「ひろくん、大丈夫……!?」
「おいおい。悪魔が大翔を刺激することしか出来んのなら、本気で堕天使勢力に勧誘せにゃならんか」
「その前に次元封鎖よ。此方の世界と貴方達との世界の行き来を封じた方が早いわ」
すずかさんやアリサのご両親、エリオくん達の接近に気づき、影響が出ないようにすぐに大翔くんは力を押し留める。物騒なやり取りをするのはアザゼル総督にフェイトさん達のお母様、プレシアさん。
「じゃあ我はこのまま移住する?」
「じゃあ俺も移住す……ったく、ヴァーリ。本気で言うわけないだろ。落ち着け、な?」
明らかに本音が混じっていた言葉に白龍皇の射すくめるような視線が飛びますが、駄総督という言葉がどうしても頭をよぎります。頻繁に顔を合わせることが多いという時点で明らかに仕事を放り出してきているのが目に見えますし。
「次元封鎖はまだ後の手段ですよ。アザゼルさんは開発に専念したいのなら、早く誰かに総督の役目を譲られたらいいんじゃないですか」
「へっ……引き継ぎは進めてるに決まってる。で、どうしたんだよ。何か頭に来ることがあったんだろ?」
大翔くんの口からシーグヴァイラの周辺が勇み足を踏む可能性が高いと、悪魔の政治体制も含めて説明を受けたことが語られました。いっそ先手を打ってやろうかと思うぐらいには苛立ちを覚えたことも。
「全くお前は自分の女絡みになると、一気に物騒な考え方になるよなー。原因の元から根絶って、下手すりゃ冥界が滅ぶぞ」
「それにアガレス家の動きを抑えるために、これから私やアルジールが動く。シーグヴァイラ様が次に君に会われる時に、うまく同席させてもらえれば一番だがね。同じ七十二柱のシトリー家がバックについているぞと見せることで、周辺の暴走を制することにもなる」
「お父様、それは……」
「ちょうど皆さんが揃ったようだし、ここで公言しておこう。君が私達の娘達をどのように思い慈しんでいるのかは十分に見せてもらった。私達夫婦にとって、ソーナもセラフォルーも、彼女を保護してから一緒に暮らしてきた椿姫くんも……三人とも大切な『娘』だ。君がそんな三人の婚約者になることを、現シトリー当主であるサザトガ・シトリーが承認する」
「もちろん、サザトガの妻である私、アルジール・シトリーも貴方を……空知大翔さんを三人の婚約者として認めます。ふふ、先にこちらから言ってしまったら、ひょっとして肩透かしかしらね?」
「いえ……サザトガさん、アルジールさん。本当にありがとうございます。俺はソーナさんを、セラフォルーさんを、椿姫さんを……この命ある限り守り続けます。そして、彼女達が末長く笑顔でいられるように、全力で幸せにしてみせます……!」
深々と頭を下げた大翔くんが顔を上げた後、おぉー、とどこからともなく歓声が上がる。破顔したお姉様や椿姫までも大翔くんに抱き着いてはしゃぎ始めた。その様子を見つめる私の手にはそっと彼の手が重ねられていて、敵わないなと思う。そして、この人を選んで間違いなかったのだと。
「……ソーナの婚約話が一度、無くなった時から決めてはいたの。ソーナが自分で意中の男性を見つけた時は、異種族の者であろうと認めようと。ソーナと付き合う以上、シトリーの力の問題は避けて通れない。それを乗り越える、もしくは支え切れる男性であれば認める以外の選択肢は無いでしょう、と」
仮の話として、以前の婚約者と結ばれた場合は恋愛結婚ではないこともあり、私の力の目覚めを刺激する可能性は低いとみていたこと。また、目覚めかけても、子を早めに産むことで本能の欲求が緩和されるため、お父様達は対処のやりようはあると考えていたのだそうです。
なお、同じような体質を抱えるすずかさんの家族計画がこの後の夜のお酒の席で話題となり、すずかさんも両親の合意も取れており、大学一回生の時に出産するつもりだと堂々と答えたため、いっそ私もという話になりかけて、私がわたわたしてしまう羽目になりましたが、それはそれとして。
「まさか、セラフォルーと椿姫くんまでも同じ相手を選ぶとは思っていなかったがね。私としては複雑だが……セラフォルーの伴侶が見つかった喜びと、ソーナや椿姫くんが巣立っていく悲しさが同時に襲ってきたわけだから」
「お父様ぁ!? さっきから私への扱いがぞんざいじゃないかな!」
「少女趣味を前面に出して、公私も省みない格好で開き直っていたお前がどうして相手を見つけられると思う。まして、魔王という立場は余計にそれを難しくした。ゆえに、ある意味諦めもあったのだよ」
「大翔さん。セラフォルーのこと、ソーナや椿姫さん共々、どうか、どうか宜しくお願いしますね?」
「お母様まで念押し……?」
がっくり、と分かりやすいリアクションをするお姉様に対して、自然と笑いが起こる。キャロちゃんは『大翔さんがハーレムを着実に増やしていっているよ!』と瞳を輝かせ、エリオくんは『そこに憧れるの⁉︎』と即座にツッコミを入れていた。
「キャロ、ハーレムって言葉は誰から教えてもらったの? 黒歌? それともお姉ちゃん? ……そう、なのはが。ふぅん、今度帰ってきたらちょっとお話しないとダメかなぁ?」
フェイトさんが微笑みを浮かべているのに、底冷えのする声で友人への処罰執行を宣言してしまったり、黒歌やアリシアさんのこの種の話題への信頼の無さがハッキリする一場面が過ぎて行きました。
この後も結界内の一日を両親や大翔くん達とゆっくりと過ごした私は両親に認めてもらえた安堵感と共に、より切磋琢磨して自分を高めていかなくてはと心に刻んだのです。……認めてもらえたからと足踏みなんてしていたら、周りのライバル達にあっという間に差をつけられてしまうもの。
◇◇◇◇
「では、今日は失礼するとしよう。一度、冥界への正規ルートで入国するのは急いだほうがいいな。そうすることで、大翔くん達がシトリー領などに直接転移を行っても責められることもない。移動時間は二時間程度を見てくれれば充分だし、近々、皆さんで一緒に夕食会と行こう。あの手打ちうどんは非常に美味しかった。久方振りとなるが、今度は私の手打ち蕎麦を振舞わせてもらおう」
「夕食会の前に練習ですね、あなた」
結界内で一夜を過ごし、結界解除の時間が迫った頃、転移の扉を用意した後に、俺たちはサザトガさん達の出立の挨拶を受けていた。
アリサの両親であるデビッドさん達と特に意気投合したサザトガさん達は再会を本気で約束して、握手まで交わしていた。異国の出身で日本の文化を気に入った者同士、感じ入るものがあったらしい。
また、昼食や夕食、晩餐を経て、領地や大企業という違いはあれど『経営者』としての話がすずかの両親、征二さん達とも盛り上がっていた。俺やすずか達も同席して色々話を聞かせてもらって、貴重な体験談を書き留めさせてもらった。
アザゼルさんはこちらには参加せずにプレシアさんと開発談義に花を咲かせていて、終始ご機嫌だった。半分冗談で堕天使への転生を持ちかけてすらいたようだ。俺の駒に対する分析が進み、技術的に実現が間近に来ているから。
「大翔くん、改めて長い付き合いになると思うが、これから宜しく頼む。ソーナ、セラフォルー、椿姫くん。すずかさんやアリサさんの言うことをよく聴き、家族の輪を乱すことの無いように」
すずかやアリサ達との関係性や、それをソーナ達も承知の上で家族になる意思を確認したサザトガさんとアルジールさんは、ソーナ達へ改めて釘を刺していた。重婚制度をアリサやすずかが主となって実現させた話を聞いて、サザトガさんとアルジールさんはこの家族の輪はすずかとアリサから始まったことを知り、その事に敬意を払ってくれている。
「承知しております。大翔くんは元より、すずかさんやアリサさんあってこその、この家族ですから」
「ひーくんを一人占めできる時間割の調整とか、二人が細かいことは殆どやってくれてるからね〜☆ ほんと感謝だよ☆」
「すずかさんとアリサさんは秘書要らずですからね、現状でも。私や朱乃はよっぽど頑張らないと本当に公私共にお任せすることばかりとなってしまいますから……」
最後の椿姫の言葉に朱乃も苦笑いしながら頷いている。俺のスケジュール管理の補助も実際、すずかやアリサに手伝ってもらっていたりするから、俺ももっとしっかりしなければと思わされる。
「椿姫ちゃんも朱乃ちゃんも焦りは禁物だよ? 貴女達にしかひーちゃんやすずかちゃんは秘書を任せるつもりは無いんだから。……ん? あれ、アリサちゃんはどうするんだっけ」
「ソーナが経験を積むために秘書業をやってみたいと言ってくれているし、花戒に草下もその気のようだしね。というか、アリシアが私の補佐をしてくれてもいいんだけど?」
「うわあ、藪蛇だったよ。だが、断る!」
『自宅警備に私達は忙しいのだ!』
「駄目人間宣言するアリシアも愛らしいわ……」
「いや、そこは諭すべきだろ流石に」
「煩いわね、切り落とすわよ?」
「実際やりかねないから洒落ならねえぞ、おい!」
アザゼルさんの発言は親馬鹿のプレシアさんには通用しない。毒舌で返される始末だ。どうも、付き合いが短いはずのプレシアさんも含めて、周りのアザゼルさんへの扱いがどんどんぞんざいになっていく気がする。
「仕方がないさ。威厳ある姿を少しは見せればいいものを」
「あの総督が最強クラスの堕天使って事実を忘れそうになるマダオぶりだからなあ……」
ヴァーリや元士郎も呆れ顔や苦笑いで擁護のしようがないといった感じだ。アザゼルさんは一緒に開発作業してる時とかものすごく真摯な表情をしてるけど、そういう顔は普段見せないんだろうな……。
「ちなみにヴァーリくんも一度正規ルートで冥界入りしておくといい。自分で言うのもなんだが、私の蕎麦はなかなかのものだぞ?」
「俺は麺には相当うるさいと自負している。そんな俺の舌を唸らせられるか、実に楽しみだな」
『ぐぉおおおん! ヴァーリぃ! 強さを、強さを貪欲に求めるお前はどこに行ってしまったのだあ!』
「失礼な。俺は強さと至高の麺を追い求め続けているだけだ」
「ブレないよな、あんたも」
「お前とて強さと美味い麺には目が無いだろう?」
「……確かに言えてるわ。俺もあんたや大翔さんに毒されたかな」
サザトガさんの誘いにヴァーリが乗ったり、アルビオンが泣いてしまったり……なんだか、普段通りの雰囲気に戻ったところで、ソーナの両親との顔合わせは終わったのだった。
「大翔くん……あの、もう一度だけ、学校に行く前に……ね? まだ、足りないの……」
両親が宿泊したこともあり、普段通りの時間を取れなかったことで、艶めかしい吐息をこぼすソーナのフォローに走ることになって、結局、同じく朝の時間がしっかり取れなかった皆の相手をする羽目になったのは仕方のないことだったと思う。
◇◇◇◇
「……なんで一晩でそこまで事態が急変するの!?」
「部長、落ち着いて下さい。いや、僕も朝マンションに荷物を取りに帰って登校するまでにもう一つ大騒動になっているとは思いませんでしたが」
登校後、朝のホームルームまでの短い時間ながら、私やソーナ、椿姫は部室で昨晩から今朝にかけての一件を伝えていた。小猫ちゃんや黒歌も同席してくれているので、補助具がなくとも協力して封時結界は展開出来ます。現実時間の5分=結界内の二時間もあれば説明する時間は十分でしたから。この程度であれば魔力を極端に消費することもありませんし。
「ごめんなさい、リアス。でも、貴女には早く話をしておかないと思ったから」
「いや、別に謝る必要はないのよソーナ。ただ、あのシーグヴァイラにまで既に手を出していたとか、空知にその時の記憶がバッサリ無いとかもう……」
「手を出したという物言いは大翔さんに失礼ですわ、部長」
「言い方が悪かったわ。むしろ、シーグヴァイラが空知を取り込もうとしているんでしょうね。彼は異性への恐怖心ゆえに、心を通じ合った者にしか極力近づこうともしないわけだし。私やソーナの眷属達とも普通に話はするけれど、必ず側に朱乃達の誰かが付くなりしてるもの」
言葉の選び方が拙かったのを踏まえて、すぐに別の表現に置き変えつつ、リアスもシーグヴァイラ様に対する懸念を口にする。
「シーグヴァイラは眷属という形ではなく、家ぐるみで空知を囲い込むぐらいやりかねない。彼に好意を寄せ、かつ冥界にとっても利用価値が大きい存在となればね。だから、サザトガ様やアルジール様のバックアップを得られたのは大きいわ」
リアスにしても結界内での鍛錬や食事を共にする生活を幾日も繰り返す中で、異性の友人に近い感覚を大翔さんに持っている。一方の大翔さんは礼は欠かない程度のそれなりの対応といいますか……基本、対応は丁寧だけれど、友人に向けるような気安さがありませんもの。
「イッセーは今日は学校も休ませてゆっくり養生させているから、今晩にでもこの件は説明するとしましょう。今日はギャスパーとの顔合わせでもあるわけだし」
「分かりました、それでは晩は予定通りに」
「ええ、空知達へ再度伝えておいて。特に月村さんには丁寧にね」
大翔さんは呼び捨てなのに、すずかさんには分かり易い敬意を払うリアス。その様子がおかしくて少し笑みがこぼれてしまったのだけど、敵対する相手へのすずかさんの容赦の無さは私もよく知っているものですから、怒るリアスに私は、機嫌が直るまでしっかり謝り続けたのでした。
『朱乃! 堕天使の連中が動いたにゃ!』
そして、昼休み。駒王町を見張って回っている私の小鬼の使い魔と、同じく黒歌が察知した邪気の知らせにより、私は公園へと駆けつけたのです。リアスは先行する私に続く形で、アガレス家への連絡後に祐斗くんと転移する算段をつけていました。
なお、小猫ちゃんは黒歌と共に、この隙に動こうとする他のはぐれ悪魔や狼藉者の気配察知や排除に回り、リアス眷属が駒王町をしっかり統括しているという態勢を見せるために動いていました。
そして、時間をかけずに制圧。しかし、イッセー君は巫女姿のすずかさん達や私に目が行くあまり、確かに声は変えていましたけど、大翔さんやすずかさん達を認識できないままでした。……イッセー君らしいと言うべきでしょうか。
「冥界刑事アザゼルは戦闘の際、バトルスーツを装着するタイムは僅か0.05秒にすぎないっ。では、装着プロセスをもう一度見てみよう!」
「行くぜっ! 装っ! 着っ!」
「カッコいいです、アザゼル様っ!」
「すごいですっ、ものすごく輝いてますっ!」
大翔さんとの出会いを思い返して想いに浸っていた間に、おじ様は何度も変身を繰り返してアリシアさんが前口上を入れるという一種のテンプレートを繰り返していたようです。それに対して、拘束されたまま歓声をあげるレイナーレ。瞳を輝かせっ放しのシスター・アーシア。瞳の光がどんどん失われていく拘束された他の堕天使達。
「あらあら。カオスな状況になってしまいましたね」
話を進めることは連絡後にと、私はこの結界内の特殊空間からリアスへの連絡を取ります。リアスはリアスでイッセー君と合流を済ませており、おじ様もいるのであればいっそこのまま後処理を進めようということで、祐斗くんやイッセー君と共に結界内へとやってきたのです。
小猫ちゃんもこちらへ合流するためにフェイトさんが代わりに黒歌と一時的に駒王町に待機したり、ソーナ達が動ける態勢を整えてくれたりと、持つべき者は家族なのだとそんなことを思いながら、私達は単独行動を起こしていたレイナーレ達に相対することにしました。