※この作品はR-18です。

ああ無情、私は潮っぱいで尊厳を失った!   作:MTDKC

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第3話 酸っぱい葡萄

 提督室に備え付けられたベッドで、漣と激し過ぎる性行為を行なった身体疲労と寝不足により寝落ちした私は、ふと目を覚ます。

 

「……夕陽が眩しい」

 

 窓から入る赤い日光が、午後5時30分の時刻を指す時計を差していた。

 光の眩しさで目覚めた私は、自らの子種で汚した部屋を思い出し、慌てて体を起こしてしまう。

 

「まずい——って、あれ?」

 

 確かに私は漣の隣で下半身丸出しのまま寝落ちし、部屋のあちこちに子種をぶちまけていた筈なのに、そんな形跡は栗の花の匂いも含め一切ない。

 

 しかも、私の肛門にはウナギ型バイブが挿されてないし、下半身には下着と制服のズボンが履かれている。

 

「悪い夢……だったのか?」

 

 いや、どちらかと言えば漣の温もりを感じる事が出来たのだから、最低ではあるが最高の夢に違いない。

 

「スー……ご主人様ぁ……」

「ん? 漣か、可愛い寝顔だ……」

 

 確か本日の秘書艦である漣が、ベッド横の椅子に座り、両手でベッドにうつ伏せながら心地良く眠っている。

 その寝顔の可愛さに私は思わず頭を撫でたが、その感触が私の欲望を疼き、寝落ちする以前の記憶を瞬時に駆け巡らせてしまう。

 

「違う、夢などではない——!」

 

 漣にした事、されてしまった事を冷静に、且つあくまで客観的に考え直した私の頭から、サーッと血の気が引く。

 

「んにっ……ご主人様、お目覚めですか〜……レレレのレ」

 

 しかし、漣の寝ぼけ際での意味不明な発言が私の呵責を幾つか抑えてくれた。

 

「ああ、眠ったら大分回復したぞ」

「それなら良かった、なのねん☆」

 

 不意に私がベッド横にある立派な黒檀の棚を見てみれば、鉛筆で描かれた美化されている私の似顔絵の下に——しれいかん、どうもありがとなのです!——という可愛らしいクレヨンの文字が入った画用紙と、丸い皿の上に乗った美味しそうな大福が3個に、籠に果物の盛り合わせが置かれているのが目に入った。

 

「早いな、暁達はもう帰ってきたのか」

 

 おそらくこれらの差し入れは、邀撃作戦に出撃させた暁が指揮を執る暁型4姉妹と、軽巡洋艦那珂、戦艦長門達のものであろう。

 駆逐艦である暁に指揮を執らせ、長門にその助教を任せたのだが、この目的を説明するならば、彼女を含めた全艦娘の指揮能力向上を図り、鎮守府全体の練度を上げる事が目的である。

 言わば、実戦における訓練なのだ。

 

「えへへ〜、みんなご主人様に感謝してたぞよっ☆」

「うむ……実に嬉しいな」

「その影でご主人様ってば、漣の事をパンパン襲ってたのにねぇ〜♪」

 

 背中に寒気が走る。

 

「漣……今朝は本当にすまなかった……私は司令官失格だ」

「ん〜ん、そっちは全然いいし漣は気にしてません!」

「本当か?」

「本気と書いてマジであります! ご主人様の事が“他の誰よりも”好きなのは事実なんですぞ?」

 

 漣自身が、今朝私が勢いでしてしまった嗜虐的な振る舞いに対して全く気にしていない事で、心底安心してしまう。

 

「そうか、それなら良かった——」

「だがしかーしっ!」

 

 唐突な漣の嬉しそうな叫び声に、私は驚き体をビクリとさせる。

 

「漣より先に潮ちゃんに手を出した事は、ぜーったいに許せんよなぁ☆」

「ぐぬぅ……」

 

 そう、私は徹夜特有で起こる精神の異常高揚のせいとは言え、昨夜遅くに純真無垢な潮を穢したのは事実だ。

 それだけは絶対に消える事のない呵責である。

 

「そこで漣は考えました! ご主人様の罪を少しでも軽くする方法ねっ」

「何をする気だ?」

「それはですね——私や潮ちゃん以外に、ご主人様の事が大好きな艦娘達から、あなた様を好き放題させてもらう事でありま〜すっ」

「な——なんだと!?」

 

 そんな事をされては私の身が持たないし、それ以前に不可能な事である。

 

「バカを言うな……そんなの道徳的にも無理だ」

「いえいえ、そんな事ありませんとも☆ まーそういう事ですのでぇ……明日以降からじっくりと皆様方の温もりを感じて下さいませ〜。まあいつ来るかは襲う子次第で有りますがぁ〜」

「まさかそんな……できるものか」

 

 私は愕然とし、何もない空間を直視してしまう。

 

「それでねご主人様っ、気が済むまでエッチしたら、誰が一番上手だったか漣に教えてくださいませ☆」

「そんなの……教えるわけが——」

 

 どれだけ私が拒否しようとも、漣は笑顔のまま話し続ける。

 

「えへへっ。漣を無理矢理襲ったご主人様は、もう後戻りなんて出来ないのでありんす。分かります〜?」

 

 確かに私は、無理矢理漣の口内へ単装砲をねじ込み、激しく強引に腰を振り子種をぶち撒けたのだから、無理矢理襲った事は事実に相違ない。

 

「分かった、漣……私を好きに使ってくれ。もう人間扱いなどしなくていい」

「えへへ、そんな潔いご主人様も漣は愛しておりますっ☆ では漣はご主人様に代わり、厳正な秘書任務に戻りますっ!」

 

 漣はビシッと敬礼すると、提督専用机の隣机へ座り、何事も無かったかの様に執務を始めた。

 そんな中、私は再びベッドに体を預け、脳内を飽和させながら天井を見続けてしまう。

 

○

 

 翌日から、私は鎮守府の廊下で艦娘達と眼を合わせるのが恐く、すれ違う時は挨拶を交わすだけに留まっていた。

 とくに誰とも性的な関係を持たず、挨拶を交わすだけの日々が5日も続くと、私の妙な噂が鎮守府内にちらほらと出てくるのを聞いてしまう。

 

 最近の提督は元気が無い、何か悩んでいるのか、誰かにフラれて辛い思いしているのか等々、有りもしない噂も私の耳に入った。

 

 このままでは駄目だと思った私は、本日の秘書艦である潮に、部下だと言うのに噂の件を相談してみる事にした。

 

「なあ、潮……相談したいのだが」

「あっ、はい! どうかしましたか、提督?」

 

 今の時刻はヒトヨンマルマル。

 朝から仕事の要件以外で話しかけなかった事もあり、潮は驚きの声を上げていたのだと思う。

 

「すまないな、いきなりで」

「いえ、提督の大事なお話でしたら、どんな事でも気になります」

 

 慌てていた潮は笑顔を作り、私に優しく語り掛けてくれた。

 

「うむ、実はだな……。最近艦娘達が私を心配する噂があちらこちらから聞こえてな。知っていればなんでもいいから、詳しい内容を教えて欲しいのだが」

「あっ、その事でしたら……。潮はそうは思いませんが、提督の顔に元気が無いと皆が仰って、それで、心配が止まらないそうで、そのお……」

 

 潮はあたふたとぎこちない説明をするが、私を思う必死な気持ちは非常に嬉しかった。

 

「そうか、私が気にしすぎたばかりに皆を心配させてしまったのか……本当にすまないな」

「いえっ、提督が謝るなんて、そんなっ」

 

 よく考えると、今こうして普通に話し掛けられるのは潮と漣ぐらいしかいない。

 それだけ私は、他の艦娘達に対して気を許して無かったと言う事なのだろうか。

 その事に気付かせてくれた潮の頭を、私は撫でずにはいられなかった。

 

「潮は実にいい子だ、ありがとう」

「あううっ……」

 

 素直に照れる仕草を見せる所が可愛くて仕方ない。

 

 これで明日からは、いつも通りの自分のとして艦娘達に接する事ができると私は思い直し、任務を続行した。

 

○

 

 翌日以降から私がいつも通り艦娘達の目を見て明朗に挨拶する事を心掛けていく内に、次第に皆が私を心配する噂は消え、快調な任務を送る事が出来た。

 

 潮に相談して問題を解決した3日後。

 本日の秘書艦は白露型2番艦の時雨であり、彼女と共に恒常的な任務に取り掛かっていた。

 

「提督、この書類は古いものだけど、どうすれば?」

「ああ、少し見せてくれ……うむ、破棄してくれ」

「了解、任せて」

 

 時雨は備え付けられた裁断紙箱に山積みの古い資料をドサリと置いた。

 

「提督、間宮から僕たち艦娘に支給する為の食材が入ってこなくて困ってると連絡が来てるよ」

「明日の昼には補給経路を通じて運ばれる。本日は節制に努めよ、と伝えてくれ」

「うん、みんな辛くなるけど仕方ないね——」

 

 時雨は電話機で、分かりやすく簡潔な情報を間宮に伝え、一言「ごめんね」と添え、ガチャリと切った。

 

 この様な感じで時雨は任務を忠実にこなしてくれるので、彼女が秘書艦の時は仕事がとても楽なのだ。

 

「時雨、お前はいつも冷静でしっかりしてるな」

「そうかな? 僕だって、たまには慌てふためく事もあるよ」

「時雨が慌てふためく姿か……ははは、見てみたいものだな」

 

 私が悪戯に笑ったからか、少しだけ時雨の頬が膨れる。

 

「提督は悪い人だね」

「ふふ、たまには良いだろう?」

「うん、いいと思う——そう言えば提督?」

 

 時雨は微笑むと、唐突に質問を投げてくる。

 

「突然、どうしたんだ」

「うん、3日前以前の提督に元気が全く無かったものだから」

 

 私は漣との爛れた一件を思い出し、血の気が引いてしまう。

 

「いや……気のせいだろう」

「ほら、辛そうな顔になった」

「私は平気だ……何もしとらんよ」

 

 とは言え私は辛い顔を隠す事が出来ず、時雨を無駄に心配させるばかりだ。

 

 次第に時雨の顔が悲しみに包まれてゆく。

 

「提督、漣から聞いたんだ」

 

 時雨のその一言で私の背中にゾクリと寒気が走り、手の平や脇から嫌な汗が滲み出る。

 そして、時雨の目を見るのが恐くて堪らなくなり、席から立ち上がって背中を向けてしまう。

 

「何を、だ?」

「提督が……潮に手を出した話」

 

 時雨のその重たすぎる発言で私は悟った。

 私の司令官としての威厳は地の底に落ちた事が確定した事を。

 

「そうか……知ってしまったか」

「提督、最低だね」

 

 本当に私は最低だ。

 しかし、その発言は私にとってちょうど良い。

 良心の呵責が少しでもおさまるのだから。

 

「もっと軽蔑してくれ。そして、私を司令官の座から降ろすよう上申するのだ」

「提督、絶対にそんな事しないから、僕の話を聞いてくれないかな?」

 

 時雨は人間失格した私を知っていても、庇ってくれる程優しい子なのだろう。

 

「ああ、話だけなら聞こう」

「うん、提督はイソップ寓話の『酸っぱい葡萄』って知ってるかな?」

「ああ、知ってるとも。確か、高い木にぶら下がった美味そうな葡萄を狐が何度も跳んで必死に取ろうとしたが結局食べられず、あれは不味いものだからいらないと決め付け、帰ってしまったという話だろう?」

「物知りだね、提督」

 

 時雨のトーンは大体一定で落ち着いており、表情が見えず怒ってるのか悲しんでるのか分かり辛い。

 だがそれが逆に、私を少しでも冷静にさせてくれるのだ。

 

「提督、その狐は今正に——僕なんだ」

「どういう事だ?」

「僕は提督を酸っぱい葡萄に見立て、現実から逃げてるんだ」

「意味が分からないぞ……」

「提督、僕は提督の事を……誰よりも愛している自信がある」

「時雨、何を?」

 

 時雨の私を慕う声が近付いてくる。

 

「でも、上司と部下の間で恋愛できるわけないし、そもそも僕は提督に愛を伝える勇気すらない。提督を愛する想いだけが一人走りして、僕の胸を焦がしていくだけなんだ」

「し、時雨!」

 

 私の耳元に囁く様に聞こえるかと思いきや、時雨は私の背中から両手を回し抱き着いてきた。

 抱き着かれた拍子に、彼女の柔らかい胸が背中にムニリと当たってしまう。

 

「そこで僕は漣から偶々話を聞いたんだ。魔法の呪文を掛ければ、提督に好きな事が出来るって……。それが一夜限りの情事だとしてもね」

「ば、バカな真似はよせ。今すぐ離れるんだ……」

 

 私は声を荒げるだけで、抵抗する気は全く無い。

 ただ時雨の想いを受け入れるだけである。

 

「これで酸っぱいと思い込んでいた葡萄はいとも簡単に手に入る。でも、そんな不純な想いで提督を愛そうと考えている僕は、提督とは比べものにならないぐらい最低だよ」

 

 時雨の声が少し震えている事に私は気付いた。

 

「時雨……」

「提督、今日の一晩だけでいい……。僕の愛する旦那様になってくれないかな? 潮とか漣の件とか関係なく、僕は提督に……尽くしたい」

 

 今にも泣きそうな声で懇願されては、漣に精神を犯された今の私では断る事ができない。

 

「今夜だけだぞ……それで悔いは無いな?」

「っ……うん」

 

 最後に聞いた時雨の嬉しそうな声を聞き、不思議と私の肩の荷が下りてしまう。

 

「さあ、それまでは任務に専念しろ。少しでも手を抜くのなら、さっきの話は無効だ」

「うん、死ぬ気で頑張るよ」

 

 本当に死なれては困るが、時雨のやる気が出てくれたのならばそれでいい。

 私はそう思い、時雨との情事を迎えるまで、ひたすら任務に明け暮れた。

 

○

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