※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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(突っ走って)やったぜ。


第82話 アガレス家の次期当主

 「……流石ね。反応できなければ、いっそ貴方を拐ってしまおうとも思ったのだけど。嗚呼、私の想像以上に貴方は強くなってくれていたみたい」

 

 俺の前に立つセラの向こう側に突然現れたとしか言えない、淡緑色の長い髪に切れ長の双眸で眼鏡をかけている……ともすれば相手に冷たい印象を持たせそうな雰囲気を醸し出した、俺と同年代に見える美形の悪魔の女性。でも、何故だろうか。俺に向けられる視線は色んな感情の色が入り交じっているように見えた。

 

「ひーくんが止められたとしてもそんなことはさせないよ、側に私がいる限りね。ねえ、シーグヴァイラちゃん。アガレス家の次期当主様?」

 

「……貴女までいるのは流石に予想外です、レヴィアタン様。彼らが私の干渉に気付き、対抗するまで少なくとも数秒の猶予はあると思っていたのですが」

 

「助かったよ、レヴィアタン。こちらに干渉する魔力に気付き、光翼を出す間の一、二秒……その間にここまで接近を許すとはな。この俺にすら時間の流れを遅延させ、光翼を出さなければそのまま停止させられるところだった……」

 

 シーグヴァイラ。聞いたその名に刺すような頭痛が俺に襲い掛かるが、急な変調をこめかみを強く押し込みながら無理やりにでも押し留める。すずか、セラ、黒歌。校舎内にいる朱乃や白音。五人は絶対に守り抜かなければならないんだから。

 それにヴァーリにすら効果を及ぼした、対する相手の時を止める能力。黒歌も完全に停止させられる前に俺に触れて、結界の影響下に入れたため事なきを得ていたが、余計にここで足手まといになるわけにはいかない。

 

「恐ろしい力ね。大翔のあの封時結界の感覚を知らなければ、違和感を感じてる間に停止させられていたにゃ」

 

「未だシーグヴァイラちゃんの力は発動中だからね、ひーくんから下手に離れたらダメ。動いたら私やヴァーリちゃん以外が止められ……どういうつもり? 力を止めてしまうなんて」

 

「いえ、ひょっとしたらこの力を感じて一気に『思い出して』くれたりするかと淡い期待を持ったのですが、それはあまりに浅はかな考えだったようです。試すような真似をして申し訳ありませんでした」

 

「突然仕掛けてきた奴の言葉を信じろと?」

 

「白龍皇、確かに仰るとおりです。……年甲斐もなく、自分でも想像以上に我を失っていたみたいですね。そうですね、拘束して頂いて構いません。この通り、抵抗する意思はありませんから。グイン・ザンマ、ラギガード、グザⅡ、ジャクトリヤ。貴方達も動いてはダメよ」

 

 声に反応し、頭を下げる彼女の意思に反するように側へと集う小型のロボット達。いや、プラモデルか……。それぞれが自立意思を持つかのように動き回り、彼女を取り囲むような陣形を取っていく。

 

「もう、落ち着きなさい。私が無抵抗の意思を示す意味がないでしょう? それに御覧なさい。貴方達を形作ったあの人がいる。だから、お願い。止まって頂戴」

 

「ひろくん、あれって有名なロボットアニメのプラモデルだよね……? ひろくんも小学校の頃によく作っていたから覚えてる……」

 

 確かにこちらの世界では『機動騎士ダンガム』と呼ばれているはずだ。名称が違うぐらいで大筋のストーリーは同じなのでイッセー君と熱く語り合ったことがあったりするが、それはそれ。その時もすずかは一緒だったし、話に普通についてきていた辺り、別の意味でイッセー君に羨ましがられた。『趣味に理解があって、しかも一緒に楽しんでくれる彼女とか最高じゃないですか!』と。

 

「大翔、知り合いか?」

 

「……分からない。でも、変なんだ。この女性に全く怖さを感じない。初対面の女性なら、身体が強張り心が凍て付くはずの俺が『懐かしさ』すら感じている。だから、頼む。ヴァーリ、話す時間をくれ」

 

 ヴァーリがアガレス家の次期当主という彼女に目を向けたまま、こちらに問いかけてくる。この既視感の原因は分からなくとも、彼女と話をしなければ『後悔』する。俺はそんな焦燥を覚えていた。

 

「今度作ってくれると言っていたつけ麺。明日の夜食で手を打とうか」

 

「はは、仕込む時間を何とか作るよ。……ありがとう、ヴァーリ」

 

 わざとらしい口振りで、仕方の無い奴だと肩を竦めるヴァーリ。まだ付き合いは短いけれど、元士郎と同じくいい友人を持てたものだと思う。

 

「ごめんなさい、貴方を苦しめるつもりはないの。その、あの……私の成長を見せたくて、みっともなくはしゃいでしまって考えなしで仕掛けてしまって本当にごめんなさい……!」

 

 そう、冷静で明晰な判断を下すあの怜悧な表情の裏に、親しい者だけにはこんな茶目っ気のある一面を見せたりする彼女を、俺は確かに知っている……くそっ、なんで『思い出せない』んだ?

 

「あの白龍皇と堂々と接することが出来るほどに、貴方が本当に強くなってくれていて、それでいて貴方の穏やかな雰囲気はそのままだったから……ふふ、何を言っているのか分からないわよね。でも、本当に嬉しくて仕方ないのよ」

 

 頬を綻ばせて微笑む彼女の顔にどうしようもなく懐かしさを感じて。両隣にいるすずかや黒歌の困惑も伝わっているのに、俺は言葉が見つからなかった。

 

「強引にやってきた成果は十分得られたもの。私の不在に気づいたアリヴィアンが今頃慌てて追いかけてこようとしているところかしら」

 

「貴女、本当にシーグヴァイラちゃん!? まさかの許可なしとか、そういう性格じゃないよね!? いくら人間界と正規のルートで移動したことがあるとはいえ、勝手な転移は禁止されていると知っているでしょう?」

 

「あら、レヴィアタン様。私だって、一人の女です。はしゃぐ事だってありますもの。それに魔王の方々と同じように、大公の任務代行権を持つ私は急を要すると判断した場合の転移が認められています。それより、彼が混乱を来たしていますわ。落ち着いて話せる場をお願い出来ませんでしょうか」

 

「むむむ……。貴女を偽者と判断して、こちらが嫌だと言ったら?」

 

「レヴィアタン様が今駒王町にいらっしゃると他の魔王様達にお知らせ致します。貴女様が今この場にいるのは、お忍びですよね? 書類も溜まってらっしゃると聴いておりますし……」

 

「い、一日遅れぐらいだもん! ひーくんに誇れる女でいられるように頑張ってるんだから!」

 

 刺すような頭痛は引かない。それでも俺の感覚が叫んでいた。二人を言い争わせるな、と。

 

「セラ、下がって。彼女は俺が目的のようだし、話をしたいって気持ちは本当だろうから。そうだろ……あぐっ」

 

 セラの前に立ち、付き添うすずかや黒歌に支えてもらう形になるふらつく自分を叱咤する。俺は大切なことを『忘れている』。それでも心配そうに俺を見上げるすずかや、少しでも痛みを緩和しようと細かく気を整えようとしてくれる黒歌、盾になろうとしてくれるセラ。そして、きっと。この女性も俺は泣かせちゃいけないと、強く感じている。

 

「……無理をしないで。私は貴方の顔をもう一度こうして見られたことで、本当は泣きそうなんだから」

 

「教えて下さい、貴女が知っている俺を。貴女に感じている懐かしさの正体を、貴女はご存知なんですよね」

 

「……時間を、貰えるかしら。貴方だけでなく、貴方を支えるそのお嬢さん達も含めて」

 

「はい、こちらからもお願いします。私が唯一、ひろくんを知らない一ヶ月を貴女は知っているんですね」

 

「私も一目見て分かったわ。貴女が……彼が記憶を一時的に失いつつも、守るべき存在だと焦がれ続けていた女性なのね」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 リアスの女王である姫島さん達とも合流し、私達は姫島神社の一室を借りる形になっていた。

 

 アガレス家の次期当主としてお父様の一部業務代行も務めながら、私はずっと探し続けていた彼をとうとう見つけたのだ。今年までだとお父様やお母様に宣言されていた最後の年に。

 彼へ繋がる糸口をつかめたのは、上層部と急きょ話し合いを持つからと飛び出していったお父様を引き継ぐ形で他の細かい連絡を行っていた所、姫島さんが不意に浮かべた魔法陣のお陰。使い魔に指示を飛ばすための魔法陣を見て、私は悟ったのだ。

 

『その魔法陣は……!』

 

『どうしたのですか、シーグヴァイラ様。使い魔に指示を出すための連絡用魔法陣ですが……そんな顔色を変えて』

 

『その魔法陣の光、なぜ貴女がその色を──』

 

 震える声を私はどこまで押し留められていただろう。血より深き紅。深紅の魔力光はあの子のものと全く同じ! 波長まで似通い過ぎている……! ずっと、ずっと探し続けていた彼への繋がりが通信の向こう側にある。

 

『シーグヴァイラ様? 顔色が急に』

 

『……残りの連絡事項はまとめて資料を送ります。それでは失礼っ!』

 

『え、シーグヴァ……』

 

 通信を強引に打ち切って、後は時間止めの結界を張ったら駒王学園へ転移。姫島さんに直接問い詰めようと思ったら、そう、ずっと逢いたかった彼の姿があった。最後の時から五年以上が経っていたけれど、すぐに分かった。彼と別れ、ずっと磨き続けてきたアガレス家に伝わる『時』を司る力に、彼は見事に対応してみせて──。

 

「『初めまして』。私はシーグヴァイラ・アガレス。本当は『久し振り』なのよ? 空知大翔さん……いえ、ヒロ」

 

 あの優しげな笑みはそのままに、驕ることなく彼は纏う魔力を、自分の力を高め続けてきたのだと分かる。強者の風格を彼は身に着けつつあった。そうでなければ白龍皇とこうも対等に話し、親しげに接することなど出来はしない。

 

「私はずっと探し続けていました……。私が記憶に残っていなかったとしても、もう一度直接御礼を言いたくて。貴方がくれた温かさがあったからこそ、私は今もアガレスの次期当主として堂々と歩んでいられると。あの一ヶ月は、私の一生の宝だと。ありがとう、ヒロ。貴方は私の進むべき道をずっと照らし続けてくれているわ」

 

 こんなことを言われても困るに決まっている。それを分かりながら、私は我を通した。アガレス家の娘としてではなく、シーグヴァイラそのものが彼に伝えたくて仕方がなかったから。

 

「シーグヴァイラさん……なんでだろう、貴女をシーグヴァイラさんって呼ぶのに、どうしようもなく違和感がある……」

 

 困惑するヒロ。隣に同じく戸惑いながらも、彼の様子を見守る紫髪の女性。姫島さん達も一歩分後ろで静かに私と彼の話を見守ってくれている。ソーナやソーナの女王も姫島さんと同じ表情をしているから、思った以上にヒロに付き従う女の子は多いようだ。

 

「触れ合っても大丈夫な女の子が、ちゃんと増えたのね。良かった……」

 

 極度の女性不信ということは分かっている。あの一ヶ月の間、お母様にもずっと緊張し通しだった彼だ。その彼を慕い、また彼も受け入れている女の子がいる。ふふふ、まさかレヴィアタン様までとは想像もつかなかったけれど。

 

「シーグヴァイラ、普段は冷たい印象すら受けるのに……こんな彼女は見たことがないわ」

 

「ソーナ会長以上に、冷静かつ怜悧な印象が非常に強い方ですから」

 

「だからこそ、若くして大公家の次代は安泰だと言われてきましたよね。だけど、大翔さんにここまで親しげにしているのは……」

 

 耳のいい悪魔ですから、ソーナや二人の女王の話も聞こえています。今の魔力色は彼女達本来の色合いに見せていても、彼女達からは彼と同じ魔力の波長を感じられる。時の力を制御するには魔力の精密な操作が必要であり、また彼を探すために次元を越えるためにと鍛練を重ねてきた結果、魔力の流れをある程度見れるようになっていたから。

 

 本当は私が先に見定めたのにという悔しさもあるけれど、それよりも大きいのは安堵感。信じられる女性が増えて、その愛情を受けて彼は強く大きな男になっていったのだと感じられて、彼の成長が何より嬉しかった。

 

「触れても、いい?」

 

 頷いてくれた彼の頬にそっと触れて、次いで彼の手を取る。ああ、もう私の手を包み込めるぐらいに大きな手。男の子だった彼は、立派に大人の男性へと近づいている。私がお父様の業務を代行するぐらいに成長したように。

 

「……良かった。拒否反応が出たら、どうしようかと思ったのよ? さすがに五年以上が経っているし、貴方の身体が私と認識出来ない可能性もあったから」

 

「あ、あのっ、ひろくんが小学六年生の時に、別次元に飛ばされて一ヶ月あまり帰ってこなかったのは……!」

 

「ふふ、記憶を失ってなお、彼がずっと守りたいと思い続けてきたのが貴女……。この中の誰よりも彼の魔力と溶け合っているもの、貴女は一番の理解者なのでしょうね。さて、質問の答えだけれど。彼は次元転移の衝撃で一時的な記憶の混濁が発生していた。その間、彼を保護していたのが私の家なのです。その期間がちょうど一ヶ月間だったわ」

 

 アリヴィアンに彼が記憶を取り戻した結果、私達と過ごした日々を忘れて、あるべき世界へと帰ったと聞かされた時、私はショックのあまり部屋に引きこもってしまったのよね。それでも、鮮やかなあの一ヶ月はずっと私の宝物で、ずっと私の寄る辺であり続けた。そう、ヒロが残してくれた……この自立起動を行う四体のプラモデルと共に。

 

「これ、覚えていないだろうけど……貴方が作ってくれたプラモデルなのよ。グイン・ザンマ、ラギガード、グザⅡ、ジャクトリヤ……魔力を蓄積しておける核も埋め込んでくれたから、私はこの四体を使ってアガレス家の時の能力を使いこなせるようになった。だけど、今の貴方は私よりも時の力をうまく使えるみたい……時間だけでなく、次元や空間への干渉も出来るだなんて」

 

 ゆっくり話せるようにと彼が展開した封時結界はこの姫島邸の中にいる限り、一時間を一日として過ごせる空間となっていると聞かされた。本来の彼の次元と、私の住まう冥界や今いる駒王町が存在するこちらの次元も行き来できる程に、彼は優れた時空魔導師に成長している。

 

「……分かる。思い出せなくても、確かにこの四体は俺が作ったものだ……」

 

「うん。核にしっかりひろくんの魔力が宿っているもんね……」

 

 作成者に触れられたことで、自意識に近しいものを宿す四体は明らかに喜んでいた。さて、思い出話になるけれど、皆、聞いてもらえるかしら?




唐突な展開なのは承知してますが、ぼかぁリビドーの迸りに忠実でありたかったんだなぁ……(誰だお前)
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