※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

88 / 121
外出とかの兼ね合いで更新作業が遅くなり申した。


第88話 勤勉な面倒臭がり屋

「封時結界という魔法技術です。元来は結界内外を隔離し、外への被害を出さない使用方法が主ですが、時空や次元に関わる魔術を最も得意にしているもので、時間の流れも変えられるようにしています」

 

「まるでアガレス家の時に干渉する力のようね……」

 

「とは言っても過去に遡ったり未来へ飛ぶということが出来るものではありません。おおよそ外の一時間がこの結界内での一日に相当します。ちなみにこれ以上時間の引き伸ばしを安全に行うとなると、魔力の消費が一気に増大します。逆に結界内のみ時間を早める場合も同じ時間経過になります」

 

「だから時間の心配はないと言うのだな、セラフォルー」

 

「逆に手帳とか結界の外が何時だとかそういうのを計測する時計は欠かせないよ。時間感覚狂っちゃうもん☆」

 

「ふむ。彼らとの会食や話し合いが無事終われば、少し休息させてもらうのも一興か」

 

「貴方も働きづめですもの、それもよろしいかと」

 

 この後、大きな和室にお父様達が感心したり、ししおどしに小躍りしかけた後、朝食になったんだけど……。

 

「なんということだ。ここに集まる者達だけで一大勢力が築けるのではないか?」

 

 お父様が呟いたのも無理はない。和室に先に集まっていたのはすずかちゃんやアリサちゃんのご両親にバラキエルのおじ様夫妻、プレシアさんもやってきているし、絶対仕事をサボってきてるアザゼルちゃん。エリオ君達に囲まれる形のヴァーリちゃん。元士郎くん達も揃ってるし、オーフィスちゃんはしっかりすずかちゃんの膝の上だ。

 ソーナちゃんが直談判に向かうと聞いたひーくん達の動きは迅速だったというわけ。そして、すぐに応じてくれるおじ様達も。

 

「俺は堕天使側の後見人だが、大翔は権力に興味が薄いからな。権力と義務は不可分だから、必要なもの以上は抱え込まないと決めてるんだと。俺とも魔導具や神器の共同研究者って要素が強い。……くぅーっ、アジの開きは美味いが酒が欲しくなるぜ」

 

「朝食だ、自重しろ駄提督。どうせ結界内で一日過ごす気でいるのだろう、晩にでも見繕ってもらえ」

 

 ヴァーリちゃんの晩の楽しみという言葉に、アリサちゃんのお父様がコレクションのワインを持ち込んだと聞いて歓声を上げるアザゼルちゃん。ほんと駄天使に見えるよね☆

 

「アタシやすずかが旧家や大企業の令嬢じゃなかったら、大翔は経営学を学ぶことはなかったと思います。研究者の道に没頭してるんじゃないかしら」

 

「凝り性だからな、大翔くんは。昼食は手打ちうどんと聞いて、今から楽しみなんだよ」

 

 すずかちゃんのお父様、征二さんは一種のデイウォーカー。次元は違うものの、吸血鬼に堕天使、悪魔、妖怪が揃って、龍神まで居着いている。その多様な種族が同じ食事を口にし、語らっている。その中心にいるのが間違いなくひーくんだった。

 

「はい、大翔くん。熱いから気をつけてね」

 

「ありがとう、ソーナ。じゃあ僕らも食べようか」

 

 ソーナちゃんが当たり前のようにひーくんにお茶を淹れて、二人揃って手を合わせて食事への感謝を口にする。ひーくんがオーフィスちゃんの汚れた口元を拭い、すずかちゃんが魚の身をほぐしたものを、彼女の食べる時間を確保するべく、ひーくんやソーナちゃんが順番に箸づかいの練習中のオーフィスちゃんへと食べさせていく。

 私達の中ではひーくんに集う者同士でフォローをし合うという考え方が息づいていて、輪に入ったのが遅かったとはいえ、ソーナちゃんや椿姫ちゃん、私も適時務める役割だった。この大広間の長机の席の兼ね合いで今回はソーナちゃんがその役を果たしているだけだ。

 

「あの子ったら、あんなに穏やかで優しい顔をして……」

 

 その様子を見て、お母様の瞳が眩しげなものを見たかのように細まり、口許には笑みが浮かぶ。驚くと思うよ。貴族の令嬢として育てられた娘が恋人のために自らお茶を淹れたり、一緒に子供の世話をしているようなものだから。おまけにその行為に充足感すら感じているとソーナちゃんは表情で雄弁に語っているんだ。

 

「ふふ、なるほど。いい殿方を見つけられたようね」

 

「……いささか、婚約者が多過ぎはしないかね。というか、セラフォルーまでとは」

 

「あら、しっかり娘を見ていれば一目瞭然ですわ。まさか、愛と情欲を司るシトリーの直系たる貴方が気づかないわけがありませんものね」

 

「そ、そうだな。いや、浮いた話がなかなか無かったセラフォルーだからな、自分の目を疑ってしまってな……」

 

 すっごく苦しい言い訳だね、お父様☆ でも、この集まりの輪を見て、ひーくんの人となりは分かってくれたみたいだ。

 

「空知くんといったね。少し、私達だけで話をさせてもらえるかな」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

「ひろくん、テラスを使って。椿姫さんがいるなら、飲み物の手配は大丈夫だよね?」

 

「うん、オーフィスやバラキエルさん達の相手を頼むよ」

 

「こちらは心配せずに行ってきなさいな。アザゼルの相手は私がしておくわ」

 

 プレシアさんのバックアップも得られたところで、あぁ、ドキドキする。ひーくんが正式に私やソーナちゃん達を嫁に下さいって奴なんだよね!

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「本題に入る前に……なんというか、本当に驚かされた。堕天使や悪魔、龍、妖怪、人間……多様な種族が同じ食事を楽しみ、笑い合う。その中心にいたのは間違いなく君だ」

 

 お父様は今、大翔くん以上に緊張感を持っていた。自分の問いかけがこれからの大切な何かを決定づけるかのよう。

 

「ソーナやセラフォルーのことについて、まずは問いかけるのが父親としての役割なのだと思う。ただ、君は既に一勢力の長になり得る立場にある。冥界に住まう悪魔の統治者側として、君の考えは聞いておかねばならないんだ」

 

「えっと、それは今後どうしていきたいのか……ということでいいんでしょうか」

 

「そうだね。堕天使側の総督はああいう言い方をしていたが、彼はあくまで自分自身が強者でもあるし、悪魔側にそう思わせておきたいというようにも取れる。だから、君自身の言葉を私は聞きたいんだ」

 

 私達は大翔くんの進みたい方向性を聞かされているし、その意と共に歩める未来を模索している。彼の気質が決して世界に覇を唱えるものではないことも。どちらかと言えば、内へ内へと向かうものだ。反して、持つ力は様々な巡り合わせにより肥大している。

 

「……理想を言うなら、好きなだけ本を読んで、気が向いた時に魔法や魔導具の開発や研究を進めて特許でも取れるなら取って、その特許料でひたすら自分の好きな研究や読書に打ち込めれば最高ですね。食っちゃ寝の生活はどうにも堕落し過ぎそうなのと不健康で病気しそうなのが怖いので、何かしら仕事めいたものは持っておいて、外に出る習慣はつけておかないといけないと考えていました」

 

「……は?」

 

「すずかは良く言ってたんです。旧家に生まれていい生活はさせてもらってるけれど、それに対する責務は果たさねばならない。俺とアリサと、もし恵まれるなら子供達と。それだけで本当は幸せを感じられるけど、それは数十年先までお預けだって」

 

「……君は世界企業の経営をその手に握ることも、さらに言うならばソーナを介して、領土と多くの臣民の実質的な王として君臨することも出来るかもしれないんだよ?」

 

「誤解を恐れずに言うなら、面倒臭いです。重たいです。いらないです。だから、そんな重たいものをソーナさん一人に背負わせるのは違うし、放り出す気も無いと聞いています。幸い『俺』の周りには頭の回転のいい女性達がついてくれていますから、活かすしかないと今は考えていますね。表に立って貰わざるは得ないですけど、ブレーン軍団を抱えておけばそれだけ楽になることもあるかなと。すずかやアリサの会社経営を俺と共にやってもらうことで、実務経験も積んでもらっておけばよりスムーズでしょうし。ソーナさんにも可能な限りは楽してもらわないと」

 

 お父様、思わずぽかんとしてしまいました。私も正直こんな赤裸々な言い方で聞いたのは初めてですから、目を見開いてしまいます。大翔くんの言葉には、心底面倒ですという意思がありありと出ていますから。お母様は口を押さえて、笑いを堪え始める始末でした。

 

「今でも諦めてはいないんですよ。縁があって長い生を得たんです。すずかやアリサの事業が次代への引継が終わったら、どこか山村部へ移ろうかなんて未だに語り合ったりします。幸い転移魔法も、通信技術もある。拠点は変えてしまっても大丈夫だろうと。今の家族の人数なら、自作自農で暮らすってことも選べます。向き不向きはもちろんありますけどね」

 

 これだけ多くの女性に愛されて、貴方はそのままでいてくれるだけでいいと言われて、守られているだけの生活が情けなくて足掻いてるだけなのかもしれない──あの、ちょっと困ったようにも見えるはにかむような笑顔で、大翔くんは話を締めくくったのでした。お母様はとうとう笑いを堪えきれずに、声を上げて笑い始めてしまっています。

 

「……ご、ごめんなさいね? もう可笑しくて、つい。勤勉な面倒臭がり屋さんと言うべきなのかしら。貴方、逆にこれはしっかり繋ぎ止めないとソーナ達だけ連れて逃げられてしまいますよ、ふふっ」

 

「う、うむ……努力の方向性がズレてるとは感じてしまうよ。ソーナが次期当主の自覚をしっかり持ってくれている子で良かったというか……」

 

「大翔くん……わ、私が重荷なら、その私は……」

 

「ソーナ、俺と君が今更離れられる? 俺は絶対君を忘れられないし、離すなんて真っ平だ」

 

 大翔くんの手が隣に座っていた私の手を力強く取って離さない。くだらない事を口にするなと伝わる熱が私の心を焦がしていく。

 

「そりゃそうだよね☆ ひーくんとソーナちゃん、すずかちゃんに負けないレベルで相性バッチリだもんね! 毎日、あれだけ飽きも疲れも知らずに……もがっ⁉︎」

 

 そして冷水をかけられた気分になった。直後の私と大翔くんの動きは迅速で、互いに空いた手でお姉様の口を押さえ込んだ。

 

「あの、大翔さん、お嬢様。手を離したほうが動きやすいと思うのですが」

 

 椿姫の指摘にまた恥ずかしさから顔が赤くなってしまう。大翔くんも私も互いの動きを阻害しないようにと息を揃えて動いて目的を果たしたのはいいのだけど、互いの手をしっかり握って離そうとすることを考えもしなかったのが、その……。

 

「……ああ、もう分かった。十分に分かったよ。大翔くん、少しだけこちらへ。最後に男同士だけで聞きたいことがある」

 

 そうしてお父様は大翔くんの肩を抱えて、テラスの隅へと移動していった。防音の結界を張ったみたいで声は聞こえないけれど、お父様は天を仰いだり、頭を抱えたり、お互いに頭を下げ合ったりととかく忙しい様子で……。

 

「全く。あの人は……しかし、ソーナ。セラフォルーの発言は頂けないけれど、彼の体力や命が縮まってるということはないのね? シトリーの情欲は男性よりも女性が何倍も強く表れる。彼の気質は温厚なものに近いけれど、彼が無理しているようでは長くはやっていけないのだから」

 

「あの、ええと……その点は全く問題がないと言いますか。はい、私が圧倒される時もわりと多いと言いますか……」

 

「私達全員を相手にしても平気で翌朝、一番に動けるぐらいには元気だよね……?」

 

「黒歌を圧倒する場合も出てきてますしね……」

 

 ただのエロ猫と化してしまってる時があるというのが驚きです。凝り性の一面が常に技能の最適化を考えてしまうからか、黒歌を凌ぐことがたまに見られるのです。頭を撫でられるのと組み合わされたりすると、黒歌が生娘のように翻弄されて喜びに咽び泣くこともあったり。

 

「そう……無理はしてないのは分かったけれど、普通はそういう男性はもっとギラギラしていたり、粗暴であったりするはずと考えてしまって……ソーナやセラフォルー達に都合が良過ぎるというか、いえ、シトリー側としてもありがたい相手なのだけど」

 

「アルジール、大丈夫だ。だが、これでは別の問題が出てくるな。ソーナ達が今回私達への話を急いだ理由も分かる」

 

「あなた、話は終わった……の……え? 猫の耳? 尻尾?」

 

 お母様が思考に耽る間に、お父様と大翔くんがこちらへと戻ってきていた。そして、銀色の……。

 

「もふもふだーっ☆ 昨日は寝ている間にすずかちゃんや朱乃ちゃん達に独占されたからね……今日は我慢しないんだからっ☆」

 

「セラフォルー……貴女という娘は……」

 

「セラフォルーは好きにさせておきなさい、彼には申し訳ないが。今は私とアルジールが同じ認識を正確に持つべき時間だ。幸い、セラフォルーの扱い方は十分に理解しているようだ」

 

 お姉様の抗議の声も意に介さないお父様は大翔くんから要点だけを先に聞き出したのだそうだ。私の発情に向き合っても潰れず、かつ誠実に私と向き合える理由の一端を。あと、お姉様は後でお説教です。

 

「え゛!?」

 

 私のお説教宣言に対して、お姉様の女の人が出してはいけない声に反応したのは慰める役割を引き受けた格好の大翔くんのみ。それも幻滅するでもなく、そっと頭を撫でるような対応で。甘やかし過ぎては駄目ですよ、もう。

 

「魔力などを通して相手の特性や技術、魔術を取り込める能力。まあ、相手の力をそのままという訳ではなく、素養を取り込むだけだから訓練は必須だそうだが、探究心の強さが確実に自分の力へと変えさせているわけだな」

 

「それを基にして身につけた性魔術に、仙術の一種である房中術を組み合わせていると……」

 

「一番大切になる体力については毎朝20kmの走り込みから戦闘訓練を連続してこなすようなやり方で、高い水準を維持しているそうだ。ソーナや椿姫くん、セラフォルーも日課として共にこなしているそうだよ」

 

 その必要時間は封時結界で足りなければ確保していますし、長命種の利点を積極的に利用しているところですね。

 

「……そして、ソーナ達が急いた理由も分かりました。シーグヴァイラ・アガレス様。その方がまさか接触してきたとは」

 

「ああ、ソーナが急に焦った理由の前後の出来事を聞けば、とんでもない名前が飛び出してきたものだ。彼女はあの若さで既に現大公が担う業務の一部を代行している、冥界の幹部候補だ」

 

 大翔くんはアガレス家の名の重たさ、影響力を実感として知らない。だから強い危機感を抱けず、すずかさんの接し方も穏和なものだったけれど……。

 

「冥界の事情に明るくない空知君がピンと来なかったのも無理はない。……そうだな、今の日本の政治体制に無理やり当てはめるとすると、シーグヴァイラ様は世襲制の次期首相だと思ってくれ。超巨大政党の次の長なんだ、彼女は。さらに政治的影響力が上の家もあるが、今は説明を省かせてもらう。ともかく、彼女は悪魔界では相当無理を押し通せる地位の者なんだ」

 

 耳はこちらへしっかりと向けている大翔くん達へ向かって、元々東洋文化に手を伸ばしていたりしていたお父様が日本の政治に例える形で説明を加えていく。

 

「彼女自身が仮にそのような強引な手段を取らないとしても、申し訳ありませんが、悪魔自体が人間を搾取するべき弱者としか見ていない風潮が強くあります。シーグヴァイラ様が貴方を欲すれば、貴方が今月村さんやバニングスさんの婚約者という事情など周りが一切鑑みない可能性が高い。強引な連れ去り、軟禁ぐらいはやってのけるでしょう」

 

「させないけどね、シーグヴァイラちゃんの好きには」

 

「といっても、セラフォルー。お前でも干渉を完全に防ぐ権限はあるまい。だから、ソーナは私達への顔合わせを急いだのだから」

 

 お父様達に大翔くんを認めて頂き、正式な後ろ盾になって頂くこと。そうすることで、堕天使の総督や悪魔の貴族の後見を得ることで、大公家であっても簡単には手を出せないように予防線を張る。

 こんな急な顔合わせをして私の大切な人だと伝えても、お父様達が頷いてくれるかは未知数だった。私らしくもない、計算を度外視した賭け。でも、大翔くんなら……そんな、期待がどこかにあったのだ。

 

「……ふふ、そんな険しい顔をするものではないよ。少し、君というものが見えてくる。自分の伴侶に対しての危害や敵意に対しては、手段を問わず全力を持って排し、血を浴びることを厭わない覚悟を持っているのだな」

 

「はい、例えかつての恩人であるシーグヴァイラさんの縁者であろうと、すずかやソーナさん達に手を出すのなら容赦は出来ませんので」

 

 自然に高まる魔力に光力、龍神のオーラが、周りの空気を震わせる。一つひとつは最上級に届かなくても、大翔くんはそれぞれの力を重ね合わせて使うことが出来る。その爆発的な力の高まりに、異変を感じたすずかさん達大広間にいた皆さんも駆けつけてきた。




次話も4,000文字ほど書けているので、
一週間かけずに更新したい所存。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。