現時刻は午後四時頃。
私は今、響似の少女を連れて長瀞までドライブ中だった。
運転している私は移動中の景色をじっくり眺める事は出来ないが、景色を眺めながら、随時興奮気味に報告してくれる響のお陰で、景色の良さはそれなりだが想像出来た。
住宅地から市街地、市街地から郊外、郊外から田舎道と、どんどん都会から離れ、現在は樹々の生い茂る道路を走っていた。
そこで車の窓を開ければ新鮮な空気が入るし、涼しい風も流れて気分転換にもなるのだから、やはりこの少し熱い時期にドライブをするのは最高だ。
少しだけ横目で見た少女もずっと喜んでいるし、本当に連れて来て良かったと思う。
だが、人様の子を勝手に連れ出している事を考えると、凄まじい罪悪感で押し潰されそうになるのだが。
しかし、予定時刻である五時には旅館に到着し、二人が寝泊まりするには充分広い和室へ、女将から兄弟仲が良いですねと言われながら案内されたので、少しは罪悪感も和らぐ。
だから今日は少女の保護者代理人として、彼女を守る事にしよう。
それはともかく、この部屋は二階の奥にある和室なのだが、テラスから見た外の景色に思わず見惚れてしまう。
延々と続く、青々と茂った森林に囲まれた長瀞の川が上から眺められるのだから。
隣で見ていた少女も、自然豊かな景色に見惚れていた様だ。
休む事無く運転を続けて少し疲れた私は、備え付けの大きな椅子に座って休憩した。
すると、少女も膝上に座り込んでくるのだから可愛いくて堪らない。
少女は私を本物の兄として見てくれている、と言う事なのだろうか。
私も少女を妹の様に可愛いとは思うし、邪魔だとも思わないから構わないのだが一つだけ問題があった。
その問題とは、少女が成長期の女性である故に、ふわりとした長い髪から仄かなシャンプーの香りが鼻をくすぐったり、デニムハーフパンツ越しに柔らかな尻がむにゅりとのし掛かり、私の股間を刺激する事である。
これは非常にまずいと思い、『悪いけど退いて』と頼んでも、少女は不思議そうに首を傾げるだけで、全く退こうとしない。
徐々に硬くなる男根に恐怖した私は、急いで少女の脇をくすぐる事で笑かし、強制的に退かしてしまった。
『酷いな、いきなり何をするんだ』
少女から怒られ、私は膨らむ股間をさり気なく片手で隠しながらも『ごめん、君の笑う声を聞きたかったんだ』と、適当な事を抜かす。
すると少女は怒りながらも頬を染め、『それならいいけど……』と寛容な心で許してくれた。
とにかく、痴漢から救った少女を私自身が犯してしまわなくて本当に良かったと思いつつ、『折角だし、温泉にでも入ろうか』と提案した。
提案を聞いた少女は嬉しそうに首を縦に振り、『浴衣に着替えて来るね』と残して、浴衣の置いてある隣部屋に移動してから私の分の浴衣をこちらの部屋に置き、襖をそっと閉めたのだ。
その間に私も素早く浴衣に着替え終え、来るまでしばらく待っていた。
五分後には少女がこちらにやって来たのだが、帯を上手く結べなくて困っており、私に結んでくれるよう頼みに来た所である。
全く可愛らしい奴めと私は思いながら少女の目の前でしゃがみ、帯を結ぼうとした。
だがその時、緩んでいた浴衣の襟ぐりから彼女の膨らみかけの乳房と、鮮やかな薄桃色の乳頭がチラリと見えたので、即座に目を瞑りながら帯を締めてしまう。
加減が分からずキツく締めすぎ、『ちょっと……苦しい』と再び怒られてしまった。
それでもどうにか少女の着付けを終えた私は彼女と並び、一階にある温泉へ足を運んでいたのだが、またまた問題が発生する。
貸切風呂という家族や親類等の身内で入る風呂がこの旅館にもあるのだが、その事を女将から聞いた少女が『だったら一緒に入ろう』と提案するのだ。
家族では無いから不味いとこっそり私が説明すると、少女は露骨に悲しんだので、仕方なく賛成してしまう。
少し浮つく少女と共に、一時間だけ貸切風呂を借り、そこの脱衣所へ移動する。
恥ずかしがる少女の要望により、私達は互いに背中を向けあい、浴衣を脱いでいた。
しかし私は彼女の柔らかい感触を覚えているうえ、薄桃色の突起物を見てしまったので、やたら意識してしまう。
そんな自分が怖くて堪らなかった。
バスタオルを巻いた少女が、柵に囲まれた屋根付き露天風呂へ行ってしまった事を確認してから、私も後を追う様に歩く。
本来ならばタオルを外して浸かるのがマナーだけども、場合が場合なので私達は外さず、掛け湯をしてから風呂に浸かっていた。
貸切風呂なので少し狭いのは置いといて、温度が程良く高いおかげで心地良く温まり、思わず『ああ〜、気持ち良い』と間抜けな声を上げてしまう。
すぐ隣で入っている少女は、私の間の抜けた声を聞いてくすくすと笑いながら『お兄さん、なんだかお年寄りみたいだ』と、言葉を残すのだから悲しい。
しかし、響似の少女から読み取れた『お兄さん』という言葉が嬉しかった私は、やましい気持ちも抱かず隣に抱き寄せ、しつこく頭を撫でてしまう。
少女は最初にとても驚いたが、今では抵抗せず、嬉しそうに微笑んでくれている。
まるで仲の良い妹から懐かれている様で、本当に落ち着く。
風呂に入って火照った体を冷ますがてら、洗い台の前で腰掛けた私は体を洗い始める。
すると少女の『背中を洗うよ』という言葉が頭に響くと共に、彼女は頭に巻いてあたタオルを両手で持ち、備え付けのボディソープで丹念に泡立ててから、私の背中を優しく擦ってくれた。
あまりの至れり尽くせりな状況に、仕事で溜め込んできた心身の疲労が、一気に吹き飛ぶ。
最後にいきなり頭からお湯を掛けられたのは少し驚いたが、それも少女なりのお茶目と考えれば逆に癒される。
だが、ここからが不味かった。
何故ならば、私に対して完全に心を許した少女が恥ずかしがる事なくバスタオルを脱ぎ捨てたのだから。
しかも、未成熟だが妙に艶かしい肢体を全面に曝け出しつつ風呂椅子に腰掛け、『お兄さん、私も洗って欲しいな』と、そわそわしながら促してくる始末である。
ここで私が拒否すれば、少女は再び心を閉ざして落ち込むだろうし、しなければ私自身が変な気を起こさないよう我慢しなければいけない。
だから私は潔く後者を選び、無心で朗らかに笑いながら、少女の背中を優しく洗い始めたのだ。
しかし、鏡に写る少女の肢体は若々しくきめ細やかだし、余す事なく無防備に剥き出すので、無心だろうと勃つモノは勃ってしまうわけである。
とりあえず少女がこちらを向いていない事だけが救いだと思ったのだが、何故か少女は顔を紅く染めながら俯いていた。
そのまま少女は『それって……私のせいなのかな?』と、何かを訴えかけた。
初め、少女が何を言っているのか本当に分からなかったが、彼女が指差した方向を見て私は気付いてしまう。
少女に、隆起した男根を鏡越しに見せ付けてしまったのだと。
背中から血の気が引いた私は何も言葉にすることが出来なかったが、『そう……だから私を変に避けていたんだ』と、少女は寂しそうに言葉を残す。
少し落ち着いた私が『ごめんな……気持ち悪かっただろう?』と謝ると、少女は首を必死に振り、『そんな事無い。お兄さんも男の人だから……』と、羞恥しながら許してくれた。
瞬間、少女は全裸だろうと構わず振り返った事で私は混乱したが、男根を優しく握り締めてきたのだ。
『な、何をして——!』
『スッキリすれば……また構ってくれるよね?』
私の問いにそう返した少女は、一度男根から手を離してボディソープを泡立て、再び掴み、ぎこちなく扱き始める。
突然の事ばかりで驚かされている私をよそに、少女は死ぬ程恥ずかしそうにひたすら扱き続けてくれた。
鈴口から垂れる我慢汁と泡だつボディソープが竿で混じった事で、『ぐちゅ——ずちゅ』と艶かしい音が私の脳内を響き始め、なお興奮する。
そして、ガチガチにいきり勃った男根が、今にも子種を飛ばしそうになってしまう。
私が小さな声で『まずい——もう止すんだ……』と伝えても、少女は『そう、あと少しなんだね……』と勝手に納得しながら、扱く速さを極限まで高めた。
少女の柔らかな手と、背徳感で興奮した私は、我慢の限界をとうに超え、『出……るっ』と小さくも情けない声を上げてしまう。
『あっ——ひゃぅっ……!』
私の子種は早く外に出たいと言わんばかりに、驚く少女の顔目掛けてどっぷりと飛び続けたのだ。
数秒経ってやっと落ち着き、私は一人でスッキリしつつ、言いようのない罪悪感を背負って呻いてしまう。
『沢山出たね……まだ物足りなさそうだけど』
この場面はあまりにも印象が強過ぎて、全ての音、感触、匂いさえも受け取れたのだ。
それはもう、夢と言うよりは現実そのものに近い感覚で。
私が『もう充分だ。止めていい……』と伝えても、少女は『ううん、次はもっと気持ち良くするから……全部出して?』と残しながら、男根から泡を流し、半分ほど咥えこんでしまう。
それから舌先を器用に使い、チロチロと舐め続けてくれる。
『にちゅ、れろ——じゅちゅっ』
『ぐっ——うぅ……』
おかげで私は変な声を漏らしてしまうが、それよりも舌技が少し上手い事に驚きを隠せない。
『んっ……ちゅぷっ、じゅる』
思わず、どこでこんな舌技を学んだのか少女に聞いてしまう。
『ちゅぽっ——よく読む女性向け雑誌の特集を参考にして、バナナを食べながら学んだんだ。言っとくけど……男の人に実践するのは初めてだよ?』
初めてなのは、ぎこちなさで分かる。
しかし、最近の女性誌は素晴らしい特集をしているのだなと思うと、感心と共に畏怖せざるを得なかった。
ひとまず淫らな行為を途中で止めてくれたのは良かったが、何故か少女は体を震わせている。
『大丈夫か?』
『うん……いきなり昨日の事が頭に浮かんで……。あの変な男にいきなりナイフで脅されて……お尻に汚いもの擦り付けられて……っ』
涙を溜めて怯える少女を落ち着かせる為、私は立ち上がったまま、自分の胸に彼女の頭部を寄せて抱き、優しく後頭部を撫であげてしまう。
そして謝りながらも、もう淫らな行為はしなくて良い旨を、やんわり伝えた。
『お兄さん……お願いがあるんだ。あいつの事を忘れさせてくれないかな?』
しかし、少女は淫らな行為を要求するのを止めてくれない。
少女は一旦私から離れて背中を向けると洗い台に両手を突いて、自ら尻を突き出したのだ。
『私のお尻を……お兄さんの精液で清めて欲しい……』
露骨に誘う少女に気が動転した私は、理性と欲望の狭間をくるくると回った結果、男根を尻に挟んでぶっ掛ければ良いという結論に至ってしまう。
私は『忘れさせてあげるさ……』と静かに熱を帯びながら、少女の育ち気味な尻両側を掴み寄せ、硬くなっている男根を尻の谷間に挟み込んだ。
『んやっ——』
瞬間、少女の艶かしい声が脳に響いたので、とても感じているのだろう。
しかし、乱暴にしすぎては少女のトラウマを抉り兼ねないので、出来る限り優しく、且つ少女が不安にならないよう適時声を掛けた。
『ふあぅっ——!』
わざわざ少女は口を塞いでまで、喘ぐ声を抑えてくれている。
そんな少女の健気な行為に私は興奮し、理性が少しずつ削り取られ、情けない声を上げながら、徐々に腰を激しく動かしてしまう。
その度に少女が『んっ……ふぅ、あぁ……やぅっ』と喘ぐ小さな声と、少女の涎と我慢汁でトロトロに濡れた男根が張りのある尻で擦れる淫らな水音が、強く脳内を響くのだ。
数分も少女の尻を堪能していると私の理性も完全に崩壊し、荒々しく腰を振ってしまう。
『んぅ……んっ、らめ……おかひく……なりそぉ……』
少女も相当感じているようで、声を抑えきれなくなっていた。
先ほど舌技で刺激されていた事もあって、早くも限界を迎えそうになった私は、尋常ではない速さで腰を振ってしまう。
『ぐっ——うあ、気持ち良すぎる——!』
『あみゃっ、それらめ——わたひなんか、きひゃう——』
少女が何を言おうとも、私は気にも留めず尻肉で男根をキツく挟み込み、射精する寸前に腰を止めた。
『出……るっ!』
『あにゃっ——んやああぅぅ……むぅぅーんぅっ!!』
止めた瞬間、絶頂しながら潮を噴き出す少女の尻から髪に向けて、子種がどびゅるどびゅると暴走する如く飛び出し続け、彼女の背後が白濁色に染まっていく。
『はぁぅ……ひゅぅ……あぁ……おにぃひゃん……ひゅきぃ……』
洗い台にもたれ掛かりながら息を整えていた少女の背中が、尋常では無い量の精液で汚れていた。
だけど、私が絶頂する横目で見ていた少女の顔は蕩けきっており、実に幸せそうであったのだ。
それでも私は途轍もない罪悪感に打ちのめされ、何故こんな事をしてしまったのだと一人頭を抱え、しばらく後悔してしまう事になる。
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第二回戦目は夕雲が九、満潮が一という圧倒的な点差で試合が終わってしまったのだが、会場にいる誰もが満潮の健闘を心から祝し、私も感動が覚めやらなかった。
第三回戦目が始まる前に長門が「固定砲台が二人では最早、訓練にならんな。後二人追加して弾幕を濃くするぞ」と言って、観客席で熱心に駆逐艦達の応援をしつつ記事のネタ探しをしていた青葉と、その手伝いの衣笠を私の元へ連れて来てしまう。
「二人とも、先ほど話した通りだ。手伝ってくれたら提督が、なんでも美味い飯を奢ってくれるぞ?」
そんな事は、彼女達には言っていない筈なのだが。
「えっ、マジですか!」
「それは嬉しいですけどぉ……やっぱり記事の方が——」
「ならば代わりに、あの新人を連れて来てくれ。艦砲射撃の練習には、ちょうど良いだろう」
長門の凝視する方向には、ビスマルク、Z1(レーベ・レヒトマース)、Z3(マックス・シュルツ)、呂500(彼女の要望で、ろーちゃんと呼ぶ)達と共に、重箱から取り出した巨大なおにぎりを喜んで食べているプリンツ・オイゲンがいた。
「はーい、では行ってきまぁす! あっ、衣笠は好きにしていいからね?」
「うんっ、ここは衣笠に任せて。青葉はあの子達が頑張ってる写真を撮ってあげてね!」
「あははぁ……もちろん! じゃあねー」
あの感じだと妙な写真しか撮っていない気がするが、大丈夫なのだろうか。
そんな心配をよそに、青葉に代わってキラキラと目を輝かせるオイゲンが、こちらへやって来た。
「提督ぅ! ニホンの懐石料理、食べさせてくれるって本当ですかぁ〜!」
「ふっ、提督の懐は温かいからな。問題なかろう」
先程から長門がさらっと酷い事を言うのだが、何か私は彼女に嫌われる様な事をしてしまったのだろうか。
「まあ良い。奮発するとも……」
「聞いた通りだ。早く主砲と追加の弾を工廠から取って来て、持ち場に着いてくれ。そろそろ急がなねば、本来の任務にも影響が出るのでな」
「うんっ、おまかせあれー!」
「わぁーいっ、やったー!」
その後工廠に足を運んだ二人は、鉛入りゴム弾が二百個程度詰まっているらしい麻袋と微量の火薬、主砲をそれぞれ持って来てから、麻耶と足柄のいる沿岸部へと待機する。
その間、天龍と龍田率いる選手以外の駆逐艦娘達の手により、コートの整備が完了した。
「さあ、続いて第三回戦目を始めますので、再び選手の紹介をさせて頂きますね?」
順調な高雄の司会を聞いて、休憩していた観客達がどっと騒めく。
「まず左コートに立ちますのは——朝潮さんです!」
観客達から盛大な拍手を送られる中、朝潮は凛と背中を伸ばし、堂々と左コートに入る。
気を失っていた満潮が目を覚まし、大潮、荒潮、山雲、朝雲の四人と混じって、元気な声で朝潮を応援していた。
「次に右コートに立ちますのは——初霜さんです!」
一部の観客達から「絶対に自伝読ませてー!」と嫌がらせの様な声援を聞いても、初霜は自信満々に胸を張り、しっかりと歩いて右コートに入った。
朝潮は爽やかな顔で初霜に一礼し、初霜はニッコリと微笑みながら礼を返す。
「初霜さん、あなたの司令官に対する熱意を見せ付けられて、朝潮は心を打たれたわ」
「ふふっ、私も朝潮さんの実直さに少々嫉妬してしまいました」
「司令官の事を純粋に想う者同士——正々堂々戦いましょう!」
「ええっ、かかって来て!」
どちらとも、長門の前でそんな照れ臭い事を言うのは本当に止めて欲しい。
もしかしたら、甘ったるい言葉が長門を怒らせている原因かもしれないのだから。
ちらりと横目で見た長門は、真剣な顔で二人を見届けるだけで相変わらず読めないし。
「さあっ、互いに礼儀良く一礼し合う二人を見守った所で——長門さんお願いします!」
「ふっ——勝負始め!」
少し笑った長門の合図により、二人の打ち合いが始まる。
「はっ!」
先手の朝潮が小気味良い掛け声を上げながら、初霜側コート真ん中狙って、緩やかに弧を描きながら羽根を落とす。
「わわっ、ちょっと——やぁっ!」
負けじと初霜も打ち返してはいたが、足元付近に着弾する三発ものゴム弾を、実に焦りながら避けていた。
「はっ、たっ——とぉっ!」
初霜が打ち返した羽根が朝潮側コート中心に落下しており、朝潮は連続で降り注ぐ三発のゴム弾を華麗に避けつつ、正確に初霜側コートの右隅狙い、打ち付けた。
「こんな多いの避けられ——きゃぁっ!」
自コート左側に立っていた初霜は急いで羽根を拾おうと右隅に駆け付けたが、不規則に射撃されるゴム弾四発のうち、三発目が腰に擦り、痛そうに座り込んでしまう。
「朝潮、一点先取!」
長門が叫んだ瞬間、観客達がドーッと騒めいた。
「痛たた……ちゃんと避けられなくて恥ずかしいわ……」
「大丈夫、いきなり訓練が辛くなったんだもの」
「うん……そうよね。朝潮さん、ありがとうっ」
初霜が痛そうに腰を摩りながら立ち上がると、いつもの様に那珂がやって来て、初霜の右頬に◎を描いていた。
「あうっ——ひどいわ……」
「えと、ごめんね? 挫けず頑張ってねー!」
割と本気で落ち込む初霜を前にして、那珂はバツが悪そうに帰ってしまう。
そんな初霜を見ても、朝潮は顔を歪める事なく、真剣そのものであった。
「続き始め!」
先手の朝潮が「初霜さん、行くわよ!」と叫びながら羽根を打ち、初霜側コート後端真ん中に落とす。
「はい!」
初霜は返事しながら、朝潮側コートの前方に打ち返し、且つ足元付近に着弾した二発のゴム弾をどうにか避けていた。
「ねえ、初霜さんは——司令官のどんな所が好き?」
「そうね——あの逞しい体と——頼りになる所が大好きっ!」
時間が経過して足柄と麻耶の集中力が切れたのか、選手二人とは違う方向にゴム弾が着弾している。
その隙を狙って二人は甘ったるい会話をしつつ、ゴム弾を最小限度の力で避け、羽根を打ち合っていたのだ。
「提督よ、本当に誰からも好かれているのだな。羨ましい限りだな?」
「そうだな……嬉しくて涙が出そうだよ」
長門の声に躍動が無く、怖いのもあるが。
「他には何処が好き?」
「うんっ、優しい所が好き!」
「そう……朝潮も一緒よ!」
「ふふっ——それ!」
そんな風にずっと、朝潮と初霜の二人は、とても和気藹々と勝負を楽しんでいた。
墨汁で全面を落書きされた二人が、五対五と良い勝負をしている時、少し事故が発生する。
沿岸部で艦砲射撃をしていたオイゲンが砲撃の勢いと、小波に足を取られて背中からバシャリと倒れ込み、後頭部を岩礁にぶつけてしまったのだ。
「会場の皆さん、ちょっとしたアクシデントが発生しましたので、長門さんの命令に従い、一時中断させて頂きます」
審判の長門から一時中断命令が下り、高雄が連絡すると共に、足柄と麻耶が、くらくらと目を回すオイゲンに肩を貸して救護所に運び始める。
オイゲンを救護所に運び終えると、二人とも元いた場所に戻り、待機した。
私と長門も急いで救護所へ向かい、オイゲンの体調を見守っていたのだ。
「オイゲンさん、大丈夫ですか?」
救護員の神通が、心配そうにオイゲンを介抱している。
「うああ……やっぱり浅瀬なんて嫌いだよぉ……」
「そう言えばオイゲンは浅瀬が苦手だったな。すっかり失念していた」
長門は額に手を当て、首を横に振りながら参っていた様だ。
「オイゲン、回復するまでしばらく休みなさい。代わりの者を当てるから」
「うう……面目ないです……。懐石料理、食べたかったなぁ……」
「きちんと奢るから気を確かに持て」
「ホントに!? えっへへ……楽しみだぁ〜」
とりあえず、オイゲンに大した怪我が無くて良かった。
彼女の代理として、観客席ではしゃいでいた川内を半ば強引に当て、再び試合が再開される。
「開催する方も大変みたいね——たっ!」
「うん、そうみたい——やあっ!」
相変わらず朝潮と初霜の二人は和気藹々と試合に取り組むが、飛来するゴム弾を目まぐるしく避けつつ羽根を返し合っているのだから、観客達も盛り上がるというものだ。
「あっ——痛ぁっ!」
ゴム弾同士が当たって軌道を変えたゴム弾の一つが、朝潮のブルマ尻に直撃し、彼女は羽根を見落としてしまう。
「初霜、六点獲得!」
「ああ、すごく痛そう……大丈夫?」
長門の判定を聞いても初霜は、しゃがみ込む朝潮の心配をしていた。
「痛いけど、平気。不知火さんと春雨さんの気持ちが、よく分かるもの」
「そうね、あまりにも痛そうで笑えないわ……」
どうやら二人は勝負よりも、選手達の心情を察しているらしい。
それからも二人は勝負と言うよりは娯楽として試合に取り組み、朝潮が八、初霜が九で幕を閉じようとしていた。
「ふう……これって羽根突きよりも——」
「——艦砲射撃を避けている方が辛いわよねぇ……」
いくら楽しんでいるとは言え、二百を超えるゴム弾を避けていては疲れるのも当たり前である。
「でも……楽しい試合ももうすぐ終わりだわっ」
「ええ、そうね——やあっ!」
朝潮と初霜は至って友好的に会話を続けながら勝負していたが、激しく打ち合い、弾幕を避けていたので、二人の声の届かない観客達からは、どちらも頑張れと声援を送っていた。
声の聞き取れる待機場所にいる選手達も静かに見守っており、会場全体が心を一つにし、精一杯応援していたのだ。
「こんなに楽しいなんて——」
「最高ねっ——これで終わりよぉ!」
「いいえ、まだやらせは——きゃああっ!!」
自コート左側に落ちた羽根を拾おうとする朝潮の横尻に飛来したゴム弾が直撃し、彼女はコート外へ転がりながら吹き飛んでしまう。
あまりの勢いに、会場全体から悲痛の叫び声が上がる程である。
「朝潮さん——!!」
「……初霜、十点獲得、試合終わり!」
心配する初霜は長門の判定を聞いた途端、朝潮の元に移動して座り、彼女の手を両手で握り締めていた。
「うう、お尻と腰が痛い……。実弾だったら轟沈していたでしょうね……」
「縁起の悪い事を言わないで……とにかくっ、とてもいい勝負だったわ!」
私も急いで二人の元に移動して片膝を突くよう屈み、朝潮の顔色を確認する。
「朝潮、一人で立てるか?」
「司令官、腰が痛くて立てません……」
「なんと! 今すぐ救護員の者を向かわせ——」
「いえ、司令官に運ばれたいです。春雨さんの様に優しくお願いします」
話を聞いた初霜はクスリと微笑み、朝潮から優しく手を離す。
「ふふっ——提督、朝潮さんを運んであげて?」
「あ、ああ……では、運ばせてもらおう」
隣にいた初霜が寂しい思いをするか懸念していたのだが、別にそんな事は無い。
私にお姫様抱っこされている朝潮を見ても、初霜は心から嬉しそうに微笑みつつ見送っていたのだから。
「朝潮、腰は大丈夫か?」
「はい。ですが……胸のドキドキが止まりません」
「それは我慢して貰うしかないなあ」
「はい……我慢します」
朝潮は力強く、私の首に腕を回す。
「どうした、落ちそうで怖かったか?」
「いいえ、ただ司令官の温もりを……こんなに近く感じる事が出来て、嬉しさが止まりませんでしたのでっ」
「そうか、ならば良かった」
ここまで楽しそうに笑顔を浮かべる朝潮を見たのは初めてで、思わず私も朗らかに笑い返してしまう。
すると朝潮は頬を紅く染め、私の胸に顔を埋めながら隠したのだ。
「もしかして寒いのか?」
「大丈夫……寧ろ温かくて堪りません」
「うむ、それなら安心だな」
救護所の簡易ベッドに朝潮の体を優しく乗せると、満潮、大潮、荒潮、山雲、朝雲と、外出から帰って来ていた霰の六人が彼女の周りを囲み、体に異常が無いかとても心配していた。
そして、心配を終えた満潮だけが私の正面に立ち、ポカポカと胸を叩いて来る。
「バカ、アホ! 朝潮をこんな危険な目に合わせて!」
「本当にすまなかった……」
しかしすぐに叩くのを止め、複雑な顔で私から目を逸らしたのだ。
「……でも、運んでくれたのは司令官だから……礼だけは言っとくわ……ありがと」
「ああ、こちらこそいつもありがとうな!」
「んにゃっ——! ちょ、ちょっとっ、止めなさいよぉー!」
嬉しさのあまりに満潮の頭を撫でてしまったが、やはり全力で払われてしまう。
「おっと、すまないな」
「ったく、どんだけ馴れ馴れしいのよ! ほんとに……もうっ……」
私と満潮の漫才を見て、何故か朝潮が大爆笑していた。
「あはははっ——!」
「朝潮、どうしたのだ?」
「ちょっと、頭にも弾が当たったとか言わないでよね?」
「二人ともごめんなさい……笑っちゃダメなのに止まらなく——んふふふっ!」
爆笑する朝潮の声を聞いた大潮達五人もそれぞれ大笑いし、満潮も楽しそうに笑っていた。
「そうか……なるほどな!」
「ふふふっ——全く……私、なんでこんなくだらない部隊に配属されたのかしらね!」
「わはははっ——さあな、運が悪かったんじゃ無いのか」
「全く……本当に運が悪いわ! これじゃあ司令官を怒るに怒れないじゃない!」
「満潮、これからも頼むぞ?」
「ふんっ——仕方ないから頼まれてあげる!」
すっかりと満潮が心を開いてくれた事が、私にとって幸せで仕方が無い。
これも朝潮の屈託ない笑い声がそうさせてくれたのだと思うと、私は彼女に感謝せざるを得なかった。
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