話してくれました。

 なお、アリサさんはこの辺りのバランス取りは上手なため、一緒に出席できる時はアリサさんに歩調を合わせられるので、幾分楽なのだ、とも。

 

「ひろくんは飛び抜けて美形でもないし、不細工でもない。強いて言うなら、目力に強い意志を感じさせるぐらい。社交場に必要な振る舞いも身につけているから、所作は洗練されているといった感じだと思うよ。同世代の女の子が心惹かれるタイプじゃないのは、確かだよね。まぁ、私やアリサちゃん達でそう仕立て上げた部分は強いけど」

 

「見る人が見れば分かる、そういう相手。女性側にも見る力が求められる……」

 

 一つ頷くことで、すずかさんは私の言葉を肯定し、自慢の婚約者なのだと、嬉しそうに笑っている。

 

「内面は同世代の男の子じゃ相手にならないと思ってるもん。修羅場もたくさん潜ってきているし、大きな家同士のどろどろしたやり取りも分かってる。それでも、自分の本質は見失わないでいてくれる」

 

 大翔さんのことを語るすずかさんは瞳を輝かせて、止めることなく言葉を走らせていきます。こちらもしっかり構えていないとすぐに飲み込むような勢いで。

 

「そうなるようにサポートしてきたし、一緒にいられるためにと、ひろくんもそういう大きな家のルールや立ち振る舞いを身につけるために、頑張り続けてくれたから。今では、そういう交流の場に出ると、他の家のお嬢様とかから羨ましく見られるようにもなってきて、ちょっと鼻が高いんだ、えへへ」

 

 例えばの話として、転生悪魔となったイッセーくんが、リアスの元で急成長を果たし、数年後に上級悪魔として冥界で一目置かれる存在になっている──といった感じでしょうか。

 こういったサクセスストーリーはあり得ない話ではありませんが、可能性が非常に低いからこそ、語り草になるものです。

 

「……仮にね。ひろくんの魅力の一端を見通せたとしても、さらに私達で選別してるの。財力だけに惹かれたり、ひろくんを利用するのが目的なら、容赦なく排除させてもらってるから」

 

 一瞬、言葉を切り、表情を冷たいものに変えて、低く強い声色で、すずかさんは私を真っ直ぐに見据えました。ここで怯むならばそれまでのことだと。

 

「大丈夫です」

 

 ええ、大翔さんの魅力を全てとは言えませんが、私はちゃんとつかめていると思っていますから、堂々と答えるのみです。

 

「大翔さんの経験や努力の成果が、あの複雑でかつ奥深く、また大きな安らぎと安心感を感じる、濃厚な魔力として現れている……だから、私は惹かれたのです、大翔さんに」

 

「あ、そうか。朱乃さんはひろくんの魔力を吸って……そこから本質をつかんじゃったんだね」

 

「そんな感じですわ……。ですから、他の者には、特に女性悪魔には絶対に吸わせるわけにはいきません。大翔さんの争奪戦が起きかねませんから」

 

「それって危険だよね。……よし、すぐに連れて帰るね。朱乃さん、さようなら」

 

 わざとらしく立ち上がるすずかさんですが、ある程度は本気なのでしょう。私も少し大げさに、すぐにすずかさんを押し留めるように動きます。

 

「私がさせませんから、そんなすぐになどと仰らないでくださいな?」

 

「……朱乃さんは悪魔界で五本の指に入るとか、そういうことはないでしょう?」

 

「大翔さん達を匿える位の力は持っていますからっ」

 

 この辺りは、リアスの実家であるグレモリー家の力も含めますが、そういうコネクションの力も含め、駒王町に限れば匿うのは十分に可能です。

 

「それでも弱肉強食の世界のようだし、朱乃さん自身もひろくんの背中を預けられるぐらいには、短期間で強くなってもらう必要はあるよ。強さも含めて、ひろくんだけでなく、私やアリサちゃん達も納得させて」

 

「承知していますわ。支えるということは、足手まといにならないのが前提ですから」

 

「……じゃあ、少しぐらいは待ってあげる。私も鍛えてあげるね。これぐらい出来るようになってくれたら、言うことないんだけど」

 

「え?」

 

 片腕で意図も簡単に私を抱え上げるすずかさんの腕力に、またもや驚かされた私は、すずかさんの背景を聞き、さらに絶句することになりました。

 あ、その背景については、悪魔として契約を結ぶことで、口外しないことを誓約しましたので、リアスにすら話すことは一切できません。契約成立時に発動した魔力の動きで、すずかさんも強い呪いの力が働いたことを察知したことで、納得を頂けたようです。

 

 すずかさんは、特殊変異によってデイウォーカーに似た力を得た一族。外見は二十歳前後の容姿をずっと保つことが出来て、寿命は長い人で千年の時を生きると言います。種族はあくまで人間のため、純粋なヴァンパイアに比べれば能力は落ちるけれど、魅了を代表とする精神への干渉や優れた身体能力を持ち、人数は非常に限られるものの、眷属を作ることも出来るとか。

 十字架も平気だし、聖水も大丈夫というから、能力をある程度制限することで、弱点を克服したと捉えるなら、ギャスパーくんとは違う意味で恐ろしい力を持つ一族と言えます。

 

「大翔さんはそんなすずかさんの全てを受け入れたんですね。だから、この世界に来る前から寿命は既に人の枠を超えていた、と」

 

「ひろくんのレアスキルで、私の一族の特性も全て受け入れてもらって、アリサちゃん達も魔力を通じて、特性を譲渡されたの。ひろくんが私と同じ長い時を生きると決めたら、他の二人も迷いなく決めたんだもの」

 

 すずかさんの背中に広がる二対の、黒い堕天使の羽と、蝙蝠のような悪魔の翼。昨晩、三人とも大翔さんから話を聞いて、迷いなく受け入れたのだと聞かされました。

 

「ひろくんが私の長い人生を孤独になどさせないと、私の血を受け入れてくれた。今度は逆の立場になっただけのことだよ。ひろくんが万年を生きるなら、私もアリサちゃん達もそうするだけ。むしろ、私はひろくんと永遠に近い時を一緒にいられる、って内心喜んじゃってるかな」

 

 覚悟を持って、という感覚なのは他の二人には内緒だからね、とすずかさんは唇に指を当てて内緒だと呟きましたが、その仕草は私から見てもとても愛らしく見えるものでした。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 そこからは結界内で約二週間弱。外の時間帯で言えば、ちょうど翌朝まで。結界内の時間調整を済ませた私達は、徹底した鍛錬の日々となりました。

 大翔さん達は、悪魔や堕天使の力を悟られないようにするために、徹底して力を制御し隠蔽するための鍛錬を。私は、基礎体力の向上と、魔力制御を中心に。

 

 大翔さん達に言わせると、私の魔力の使い方は『とても勿体ない』ものでした。魔力量は多いのに、常に垂れ流し状態に近いため、結局すぐにガス欠状態になってしまうのだと。

 魔力量でいえば、私よりずいぶん少ないはずのアリシアさんが、私と同じ威力の雷撃を少ない魔力で容易く放っているのを見せつけられて、魔力の扱いにある程度自信を持っていた私は、その自信を完全に砕かれることになったのです。

 

「……実際に朱乃さんの魔力を俺が動かしてみるから、少しずつ制御する感覚をつかんでみようか」

 

 私の落ち込みようを見た大翔さんが、魔力の制御訓練の一環で、私の体内魔力の動かし方を直接指導してくれたりもするのですが……。

 

「ほら、朱乃さんの魔力が集約されていくのが分かるでしょう?」

 

「え、えぇ……」

 

 ぴたりと寄り添う形で背中から腕を回され、大翔さんと手を重ね合った私は、魔力の流れを感じつつも、大翔さんと一体化しているような感覚に包まれ、返事はするものの、話の内容が理解できているとは言い難いものでした。

 これだけ密着しているのに、完全に指導者モードの大翔さんは異性を感じる感覚など完全に意識の外なのでしょう。私に自分の魔力を巡らせ、交ざり合った魔力を大翔さんが動かすことで、魔力の圧縮や、威力に対しての適切な魔力量、炎と雷の同時制御等、幾度も丁寧に教えてくれています。

 

「なかなか難しいかもしれないけど、自分の中を流れる魔力を必要な時に応じて、必要な分だけ使う感覚は、朱乃さんの身の安全にも繋がるから、頑張ろうね」

 

 それなのに、大翔さんの魔力が全身を巡る感覚を心地良いと感じるようになっている私は、直接指導を受ける間は大翔さんに自分の魔力制御を任せてしまい、感覚に身を委ねて、脱力してしまう始末。

 

 力は力。使うことで、必要な人達を守り、自分も生き延びられるなら、躊躇いなく力を奮う。大翔さんはまた失ってたまるものかという強い気持ちを持っていて、悪魔や堕天使の力も必ず使いこなしてみせるのだと、自分のあり方を変えるかもしれない力に真っ直ぐに向き合っている。

 彼の魔力は言葉以上に雄弁で。守るべき対象に私やお母様を含めてくれているのが、強く伝わって──。

 

「朱乃さん、後で私としっかり復習しようね?」

 

 ですから、大翔さんの制御で私の魔力が集約していき、少ない魔力で高威力の炎や雷が、私の手から放たれるのを感じていても、自分でやるとなると、少しもうまくいかなくて。ええ、学習するという点では、大翔さんの手ほどきは今の私には逆効果でしかありませんでした。

 魔力制御全般については結局、大翔さんの次に制御に秀でているすずかさんが、絶対零度と思わせる氷の魔力と共に叩き込んで下さいました。芯から身体と心が冷えたことで、二度繰り返して頂く頃には、私自身も感覚をつかめ、後は自分でひたすら、想定する威力に対して適切な魔力を使用する、そんな訓練を繰り返していくことになりました。

 ただ、今まで一つの雷を放つのに、しっかり魔力を制御し放つ前の魔力を集約することで、調子が悪くても半分程度の魔力しか使わずに済むようになったことで、自分の成長を実感出来つつありました。大翔さんが私の魔力を使うと十分の一程度の消費で安定していましたから、目指す到達点はハッキリしています。

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