※をつけるほどではないんですが、話末にそういう表現が入ってます。
シーグヴァイラ様は穏やかな顔で懐かしそうに思い出話を語り始める。きっかけは五年と少し前、大翔さんが小学六年生の頃……例のドクターの仕業で、実は当時の冥界、アガレス領へ転移させられたのだとか。私や小猫ちゃんもその当時グレモリー領で暮らしていましたし、意外なニアミスだったのだと思いながら、彼女の話に耳を傾けます。
「見つけたのは、私の女王であり執事を務めてくれているアリヴィアンでした。妙な力を持つ少年が記憶混濁を起こして邸内に倒れていたと」
名前は覚えていたし、日常生活のやり方もわかっていた。ただ、自分が今までどうやって過ごし生きてきたのかがすっぽり抜け落ちていたのだそうです。
「それでも、待っている人がいるから帰らなければいけないのだという強い焦燥をずっと持っていたわ。でもその人の影はシルエットになっていて、顔をハッキリと思い出せない事が苦痛で仕方ないという感じだった」
魔力を使える人間、それも日常生活レベルで使いこなせるようだと検査で分かってからは、シーグヴァイラ様の小間使いのようなことを始めさせたのだそうです。ロボットアニメを見て、一緒に興奮したのが決め手だったのだとか。
「父の勧めで勉学の気分転換にタンガム等のロボットアニメを観るようになったといいのだけど、実は恥ずかしい話、どっぷりと嵌まってしまって。熱い想いをぶつけ合う登場人物達に自分を重ねてみたりね。普段、我を出すのが好ましくないと考える私が真逆の生き方をする劇中の彼らに惹かれる感覚を、彼はとても理解してくれた。あとは、ロボットの造形について語り合ったりね。そんな相手が身近に出来たのが夢のようだったの」
一晩中夢中になって話して、揃って両親に叱られたのも懐かしい思い出だとシーグヴァイラ様は過去に思いを馳せながら、話し続けていました。
「『どうしても記憶が戻らなければ、私のポーンにしてあげます。だから焦らず記憶を取り戻しなさい』と当時の私は伝えたの。稀有な人間ということで、私にも打算があったのですよ。当時から嵌っていた趣味の話が出来て、人間界の魔術に関する本を読ませればすぐに理解するほど造詣も深く、穏和で頭の回転も速いとなれば……アリヴィアンに執事をしてもらっていた私は、彼をいずれ秘書的役割においてもいいと考え始めていました」
同年代でプライベートでは趣味の話で盛り上がれる少年。そして公的な時間には立ち振る舞いもしっかりしていて、元々マナーを身につけていた形跡もある。冥界でのやり方との違いを覚えてしまえば、大公様や奥方様も感心するぐらいに礼節をわきまえた動きをしていたそうです。
「ひろくんはその頃には、私の婚約者として旧家のしきたりやマナーを叩き込まれていましたから……」
「ええ、付け焼刃でないのも分かりましたし、そういう生まれなのだろうというのは察していましたよ。両親にとっても私があまりに子供らしい振る舞いを見せないがゆえに憂慮していた部分を、適度に引き出してくれる子が見つかったと当時は思っていたようです」
ポーンにすると大翔さん本人には言ったものの、実際にはビジョップの駒を与え、後方の要にするつもりぐらいまで考え始めていたシーグヴァイラ様はさらに驚かされることになっていきます。
『回復魔法を使えるですって……!?』
ある日、彼女が体調不調を訴えたことにより判明した新事実に、改めて密かに神器の調査もするも宿っていないという診断結果が出ます。フェニックスの涙以外で即効性のある回復手段を持っていることになり、シーグヴァイラ様はご両親の前で一つの宣言をします。──悪魔としての、契約の言葉として。
『貴方は私が、アガレスの名において守り通します』
『シーグヴァイラ、お前は何を宣言したのか分かっているのか!?』
『ええ、お父様。アガレスを継ぐ誇り高き悪魔として、私の未来の眷属を守るのだと宣言しました』
悪魔の誓約は契約に近しいもの。非常に重たく、まして大公の娘が発した言葉となれば、血縁や使用人達といった身内の中での宣言であっても安易に取り消しが効きません。その意味を大翔さんも他の方から教えられて、自分に何が出来るのか必死に考え込む時間が多くなったそうです。それはシーグヴァイラ様が気に病むなと重ねて告げようとも、決して変わることが無かったのだとか。
「もう、ひろくんったら。記憶があやふやになっていても、その辺りは変わらないんだから。自分を本気で想ってくれる人に、全力で応えようとする生き方は」
「ええ、今もその生き方は全く変わらぬようですね。あのSS級の力を持つ黒歌が、彼に心酔している。驚きはしましたが、同時に納得もしてしまいましたから」
「当たり前にゃ。妹との蟠りを解いて、姉妹がこれから先ずっと共にいられる場所をくれた大翔やすずか達を私はずっと守っていく。こちらの世界に特に拘らない私からしたら、はぐれと言われても正直どっちでもって感じだにゃ。飼い猫と笑うならば笑わせておけばいい。私は大翔たちの敵を排除する牙や爪を研ぎ続けるだけ」
もっと固い考えに囚われた方という印象がどんどん取り払われていく。彼女が私よりも早く大翔さんに出逢い影響を受けていたことを羨ましく思うと同時に、自分との記憶を失い姿を消した大翔さんを密かに探し続ける日々を考えればとても耐えられないと思えてしまう。
「……それほど強く想っているのね、彼を」
「私だけじゃにゃい。すずかは勿論、白音も朱乃もソーナや椿姫も、セラフォルーも。この場にいない他の子も勿論一緒に、私達は大翔を長とした大家族として暮らしていくの。いずれ、授かる子は誰が産んだ子供であろうと皆で育てて皆で守って、それぞれの家の問題も大翔の女全員で解決していく。私が言うのもなんだけど、皆才女揃いなのにゃ。大概の問題は解決出来ちゃうぐらいには」
「だから……シーグヴァイラ。貴女に大翔くんは渡せない。彼は私達の唯一の人なのだから」
「……驚くことばかりね。ソーナ、貴女の口からそんな情熱的な言葉が飛び出すとは想像もしてなかったわ」
黒歌に並ぶ形で進み出たソーナ、椿姫。もちろんセラフォルー様も。そんな中、私は大翔さんが彼女の四体のプラモデルをそっと抱え上げて、シーグヴァイラ様を真剣な目で見つめているのに気づきました。側に寄り添うすずかさんもやはり同じような表情で。
「シーグヴァイラさん、俺は貴女を何とお呼びしていましたか?」
「『シーラ』と。私は『ヒロ』。互いを愛称で呼び合っていたわ」
「……魔力を通じて、この四機が見せてくれた『記録』を確認出来ました。その愛称で呼び合う光景も含めて、この子達は魔力核の一部を記憶領域として様々な記録を収めてくれていた……。まだ、自分の記憶として、蘇ったわけではありません。ただ、中学に入る前の俺の姿が確かにそこにはあり、感情は確かに俺の記憶だと強く訴えている」
少しでもこの子達に報いたい。どうかこの子達のメンテナンスをさせて下さい。大翔さんはそう懇願し、そのために修繕道具等が置いてある月村邸への同行を願い出たのでした。
「移動したらちゃんとこの結界を張ってちょうだいね、ヒロ? 気づいたら朝になっている……というのだけは困るもの」
その願いに対してどこか茶目っ気すら見せながら、シーグヴァイラ様は気負いなく大翔さんの提案に乗ったのです。
◇◇◇◇
「あの、許可をもらって何なんですけど……本当に大丈夫なんですか?」
転移準備に入りながら、俺は彼女にもう一度問いかけていた。俺が自分に害を与えるなど少しも考えてもいない、彼女の態度。柔らかな微笑みを浮かべたまま、俺のメンテナンスのやり方や設備が置いてある研究室を見られるのが楽しみだと瞳を輝かせてすらいる。
彼らに触れることで見えた記憶の欠片。一緒に触れていたことで同じ記憶を見たすずかは『ひろくんだから仕方ないよ』と一人納得していたが、ソーナ達の言葉を借りるなら人が変わったようなレベルまで信用を得ている様子にむしろ俺は何をやらかしたんだと不安にすらなる。
「ヒロが私を陥れようとするなんて、あり得ないもの。記憶が無かろうと私が知る貴方の根幹は変わりはしないわ」
過度に美化すらされてる気がしてならないのだ。いや、製作から数年が経ち、形状維持の術式も練り込んでいたようだから、少しガタが来ていたこの子達を本気で手入れするし、核を増やして二重化して自己補修機能もつけるつもりではある。
「……相変わらず顔に出やすいのね? 無表情よりは笑みの方が感情を隠せるけれど、その笑顔も私からすれば感情が筒抜けよ、ふふ」
すずかやアリサとかだけじゃなく、朱乃や黒歌、付き合いを深めたばかりのセラにもその辺りは指摘されることだ。隠すのはやっぱり下手なんだなぁ、俺は。
「政治の場に出るためかしら、感情を見せないようにしようとするのは。そうね、相応しくない場で感情を爆発させない限り、喜怒哀楽を読み取られてもいい……そう捉えるのも一つの考え方よ」
「えっ……」
「交渉などの場でも、感情を言葉に乗せたりしなければにしなければすぐに致命傷というわけでもない。逆に実力者となれば、不機嫌そうに押し黙るだけで相手に重圧をかけられたりもする。確かにそれだけではうまく行かない場もあるけれど、貴方の周りはヒロの想いをしっかり汲み取ってうまく生かしてくれる女性がいるのでしょう?」
一人で何とかしようなんて思わないことよ、と先に政治の場に出ている先達からのアドバイスだとシーグヴァイラさんは俺のおでこをつつきながら笑っていた。
「あら、とうとう私の女王がやってきたわ。ふふふ。らしくもなく、かなり焦っているみたいだけど」
そういう先には転移魔法陣から出てきた黒髪の執事姿の若い男性の姿がある。表面上平静さを保っているけれど、焦りを抱えているのが分かるぐらいには動作の一つ一つが急いている。
「お嬢様っ! 勝手に人間界に転移されるなどっ……!」
大股歩きでシーグヴァイラさんの前へと歩み寄るアリヴィアンさん。先ほど見た記憶の姿と全く姿が変わらない辺り、彼も悪魔なのだなと再認識する。
「アリヴィアン。アガレス家に仕える貴方がそのように冷静さを欠いてどうするのです」
「冷静さを欠いていらっしゃるのはお嬢様です……! 屋敷はお嬢様が突然姿を消したと奥方様をはじめとして捜索隊が出る勢いなのですよ!」
「あら、書置きを残しておいたと思うのだけど」
「あのようなお嬢様らしからぬ乱筆乱文で『火急の案件が入ったため出かける』というだけで供も連れずとなれば、皆目の色を変えますっ。旦那様がお出かけの時で宜しゅうございました……さ、すぐにお戻りを」
「あら、アリヴィアン。その前に貴方は周りを確認するべきね」
「周り……?」
まず、シーグヴァイラさんの隣に立つ俺。すずかは初対面として、セラ、ソーナがいる。朱乃や椿姫、白音も顔は知っているかもしれない。黒歌も別の意味で有名だろうし。ヴァーリや元士郎達もどうしたものかという顔で様子を見守っている。
「レヴィアタン様に、ソーナ・シトリー様……?」
「あちらは手配書で有名な黒歌だし、そちらの鮮やかな銀髪の彼は現代の白龍皇よ? リアスやソーナの眷属も数名、知っている顔も多いでしょう」
どんどん顔が青ざめていくアリヴィアンさん。そして、さらにシーグヴァイラさんはすずかに『ごめんなさいね、お借りします』と一言断ってから、俺の腕を引いて軽く自分の腕を絡めてすらみせた。驚きはすれど、やはり拒否反応を起こさない俺の身体。そして、セラとソーナの辺りから漏れ出る冷気が回りの空気をどんどん冷やしていく。すずかはちゃっかりもう片方の腕に絡んでいるので魔力が思わず溢れてしまう事態にはなっていなかった。
「お嬢様……!?」
「私がこのような態度を取れる唯一の男性、貴方も良く知っているのではなくて? そうでなければ火急の案件などと書くものですか」
ほんとに拒否反応が出ない辺り、俺の身体は彼女のことをよくよく覚えているらしい。隣の彼女は上機嫌に自分の執事兼女王の彼をからかう遊び心さえ出している。
「……見つけて、しまわれたのですか」
「ええ、後は思い出してもらうだけなのだけど……身体はしっかり私を覚えているから、一から関係を築き直すのもまた一興かもしれないわ。だから少しばかり付き合いなさい、アリヴィアン。これは命令」
「では、通信だけ飛ばしておきます。見つけましたので、お説教の後連れて帰りますとでも」
「ええ。じゃあヒロ。改めて転移準備を宜しくね。月村さん、転移後は改めて他の皆さんへの紹介をお願いできるかしら」
「はい。それと……私のことは『すずか』で大丈夫です。私的な場ではこちらもお名前で呼ばせて頂きますので」
「……そうね。貴女とは良好な関係を築きたいものだわ、すずかさん。色々、相談をしなければならないことも出てくるでしょうし、まず今のヒロの現状を正しく把握しないと」
「驚かれることにはなると思いますよ、シーグヴァイラさん。来る者拒まずを言葉通りに進めた結果、セラフォルーさんの言葉を借りるなら『ちょっとした一勢力』になってますから」
転移魔法陣の準備に入る俺の傍でやり取りしている二人をよそに、一緒に準備を手伝ってくれていた朱乃が俺に耳打ちをする。
「まさか、次期大公様まで虜にしておられるとは思いませんでしたわ。この話は後程シーグヴァイラ様からもさらに詳しく聞かせていただくとして……ソーナがそろそろ抑えられなくなってきてるようですわ」
その言葉にソーナを見れば、やや俯きながら自分自身を両腕で抱き締めるように衝動をいなしている姿があった。元士郎などからの問いかけにも曖昧な答えしか返せなくなりつつある。時間的にはそろそろと思っていたけど、思わぬ人との遭遇に抑えが一気に効かなくなったのか……!
「朱乃、後の転移準備を頼む」
「ええ、お任せください。小猫ちゃん、転移術式を早く完成するために手を貸してくれるかしら」
「シーグヴァイラ様やアリヴィアンさんの一時転移許可の反映ですよね。急いでやってしまいましょう」
頼りになるパートナー達にこちらは任せて、俺は急ぎソーナの傍へと駆け寄る。椿姫が他の眷属をいなしてくれている間に、俺は彼女を腕の内に抱え込んだ。吐息がかなり荒い。目の焦点も合わなくなってきている。
『ソーナ、気づくのが遅れてごめん。口元に手を当てて思い切り、俺の胸に押し当てていろ。身体は俺が支えてる。部屋に戻る前に、一度イカせてあげる』
念話で呼びかけた俺を見上げたソーナの表情は恐ろしく男の劣情を煽り立てようとする。上気した頬、涙が今にも零れ落ちそうな程に潤んだ瞳、薄紅に染まった肌。それでいて、俺のことを信じ安堵感も同時に浮かべていた。
「お願い、します……全て、大翔くんに任せます、からぁ……」
途切れ途切れに肯定と懇願の言葉を呟いて、ソーナは俺の言う通りに口元を強く手で押さえ、俺の胸にしな垂れかかってきた。全身を預けられているはずなのに、どこか軽いとすら思える彼女の華奢さ。色香が香るような錯覚すら覚える甘い匂い。
彼女が抱えている血筋の濃さに絡みつく、嫌悪し絶望すら覚えていた淫蕩さを肯定し御してみせると誓った今ですら、気を抜けば此方も飲まれてどこまでに溺れて堕ちていってしまいそうだ。
「……黒歌」
「消音は任せてにゃ。しっかし、開花したソーナのこれは同性の私までゾクッとくるヤバさね。普通の男なら即座に理性を奪われてるわよ。これでも紳士的な振る舞いをやってのける大翔はやっぱり枯れてるんじゃにゃい?」
「言ってろ。今からやるのは獣の振る舞いと一緒だろ? ……ソーナ、始めるよ」
意識して俺の補助に回ってくれる黒歌に声を掛ければ、あえて軽口を叩いてくれる。苦笑いを浮かべる余裕が戻ったことに感謝しながら、俺はソーナの身体に陽の気を一気に流し込み始めた。直接繋がっていない状態とはいえ、以前に黒歌や白音との間で気を失ったのと同じ強さで。
「!……んんっぁぁあ!」
激しく全身を痙攣させながら、ソーナは悦楽の津波へ飲み込まれていく。この状態になってしまえば、本当の意味で発情が収まるには精を直接身体の中に浴びるしかない。これはあくまで一時的なショックで衝動の昂ぶりを誤認させるものでしかなかった。
「ひゅうっ……殆ど、ソーナ気を失ってるんじゃにゃい?」
「朦朧となっているだろうから、この間に連れて帰る。結界を二重に張って、五分もらえれば実質二時間分だからな。その間にしっかり鎮めてみせる」
意識がほぼ飛んでいても細かい痙攣はまだ続いているし、甘い香りはますます強さを増している。この香りを吸い続けている俺も、このままシーグヴァイラさんの大切な四機を再調整するわけにはいかなかった。
「祐斗も戻ってきたにゃ。大翔、朱乃と白音も転移準備終わったみたいだし、急いで戻りましょ」
「戻った後もフォロー頼めるかな、黒歌」
「私も楽しませてもらうのが条件よ? 白音も一緒にね♪」
謎の会長推し。いや、初めて本格な発情期に入ったようなもんだしシカタナイヨナ!