視界に舞う桜色の吹雪。誰もが目を奪われる景色のなかで、一人の少女を見ていた。桜並木の下、艶のある長い黒髪を風に躍らせ、桜を見上げる彼女。真っ白な肌と大きな瞳。穏やかな笑顔を浮かべる彼女に見惚れて、時間が止まったように錯覚した。
それが、彼女との出逢いであり、再会はその数十分後。入学式を終えて戻った教室で、である。緊張で辺りを見渡す余裕がなかったせいで、彼女の存在に気付けなかった自分を呪いたい。窓側に座る彼女は外を見ている。ここからでも、正門前の桜並木が十分に見える。彼女の横顔を見ているだけで、心臓の鼓動が強くなる。そんな気がする。話しかけたい。声を聞きたい。あの笑みを真正面から見たい。あぁ、これって――――
――――恋、なんだ。
生まれて初めて恋をした。それも、正真正銘の一目惚れ。名前も知らない彼女に恋をし、その事実に驚いた。そうこうしているうちに、担任の教師が現れ簡単な挨拶と共に、自己紹介をする流れとなった。
――彼女の名前を知ることができる。
先生は次々に自己紹介を進めさせ、とうとう彼女の番となった。
窓側の席に座る彼女は、窓を背に自己紹介を始めた。
――彼女の名前は、みはしゆかな。三つの橋に、夢が叶うとかいて、夢叶。綺麗な名前……。
彼女の名前を反芻しているうちに、とうとう自己紹介は自分の番になっていた。簡単に自己紹介を済ませ、すぐに座った。でも座る直前に、彼女が、三橋さんが笑いかけてくれた気がした。それだけで、十分だった。
その日の放課後、
「ねぇねぇ」
帰り仕度を整えていると、三橋さんが話しかけてきてくれたのだ。
「君ってあの時、私と一緒で桜に見惚れてた人だよね? やっぱりすごいよねぇ。あ、改めまして、三橋夢叶です。夢叶って呼んでくれる?」
……びっくりした。顔、近いんだもの。ぐっと近づけられた彼女の瞳は本当に大きくて、吸い込まれるような錯覚に陥る。それに、長い睫毛もきめ細かい肌も、ほのかに香る柑橘系の匂いも、全部が全部、ドキドキする原因になって……それに、視線が泳いで目に飛び込んできたのは、彼女の大きな双丘。自己主張……激しいにも程があるでしょう! て、ていうか……。
「えっと……見惚れていたのは、君に、だよ……」
「あはは、君って面白いこというね! あ、君のこと、名前で呼んでいい?」
……口に出すつもりのなかった言葉だったけど、彼女の笑顔を見れたなら、それでよかった。彼女と、仲良くなりたい。
「もちろんだよ、夢叶」
「ありがとうね、葉月」
私、八坂葉月は……女の子に恋をした。自分も女であることなど、忘れる程に彼女―三橋夢叶―は魅力的なのだから。