俺たちが付き合いだしたのは、いつだっただろう?
もう、遠い昔の事で思い出すのも難しくて。
出逢いこそ最低だったけど、気がつくといつも傍に居てくれて何も言わずに愚痴も聞いてくれて……だから、互いに惹かれあっていつの間にか付き合ってるって関係になったんだと思う。
喧嘩してムカついても、『別れよう』って言わなかったのはお互いに好きだったから。
けど、もう限界だよな。
男だし、子供なんて産めないしいつまでも付き合ってる訳にはいかないしな。
アイツの事だから、自分からは決して言わないだろうし。
だから、俺から言おうって決心したんだけど………。
「で、このあとどうする?今日、丸一日非番だし……。」
今、甘味屋でデートしてるけど………あれだけ、決心したのに本人に会えばその決心が揺らぐ。
早く…別れなきゃいけないのに、じゃなきゃトシが幸せにならないのに……。
「うーん、急に非番だって言われても………行きたい場所って言われても特にないし……。」
「まぁ、そうだけど……。水族館は?お前、イルカ好きって言ってたろ?」
「うん。好きだけど、この時間じゃショーは終わったと思うけど。」
「何しに行くよ?ホテル?」
「嫌。」
「そこ、即答なの?」
どうしよう。ホテル行ってしちゃったら、もっと決心が揺らいでしまう。
「お前、最近変じゃね?」
「変て?何が?」
やばっ、声に出てた?
「だって、さっきから手止まってるけど?この間だって、団子持っていったけどすぐに食べなかったし。具合でも悪いのか?」
「うーん、そうかもね。もう、帰っていい?」
もう、トシの顔を見たくない。
「だったら、送る。」
送って欲しくはないけど、断ったら変に思われるだろうな。
二人で、店を後にする。
「………。」
無言で歩く。いつもの道が灰色に見える。これ以上は……。
「じゃあな。あまり悪いんだったら、連絡しろよ。病院連れていってやるから。」
「わかった。」
気がつくと、万事屋の玄関前に着いていた。
あれから、1週間。トシと逢ってない。まぁ、仕事が忙しいから逢わないのは当たり前になってるけど、付き合う時にくれた携帯。あの日から鳴ってない。宇治金時とマヨネーズのストラップがカツカツと鳴るだけ。
アイツから連絡きても、出ないけどね。言えないから、嫌いになって棄ててくれた方がいい。
そんなこと考えて、道を歩いていた。
キッー!!
いきなり、耳を切り裂くような嫌な音。黒板に爪を立てるような。
そして、俺は轢かれた。
目を開けると、周りの人間が騒いでいる。徐々に、声が鮮明になっていく。
「兄ちゃん、大丈夫か?今、救急車呼んだからな。」
「あんた、警察も呼びなさいよ。」
どこかのおばちゃんが言う。けい、さつか……。
トシが来たら困るな。怒られるだろうし、だったらこの場から逃げてもいいか。
身体も痛くないし、って俺本当に轢かれたのかなぁ?
血は出てるけど………。
足が………動かない?
その後、見たことのない制服の警官。よかった。真撰組じゃない。
救急隊員が来て、意識のあるまま病院へと運ばれた。
出血は大したことなかったのか、手術室に運ばれることなく処置室で行われた。
「坂田さん、落ち着いて聞いてくださいね。
………足の事なんですが、
動かない?もう、歩けないんだと理解できた。
先生がいろいろと説明してくれているが、全然耳に入ってこなかった。
「ぎ、んちゃ~ん。大丈夫アルか?」
「ビックリしたんですよ。銀さん。」
名刺でわかったのだろう。神楽と新八がやって来た。
この二人なら安心か。トシとの関係を知らないから……。
「足、動かなくなっちゃった。」
「「えっ!?」」
二人の声が重なる。
「ほんと、なんですか?」
「うん。どっこも痛くなかったんだよね。轢かれたとき……。」
「………万事屋は、万事屋銀ちゃんはどうなっちゃうネ。解散アルか?」
「まだ、どうするかなんて考えてねぇよ。」
涙を溜めながらも、必死に我慢している二人を見てやっと実感できた。
「着替えは、明日持ってきますね。」
面会時間が終わりに近づき、二人とも帰ろうとする。
「あのさ、この事は他の奴等に言わないで欲しいんだ。」
「他のやつらって?」
「うーん、特に真撰組かなぁ?アイツら何かに知られたら笑われるだろうし、嫌み言ってくるに決まってるだろ?」
「まぁ、そうでしょうけど……。」
「銀ちゃんが、嫌なら言わないアル。」
二人が部屋を出ると、どこかで見ていたのかと思うぐらいのタイミングで、トシから貰った携帯が鳴った。
トシの連絡先しか入ってないソレは、 青のランプを点滅しながらブーブーっとバイブする。
一番知られたくない人に、久しぶりに電話される。
ツーっと涙が流れた。
いつも、3コールで出るのにもう10コール以上鳴り続けてる。
すでに、不信がられているよな。
これ以上、バイブを聞きたくなくてガラケーを折った。
事故から2週間。
「こういうことだったんだな。銀時。」
することがなくて、窓を見ていたら聞き慣れた声がした。
「トシ………。」
「連絡しろよ。事故に合ったんだってな。」
「………。」
「今日、所轄に用事が合って行ったらお前の事故の書類を見た。なんで、黙ってた。」
「…………。」
「……なんとか言ったらどうなんだ!足も動かないんだろ?」
!!……知られた。気づくと、トシの頬を叩いていた。
「……銀?」
「出ていって。お前に知られたくなかったから、言わなかっただけ。それに、別れようと思ってたの。いい機会じゃん。お前だって男の俺といつまでも付き合えるわけないってわかっているだろ?」
「………。」
今度は、俺の代わりにトシが喋らなくなる。
「子供だって産んであげられないし、トシだって見合い話が来てるんだろ?俺なんかと付き合っているより、そういう相手と結婚した方が、真撰組の為にもいいし、トシも幸せでしょ?」
「………じゃない。」
「え?」
トシの喋った言葉が、小さ過ぎて聞き返す。
「幸せなんかじゃない。なんで、わかんねぇんだよ。俺はお前と別れる方が辛いし、嫌だ。そんなことしたからって、幸せになるわけないだろ。」
俺だって好きだよ。
その言葉が出なかった。結婚しないといけないって、真撰組1の頭脳を持つトシがわかんないわけない。
「俺、男だし……結婚出来ないよ?」
「そんなのわかってる。」
トシに抱き締められて、これでいいのかなぁと思ってしまう。
「結婚、結婚っていい加減にしろよ。別に結婚が全てじゃないだろ?つうか、お前をかっさらって行くから。一緒に住もう。」
「トシ…?無理だよ。迷惑かけちゃう。俺、一人でトイレ行けないんだよ?」
「いいよ。俺が面倒見るから。」
「でも、仕事は?」
「しながら見るから。屯所で暮らそう。」
「皆には何て言うの?俺たちの事を何にも教えてないし……。」
マジで一緒に暮らすように話がなってる。良いのかなぁ?
「この際、バラしてやれば良いだろ。」
トシが不意に足に触れた。
「感覚ないんだな。」
「うん。ごめん。」
「謝んな。バカ。って携帯折ったのかよ。」
抱き締めてて、今やっと視界に入ったらしい。トシの手には無惨な姿になった携帯があった。
「だって、お前連絡してくるんだもん。しかも、出ないのになかなか切らないし……。」
頬を膨らませて言うと、頬を指でつき“新しいの買ってやる”と言われた。
「本当にいいの?」
「お前、何回目だよその質問。」
トシにバレてから数日後、抜糸も終わり退院の日を迎えた。トシは朝から来てくれて、俺の代わりに着替えなどを鞄に詰めてる。その様子を車イスに座り見ている。
屯所で暮らすことを、松平のとっちゃんに土下座までしてくれて許可を取ってくれたみたい。その日に江戸中の皆に俺たちの事が知れ渡った。
沖田くんが、パトカーで放送して回ったらしい。
近藤さんには、“トシの事を頼む”ってどこかの昼ドラのラブコメで父親が娘をやるときみたいな台詞を言われた。
まぁ、大事にされてるのはわかってるけど、あまりにも度が過ぎてるって言うか……。
病室に来てまで、言われて思わず笑ってしまったんだけど、正直嬉しかったっていうのはトシには内緒だけどね。
「そろそろ、行くか。」
「うん。」
鞄を俺の膝の上に置き、車イスを押す。
外に出ると、黒塗りの車が正面に停まっていた。真撰組が接待で使う車に乗せて貰う。
「しっかり、シートベルトしろよ。」
「わかってる。」
無線から声がする。何かあったのかなぁ?
「ねぇー、なんか事件あったの?」
トシが、車イスをトランクにしまい乗り込むなり声をかけた。
「気にすんな。」
トシに無線を切られてしまう。
「けど、着流しじゃないし。」
「運転するから、隊服にしただけ。ズボンの方がしやすいし。特に何もなければ非番だから。」
「ふ~ん。」
病院から真撰組までのほんの少しの道のり、たった数週間の入院だったのに久しぶりの外の景色が新鮮で、トシとはほぼ会話もなく着いてしまう。
「ずっと、黙ってたけど大丈夫か?」
車を門の前に停め、車イスを広げながら聞いてくる。
「うん。景色見てた。」
「ん?なんも変わんなくね?」
「そうだけど、外に出てなかったから。」
ずっと、車イスに乗るのが面倒で外には出なかった。
そのつど、ナースを呼ぶのも気が引けたし……まぁ、ナース好きだけど。
トシの首に手を回して、車イスに乗せて貰う。
「旦那、いらっしゃい。」
「山崎、車戻しといてくれ。」
トシが、ジミーくんに鍵を渡して車イスを押し出し自室へと連れていかれる。
自室の襖を開けると、異様な光景が広がっていた。
「………誰の部屋?」
「俺の部屋だよ。」
畳の部屋には、相応しくないピンクのダブルベッド。跡が付かないように赤のラグまで敷かれている。
以前、タンスのあった場所には小さくはあるがテレビがあって、ベッドの頭の方には本棚まである。
おまけにシーツはイチゴ柄だし……。
なんだか、女子高生みたいな部屋になってる。
お姫様抱っこされ、ここまでやって来てベッドに下ろされた。
「なんだか、思いきり模様替えしてるね。女子高生みたい。相変わらず、煙草臭いけど。」
「お前、こんなのが好きだと思って。」
「まぁ、好きだけど。」
高い布団なのかなぁ?ふかふかしてる。
「退屈しないように、本とかあるけど何か要るものあるか?」
「うーん、今のところはないかなぁ。この布団気持ちいい。」
手で布団を押す。
「新しく買ったからな。」
こうして、俺はトシと暮らすことになった。
To be continued
次で完結します