※この作品はR-18です。

闘技場~囚われの性少女~   作:ルーラー

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第二話   第一ラウンド―まずは正攻法で―

 ゴーンという開幕を告げる鐘が闘技場内に鳴り響き、ミリアとアシモフがそれぞれかまえる。

 仕掛けるタイミングを計る少女と、彼女のかまえを油断なく観察する合成獣(キメラ)。

 沈黙と共に訪れたしばしの膠着(こうちゃく)状態は、しかし、意外なことに銀髪の少女の問いかけによって破られた。

 

「――ひとつ訊きます、アシモフ。あなたは合成獣(キメラ)の素体(そたい)にされた、ただの人間ですか? それとも人権を剥奪(はくだつ)されるほどの罪を犯した、大罪人ですか?」

 

「後者、じゃな。じゃが、この在(あ)り方もそう捨てたものではないぞ? 娘。人間であった頃には得られなんだ技能(スキル)を数多く獲得でき、枷(かせ)をつけられているとはいえ、好物をいくらでも貪(むさぼ)り食らうことができるようになり、なにより、人間という括りから外れたことで、ワシを裁ける者も格段に少なくなった」

 

「そうですか。それは……よかった」

 

「よかった、とな?」

 

 首を傾げる老人に、ミリアは大きくうなずいて、

 

「ええ。あなたが合成獣(キメラ)を造りだす実験の被害者でなくてよかった。この手で命を奪っても問題のない大罪人でよかった。……いえ、むしろ積極的に倒さなければならない存在であってくれて、本当によかった」

 

 安堵の色が濃く滲み出ている少女の言葉に、アシモフは笑みを浮かべた。

 

「呵々(かか)、言うのう小娘。ひとつ忠告しておくが、人間(ひと)並みの知能を得た魔物というのは、お主が思っているより遥かに厄介なものじゃぞ? 竜種(りゅうしゅ)を相手どるほうが、あるいは、まだ楽かもしれんくらいにはな」

 

「そうですか。では、相応に警戒させてもらうとしましょう」

 

 そう言い終えるのと、どちらが早かっただろうか。

 腰を深く落とし、風を切って、少女はアシモフの懐へと飛び込んだ。

 そして気合い一閃、篭手(こて)をはめた右の拳を、引き締まった彼の胴体へと突き立てようとする!

 

 しかし、アシモフもおとなしく食らいはしなかった。

 とても機敏(きびん)とは称せない動きではあるものの、数歩退がってミリアの拳をかわしてみせる。

 

「――はっ!」

 

 そこにくるのは、少女の追撃。

 銀色の髪を翻(ひるがえ)らせ、回し蹴りを浴びせにかかる。

 それを右腕でガードし、アシモフは彼女からさらに距離をとった。

 

「おお、怖い怖い。序盤からそこまで飛ばすこともなかろうに」

 

「あいにく、私は一秒でも早くこの戦いを終わらせたいので」

 

 もちろん、観客席に座る貴族たちの目を意識してのことだ。

 長々と彼らの見世物になっているなど、ミリアには到底耐えられない。

 一方、アシモフはアシモフで、どう攻めたものかと考えていた。

 

 といっても、攻めあぐねているわけでは断じてない。

 思いつく攻撃手段はいくらでもある。だから彼は、単にどれから順に披露していくのがもっとも効果的だろうか、と思案しているにすぎなかった。

 

 そして思考の矛先は別の方向へと向かっていく。

 先ほどのミリアの回し蹴り。

 体術を使う女性の中には、敢えて丈の短いスカートを着用する者が少なからずいる。

 

 言うまでもなく、それは男性を油断させるための手段だ。対峙した男性を狼狽(ろうばい)させ、意図的に隙を作りだすための作戦なのだ。

 なぜ卑怯と誹(そし)られないのか不思議でもあるが、女性として生まれたという事実をも武器としているのだと言われれば、納得するしかない。

 そもそも、そのようなことに心を乱す男性のほうが愚かなのだと言われてしまえば、確かにそのとおりでもあるのだから。

 

 だが、いま対峙している少女はどうか。

 彼女が穿(は)いているのはスカートではなく、厚い生地の黒いタイツとショートパンツ。

 これは果たして、なにを意味するのか。

 

 正々堂々とした勝負を望み、女性として生まれた者のみが使うことのできる武器を敢えて封印している、ともとれなくはない。

 羞恥心に勝てず、そのような手段には訴えられないだけという可能性もありうるだろう。

 他にも、女性としての自分を武器にしようなどとは思いつきもしないくらいの初心(うぶ)な少女、というふうにも考えられる。

 

 どの推測が当たっていても面白い展開に持ち込めそうだ、とアシモフは心の中でほくそ笑んだ。

 だが、なにをするにせよ、まずは少女の足を止めなくては。敏捷性で劣っているというのは、やはり痛い。

 

 少し離れたところでアシモフに目を向けているのは、件(くだん)のファイターの少女。

 再び瞬時にして間合いを詰められれば、そこからの反撃は難しいものとなるだろう。

 だが、彼にとっては幸いなことに。

 彼女はファイターでありながら、『気功(きこう)』の技能(スキル)を用いて遠距離戦を仕掛けてきた。

 

「――たあっ!」

 

 深く落とされた腰。

 風切り音と共に振り抜かれる、少女の右の拳。

 ともすれば後退ってしまいそうになるくらいの気迫が込められた、青い瞳。

 

 そうして、ミリアの拳から蒼白い光の波動が放たれた。

 それに応じようとアシモフは尾を――尾の代わりにそこにある『蛇』を動かし、少女へ向けて大きく口を開かせる。

 膨張する蛇の胴体。その中で『気』が練(ね)られ――

 

 迎撃の波動が、蛇の口から一直線に放たれる!

 

 ミリアと同じく、アシモフも『気功』の技能(スキル)を有していたのだ。

 しかもランクはミリアよりも上のA。

 それで彼が押し負けるなどということは、起こりうるはずもなく。

 

 刹那の間もおかずに真正面から衝突した光の波動は、互いに弾け、消失する。

 それはむろん、アシモフが威力を加減したからに他ならない。

 ランクの差は絶対である。ゆえに、全力で激突していたのであれば、どうしたってミリアのほうが押し負ける。

 完全なる相殺など、どれだけの『気』が込められていようと不可能。

 そういうふうに、できているのだ。

 

 蛇の胴体は元の直径には戻らず、続いて口の中でバチバチという音を立たせ始める。

 それを察知したミリアは落としていた腰の位置を戻した。どのような攻撃がこようとも回避できるように、と。

 

 だが、アシモフの行動はミリアの想像の上をいく。

 彼は前足に力を込め、少女の頭上近くまで跳躍(ちょうやく)した。

 そして、そのままミリアの上に落下――は、しない。

 

 ――飛んでいた。

 背中から生やした翼で、アシモフは空中を泳いでいた。

 重力に逆らって。先ほどまでは存在していなかった両翼(りょうよく)を、馴染み深いもののように扱って。

 

「――そん、な……」

 

 驚愕のあまり、口から掠れた声を漏らしてしまうミリア。

 そんな彼女に、思い出したかのように雷(いかずち)の光線が解き放たれる!

 

「きゃっ!?」

 

 思わず悲鳴をあげてしまうミリア。

 しかし、怯んだのは一瞬のこと。

 水中に飛び込むような動きで、少女は反射的にその場から離脱した。

 そのまま二度、三度と地面を転がり、受け身を取ったあとの要領で立ちあがる。

 

 そうしてから先ほどまで自分が立っていたところを見てみれば、そこはかすかに焦げていた。

 手加減されたのだろう。もし直撃を受けていても、たいしたダメージを受けずに済んでいたであろう程度には。

 そのくらいのことが看破(かんぱ)できないミリアではなかった。

 

 手を抜かれたと知り、カッと頭が熱くなる。

 もう一度、右の拳を振りかぶり――

 

「…………」

 

 ――そこで、気づいた。

 空中に静止するアシモフの背後には、大勢の観客がいるのだという事実に。

 だが、彼女はすぐに思い直す。

 観客は全員、『闘技場』などという悪趣味な空間に好んで足を運んでいる貴族たちなのだ。

 そんな人種が何人死のうと、良心の呵責(かしゃく)に見舞われることなど絶対にない、と。

 

 再びミリアの拳から放たれる、『気』の波動。

 それに少しばかり意外なものを感じたが、アシモフの抱いたものはそれだけだった。

 冷静に、用意しておいた次弾(じだん)――火炎のブレスを蛇に吐き出させる。その姿は、さながら小型の竜種のよう。

 

 しばし、空中でせめぎあう波動とブレス。

 しかしエネルギーの総量はミリアの放ったそれのほうが圧倒的に多い。

 ゆえに、拮抗したのはほんの数瞬のことでしかなく、ほどなく火炎は波動に散らされた。

 

 火炎を蹴散らすことに成功した波動が向かう先は、宙に浮かぶアシモフをおいて他にない。

 翼を持つ彼になら回避は容易だろう。しかし、この合成獣(キメラ)は闘技場を運営している人間によって造られた『サーヴァント』。観客を見捨てて逃げることを、果たして許されているのだろうか。

 

 結論から言って、アシモフは波動の一撃を避けた。

 背にある両翼を羽ばたかせ、観客席の様子など気にかけることなく地面に降りた。

 そして、ミリアの放った光の波動は――

 

 ――バチッ!

 

 観客席に届く、その寸前に。

 見えない壁のようなものに阻まれ、弾け散った。

 どうやら、観客には絶対に危害が及ばないよう、強力な結界かなにかが張られているらしい。

 

 ――まあ、別に観客を狙いたかったわけではないし。

 

 そう思考を切り替えて。

 改めてミリアは、大地に降り立ったアシモフと対峙する。

 近くもないが、遠くもない。そんな距離。

 アシモフに飛行能力が備わっていると知ったいまとなっては、断じて楽観できる間合いではない。

 だが少女は、だからといって怖じ気づくことも、またしなかった。

 足に力を込めて地面を蹴り、裂帛(れっぱく)の気合いと共に突撃する。

 

 対するアシモフは翼を引っ込め、膨張させていた蛇の直径を本来の状態に戻し、さらにその表面からウロコを消失させ、ぬるぬるとした感触の胴体へと変化させた。

 それが完了するまでに費やされた時間は、まさに一瞬。

 彼が『変化(へんか)』という技能(スキル)を身につけているからこそ可能な、人間には到底真似のできない離れ業だ。

 

 むろん、『変化』の技能(スキル)を有している者であれば誰でも同じことができる、というわけではない。

 魔術によって合成獣(キメラ)にされたこと。

 アシモフの得た『変化』の技能(スキル)ランクがSにまで到達していること。

 その二つの事実が、瞬時の変身を可能とさせているのだ。

 

 アシモフの変化はまだ続く。

 尾である蛇の体長を長く伸ばし、近接戦闘に持ち込もうと近づいてくるミリアの足元を鋭く払う。

 

「――っと……!」

 

 ダメージを与えようというのではなく、ただ転ばせることだけを目的とした足払い。

 思わぬ攻撃に、少女は足元をすくわれぬように突進の勢いを弱めた。

 そこを狙い、蛇による足払いを連続して放つアシモフ。

 

 だがミリアとて、容易く転ばされたりなどはしない。

 横に、後ろにとステップを踏み、アシモフの繰り出す連撃をかわし続ける。

 しかし、避けるという行為は地味にスタミナを消耗させた。

 

 息が荒い。

 汗が目に入り、わずかに視界がぼやける。

 体捌(たいさば)きのほうも、明らかにキレが悪くなっている。

 これは、いまだけは回避のみに徹して、一度休息を挟んだほうがいいだろうか。

 そう少女が思った、その瞬間。

 

 かくん、と。

 ミリアの身体から、ほんのわずかに力が抜けた。

 本来なら、そこまで気にするほどのものではない。すぐに立て直せるくらいの、微妙な緩みだ。

 しかし、アシモフの足払いをまともに受けてしまうくらいには、致命的な隙となった。

 

 ミリアは気づいていなかった。

 アシモフの繰り出していた度重なる足払い。

 それを少女に向けて放つ度、彼はジリジリと彼女との間合いを詰めていたことに。

 

 そして、ミリアは知らなかった。

 ルールとして読みあげられはしなかった、『闘技場』の仕掛けた陰湿(いんしつ)にして淫靡(いんび)な罠。

 この闘技場内には、気化させた媚薬(びやく)が試合開始前から蔓延(まんえん)していたのだ、ということを。

 

 激しく動き回り、酸素を体内に取り入れれば取り入れるほど、媚薬という名の毒は、少女の身体を蝕(むしば)んでいく。

 試合開始前に彼女が闘技場側に望んでいたこと。

 『闘技場』におけるルールは、憎むべき、悪辣(あくらつ)にして卑怯なものであってほしいという彼女の願いは、裏切られることなく、すでに闘技場側によって叶えられていたのだ。

 

 足払いをまともに受けたミリアは、地面へと仰向けに転がされた。

 むろん、ダメージというほどの痛みはない。

 だが、起き上がろうとしたところで対峙していたアシモフに両の腕を掴まれ、強い力で地に押さえつけられてしまえば話は別だ。

 身体的なダメージはなくとも、精神的なダメージというものが生まれてしまう。

 

「くっ……!」

 

 圧倒的不利を悟りながら、しかし、気丈にもアシモフをにらみつけるミリア。

 だがむろん、それに気圧されるアシモフではない。

 露出度の低い、少女の服装。肌が見えるところなど、顔を除けば首筋と両腕くらいのものだろうか。

 その戦闘前までは白磁(はくじ)のそれを思わせるように白かった肌が、いまはほんのりと桃色に染まっている。

 

「は、離しなさい、アシモフッ!」

 

「お主はワシを笑い死にさせるつもりか? 離すわけがないじゃろう。さて、まずは手始めに――」

 

 口許を邪悪に歪め、アシモフは蛇を動かす。

 長く、細い胴体になっている蛇はミリアの胸元――銀色の胸当てと半袖の服の間に潜り込み、

 

「――ひゃっ!?」

 

「おっと、あまり動くでないぞ? 誤ってどこを咬(か)んでしまうかもわからんからな」

 

 ぬめっとした胴体を活かし、蛇はミリアの胸元を蹂躙(じゅうりん)していく。

 といっても、すべては胸当ての下で行われていることだ。

 観客にはなにひとつ見えはしない。

 

「……っ! ん……っ!」

 

 だが、それでも声を抑えようとするミリアの姿は効果があったようだ。

 少し遠く、観客席から歓声が聞こえてくる。

 見えないからこそ、そそられる。

 そこの様子を想像して、興奮できる。

 そんな性癖を持った人種の気持ちは、アシモフにもわからないではない。

 

 しかし、大部分の観客は満足しないことだろう。

 そう思い、アシモフは背中から二本の腕を生やし、少女の腹部へと向けた。

 その両手の爪は、悪魔のそれを連想してしまうくらいに長く、鋭い。

 

「なっ……!?」

 

 驚きもあらわに目を大きく見開くミリア。

 それにアシモフは平然と返した。

 

「なにを驚いておる? よもや、背から出せるのは翼のみだとでも思っておったのか? もしそうじゃとしたら、迂闊(うかつ)にも程があるのう」

 

 そして響く、ビリッという音。

 

「いやあっ!」

 

 だが、悲痛なミリアの叫びとは裏腹に、歓声はほとんど聞こえてこなかった。

 当然である。

 ミリア自身からしてみれば恥ずかしくて仕方のないことであっても、しょせんは腹部の布が破れておへそが露出しただけ。

 そういった格好で街中を歩く女性がいないというわけではないし、家で『ダンサー』を雇っている貴族たちからすれば、見慣れているといっても過言ではないのだから。

 

「なんじゃ。ヘソを出すような服を着た経験はなかったのか」

 

 さすがに意外そうにつぶやくアシモフ。

 だが責める手を緩めるつもりなど、彼にはない。

 

「いかんのう。女として見られる努力を怠(おこた)っては。いや、そもそもお主、自分が『女』であるという自覚に乏(とぼ)しいのではないか? まあ、それはそれでよいものでもあるのじゃが」

 

「な、なにを……っ! そのくらい、自覚しています!」

 

 ミリアからの反論は無視し、アシモフは背中から出現させた両腕でミリアの両足を掴んだ。そして馬のものである右前足を少女の腹部に静かに乗せる。

 

「――ひっ……!」

 

 恐怖にミリアの声が引きつった。

 そのまま力を込めて踏み抜けば、彼女の内臓は容易く破れることだろう。

 しかし当然のことながら、アシモフにそんな意図はない。

 焦らすように、右前足を下へ下へとずらしていく。

 

「本当に自覚できておるのかのう? まあよい、せっかくの機会じゃ。ワシがこの場で、直々(じきじき)に『女』の感覚というものを教えてやろう」

 

 そう口にし、老人は蹄(ひづめ)をミリアの股間にあてがった。

 足を閉じて防ぐなどということができないよう、両足を固定した、そのままで。

 

「い、いりませんっ! やめてください!!」

 

「遠慮は要らん。――ほれっ」

 

 少し力を込め、足をショートパンツに食い込ませるアシモフ。

 ときおり、ブルブルと足を震わせて振動を送り込みもする。

 

「ふぁっ!? ……んっ、んんぅ……っ! な、なに、これぇっ……」

 

「さあて、なんじゃろうなあ?」

 

 ニタニタという擬音が似合いそうな、下卑(げび)た笑み。

 アシモフは明らかに、意識してミリアの少女の部分――その中心に当たるよう、責めを加えていた。

 

 むろん、彼女が正常な状態にあり、一糸まとわぬ姿に剥(む)かれていたのなら、この強すぎる責めは苦痛しかもたらさなかったことだろう。

 だがいまは、ショートパンツと厚手の黒タイツ、それに下着という三重の防御と、口から吸い込んだ媚薬の効果がある。

 この行為に少女が快感を覚える条件は、充分すぎるほどに整っていた。

 

 しかし、それをミリアは理解していない。理解できていない。

 我流とはいえ、修行に明け暮れる日々を送ってきた少女なのだ。

 ゆえに彼女は快感を覚えるような行為などとは無縁であり、性感の存在すらも知らずに今日までの人生を生きてきた。

 

「……んっ! くっ……ふっ……!」

 

 無理やりに与えられる快感に両の拳をぎゅっと握り、目を閉じて唇を噛むミリア。

 こみ上げてくるものに耐えようとしているのか、腰をくねらせながらも、ときおり首をふるふると左右に振る。

 その姿からただよってくる色香は少女のそれを超えており、観客たちの目を釘づけにした。

 

「……あっ、なにか、なにかくるっ……! きちゃう……っ! こんなの……こんなの、変……っ!」

 

 そこでアシモフは、唐突に彼女の両足の戒(いまし)めを解き、前足を外し、胸当ての中で這わせていた蛇の動きを停止させた。

 

「――え、あ……?」

 

 荒い呼吸。

 玉のような汗。

 アシモフに向けられている、潤んだ瞳。

 急に中断された行為に、彼女は明らかに戸惑っていた。

 おそらくは、自分自身の身体の反応にも。

 

 その放心状態にも似た隙を突くように、アシモフは爪の形を人間のそれに変化させ、背中から生やしたその両手をミリアのショートパンツへと伸ばした。

 

「次は、このような邪魔なものを脱がせてからやってやろうかの」

 

「――えっ……、なっ……!?」

 

「安心せい、乱暴にはせぬよ。ちゃんと、この指でやってやろう」

 

「やっ、そ、そんなの……!」

 

「遠慮はせんでよい。――事実、気持ちよかったじゃろう?」

 

「――そんな、ことは……」

 

 顔を真っ赤にし、うつむくミリア。

 カチャカチャと音をさせながら、アシモフはショートパンツのボタンを外しにかかる。

 

「やっ……、だめ、ですっ……それは、だめっ……」

 

 弱い拒絶の声が、少女の口から発せられた。

 だが、老人はかまわずボタンを外し、チーッとチャックを下ろしていく。

 と、そのときだった。

 

 ゴーン、という鐘の音。

 まさか、いまの一連の出来事で自分の戦意が完全に喪失(そうしつ)したと判断されたのだろうかと、ミリアは瞬時に蒼ざめた。

 しかし、幸か不幸かその懸念(けねん)は外れることとなる。

 

『えー、一定時間が経過しました。これより、両者には休息の時間に入ってもらいます。ミリア選手、アシモフ、闘技場の端へお戻りください』

 

「ふむ、いいところじゃったんじゃがな、時間切れか。惜しいのう」

 

 そうつぶやき、アシモフはミリアを解放した。

 そして闘技場の端に歩いていき、設置されている簡素な造りの椅子に器用にも腰かける。

 

『ミリア選手? ミリア選手も闘技場の端へ。戦闘の再開は五分後となります』

 

「――あ、は、はい……」

 

 胸に宿る感情は安堵なのか、それとも落胆だったのか。

 いまひとつ判然としないまま立ち上がろうとし、そこでようやくミリアはショートパンツが脱げかかっていることに気がついた。

 

「――っ……!」

 

 慌ててチャックを上げ、ボタンを留める。

 そして、おへそが露出したままの腹部に目がいき、顔から火が出そうな心持ちになりながら手で隠した。

 それから闘技場へと入場したときにくぐった扉のほうへと向かい、そこに用意されていた簡素な椅子へと腰を下ろす。

 

 訪れる、しばしの休息の時間。

 しかしミリアは、それを単純に身体を休める時間とはできなかった。

 彼女は頬を赤く染め、落ち着きなく観客席を見回す。

 露出している腹部を右手で隠し、先ほど脱がされかかったショートパンツの股間部分に左手を置くという姿勢で、だ。

 

 そんな彼女の姿を遠目に眺めながら、アシモフは思う。

 その羞恥に歪む表情が、隠そうと努力する仕草が、男性の情欲をどれだけ刺激するのかを、ミリアはまったくわかっていない。

 だが、五分間の休息は、その実、五分間の拘束に他ならないのだということくらいは理解できただろう。

 当然、今宵の『戦い』がどのようなものであるのかに関しても。

 

 そして、大勢の観客に視姦(しかん)されながらの休息の時間が終わり。

 第二ラウンドの始まりを告げる鐘が鳴る――。

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