ティアを犯したその後、俺は重要なことに気がついた。
「まだイオンにもジェイドにもアニスにも会ってねぇ!」
エンゲーブに来たってのに彼らに会わなかったら片手落ちじゃんかよ。俺はティアとの情事の片付けもそこそこに、エンゲーブ代表のローズ夫人のもとを訪れた。
「すいませーん」
人が集まっているな。どうやらちょうど導師イオンが食料盗難事件の犯人を探り当てたあたりに遭遇できたらしい。緑色を基調とした法衣の男の子。導師、世界を牛耳る宗教組織ローレライ教団の最高責任者だ。それに青色のマルクト軍服を着た男性。ジェイド・カーティスだ。
(よかった~。ここでこいつらに会わなかったらどうしようかと思ったぜ)
エロに精を出しすぎて死ぬなんて笑えない。
「……ん? なんだいあんたは?」
群集の一人である男がそう言ってくる。えーと、ここで言わなきゃならないことは……と。
「……あ、ああ。俺はルークってんだ。連れの女と二人連れで旅をしているんだよ。タタル渓谷の方から辻馬車で来たんだが、盗賊がローテルロー橋を爆破しちまってな。一大事だと思ったから村の代表の人に報告しておこうかと思ってよ」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。盗賊、漆黒の翼を追い詰めていたのは私の軍ですから。ローテルロー橋が破壊されたことは既に伝えてありました」
ジェイドがそう言ってくる。
「そ、そうか。じゃあ俺はもう用ないから宿屋に戻らせてもらうよ。んじゃな」
俺はできるだけ挙動不審に見えるように振る舞うと、宿屋に戻った。これでよし。擬似超振動の発生は陸上装甲艦タルタロスの計器でも観測していただろうから、タタル渓谷から来たと言えば怪しまれたはずだ。後は、明日の朝にでもイオンが北にあるチーグルの森へ向かうはずだから、それを止めないとな。
§
翌日になった。あの後ティアには新たな命令をかけておいた。
俺にやられたエッチなこと、また俺の持つ催眠能力は誰にも話すな!
俺との性行為に関する思考・感情で、人前で俺に対して不審な行動をとるな!
とな。一番いいのは昨日の記憶を消してしまうことなのだが、そんなもったいないことできるか! あんな素晴らしい体験をティアから忘れさせるなんて冗談じゃない。彼女には俺に犯された記憶を保持したまま一緒に旅を続けてもらおう。ふふふ、斬新な責めだろ? あと、ただ単に他人に話せなくなるだけじゃ、第三者がいるところで俺を睨みつけたり、俺のことを信用するなとか言ったりできてしまうので、そういった行動を取れないようにした。人のいる前では俺に対しては普通の態度しかとれないのだ。これでティアは俺をレイプ魔だと言いたいのに言えない苦しみに煩悶することだろう。ひひひ。
さて、それじゃイオンを止めに行きますかね。ティアには村から出て行くのを見かけたとでも嘘の情報を伝えればいいか。俺はまだ股の間が痛んでひょこひょこしているティアに話し掛けた。
や、やっと見つけた。本当に見かけたの? というティアの視線が痛くなるくらいの距離を移動してイオンに追いついた。イオンは食料盗難事件の犯人である魔物(イオンは聖獣とか言ってたが、あんなやつら魔物で充分だ)を求めて北の森へ行こうとしていた。まったくアホかっつーの。魔物や盗賊が横行しているこの世界で自衛の手段も持たない奴が一人で行動するなっつーの。厳密に言えば自衛の手段は持っているのだがそれを使うと体力のないこいつはぶっ倒れるからな。
俺とイオンの部下にあたる
「ありがと~ございますぅ~」
十三歳の子供軍人であるアニスはうざったい口調で、三十五歳のおっさん軍人であるジェイドは慇懃無礼にお礼を言ってきた。アニスは十三歳らしく矮躯にピンク色の軍服だ。黒髪を短いポニーテールにしている。肌はわりかし浅黒い。ったくそれにしても、護衛役なら一時も離れずに護衛してろっつーの! ジェイドも、お前皇帝の命令を受けて仲立ちを願い出たんだから、導師であるイオンを一人で行動さすなっつーの。ちゃんとマルクトの兵士をつけておけよ。
村に戻った俺達は村の入り口で別れた。……うーん。まいったな、このままじゃ原作のようにタルタロスに連行されないぞ。どうしよう。そうやって悩んでいると、昼食の前にジェイドが部下の兵士を数人連れて俺達のところに来た。
「お二人はタタル渓谷から来たと言っていましたね? であれば少しだけ事情をお聞きしたいのですが」
そうして宿屋の一室で尋問が始まった。その結果、俺達は無事(?)陸上装甲艦タルタロスに連行された。
§
「
ただいまタルタロスの船室である。俺とティアは大きめのソファーに二人して腰掛けている。第七音素の反応というのは俺とティアの間で起きた擬似超振動のアレだ。
そんで尋問されている内容だが、そりゃあ俺は旅券を持ってないから不正入国と言われればそうなんだろうけどさ。でもそれって睡眠ガスとかで眠らされた人間が眠っているうちに運ばれて、国境を超えさせられた場合でも不正入国の罪で裁くって言っているようなもんだぞ。
なので俺は説明した。俺と暗殺者ティアの間に起きたことを。
「ティア……何故そのようなことを」
ティアの上司にあたるイオンが困ったことになったというようにティアを見る。実際ティアのやったことはバチカルとダアトの間で国際問題になりそうなくらいやばいことだからな。そう言うのも当然か。
「……ってな訳で俺は確かに旅券を持っていないけど、完全に被害者なんだよ。そこのとこを斟酌してくれるとありがたいね」
「……まあ、いいでしょう」
それで不正入国の話は終わり、次は宗教組織ローレライ教団の長、イオンとマルクト帝国の大佐であるジェイドが一緒にいる件についてこちらが問いただした。その結果、マルクト帝国からキムラスカとの和平の使者として派遣されたジェイド。イオンは両国の和平を仲介する役目で同行していることを聞きだした。そして和平について俺も協力することになったのである。今のキムラスカとマルクトは十六年前のホド戦争、その当時に近いくらいの緊張状態にある。それを憂慮したマルクトの皇帝が勅命を出してジェイドを使者として送り出したって訳だ。俺はキムラスカ、首都バチカルまでこの身を保護して送り届けてくれるなら、と言う条件で協力を約束する。
「バチカルに送り届けてくれるならなんでもいいや。バチカルについた後に国王や父上達に口利きすればいいんだよな?」
「……軽薄ね」
ティア、うるせーぞ!
§
さて、和平への協力を承諾したところで戦闘である。またまた超展開だが、ダアト自治区から無理やり連れ出された(ジェイドの野郎が暴動まで起こして連れ出したらしい。アホか)イオンを取り戻そうと、ローレライ教団の軍事組織であるオラクルがタルタロスに襲撃をかけてきたのだ。魔物使いアリエッタがいるので多数の魔物と兵士が一緒になって襲撃してきた。そんで今目の前にいるのが……。
「オラクル六神将黒獅子のラルゴ、貴方の名前はよく知っています」
この黒獅子のラルゴって訳だ。すげーガタイ。ジェイドラルゴと対峙する。ラルゴはできればここで殺しておきたいなぁ。よし。
「こーのやろう!」
「あ、ルーク待って、迂闊に前にでたら!」
ティアが止めてくるのも何のその、俺はいかにも「状況がわかっていない馬鹿な貴族の坊や」らしく突撃してみせた。ガキーンと音を立てて俺の剣とラルゴの鎌が鍔迫り合いになる。よし、これでいい!
このまま鍔迫り合いを続けろ!
俺はラルゴと目を合わせて絶対催眠をかけた。
「ジェイド!」
俺がジェイドに合図を送ると、その前から詠唱してましたとばかりに、すぐにジェイドの譜術が炸裂した。ラルゴはバックステップしたりしてかわそうと思ったようだが、何故か体が動かずまともに譜術を食らった。術を食らって体勢を崩した瞬間を見逃さず、俺は剣を振るった。
ザシュッ!
俺の剣はラルゴの胸板を切り裂いた。いやまだまだだ。原作はここでとどめを刺さなかったからラルゴは生き長らえたのだ。俺はとどめとばかりにラルゴの首に突きを放った。……ラルゴは鮮血を噴き出しながら倒れた。よっしゃ、ラルゴは死んだ!
「……ふむ? 何だか噂のわりに手応えがない相手でしたが……まあいいでしょう」
余裕だな。こっちは初めての人殺しで気分最悪だってのに。自分操作自分操作。吐き気を消して、精神的ショックも消して、精神を平静に戻して……と。いやぁ便利だなぁこの能力。
「ブリッジを取り返しましょう。ティア、ルーク、手伝って下さい」
「わかりました」
「わかった。それにしてもイオンは無事かな。さっきアニスが向かったけど」
向かった、という表現が正しく、あのクソ護衛役はイオンの傍から離れていやがったのだ。あいつホント仕事しないよな。まあ実はイオンを裏切っているスパイなので当然なのかも知れないが。
「……彼らの狙いはイオン様です。ですが取り返しに来たのですから危害は加えられないはずです。とりあえず、敵に占拠された
……まあ俺もそこまでイオンを心配している訳じゃない。ジェイドの言う通り危害は加えられないだろう。イオンが大事なのは、世界各地のセフィロト(星のツボ。大地のフォンスロットの中でも特に強力な十箇所のこと)を守るダアト式封咒(ダアト式譜術という特殊な術でしか開錠できない扉)を解く為に必要だからだ。俺個人としては原作のルークのように友情とかを感じてる訳じゃない。
(ま、どーでもいいか。俺はエロいことさえできりゃそれでOKだし)
§
ブリッジへの道は簡単に移動できた。原作と違ってジェイドが
そして今は、我が屋敷にも侵入する際に使用したティアのナイトメア(食らった奴らは無条件で眠る)で見張りの兵士を眠らせたところだ。
この後だな。原作でアッシュが初登場した時だ。俺は自分の魂に刻まれた原作の知識を、自分操作能力を使って思い出しつつ、アッシュの襲撃に備えた。つってもまあ、原作通りにするだけだ。あのクソ野郎は憎いが、あいつは後で地獄を見てもらう。ここで捕まえたとしても、俺が想定する地獄に突き落とすにはバチカルに行かなきゃならない。人を一人拘束したまま移動するというのはそう簡単にはいかない。様々な制約がかかる。どうせなら自分の足でバチカルに来てもらうか、何十人と言う自分が動かせる兵士で拘束するかのどっちかでなきゃ。だからここでは倒さない。
ブリッジに入ったジェイドとティアを尻目に、見張り役を割り振られた俺は、ティアの術を食らって倒れている兵士を蹴るという原作通りの謎行動(?)をした。起きあがった兵士を戦闘の果てに倒した……殺した俺はそのままぼーっと立ち尽くした。
「な、何が起きたの!?」
ティアとジェイドが戦闘音を聞いてブリッジから出てきた。
「この出来損ないが!」
第一声がそれかよ。このクソオリジナル野郎! 俺は一段高い場所から放たれたアッシュの譜術を食らった。まともに食らうフリをして、急所に当たる直前少しだけ体をずらして攻撃を受け、倒れこむ演技をする。ティアは……まともに食らった。攻撃の直前に掛け声されているのに。ホントにダメダメな女だなぁ。ジェイドはさすがと言うべきか、さっとかわした。俺は倒れて気絶しているフリをしながら奴らの会話を聞いた。
「そいつらを殺せ」
「アッシュ! 閣下の命令に背くつもりか、それとも我を通すつもりか!?」
出たな、魔弾のリグレット。お前も後でヒィヒィ言わせてやんよ。
§
俺達は武器を取り上げられ(ジェイドは俺とティアを人質に取られて無力化された)、艦の牢屋に閉じ込められた。
「っと。悪かったなジェイド。足を引っ張っちまって」
「気がついていたのですか」
「食らう直前急所を避けたからな。気絶したフリしといた」
「………………」
それなら人質に取られんなよ、という目で見られる。だ~が知ったこっちゃないね~。それより脱出だ。一人気絶しているティアを起こし、ジェイドが隠し持っていた(ボディチェックくらいちゃんとしろよオラクル!)爆薬で鉄格子を破壊した。次にジェイドだけが知る秘密コードで艦内の機構を全てシャットダウンし、俺達は脱出した。イオンを連れて外に出ていたリグレットと鉢合わせたが、
「ガイ様華麗に参上!」
うちの使用人のガイが助けに入って、リグレットと艦の中から出てきた妖獣のアリエッタは艦内に閉じ込めた。ガイはマルクトに飛ばされた俺を捜索しに来てくれたのだ。
しかしタルタロスか……あのさぁ。艦を航行させる最小人数すら揃っていないから放棄したんだろうけど、後々のことを考えればここでタルタロスと別れるのはどう考えても悪手だぞ、アホのジェイドさんよ。
そして、俺達は近場にある町、セントビナーに行くことになったのである。
後書き
斬新な責め(どこかで見た光景)。
え? ラルゴは原作以上に悪い状況での死亡に当たるんじゃないかって? 原作通りでしょ? それに原作では結局最後に死んでいるんだし、「原作より悪い死亡」には該当しないっしょ。