……とかなんとか、そんな言い訳。
「……ぬ、異界化しよった」
白のブレーザーと黒のスラックス、そして赤のネクタイでその身を装う学生らしき少年が呟いた。
舞台となる地域はどこぞの地方都市。
この世に存在する悪魔という存在を知り、その悪魔の巻き起こす問題ごとと関わる事で生活を営む少年は、己の居る自然公園の雰囲気が塗り替えられる様を目と肌で感じていた。
晴天の蒼い空は黒ずみ、撒き散らされた魔力が大気を汚染し空気を淀ませる。精神衛生を考えると長居する事に価値を見出せない空間が展開されたようだ。
「ねぇ、そこの人間」
「何だい御嬢さん?」
頭上から掛けられた声に、少年は何でもないと言いたげな態度で振り向き、それを視界に納める。
幹の太い木の、これまた太い枝の上に腰かけている10歳かそこらの年齢の少女。
民族衣装を彷彿とさせる赤い服と、冬場に重宝しそうな厚手の白タイツ。紫の長い髪と、同じ色の神秘的且つ怪しげな雰囲気を醸し出す瞳。
全体的に見れば、10人が10人とも美少女と答えるであろう存在がそこには居た。
浮世離れした魅力の少女は、眼下に居る少年を挑発的な笑みで見下ろしている。
(モー・ショボー、ね……)
心の内で少年が呟く。
モー・ショボー。
悪しき鳥の名を冠する悪魔。
愛を知らぬ死霊。
そして、美しき貌を備える美少女。その一点こそが少年にとっては何よりも重要だった。
(よし、この娘にしよう)
少年は良からぬことを考えつつ、舌で唇を舐める。
「私、お腹が空いたの。だからぁ、マグネタイトか脳みそ、ちょうだい?」
モー・ショボーは枝から降りて少年の眼前に歩み寄ると、上目の媚びるような視線で物騒な事を口走る。
その様子に、モー・ショボーが己をただの獲物としか捉えていないのだと少年は考える。
(ならば、好都合だ。もしも善良且つ友好的なヤツが出てきたらどうしようかと思ったよ)
その様子に安心した少年は、これから己が行う非道に胸を躍らせていた。
「? どうして人間はニタニタと笑っているの?」
「どうしてかって? それはね、これから面白い事をするからだよ」
「? ? ?」
口の端を吊り上げて笑う少年は、不思議そうに首を傾げるモー・ショボーを見つめながら後ろ手に両手を組み、そして呪文を呟いた。
「――――トラポート」
「? ……ッ!! ッ!?」
青年の呟いたトラポートという呪文。
その魔法の効果は空間の転移であり、悪魔関連の業界では中々に重宝される魔法である。
モー・ショボーもそれを知っていたが、それを唱える意味がさっぱり解らなかった。
しかし直ぐに理解する。
何故なら、己の素肌とタイツを隔てるモノの感触が無くなったのだから。
ばっ、と音を発て両手でスカートの前を抑え込んだモー・ショボー。その眼は信じられないと言う思いと羞恥の色を混ぜた視線を少年へと送る。
ニヤ付いた少年は、後ろ手に組んでいた手を前に持ってきた。
「へぇ、白地に水色の星、水玉、ハートの散りばめられたパンツか。中々に可愛らしいモノを履いているっじゃないか」
ほかほかである、そんな言葉を吐きながら、少年はその女児用のショーツを指で摘み眼前へと持ってきて観察する。
眼に湛えていた羞恥が顔に流れだし、モー・ショボーの顔面は突如として火事に見舞われた。
「な、……なッ!?」
モー・ショボーの視線が己の下半身と少年の手に有る女児用ショーツを行き来する。
その脳内は混乱の極致に有った。
「取り敢えず、これは貰っておこうか」
「も、もらうなぁ!?」
叫び声と共に、モー・ショボーはザンを放つ。
しかし、少年はトラポートによる転移でこれを回避した。
そして少年はモー・ショボーの後方へ回り込むと抱え込む。
「ああ、小さくて愛らしいなぁ……」
「きゃぁ!? いや、はなし、はなせぇっ!!」
少年の腕の中でモー・ショボーがジタバタと暴れる。
そんなモー・ショボーの首筋へ、少年は己の鼻っ面を埋めて若すぎる女の匂いを堪能し始めた。
堪らないのはモー・ショボーの方である。
吸引に伴う冷たい風が吹いたかと思えば、湿気を伴う生暖かい空気が送り込まれ、それが何回も往復するのだ。
少女の背中を、ぞわぞわと言葉にし難い感覚が駆け抜けていた。
「ゃぁ……、ぃゃぁ…………っ」
次第に少女の声音はか弱くなっていく。その眼尻には羞恥心による涙の粒がにじみ出ていた。
その様に興奮したのか、少年はモー・ショボーの顎に手を当てるとその顔を己の方に向かせ、モー・ショボーと己の唇を重ね合わせた。
「ん…………」
「ふむっ!? むーっ!! むむーっ!!」
その行為にモー・ショボーは抗議の声を上げるが、口が上手く動かせずに声にならない。
少年は構わず舌を伸ばし、少女の口内を蹂躙する。粘膜と粘膜の擦れ合う感触に、モー・ショボーはイラつきにも似たむず痒さを覚え始める。
その様子を見て取った少年は手を下へと伸ばし、少女の未成熟な尻へ当てすりすりと撫で始めた。
己の尻を這う掌の感覚に抗議の声を上げようとするモー・ショボー。
しかし次の瞬間、モー・ショボーは尻を撫でられる事が些末事に思える程の衝撃を味わう事となる。
「むぐぐっ!? (……なに、これ。人間の口から何かが流れ込んでく、る。まさか、生体マグネタイト!? そんな、こんな濃度ありえないっ!?)」
口内から己の身体へ侵入する高濃度生体マグネタイトに反応し、モー・ショボーの顔は瞬時に赤面する。
活力が急速に充填される事に伴う快感は脳と身体、そしてその魂すらも快感の濁流へと誘い、少女はその正体を見失った。
「……ぷはっ。さて、MAGが欲しいって言ってたから上げたけど、このくらいで良かったかな?」
「あー…………」
「あ、だめだ。この子忘我の境地にはいっとる」
赤ら顔で息を漏らし自失する少女を見て、少年はやれやれと頭を振りながらもその様子に興奮を覚えていた。しかし、これ以上は流石に酷かと思い直す。
「悪いねお嬢ちゃん。大丈夫?」
「……………………あ、にん、げん。私に、何したの?」
モー・ショボーは荒い息を整えながら潤んだ瞳を少年へと向けて質問する。
その心の内では少年へ向ける害意など跡形もなく消え去っていた。
「うん、俺はちょっと特殊な生まれでね。生体マグネタイトと不活性マグネタイトを体内で生産したり変換したりできるんだ。今お嬢ちゃんに流したのは昨日倒した悪魔から手に入れた不活性マグネタイトを生体マグネタイトへ変換して濃縮したものだね」
「……そう、なんだ」
モー・ショボーの蕩けた思考回路が熱を伴い回転し始める。
先の交わりによって己の身体には向こう一ヶ月分は物質化しても余裕が有るほどのマグネタイトが貯蔵された。
そしてそれを与えたのは眼の前の少年である。
ならば、眼の前の少年をサマナーとして己の主とする事は出来ないだろうか。
何かしら頼まれ事もあるだろうが、人間を襲ってレベルの高いサマナーを突いてしまったりする危険も減る。
また、モー・ショボーは交わりの際に感じた快感を忘れられなかった。
空白を満たされる全能感と、大きな流れにその身を包まれ守護されるかのごとき安堵感。
それをまた感じる事は出来ないだろうかと考えると、モー・ショボーは下腹が疼いて堪らないのである。
先程から五月蠅い己の鼓動を抑え込む様に平らな胸へ両手を当て、モー・ショボーは意を決し少年へと提案する。
「……ねぇ、人間」
「ん、何かな?」
「えと、その。……私のサマナーに、ならない?」
それは近年希に見る悪魔側からの仲魔交渉だった。
「あー、ゴメン。俺ってサマナーじゃないんだよねー。いや、異界潰したりMAG集めたりして飯の種にはしてるけどさー。COMP持ってないし手続きも面倒くさいからー。ごめんねー」
少年はモー・ショボーに謝りながら、視線を周囲へと泳がせる。
すると異界の景色に綻びは出来始め、やがて通常の景色に戻ってしまう。どうやら異界の主が倒されたようだ。
「もう終わったのか、随分優秀な奴だったんだなぁ。んじゃ、ショボちゃん。また機会があったら会おうね! ――――トラポート」
「……あ、まってっ!!」
主人公は転移の魔法を使いその場を去った。
後にはノーパンのモー・ショボーが残されるのみである。
しばらく呆然とするモー・ショボー。
しかし何事かに思い至ったのか、よし、と鼻息荒く立ち上がる。
「とりあえず、こんぷ? とかいうのを手に入れてぇ、あの人間にサマナーに成ってもらおう! そしたら、……そしたら、毎日あんな事とか、こんな事とか、……………………きゃっ」
眼を閉じ頬を赤らめながら顔を左右に振るモー・ショボー。
その後彼女は、低レベルのサマナーを襲撃し見事COMPを手に入れるのだった。
◇
数日後。
「ねぇ人間!! こんぷ持ってきたからサマナーになって!!」
「どっから持ってきた!?」