※この作品はR-18です。

朱が交われば深紅に染まる   作:ですてに

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少し文字数が普段より短いですが、切りのいいところで投稿します。


第98話 シトリー家訪問

「計画にはアクシデントが付き物だけどさぁー、マリウスってマジ無能じゃね? 精神が汚染されてるからってマトモな護衛もつけてなかったとか、その女王ごと聖杯が燃え尽きるってマジ無能! 無能宰相ー! 大事なことだから三回言っちゃったよ、キャハハ!」

 

「確かに聖杯の力で吸血鬼どもを改良したり、赤龍帝や白龍皇の髪の毛や血を得て、神器の複製をと考えておりましたが──まぁ、戦力を得るには別の方法もありましょう。吸血鬼のサンプルは十分確保出来ましたし」

 

「まー、聖杯のゲットも騒動を起こして退屈を紛らわすためだったからなァ。マリウスが抜くついでに一つ拝借するぐらいのつもりだったしぃ……だって、アイツ亜種の聖杯ってことすら、ちゃんと認識してないんだもんよー!」

 

「しばらくは駒王町に網を張ろうかと。あの人間共に離脱を一方的に宣告した後、行方知れずとなっているオーフィスの力を計測したという話もありますので」

 

「あー、au派とか名乗ってる連中ー? まあ、あの聖槍はちっと面倒だからなー。無効化の上を行きそうでよー、あーまじだるー。こそこそする方が暗躍してるって感じだし、いいんじゃね?」

 

「はい、しばし潜伏致しますがご容赦を」

 

「かまやしねーYo! その間にいっそ教会に殴り込んでマジモンの聖杯でも奪う計画でも立てとくわ、うん、それも退屈が紛れそうだ!」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 ヴラディ君の神器制御訓練が始まって現実世界で週末を迎えた頃、俺達は正式なルートを通って冥界入りしていた。駒王町の地下深くに悪魔専用の鉄道の発着場があり、そこからシトリー家の列車で正式なゲートを通って冥界入りとなっていた。

 銀河鉄道を彷彿とさせる行程で、こういうのが好きな俺とすずかは車窓からの景色を飽きもせずに見つめては物語の名シーンを互いに語り合っている内に、シトリー領に入ってしまっていたというオチもあった。セラやソーナ達といった家族達が俺達二人をとても温かい目で見ていたり、あとは今回の同行が認められたグレモリーさんだったり、一誠君や元士郎たちは何だか俺達を身近に感じられて良かったと口を揃えていたりした。これは今回お留守番となる、ギャスパー君(いい加減名前呼びにしようかって話になった)やヴァレリーさん、あと、エリオ君にキャロちゃんまでこの話を聞いたら、似た感想を持ったのだとか。

 

「大翔とすずか、とてもはしゃいでいて楽しそう。我も楽しくなった」

 

 すずかの膝上のオーフィスにまでこう言われては二人して赤くなるしかなかったんだけど、屋敷についてからは別の意味で大変だった。シトリー家の執事さんやメイドさん達に揃って『若様』と呼ばれるのだ。むず痒いものがあったけれど、サザトガさん達だけでなくセラやソーナが嬉しそうな顔をしているし、すずかやアリサ達への敬意もちゃんと向けてくれることも含めて、甘んじて受けるべきだと判断した。

 

「まさか、お父様や教皇様まで来るとは思いませんでした」

 

「駅でまさかの合流だったからね、俺も驚いたよ」

 

「テスタロッサ殿から連絡は受けていたのだが、予定の調整がギリギリだったのでね。シトリー殿には間に合えば行かせて頂くと伝えていたのだよ」

 

「教皇様まで動かれる必要はないとお止めしたのだが……聖王の後継となった君と教会の聖女となったカリムに関わるのだからと押し切られてしまってな……」

 

 カリムのお父さんは胃薬を飲みながらそんな風にボヤいていた。そのうち、娘が聖母とか呼ばれるようになる私の気持ちが分かるかねと問いかけられたけれど、そればかりはごめんなさいとしか言いようがない。俺はカリムを手放すつもりはないのだから。

 

「ヴァレリー、手打ちそばって美味しいね」

 

「でも啜るというのはなかなか難しいわ。あえて音を立てるというのも不思議な文化ね」

 

 サザトガさんの打った蕎麦をアルジールさんのお手製の麺つゆで頂く。二人の言う通り、本当にこれは美味い。箸が進み、自然とザルをお替りしてしまう。不意にヴァーリと目線が合い、頷き合う。そうだな、今はただ、この喉ごしを味わうべきだろう。

 

「ハハハ、これだけ夢中になって大翔くん達が食べてくれるのならば、頑張って打った甲斐があるというものだ」

 

 サザトガさんが満足げに笑う中、俺とヴァーリは無心となり、しばらくの間蕎麦をすすり続けていた。

 

 なお、留守番のはずの二人や正式には簡単に冥界入りできないヴァーリも一緒に食べているのは、シトリー邸と月村邸の大広間の扉を魔法陣代わりに転移術式で繋いでいるからだ。あとはその扉を全開放して長テーブルを両家の部屋を跨ぐように置けば、座る場所さえ間違えなければ、あくまで冥界入りはしていないというお話。

 魔法陣をずっと展開しているのと同じなので魔力の消費はずっと続いているけれど、皆魔力を分けてくれているから、会の終わりまでは余裕が持てる計算だった。

 

「我は無限。これぐらいの魔力供給は問題ない。えっへん」

 

「ふふ、ありがとうねオーちゃん」

 

「~♪」

 

 なお、堂々と俺達に同行して、今もすずかに頭を撫でられているオーフィスは……うん、誰が逆らえるかという根本的な話のようで、大公様も含めて一切触れない話となった。魔力の大部分を供給してくれているしね。

 

「また無茶をしたものね、ヒロ? 吸血鬼の女王の死を偽装して連れ去るだなんて。セラフォルー様から内々に話を受けたお父様やお母様も最初は頭を抱えていたわ」

 

 蕎麦をすするのに苦戦するヴァレリーさんを見ながら、同じく苦戦していたシーラさんがそんなことを口にする。

 

「なり行きと安っぽい正義感とその場の勢いが噛み合ったらこうなったんだ。でも、後悔はないよ」

 

「ええ、それでこそヒロだもの。ヒロと関わると決めたのなら想像の範囲内だと腹をくくって、どうこの縁を生かしていくのか考えるべきだとお父様やお母様には進言したわ。まぁ、お父様とお母様が手のひらを返すような真似をするようなら強制的に隠居して頂いただろうし、私もこうしてのんびりしていられなかったでしょうけど」

 

 ヒロとの関係を取り消せと言われても聞くつもりなど無いけれどと微笑んですらみせるシーラさんはセラからこの話を聞いた時、拍手しながら愉快そうに笑っていたんだそうだ。しれっと今も恐ろしいことを口にしているし、仮にそうなったとしても何とかしてみせるだけという肝の据わっているところがある。睡眠時間の確保は俺に頼んで何とか確保すればいいと、軽口を飛ばしてすらいるから。

 

「それにね、ヒロの悪魔側の第一夫人を私にするとかいうゴリ押しのほうがよほど頭を抱えたくなるやり方だって、しっかり言い返しておいたわ」

 

「変な話ですよね。大公様はその話題でサザトガさんと激しくやり合っているけれど、そもそもシーラさんと俺が夫婦になるのが前提というのがおかしいわけだし」

 

「……あら、貰ってはくれないの?」

 

「え?」

 

「私はヒロと夫婦になれというのならば、喜んで妻にならせてもらうわ。貴方と堂々と一緒に過ごせるなら、願っても無いことよ?」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 ……ひろくん、固まっちゃったね。シーラさんの好意が姉弟のソレだと思っていたんだろうし、予測の範囲ではあるんだけど。

 

「大翔様らしいといいますか……」

 

「そうだね、カリムさん。でも、シーグヴァイラさんはそんなの織り込み済みだったみたいだし」

 

 当のシーグヴァイラさんは落ち着いたもので、答えをすぐに出せというわけでもないし、私はどこへも行くつもりもないから落ち着きなさいと声をかけている。

 

「大翔様と夫婦になりたい気持ちに一切変わりはないから、そのうち受け入れてくれればいい。そんな感じですものね」

 

 アガレス家のご両親の方針が変わったのも大きいのだろう。シーグヴァイラさんが当主になるとしても、その次の当主は純血悪魔となる弟か妹が継ぐことになるらしい。結界内にご両親がちらほら顔を見せていたのはそのために励んでいたからだったようで。

 

「ソーナさんが腕を引っ張って、セラフォルーさんが背中から抱きついて、シーグヴァイラさんと取り合いになりましたね……」

 

「やり過ぎたら気を乱して、その隙に救出するから」

 

「はい、心得ております」

 

 向こう側の親側の話し合いも剣呑な雰囲気になっていたりもしたけれど、シトリー家とアガレス家でひろくんの意向を完全に無視したやり取りもあったために、私の怒りを察したオーちゃんがひろくんやセラフォルーさんが動く前に鎮めてしまった。物理的に。

 

「お前達、まとめて潰されたい? 大翔を蔑ろにするのは我に喧嘩を売ると思え」

 

 怒りのオーラを隠さないオーちゃんを収めたのは、朱璃さんやプレシアさん達、海鳴でオーちゃんを知っているお母さん達だった。飛鳥さんやヴィクトリアさんといった四人のお母さん達に抱き締められたり、頭を撫でられると、オーちゃんは静かにその矛を鎮めていった。

 

「アリサやすずかの両親、プレシアは本当に肝が据わってる。それに大翔のことをしっかり考えてる。あと、美味しいものもくれる。だから我も気に入ってる。あ、気に入ってるという意味だと、朱璃も一緒」

 

「たかが人間、その意識がどうしても抜けないんでしょう。超常的な力や肉体、寿命を持つ以上、此方はどうあろうと脆弱に映るのでしょうね」

 

 オーちゃんの手を引いて、こちらへと歩み寄ってきたプレシアさんは中級悪魔ならば軽く捻る力を持つ魔導師。身体を蝕んでいた薬物の副作用も私の血を少しずつ服用し続けたことで完治し、かつ肉体寿命も伸びている。

 話し合いの間もアリサちゃんのご両親や教皇様達をさりげなく守る位置について、警戒を怠ることはなかった。バラキエルさん達もいるし、心配はしていなかったんだけどね。

 

「限りがあるからこそ知恵を振り絞り、技術を高め、次の世代へと託していく……まして、聖王様という我らにとっての希望に次世代を引き継げる。それが叶う今、この老骨の何を惜しみ恐れる必要があろうか」

 

「まあ、あの魔力が実際に飛び交えば彼が渡してくれたこの御守りがなければ一瞬で消し飛んでいたでしょうな、我らは」

 

「その前に私がまず、打たせないわよ。バラキエルさん達も征二さんも勿論動く。それで数秒は稼げるし、大翔が黙っていないわ。瞬時に鎮圧にかかるでしょう」

 

 ひろくんへの師匠としての信頼。魔導師としての自負。そして──。

 

「アリシアとフェイトに産まれる孫に囲まれて楽しい時間を過ごすまで、衰えてなどいられるものですか。皺くちゃのおばあちゃんだなんて言われるわけにもいかないのよ。絶対にあの子達の息子や娘よ、愛らしく、かつ才にあふれ、いい子に育つに決まって──」

 

 うん、安定の親馬鹿さんだから。教皇様やカリムさんのお父さんの笑みが引き攣るぐらいに、今日もプレシアさんは平常運転だった。

 

「デビッド殿にも申し訳なかった。悪魔の強欲さ、お笑いになってください」

 

 オーちゃんの手加減マシマシの物理制止から復帰したサザトガさん達も今度は和やかに話を再開したみたい。

 

「ハハハッ、娘の幸せを願うのに必死になるのは人間も悪魔も堕天使も変わらぬということ。それに欲がなければ、こんな美味い蕎麦を打てるようにもなりますまい」

 

「デビッド殿……」

 

「ただ、我らの愛する息子は皆を本気で幸せにすることを優先に考え、そのために無理や無茶を通す男です。心配するべきは彼の身体や心の疲労。我らがしっかり見ておいてブレーキ役になるぐらいで、ちょうど良いのです。長く彼を見守れるのはサザトガ殿達しか出来ないこと。どうか末長く見守ってやって頂きたい」

 

「……お約束致しますぞ」

 

「あとは、経済面でのお付き合いも考えていきたいですな。特産品や魔術を組み込んだ技術で作られた家具などの調度品など、正直年甲斐も無く興奮してましてな、ハハハ」

 

「おお、こちらとしても願っても無いことです。領内の発展はシトリー家においても、アガレス家においても永遠の課題ですからな」

 

 デビッドさんの声に、ソーナさんやシーグヴァイラさんのご両親がそっと頭を下げ、そして順番に握手を交わしていく。続けて、アリサちゃんのお母さんであるヴィクトリアさんや私のお父さん、お母さんとも。改めてバラキエルさん達も手を取り合っていた。

 完全とはいかなくても人の強さみたいな部分を感じ入ってもらえたのなら、親同士の交友もそう悪くなることはないと思えて……少し私はホッとするのだった。

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