第八回戦目も吹雪の勝利に終わり、ついに優勝者が決まる第九回戦目が幕を開けようとしている。
「皆様っ、勝者が決まる第九回戦目が始まる前に重大なお知らせがございます」
高雄からの知らせを聞き、観客達がヒソヒソと喋りあっている様だ。
「長門、いったい何があったのだ?」
「提督すまない。実は貴方に内緒で、とある者に決勝戦の訓練艦砲射撃を任せていてな」
「とある者とは?」
「——大和さんの入場です!」
昂ぶる高雄が叫ぶと、艤装した大和が委員席で休憩している私の正面まで淑やかに赴き、丁寧に一礼する。
「なるほど……大和だったか」
「提督、私はずっと寮から眺めていました……あの子達の頑張る勇姿をっ!」
「そうだったのか。ならば初めから会場で応援すれば良かったのではないか?」
大和は申し訳なさそうに頬を掻く。
「そうなんですけど、艤装したままでは燃費を無駄に使っちゃいますので〜」
「うむ、今日ぐらいは気にしなくても良いと言いたいが、確かに資源は最低限度で運用するものだな……よく我慢してくれた」
「気になさらないでっ。では、大和は足柄さん達に代わり艦砲射撃訓練を行わせてもらいますね」
「ああ、是非とも頼むぞ」
大和は嬉しそうに笑いながら、沿岸部へと移動した。
代わりに疲れを見せる足柄達が委員席へ戻り、用意された椅子へ座り込む。
「ふう……疲れたわ」
「本当にな……おかげであいつらから弾道読まれまくってたし」
「いえ、足柄さんも麻耶さんも掠らせて凄いですよぉ! 私なんて全弾回避されちゃいましたし……」
初戦から艦砲射撃を行って疲れていた足柄と麻耶を、衣笠が落ち込みつつ褒める。
「いやー久しぶりに射撃訓練頑張ったな〜。あっ、私が一番掠らせたんで約束の間宮アイス奢ってくださいねー、先輩達!」
しかし、オイゲンの代わりを務めた川内だけは元気だった。
「はあ……残念ね、別に良いわよ」
「仕方ねーな、負けは負けだし」
「それに川内ちゃんは元々訓練外だったもんねぇ。じゃあお礼に、衣笠さんが多めに買ったげる!」
「おおーっ、衣笠さん太っ腹ー!」
なんだかんだで、開催委員側も楽しんでいる様で何よりだ。
「さて長門よ、私達も元の位置へ戻るか?」
「ああ、吹雪と夕雲の勇姿を見届けなくてはな?」
私と長門がコート前に移動すると、高雄の司会が始まる。
「それでは皆様、最後の試合前に選手紹介をさせて頂きます——左コート、吹雪さんです!」
最高潮に観客達が騒めく中、吹雪が整然とコートに入る。
「次に——右コート、夕雲さんです!」
相変わらず金切り声の凄まじい巻雲に歓迎され、夕雲がゆったりとコートに入る。
吹雪は真剣に、夕雲は妖しく笑いながら、それぞれ見合っていた。
「夕雲ちゃん……遂に決戦だね?」
「吹雪さんは……覚悟は出来ているのかしら?」
「えっ——覚悟って何のこと?」
「知らないなんて言わせません。あなたが特に、提督を愛している事は重々承知なのよ?」
夕雲の言葉を聞き、吹雪はかなり慌てふためいてしまう。
「そそそ、そんなっ——ゆ、夕雲ちゃんには関係無いよっ!」
「いいえ、関係有ります。私だけでなく鎮守府にいる皆さんに……ねぇ、提督?」
唐突に話を振られた私は困惑せざるを得ない。
「いや、そ、それはだな……」
「司令官っ、そ、そうなんですか?」
同じく困惑する吹雪に聞かれては、もう言い逃れは出来ない。
「ああ……その通りだ。私は艦娘達から愛の告白を受けているよ」
「司令官……」
「なるほどな」
吹雪は落胆する表情で俯せ、長門はやけに納得している。
「うふふっ——そういう事よ!」
「そうだよね……司令官は優しくて頼もしいし、皆の事をきちんと考えてくれているんだもの……」
吹雪が、こんなどうしようもない私を心底から褒めてくれていた。
「そんな素晴らしい方を愛さない女の子なんて、いないよねっ!」
「吹雪……そこまで私を信用してくれて……」
吹雪の言葉はとても嬉しい反面、胸が押し潰されそうになるほど苦しい。
だって私は、吹雪が言うほど出来た人間では無いのだから。
「吹雪さんっ——あなたって人は!」
「ゆ、夕雲ちゃん……?」
私を崇拝する吹雪を、理由はさっぱり分からないが激怒する夕雲が鋭く睨み付けていたのだ。
「こ、怖いよ……どうしてそんなに睨むの?」
「あなたが提督の心を傷付けるからよ……少し、お仕置きしなくてはね?」
まさか、私の胸が押し潰されそうな事に勘付いたのだろうか。
「夕雲、そこまで怒らずとも——」
「提督、今はそっとしておけ」
長門が私の肩に手の平を乗せた。
「何故止めるのだ?」
「貴方が口を出さなければ、夕雲が溜めた鬱憤を解消出来るだろう?」
「しかしっ、このままでは吹雪の身が——」
「自分を厳しく鍛え上げた吹雪が、怒りに身を任せる夕雲を前にしただけで挫けるわけが無いだろう。それとも貴方は吹雪を信頼していないのか?」
そんな事は言われずとも分かり切っている。
「無論、信頼しているとも……すまない、熱くなりすぎたな」
「ふっ……だがそんな貴方だからこそ、私は落ち着いて任務に取り組めるのだ。何事にも熱い男は信頼に足るよ」
「長門……ありがとう」
「気にするな……貴方が上官で、私も助かっているんだ」
私達が話し込んでいる間に、高雄の司会も進んでおり、いよいよ試合が始まろうとしていたのだ。
「——それでは長門さん、最後の審判お願いします!」
「よし……勝負始め!」
「たぁ!」
長門の合図を受けた吹雪は夕雲の怒りに恐怖する事無く、声を張り上げながら羽根を打つ。
「夕雲ちゃんもすごい気迫だけど、負けてられま——!?」
吹雪が羽根を打ったと同時に凄まじい砲音が会場全体に轟き、大和の撃ち放った八発ものゴム弾が夕雲を囲むよう飛来した。
「たっ、やっ、避けますっ——はあっ!」
それでも夕雲は華麗に避けつつ、吹雪の後方へ羽根を打ち返した。
「あれだけの弾を危なげなく避けるなんて——夕雲ちゃんすごい!」
そう言う吹雪も飛来する五発のゴム弾を易々と避け、力強く跳んで上空にある羽根を叩き返す。
「ありがとう吹雪さん——でも、許しません!」
「あわわっ——!?」
夕雲は七発のゴム弾を避けながら叩き込まれた羽根を優しく打ち返し、吹雪の駆ける反対側へ落下させた。
同時にゴム弾九発が吹雪の周囲を襲った事で反応を鈍らされ、見落としてしまう。
「夕雲、一点先取!」
その瞬間、静寂だった会場に夕雲を褒め称える声と吹雪を応援する声が混じって響く。
そんな中でも那珂は乱入し、吹雪の腕に丸を描いて帰っていた。
「うう……あんなの打ち返せないよ」
「吹雪さん、今の打ち方ではどう足掻いても私には勝てないわよ?」
「そんなの——やって見なくちゃ分からないよ!」
「——続き始め!」
「バカみたいにまっすぐでは勝てないと言う事を——証明してあげる!」
長門の合図で夕雲は高く打ち上げ、吹雪が一番強く打ち返せそうな地点へ落とす。
おそらく、わざとだろう。
「うわぁっ、怖いっ、むうぅ——これで……一点取り返します!」
七発ものゴム弾をその場で避けた吹雪は再び高く跳び、今大会中、渾身の一撃を叩き返した。
「はっ、やぁっ——甘いわ!」
「えっ、そんなっ——きゃああっ!?」
しかし、呆気なく柔らかに返された羽根は跳躍中の吹雪の隣を抜け、同時に十発ものゴム弾が彼女の体全体を掠り、コートの外へ勢い良く転がってしまう。
「吹雪!!」
「夕雲、二点!」
思わず私は声を上げてしまったが、その場から動く事は出来ない。
二人の試合を見届けると決めたのだから。
「痛たぁ……怖いなあ本当に」
とにかく吹雪も軽傷だったので、本当に良かった。
相変わらず那珂は、どんな時でもマイペースに落書きしに来るが。
「提督……辛い思いさせてごめんなさい——さあ吹雪さん、まだ立てるでしょう?」
「うん! このくらいじゃぁへこたれないから!」
コートへ戻った吹雪は那珂から顔を落書きされながらも、凛と身構えている。
「吹雪ちゃん、頑張ってねー?」
「はいっ!」
帰っていく那珂に、吹雪は丁寧に頭を下げていた。
「うふふっ、吹雪さんのそういうところ、大好きよ?」
「ありがと、夕雲ちゃん!」
「——続き始め!」
「だけど、提督を苦しめる事だけは絶対に許せないわ——例え悪気は無くとも!」
夕雲は羽根を高く打ち上げ、吹雪側コート後端真ん中へ落とす。
「私が司令官を……そんな!?」
吹雪は戸惑いながらもゴム弾を避け、羽根を打ち返した。
「ですから——分かるまで苦しんで貰うわ!」
「ちょっ——こんな激しいの取れないよぉ!」
「夕雲、三点!」
完全に弾道を読み切ったのか、夕雲は的確にゴム弾の雨が降る地点へ羽根を落とし、吹雪から点を奪っていた。
「ひゃわぅっ——うう……どうして点を取れないの?」
やって来た那珂に顔を落書きされて可愛らしい声を出しつつ、吹雪は落ち込んでいる。
「吹雪さん、少しは提督の気持ちを考えてみたらどうかしら?」
「司令官の気持ち……?」
「まっすぐ過ぎるあなたにヒントを上げます」
吹雪は困惑しつつ、小さく頷いた。
「うん……教えて?」
「吹雪さん、あなたは自分を誇らしいと心から思っているかしら?」
「そ、そんなわけないよ! 私は別に偉くなんて無いし、大した事も出来ないもの……」
「普通はそう思うわよね。だったら提督の気持ちも理解出来る筈よ?」
「えっ……? だって司令官は、私なんかと違って本当に素晴らしいお方だし……」
夕雲は呆れた顔で、首を横に振る。
「そう、やはり本人から聞かないとダメなのね……あなたの様な頭の固い方は」
「えっと……夕雲ちゃんの言いたい事が分からないんだけどぉ」
「お前達、そろそろ続きを始めるから、話なら試合中にしろ」
「あぅ……」
「すみませんっ」
長門に注意を受けた吹雪達は、一旦会話を止めて身構えた。
「では——続き始め!」
「たぁっ——先程の続きだけれど、私がこの試合に優勝した暁には——」
「暁には……どうするつもりなの?」
二人とも大量のゴム弾を避けつつ、器用に羽根を打ち合いながら会話を続けている。
「そうね——提督が本当はどんな方なのか、本人から包み隠さず話して貰うようお願いします!」
「な、なんと!!」
「えっ、しれいか——あっ、しまったぁ!」
思わず大声を出してしまった私に意識を取られた吹雪が、羽根を空振りする。
「夕雲、四点!」
「さて、そうと決まったら撤収試合開始ね〜♪」
「むっ……私だって負けないんだからぁ!」
不利な状況でも意気込む吹雪だったが、事あるごとに夕雲から先を読まれて羽根を容易く打ち返され、一点、また一点と取られてしまう。
「——夕雲、八点!」
気付けば八対〇と言う圧倒的な点差が開いており、疲れを表に出す吹雪は息を切らしていた。
「はあっ、うぅ……そんなぁ……一点も取れないなんてぇ……」
「提督、試合を盛り上げられなくて本当にごめんなさい。ですが今の吹雪さんには、一点も上げたくありませんので」
確かに会場は、吹雪と夕雲の力差を前にして押し黙っている。
それだけ夕雲に対し、戦慄しているのだろうか。
「夕雲……気にするな。私も本当の自分を吹雪に見せていないから悪いのだ」
「司令官の……本当の自分……?」
「いいえ、本当に提督の事を愛しているのなら、誰であろうとも気付くべきなんです。そう、誰であろうともっ」
「そっかぁ……夕雲ちゃんの言いたいこと、分かっちゃったかも……」
吹雪は疲れている筈なのに爽やかに笑っていた。
「吹雪さん、ちゃんと伝えられるわよね。提督以外の皆になら?」
「えへへ……うんっ! 司令官、少しだけ耳を塞いでいてくれませんか?」
「あ、ああ……構わないが」
私は吹雪に従い、両耳を強く塞いだ。
「……なさん……私……この……より……かんを……ています!」
断片的にしか聞こえなかったが、長門と夕雲を除く会場にいる艦娘達が呆気に取られた顔で吹雪に注目している。
その後すぐ、長門が私の両手を耳から退かしてくれた。
「提督、貴方は本当に罪作りな方だな」
「なんの事だ……何故、嬉しそうに笑っているのだ?」
「なに、気にするな。それと吹雪の熱い叫びだが、全員が満場一致で口を結んでいる」
会場を再度見渡せば、表情は穏やかだったり照れ臭がっていたりとそれぞれ違うが皆が口を閉じ、吹雪を温かく見守っていたのだ。
「つまり、私には教えてはくれないと?」
「そういう事だ。今の吹雪を見て、貴方自身で判断してくれ」
「うむ」
再び見た吹雪は頭から火を噴き出しそうな程赤く、自分の顔を覆い隠している。
その理由は、さっぱり分からないが。
「ああうぅ……やだぁ——私、なんであんな恥ずかしい事を皆の前で言っちゃったのぉ!」
「うふふっ、それでいいのよ吹雪さん! 次は提督と二人きりになった時、ゆっくり語ると良いわ?」
「うん……。夕雲ちゃん、本当にありがとう!」
あれだけ恥じらっていた吹雪が、今では旺盛に身構えていた。
「ふふっ、ですが一点も上げないわ?」
「ううんっ、たとえ敵わない相手でも一矢報うよ! 特型の誇りにかけて!」
「良い気迫だ——続き始め!」
「それ〜!」
たぎる長門の合図で、夕雲が気の抜ける様な声を上げながら羽根を打ち上げる。
「たあっ——夕雲ちゃん、左行くよ!」
「来なさっ——あら?」
吹雪は宣言した方向とは逆方向に羽根を打ち返し、夕雲は見逃してしまう。
「吹雪、一点!」
観客達が、とくに夕立、睦月、如月と特型駆逐艦娘の皆が、盛大な喝采を吹雪に送る。
「残念、流石にその行動は予想出来なかったわ?」
「えへへ……霞ちゃんの技を取っちゃった」
「いいわね——やんっ」
那珂から頬を落書きされても、夕雲は嬉しそうに微笑み続けていた。
「柔軟になったわね♪」
「うんっ。なんだかね、つまらない事で意地張ってた自分が馬鹿みたいだったから」
「——続き始め!」
羽根を強く握り締めた吹雪が、夕雲の後方へ軽快に打ち出す。
「そうよっ。もっと肩の力を抜いて今後も楽しめばいいのよ——私もそうだもの!」
「本当だねっ——次は本当に左!」
「あらっ——」
「夕雲、二点!」
吹雪は宣言通り、左に力強く打ち出して点を取る。
「うーん……吹雪さんのフェイントは読み難いわね。漣さんなら、どちらに打つかすぐ分かるのに」
「えへへぇ……って、それじゃあ漣ちゃんが可哀想だよ〜」
いつの間にか二人とも、そんな風に楽しみつつも気迫を込めながら、弾避けと羽根突きを続けていた。
「——吹雪、六点!」
夕雲の九点に対し、吹雪は六点まで取得していたのだ。
「うえぇっ……流石に……もう動けないかもぉ……」
「はぁ、はぁ……私もよ……まさか吹雪さんがこんなに粘るなんて……思わなかったわ……」
二人が疲労するのも無理は無い。
何故なら、大和が撃ち放った合計千発以上ものゴム弾のせいでコートのあちこちが凸凹に歪み、且つ弾が散らばっているせいで、避ける行為自体が大変なのだから。
「あぁ……なんだが目眩がする……」
「もう……これで終わりにしても……いいんじゃないかしら……」
「二人とも最後まで訓練に集中しろ。ここまで来たら遊びでは終わらせん——続き始め!」
「長門さん……恐ろしい人っ!」
長門の愛ある鞭の言葉を受け、夕雲は恐れつつ先手で羽根を打ち、吹雪は疲れと恐怖で脚を震わせながらも気合を込めて打ち返した。
「はぁ、はぁ……それ!」
吹雪と同様に汗と墨と砂でまみれる夕雲も根負けせずゴム弾を避け、打ち返す。
「うあぁぅ……もう……ダメぇ……」
「吹雪さん……避けないと危ないわ」
「えぇ……なんのこ……うわあぁぁっ——ぎゃうっ!」
吹雪は後方へ落下する羽根を、よたよたと歩いて拾いに行く。
だがその途中、けたたましい轟音と共に十発を超えるゴム弾が吹雪の周囲に着弾し、その衝撃に巻き込まれた勢いでコート外へと転がりながら派手に吹き飛ばされてしまったのだ。
「……夕雲、十点獲得! 勝負終わり!」
「つ、遂に決まりましたぁー!! 第一回弾着回避有り羽根突き大会は、夕雲型駆逐艦代表の夕雲さんが勝利を掴みましたー!!」
「吹雪!」
「吹雪さん……っ」
吹雪と夕雲を讃美する大声援と、最高潮に盛り上がる高雄の声が轟く中、私は素早く、夕雲はよろよろと、コート外で転がる吹雪の元へとそれぞれ向かった。
「吹雪、大丈夫か!?」
「あ……司令官……負けました……。私、本当に悔しくて……悲しくてっ」
抱き上げた吹雪に大した怪我は無かったが、全身砂まみれで擦り傷が多く、悔しそうにボロボロと大粒の涙を流しており、見ているだけで辛い。
「吹雪……こんなになるまで無理をさせ、本当にすまなかった!」
「司令官……」
冷えきった吹雪の体を温める様に強く抱き込んだまま、私は涙を流す。
「そんな……泣かないでください……」
「今日は存分に休んでくれ。大切な話は明日するから」
「吹雪さん……本当にごめんなさい!」
私の隣に立った夕雲が、吹雪に対して深く頭を下げる。
「ゆ、夕雲ちゃん……?」
「私も提督の事で熱くなりすぎて……吹雪さんにこんな辛い思いをさせたんだもの……」
「ううん……どれだけ夕雲ちゃんが、司令官を想っているのか分かったから……良いのっ。それに私たち……戦場を共にする仲間じゃない!」
「吹雪さん……ありがとうっ!」
夕雲は溜めていた涙を拭い、可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「——あの、大変申し訳ありませんが提督に業務連絡です。優勝者に対する表彰式を行いますので、指揮台へと速やかにお戻りください」
吹雪を放って置きたくは無いが、この大会の主催者なので行かざるを得ない。
「しかし、やはり吹雪を放ってなど——」
「提督よ、吹雪の事は私に任せて早く行ってくれ。締める所は締めなければな?」
「長門、任せたぞ?」
「ひゃわぁっ——長門さん、わざわざすみません……」
「気にするな」
長門は吹雪を抱きかかえ、夕立、睦月、如月の三人と、夕雲を除く選手達八人が待ち遠しそうに待機する救護所へと向かう。
私は即座に指揮台へと駆け登り、堂々と姿勢を保って、その場で待機した。
そして大歓声と拍手喝采が巻き起こる中、コートから指揮台前へと優雅に歩いて来た夕雲を、私は観客達を黙らせる程の大きな声で表彰し、彼女が望んだ『吹雪に対し、本当の私がどんな人間なのか包み隠さず話せ』という願いを真摯に受け止め、大きな事故を起こすことなく大会の幕を下したのだ。
次で吹雪編、終わりです。