淫次元ゲイム ネプギア~孤軍奮闘のコロシアム~ 作:ルーラー
プロローグ ただ舐められただけなのに……
シェアブレイドを地面に突き刺し、それを支えに立ちあがる。
息は熱く乱れ、両脚は無理やりに与えられた快楽に細かく震え。
だがそれでも、紫色の髪の少女――ネプギアは戦意を失っていなかった。
「はあ、はあ……」
視界に映るのはスライヌの群れ。それも、一体何匹いるのかわからなくなるほどの。
たかがスライヌと
女神化するまでもないと油断したせいで、スライヌたちに
「んっ……」
そのときのことを股間のうずきと共に思い出し、気づけばネプギアは内ももを擦りあわせてしまっていた。
股間だけではない。スライヌに舐められてしまったところは、どこもそうだ。
ジンジンと、なにかを求めるように内側から熱くなってくる。
「もう……ただ舐められただけなのに、どうして……」
ふと、とろりとした液体が内ももを伝い落ち、白とピンクのストライプ柄のニーソックスに染み込んだ。
スライヌに舌でたっぷりと可愛がられ、下着越しにでも形がはっきりとわかるようになってしまった幼い秘部。そこから垂れてきたものだった。
その恥ずべき液体が『愛液』と呼ばれるものであることを、ネプギアはちゃんと知っている。
だが、自分のそれを肌で感じたことは、
ゆえに彼女は、身体を
顔を耳まで真っ赤に染めて、戸惑いに視線をさ迷わせる。
だが、いつまでもそうしているわけにはいかなかった。
見れば、スライヌたちの間を縫って、ハイヒールスライヌがふよふよと移動している。
触手を伸ばし、スライヌたちの怪我を治して回っている。
このままでは、すべてのスライヌが全快してしまいかねなかった。
その先にあるのは、数に押されて負けてしまう未来だけ。
そう悟り、少女は覚えているもどかしさを振り払うように、地面からシェアブレイドを引き抜いた。
そして、その剣を天高くかざし、
「――女神の力で!」
再びの変身を行う。
女神化すれば、いま以上に性的な刺激に対して敏感になってしまう。
その事実を、すでに嫌というほど実感させられたにも関わらず、それでも、なお――。
◆ ◆ ◆
目の前には、
そこは正しく『死の世界』。
終わってしまった者が、終わり続けていくためだけにある場所。
――ギョウカイ墓場。
ゲイムギョウ界の住人は、恐怖の感情と共に、ここをそう呼んでいる。
そんなギョウカイ墓場の
どちらも髪の色は薄紫。
また、顔の作りもよく似ている少女たちだった。
年の頃は、短髪の少女が十三歳、長髪の少女が十四歳といったところ。
言うまでもなく、プラネテューヌを守護する女神の姉妹――ネプテューヌとネプギアである。
「あ、パーカーワンピ着てるのがわたしことネプギアのお姉ちゃんにして『超次元ゲイム ネプテューヌ』の主人公であるネプテューヌで、セーラーワンピ着てるのがわたしのしっかり者の妹、女神候補生のネプギアね」
「お、お姉ちゃん? 一体、誰に話しかけてるの?」
「これを読んでるエッチなみんなに! だってさ~、このまま大人しくしてたら、もったいぶった説明が長々と続いてたはずだよ? そんなの時間と電気とお金の無駄にしかならないし、そもそも誰も求めてないって!」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「なにより、わたしが耐えられないからね、説明的な長い長~い地の文には!」
「じ、地の文……?」
あまりにもメタすぎる発言に、ネプギアの額に汗が浮かんだ。
「ほら、これ! いまネプギアのセリフのあとに入ったのが地の文! まったく、大体のことは『あらすじ』にちゃんと書いてあるんだから、こんなワンシーン飛ばしちゃえばいいのにね~」
「そういうわけにもいかないんじゃないかなあ、作者的には……」
「あ、そうそう、わたしたちの外見がよくわからないって人は、いますぐ『ネプテューヌ ネプギア 画像』でググるといいと思うよ! 文章で説明されるよりもずっと正確にわかるはずだから! 百聞は一見にしかずってね! ……あれ? ちょっと違う?」
「うん、ちょっと違うかも……」
「それはそれとしてさ、この作品のメインタイトル、わたしに失礼だと思わない? 原作ではわたしが主人公なんだから、メインタイトルには『ネプテューヌ』って入れておくものでしょ、普通! たとえタイトル詐欺になったとしても!!」
「そ、そうかな? ――それより……」
ひとつ息をついて表情を引き締め、あたりを見回すネプギア。
「ついに始まるんだね。ゲイムギョウ界の命運をかけた、最後の戦いが……」
「寝坊してみんなに置いていかれちゃったけどね~。いや~、ネプギアが起こしてくれなかったらどうなっていたことか」
ことここに至ってもお気楽なネプテューヌに、ネプギアは嘆息し。
「まさか本当に置いてっちゃうとは、わたしも思わなかったよ……。犯罪神を倒せるシェアブレイドは、わたしにしか使えないのに」
「でもさでもさ~、犯罪神ひとりに十八人で挑むっていうのもアレだよね~。わたしとネプギアくらい、いなくても大丈夫なんじゃない?」
よくよく考えてみなくても、人数の多すぎるパーティだった。
「もし、いーすんさんたちもついてきてたら、二十二人で挑むことになってたよね」
「本当、もう卑怯ってレベルじゃないよね」
「もちろん、だからってシェアブレイドを使えるわたしが参加しないというわけにもいかないんだけど」
「そうだよね~。でも全員で袋叩きにするのはさすがにあんまりだから、自重して八人までに絞ったほうがいいかな。そのとき、わたしと組むのは……ネプギア、きみに決めた!」
言ってネプテューヌがネプギアの顔を指した。
それをネプギアは苦笑で受け流す。
「それよりもお姉ちゃん、ほら、早くみんなに追いつかないと」
「ねぷっ! 流された!? ま、待ってよネプギア~っ!」
そうして少し小走りになる二人の女神。
と、その瞬間、地面に小さな揺れが走った。
「また揺れたね、お姉ちゃん」
「もう珍しくもなんともないけどね。でも、さすがに急いだほうがよさげかな」
「そうだね。……行こう、お姉ちゃ――わっ!?」
決意も新たに足を踏みだした瞬間、ネプギアの立っていた場所がボコッと落とし穴でも掘ってあったかのように
これにはさすがのネプテューヌも焦った声を出してしまう。
「ネプギアッーーーーー!?」
「お姉ちゃん、それどうやって発音したのおぉぉぉぉっ!?」
叫び返しながらも穴に呑まれ、落ちていくネプギア。
この姉妹は、最後の別れのときだろうとこんな感じなのであった――。
「え、ちょ!? まさかとは思うけど、わたしの出番これだけなの!? 道理でメインタイトルに『ネプテューヌ』って入ってないわけだよ! で、出番キボンヌーーーーーっ!!」
◆ ◆ ◆
落ちる、落ちる、落ちる。
着地の衝撃に備えて脚を柔らかく曲げた姿勢のまま、ネプギアは果てがなくも思える縦穴を落ちていく。
そして、その落下はいささか唐突に終わりを迎えた。
「――んっ!」
赤茶けた大地の上に、
それから、
(いま、なにか
と、視線と共に考えを巡らせる。
そうして目に飛び込んできたのは、大きな建物だった。
といっても、見覚えのないものではない。
ネプテューヌの発案で挑むことになった、ギョウカイ墓場にあるコロシアム。
ネプギアの目の前にあったのは、そのコロシアムのそれとまったく同じ建物だった。
だが、違う。
常識的に考えて、長い長い自由落下の果てに辿りついたここが、あの場所であるはずがない。
注意深く神経を尖らせてみれば、肌にまとわりつく空気そのものが、どこかねっとりとしているようにも感じられる。
『――こちらに引っ張り込むのに成功したのはひとりだけ、か。あわよくば四人とも、と思っていたのだが……やはり、そう上手くはいかないらしい』
ふと、どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。
耳に飛び込んできたそれは、紛れもなく青年のもの。
ネプギアは、反射的にシェアブレイドを抜き放ち。
「誰ですか!?」
その
「ようこそ『
「……どうして、わたしのことを?」
「知っているのか、か? 知らないはずがないだろう。5pb.のコンサートに乱入して、知名度を上げようとしたのはそちらのほうなのだから」
5pb.のコンサート。
リーンボックスの教祖、
確かにそのとき、ネプギアを始めとした四人の女神候補生たちは、『ユピテル』という男性ユニットが引き起こした混乱を収めるため、誰でもないネプギアの発案で舞台に乱入した。
そして簡単な自己紹介をし、
「結論から言おう。ここは、あのコンサートを見た者たちの
「欲、望……?」
「これ以上は、少しばかり長い話になる。詳細を語るのは歩きながらでかまわないかな?」
言って、男はコロシアムのほうを向いた。
せっかく来たのだから、ここで戦っていけ。そう言いたいのだろうか。
むろん、そんな暇などネプギアにはない。
「ここがどんなところなのかなんて、わたしには興味ありません。……もちろん、気にならないといえば嘘になりますけど。
それでも、いまは少しでも早くみんなのところに行かないといけませんから」
拒否の言葉に、男がネプギアのほうを向く。
「――ふむ。一応訊くが、どうやって?」
「もちろん、女神化して空を――」
「それは無理だ。ここはきみが元いた世界ではない。次元が違うのだからね、どれだけ天高く、元いた場所を目指して飛ぼうとも、きみのいた次元には戻れない」
言われてみれば、先ほどまで自分が踏みしめていたはずの大地が、上空にはない。
ただただ、この世の終わりのような空が広がるばかりだ。
先ほど覚えた、膜のようなものを突き破ったような感覚。あれは『次元間を移動した』ときのものだったのだろうか。
いや、いま考えるべきは、そのようなことではなく。
「じゃあ、わたしはどうすれば元の世界に戻れるんですか……?」
敵意と共に、どこかすがるような声でネプギアは男に問いかけた。
果たして、それに満足のいく答えは返ってきた。拍子抜けするほどに、あっさりと。
「なに、難しいことはなにもない。このコロシアムでの戦いに三度挑み、そのすべてに勝利すること。それができれば、きみは元いた次元に戻ることができる」
「三回、勝てば? たったそれだけのことでいいんですか?」
「そう、それだけでいい。――どうかな? これで少しは、このコロシアムに足を踏み入れる気になれただろう?」
「……わかりました。すぐに終わらせて、みんなのところに帰らせてもらいます。――罪のないモンスターを倒さなきゃいけないのは、嫌ですけど……」
その返答に、男は満足げにうなずいて。
「では、戦いの場に案内しよう。だが、そこに着くまでには少しばかり時間がかかる。ゆえに私は、その間、勝手に『この次元の
無言でうなずくネプギア。
それを見届け、男は再びコロシアムのほうを向く。
そして、巨大な建物についている鉄製の門を開き、ネプギアを中に招き入れるように、先に立って歩き始めた。
◆ ◆ ◆
建物の中に、壁はなかった。
代わりにあったのは、ゆらゆらと揺らめく赤とも紫ともつかない色をした光のオーロラ。
そんな不確かな空間の中を、ネプギアは男の背を目印に歩いていく。
「――先ほども言ったが、この次元はリーンボックスで行われたコンサートを見た者たちの念いによって生まれた。四人の女神候補生――女神の妹たちを見て人間たちが抱いた、
当然、私も『彼らの念いによって生み出された者』でしかない。いや、『私たちも』と言うべきか」
瞬間、ネプギアを先導していた男の姿が揺らぎ、でっぷりと太った中年男性のものへと変わった。
「言ってしまえば、僕たちはただの案内人。ネプギアたんが元いた世界にあるコロシアムにいた、受付嬢みたいなもの。
そして僕たちは、自分の存在理由とでもいうべきものに従って、ギョウカイ墓場の終焉部にやってきた女神候補生たちをこの次元に引きずり込もうと試みた」
「それが、あの地震……?」
「正確には、地震と、地面の崩落。結局、この次元に引きずり込めたのは、ネプギアたんひとりだけだったけど」
心底残念そうにつぶやいた太った男性の背中が、また揺らぐ。
次に現れたのは、ひょろっとした姿の十代後半の少年。
「俺がいくつもの姿、いくつもの人格を持っているのも、俺が何人もの人間の念いによって形作られた存在だからだ。つまり、俺の人格はオリジナルの投影。オリジナルの数だけ、俺の人格があるってこと」
そこで一度言葉は切られ、少年の背中は最初会った男のそれに戻る。
「――初めのうちはよかった。オリジナルたちが四人の女神候補生に抱いていた感情は、『可愛い』や『萌え』といったもので、程度の差はあれ、それは
だが時間が経つにつれ、その念いは変わっていった。女神候補生たちをいやらしい目で見る者が現れ始めた。候補生たちがモンスターとの戦いで苦戦する様を妄想し、興奮を覚える者も現れた」
自分たちを信じてくれた人間たちが、自分たちをそんな目で見ていた。
そう告げられ、ネプギアはショックを受ける。
むろん、相手が男性である以上、また、女神形態をとったときに身にまとうプロセッサユニットが露出度の極めて高いデザインになっている以上、そういう目で見られても仕方ない、と思う部分もないわけではないのだが。
「そして、そんな人間は男性のみというわけではなかった。少数とはいえ、そこには確かに女性もいた」
男性だけではなく女性まで、自分たちのことをいやらしい目で見ていた。
そう告げられ、ネプギアはまたもショックを受ける。
『むろん、相手が女性である以上』と続けようとして、思わず固まってしまったくらいには。
「そして彼ら、彼女らは、『ぼくのかんがえた いやらしいこうげきをする さいこうのモンスター』などというものを妄想し始めた。さらにそのモンスターたちを活躍させるに
その名を『淫次元』。私たちは、この『淫次元』や『ぼくのかんがえた いやらしいこうげきをする さいこうのモンスター』の管理人とでも言うべき存在なのだよ」
そう語った男の背中には、間違いなく
もしかしたら、己の現状と立場にやりきれないものを感じているのかもしれない。
自らを『支配者』や『
「なんか、大変そうですね……。ところで、さっきからずっと思ってたんですけど、『淫次元』とかって、言ってて恥ずかしくなりません?」
だが、たとえ汲み取れていても、ちょっと毒舌になってしまうのがネプギアという少女であった。完全に無意識なのでタチが悪い。
果たして、彼女の放った言葉のナイフに、男はダメージを受けたように身体を揺らす。
人間たちの念いによって生まれた存在だけあって、精神的ダメージには弱いのかもしれない。
「そ、そんなことはどうでもいいだろう……。――ともあれ、いまからきみには、その『ぼくのかんがえた いやらしいこうげきをする さいこうのモンスター』たちと戦ってもらう。
きみが勝てば、きみは元の世界に戻ることができる。だが、負けたときは――」
「その『さいこうのモンスター』っていうのも、口にするの恥ずかしそうですよね……」
ネプギアの容赦ない言葉に、男が再びよろめく。
一瞬、その背中が軽く透けて見えたのは、彼女の見間違えではないだろう。
「っ……。な、なるほど。自分の勝ちはすでに決まっているのだから、自分が負けたときのことなど聞く必要はない、と。そういうことか……」
どこか張りのない、男の声。
だが、背中越しに投げかけられたその言葉を否定する必要性は、感じなかった。
「そうですね。早く終わらせて、みんなのところに帰らなきゃいけないので」
「さすがは女神候補生、勇敢なことだな。――さて、着いたぞ」
その言葉を耳にしたのと、一体どちらが早かっただろうか。
気づけば、ネプギアはギョウカイ墓場終焉部のそれと同じ大地、同じ空の下に立っており。
そして、前を歩いていたはずの男の姿は消えていた。
『私たちはただの管理人、きみを戦いの場に案内するためだけに作られた存在だ。なのであとは、基本、こうして消えているとしよう。むろん、必要を感じない限りは、きみに声をかけることもしない。
だが、あとひとつだけ告げさせてもらうよ。――ここで行われる戦いは、全世界にリアルタイムでネット配信されている。あるいは映像で、あるいは文字で。そう、ゲイムギョウ界に留まらず、文字どおり『全世界に』、だ」
その言葉に。
あまりにもメタなその言葉に。
ネプギアは、この次元に来てから初めて、心の底から
(このメタ具合は……! まさか、お姉ちゃんとまったくの互角……!?)
勝てるのだろうか。
姉と互角のメタな視点を持つ『管理人』とやらに、自分の力だけで。
戦慄するポイントが明らかにおかしい、という内なるツッコミは敢えてスルーし、ネプギアは恐れに身体を震わせる。
『では、始めるとしようか。この次元における初の戦いを。このコロシアムでの第一回戦を!』
そんな男の宣言に応えるようにして、空間に光が溢れ、弾けた。
現れたのは、なんの
それにネプギアは、小さく安堵の息をつき。それから、
「――油断しないようにしないと」
そうつぶやいて、手にしていたシェアブレイドをスライヌたちに向けてかまえた。
口ではどう言っても、すでに油断しきっているのだと。
自分では、これっぽっちも気づけぬままに――。