※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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更新が滞り、かつ展開も代わり映えしない状態で申し訳ありません。
お目汚しになるかもしれませんが、何とか書きあがりましたので投稿させていただきます。


第93話 無限の母

 ヒロから感じた龍の気は無限の龍神・オーフィスのもの。気を少しでも緩めれば、一瞬で意識どころか命まで吹き飛ばされそうな覇気。叫んで言い返したのも、自分の屈しそうになる心を奮い立たせるためでもあった。

 

「口で言うのは簡単。制止できるだけの力がお前にはない。身につけるための研鑽も足りない」

 

 力も想いも、何もかもがまだまだ足りない──。そう言ったのは、ヒロ。オーフィスの龍の力を身につけつつあっても、護る為の力は不足だと言った。

 

「何より、お前には『覚悟』が感じられない」

 

「……オーフィス、もういい。お前が悪者になることはないよ」

 

「ダメ。大翔は甘い。我は言うべきことを言う。それだけ」

 

 オーフィスを止めるために触れられた手。彼女が見上げる視線の先には、ヒロが映っている。感情が見えにくい彼女の瞳に、ヒロへの憐憫の色が見える。少なくとも、私はそう感じられた。

 

「女悪魔、お前は知ったはず。大翔は守る者のために人であることを捨て、悪魔でも堕天使でも龍でも吸血鬼でも妖怪でもない、人の形をした何かとなった。変わらないのは、本人の覚悟と想いだけ」

 

 次に見たのは、すずかさん。向ける瞳の色は、憧れや羨望が混じったようなもの。

 

「そんな男に終生共に寄り添うと決め、誓いを立てた女。人の身から乖離していく相手に自らも人外へと変わることを選び、共にあり続けるのが自分の幸福であると心からそれを信じ抜いて、全てを捧げている。だから、進む道を迷うことはない」

 

 そして、オーフィスはもう一度私を見つめる。無のように見える瞳の奥に、真剣に問いかける意思があった。

 

「我はあの二人の行く末を見ていたいと思う。そんな我に二人は望む限り側にいればといいと言った。家族になろうと言った。仮に我が龍神で無かったとしても、結論は変わらないと。家族がいいものかどうか、それはまだ分からない。ただ、それを分かるまでは大翔たちと共にいる」

 

 今更ながら気づく。ヒロは自分が信じられるに値する心を差し示してくれる女性であれば、龍神や悪魔など多様な種族も、個々の持つ立場も関係ない。ヒロにとってはそれだけで十分なのだ。その彼を肯定し自分の意思で追随するすずかさんも同じことだと。

 

「オーフィスちゃん、ありがとう。でも、今日はもうおしまい。今日はヴラディくんとの顔合わせがメインなんだから、あまり脇道に逸れてもね」

 

 そのすずかさんが、ひょいとそのオーフィスを後ろから抱き上げる。今だ放出されているこの覇気を前にして、普段のような振る舞いが出来る。そのことに、お母様を含めた私達は言葉を失ってしまいます。

 

「それにせっかく、昨日ヴラディくんが気に入ってくれたクッキーもたくさん作ってきたんだし。食べられるのがどんどん遅くなっちゃうよ?」

 

「むぅ……そこを突かれると我も弱い」

 

 そして、収まっていく圧。馬鹿な……呟いたのは誰の声だったのか。龍神の怒りをすっと宥めてしまったすずかさんにも思わず畏怖の目が向いていく。

 

「シーグヴァイラさんの言葉を、私はひとまず受け入れます。ひろくん、それでいいよね?」

 

「……すずかがそう判断したのなら、俺も異存は無いよ」

 

「うん、ありがとう。ただし──」

 

 ひろくんと私達を何らかの力で引き剥がそうとするならば、そちらの世界ごと叩き潰すぐらいのつもりで対応しますので──宜しくお願いします。そう微笑みながら、私達へ警告するのだった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 「ひ、ひぇぇ……本当に、あの無限の龍神さん、なんですね?」

 

「そう、我は確かに無限を司る存在。だけど、このクッキーのような美味なものは生み出せない」

 

「た、確かに美味しいですけど……」

 

「なので、我はすずかや大翔の言うことを聞いている。我の望みを叶えただけでなく、色んな新しい世界を見せてくれるから」

 

 空知や月村さんの二人は何より物怖じする様子を見せない。心の内では恐れがあるにしても、それを絶対に表に出さない精神の強靭さを持っているように、私には映っていた。……私も最近普通に振る舞えるようになったけれど、結局慣れの部分も大きいものね。ギャスパーの反応がむしろ普通なのよ。正常ね、どこかホッとするわ。

 

「どうぞ、部長。お代わりを入れましたわ」

 

「ありがとう、朱乃。今日は少し酸味の強い葉だけど、クッキーの甘さに良く合ってるわね」

 

 さて、一触触発の場面を抜けてお茶会の時間となったものの、シーマリア様の警戒が解けるわけもなく、相も変わらず月村さんに鋭い視線を向けていた。ある意味貴族悪魔としての行動にブレがない辺り、アガレス家夫人ともなると命よりも誇りを取るのだと感心すらする。

 ……私? 命あっての物種よ。死んでしまえばその誇りすら守ることが出来なくなるのだもの。考え方が変わったとは以前の私を知る者は言うでしょうけど、なんというか常識の外で生きているような人達を見続けて命の危険にも頻繁に晒されると、人でも悪魔でも変わるのだ。私はそう実感したわ。

 

「貴女は一体……何者なの」

 

 その私にとっての畏怖の象徴でもある『TUKIMURASANです』などとツッコミを入れられるはずもなく、月村さんのシーマリア様への対処を静かに見守る。空知もたいがいだけど、その彼を支えるこの女性はなんというかお母様やグレイフィアと同じ系統の怖さがあるのよ。絶対に怒らせちゃ駄目な相手ってやつ。

 

「私はひろくん……空知大翔のフィアンセです。ですからパートナーとして、ひろくんの益に沿うように行動するのを指針としています。その過程で知識や技術、作法、魔術など、必要に迫られたことを必要なだけ習得しただけのことですから」

 

 クッキーを貪るオーフィスを膝上に乗せて微笑んでいるけれど、必要だからって生死の境を見るような鍛錬とか、異種族への実質的な転生を迷いなく飲み込むとか、私から見れば狂気の類に見えるわけで。好きな人と一緒ってそれだけでどこまで行けるのよというね……朱乃も最近その傾向が強まってるし、ソーナは最悪シトリーを捨てるのも仕方ないとか言葉を漏らしていたし、洗脳されてるとしか思えないところがある。

 

 実際には空知がそんな魅了系統の魔力を使っていないのは知ってるし、覚醒しちゃったソーナが無意識に空知へさらなる自分への好意を植え付けようとしてレジストされたりとか、捕食されてるのは空知の側だし。泣いて謝ったソーナを大丈夫だと慰めながら微笑んで抱き締めている辺り、自分の女に対しては本当にジゴロ感があるのよ。ソーナがさらに惚れ込み直したのは見ていればすぐに分かるもの。

 ああ……スケベだけどぶっ飛び過ぎてなくて一生懸命なイッセーや、弟みたいな可愛さがある祐斗が私の眷属で本当に良かったわ……。

 

「……オーフィスを冠する貴方がたとは互いに不可侵の契約をお願いしたいところですが、冥界も足並みが揃いませんし……」

 

「冠するというご理解でいらっしゃる限り、不可侵の契約も信じられるものではありませんけれど」

 

 バッサリと切って捨てる月村さん。彼女と目を合わせて、空知は一つ頷くだけ。オーフィスと上も下もない関係だと言われても、そうそう信じられるものではないのは私もそういう側で生まれた悪魔だからこそ良く分かる。シーマリア様は袋小路に陥るような心情になっているだろう。

 

「シーマリア様、やり過ぎたら堕天使勢力が完全に敵に回りますよ? 総督のアザゼルちゃんに幹部のバラキエルちゃんがひーくんの味方を公言してますから☆」

 

「……シェムハザ様もバックアップを約束して下さってますし、うふふ」

 

 ただ、セラフォルー様や朱乃の言う通り、既に堕天使勢力との友好関係を築いてしまってるのが空知陣営。日本の拠点には既に挨拶に行って、他の幹部との顔合わせもある程度済ませたみたいだし。占星術を司るコカビエルには会えなかったのが残念と言ってたけど、開戦派の筆頭だから会えたら会えたできっと面倒なことになったと思うのよね。

 

「ヒロの交友関係もかなりグローバルになってきたわね」

 

「今度、懇意にしている他勢力の神様にも挨拶に行こうって言われてますね」

 

「オーディンのお爺様にはちゃんとお伝えしないとねー☆ 旦那様が出来ましたって☆」

 

 あ、シーマリア様が絶句してしまったわ。こういうことを言われて、どんと構えている空知達がやっぱり例外なのよね……。というか、シーグヴァイラの落ち着きようは一体どういうこと? 月村さんと共に空知の隣をさりげなく確保して、オーフィスの口元についている食べかすを普通に拭ったりしてるし。

 

「さてと、ヴラディくんの抱える問題を色々聞かせてもらって、多分、お手伝いは出来ると思うんだ。短期的にはソーナが使っているような魔道具の眼鏡で神器の力を暴走しないようにして。あとはアザゼルさんに聞いたんだけど、トレーニングをすれば自分の意思で制御出来るようになれそうなんだ」

 

「え、ほ、本当ですか……!?」

 

「その、封印が解除されるわけではないから、俺やすずか達みたいに停止の影響を受けない者が出向いて、この旧校舎内か、あるいはどこか別次元に移動して取り組む感じにはなるけど……出るのはまずいんでしたよね?」

 

「まあね……私じゃ制御しきれないってことで封印されてるわけだから……ただ」

 

 そこでちらりとセラフォルー様を見る。私では無理でも上位者兼強者のセラフォルー様預かりとなれば、必ずしも出られないわけではない。

 

「その辺りはもちろんお手伝いするよ☆ だって私はリアスちゃんの眷属全員を鍛えて欲しいって最初にお願いしたんだしね☆」

 

「ひ、ひぇぇ……お外出るの怖いですぅ……」

 

「出るといっても、訓練場所への直接転移だからね。辛ければ人数も絞るから、少しずつやってみないか?」

 

「う、うう……」

 

「ギャスパー、一緒にやろうぜ! 大翔さんの訓練場所って大浴場や露天風呂完備なんだ! 飯も美味いし、ベッドもふかふかでさ! 今お前が座ってる、その風の魔法椅子がベッドになるような感じだ」

 

 イッセーががっしりギャスパーの手を握って力説する。その後ろでは空知が苦笑いしながらも、ギャスパーと目を合わせてしっかり頷いていた。

 

「好みの料理は出せるように頑張るよ。レパートリーも増えることだし」

 

「え? 空知さんが、作るんですか?」

 

「趣味の一つなんだ、一応。俺だけじゃなくて、すずか達と一緒に作ってるよ。お菓子作りとかはすずかや朱乃達がとても上手だから任せちゃうんだけどね、たいてい」

 

「……月村さんって、部長と変わらないレベルのお嬢様と聞いたはずなんですけど」

 

「ふふ、出来ることは自分でやりたいの。それに大好きな人に自分が作った料理を食べてもらうのって、やっぱり嬉しいものだから」

 

 和洋中なんでもやるし、自家製麺にあのスープはもう忘れられるものではないもの。そんなことを私からもギャスパーに説明すると、ラーメンは特にいいですと言われてしまう。なんでよ。

 

「ギャーくんなら手打ちのおそばとか良いんじゃないでしょうか」

 

「あとは海鳴ならそろそろ流しそうめんもいい時期ですわね」

 

 白音や朱乃の言葉で思い出す。封時結界の中にいて忘れがちだけど、二ヶ月ほど空知達の世界の方が暦の進みが早い。こちらが四月の終わりなので、向こうは六月の末。結界内だとじめじめする感覚も薄かったけど、確かに雨も多かったわ。

 

「あと、訓練場所だと時間をある程度気にしなくても良くなるかな。俺の得意系統が次元や時空に関する魔術でね──」

 

 一時間が一日に、という反則じみた話を聞いてギャスパーも驚き、シーマリア様も驚いていたわ。シーグヴァイラの騎士はほとんど思考停止に陥っているわね。

 

「仙術も空知さんのパートナーでは基本的な技術とか……そりゃ時間もあって優れた先生もいれば分かりますけどぉ……」

 

「ギャー君、髪とか肌のベストコンディションを維持するには必須スキルだから、皆必死に覚えるの」

 

「な、なるほど。僕も枝毛が出来たりして困るもん。大事だよね」

 

 私は知っている。仙術を躍起になって身につける空知のパートナー達の裏向きの理由を。女にとって身も心も蕩けるような男女の営みを知ってしまったあの娘達は、より気持ち良くなるための仙術の一項目である房中術を懸命に覚えるわけよね。

 そして教える側の黒歌や空知が基本を蔑ろにするのを許すわけもなく、身体能力の底上げが出来た女達の出来上がりというわけ。

 

「見てもらった方が早いさ。グレモリーさん、部屋にあるこの置き時計を借りてもいいかな」

 

「ええ、小型の結界を張るのね? 時間経過を分かりやすくするなら……そうね、グラスにでも入れて冷蔵庫の氷でも使う?」

 

「助かります。結界の内と外に置けば分かりやすいですね」

 

 朱乃の王である私や仲間であるイッセー達にも空知は随分と甘い部分がある。身内とみなしてしまえば無意識に守るべき相手、あるいは共に成長を促していく対象と見ている節が強い。

 お陰で私も魔力を的確に運用したり、あるいは威力を上げるために圧縮する技術が徐々に身についてきている。自分の力を正しく理解し、どう扱えばいいのか。そういうことを重ねてきた空知の経験は私達グレモリー眷属やシトリー眷属に本当に大きな財産を齎してくれている。あと、彼の思考の傾向も多少は分かってくるというものよ。

 

「ヒロ、結界の四方にあの子達を。私の時間経過を遅らせる結界を張るのに慣れているから、魔法具の役割を果たしてくれるはずよ」

 

「ありがとう、シーラさん。みんな、力を借りてもいいかな?」

 

 シーグヴァイラの使い魔的存在である四機のプラモデルが空知の周りをくるくる飛び回ることで同意の意思を伝えていた。その様子を嬉しそうに見守る彼女の様子に、シーマリア様がいろんな感情が入り混じった複雑な顔をしている。

 その後、いくつかの実証実験を行い、時間に関する魔力を使い熟すシーグヴァイラが虚偽や詐術が無い旨を保証する形で、大翔の時間に関する魔術が本物であり、かつ、シーグヴァイラの上位互換のような状況にあることがハッキリ示された。

 

「お母様、そんな顔をする必要はありませんわ。私はこの時間を引き延ばす魔術の力を借りながら、業務をこなしつつ鍛錬に充てる時間を増やします。時間に関する魔力を冠するアガレス家の次期当主であると内外に示してみせますから」

 

「シーグヴァイラ、私は貴女の考えていることが分からないわ……」

 

「そうでしょうか? 私はアガレス家のことはアガレス家のこと、ヒロとの交友はあくまで私個人としてのこととして考えているだけですが」

 

「貴女の立場がそれを許されるわけがないでしょう……今更それを分からない貴女でもないでしょうに……」

 

 立場。ちくりとその言葉が私の心にも棘が刺さる。……ライザー。私とて避けては通れない。だからこそ、私も空知の元で力をつけることに懸命になる部分が大きいのだ。




(閑話回とかでエッチぃのを書けばモチベは回復するのだろうか)
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