時刻は午後四時。
訳あって幼い体になっても相変わらず執務に専念していた私だが、いつも使う机が大きすぎるので、秘書艦用の机を借りて仕事をしていた。
「時雨……いくら私が幼いとは言え、やはり重いのではないか?」
「ううん、全然重くないから安心してよ」
私一人では届かないので、時雨の膝上へ座りながら。
少しでも油断してもたれ掛かれば時雨の柔らかなものが背中に当たって仕事どころでは無くなるので、私はずっと背筋を伸ばしていたのだ。
「はあ……身長が低いと不便だな」
「そうだね。とくに提督は背が高かったから、普通に過ごすのも苦労するだろうね」
「その通りだ。まあアレだ」
「アレって?」
「いや、子供好きな時雨が秘書で良かったと思ってな」
時雨は嬉しそうに小さく笑う。
「ふふ、そう思って貰えると嬉しいよ」
「さて、ここはどう考え——」
施錠していないドアが勢い良く開き、二時間前に去った明石が部屋へ飛び込んだ。
「て、提督!!」
「明石っ、まさかもう完成し——」
「本当に申し訳ありません! 解析はまだ途中ですが、サンプルの数が全然足りません!」
「ねえ、サンプルって?」
時雨が困惑する声で質問する。
「あっ、ええっとねー……」
「明石よ、時雨になら説明して良いぞ」
「あっ、はい。提督がいいのなら説明しまーす」
「提督も知ってる事?」
「ああ、だが詳しい話は明石が知っているので彼女から聞いて欲しい」
「明石、提督を膝に乗せたままですまないけど、きちんと教えて欲しいな」
「いいよー。実は、かくかくしかじか——」
明石は、私を元に戻す薬品を作る為には処女膜を貫いた際の血液と私の精液を混ぜ合わせた液体を採取しなければいけない旨と、その理屈を説明し、先ほどサンプルを採取するため盛りあっていた事まで伝えた。
「——そういうことだから、ひとまず後九人の処女膜を貫かないと駄目なの。もちろん提督がですよぉ〜」
「そうか、だから少しだけ提督から明石の香りが漂っていたんだ」
どうやら時雨は、私が明石と交わった際の香りを嗅ぎ取っていたらしい。
「時雨よ、お前が気絶している横で……本当に申し訳無かった」
「ううん、いいんだ。一刻も早く提督の体を元に戻す為だもの」
「じゃあ、時雨も協力してくれるよねー!」
時雨は首を横に振る。
「明石ごめん。僕はもう処女じゃないから手伝えないんだ」
「あっ、もう提督から貫通され済みだったかー……。全く、この子ったら隅に置けませんねぇ〜」
明石が嫌らしい笑顔で、私の頬をプニプニと人差し指で突く。
「ぐうっ、今更だが私は大変な事をしてしまったのだな……」
「提督、気にしないでよ。提督から愛されたあの時の事を思い出す度、僕は嬉しくて堪らないんだから」
「時雨……ありがとうな! 私も時雨が感じていた顔を、今でも鮮明に覚えているさ」
「そう言われると恥ずかしいけど……でも、ちゃんと覚えてくれてありがとう」
時雨が優しく私を抱き寄せる。
「お熱いですねぇ……。そう言うわけですから、提督は三十分後に会議室へ来て頂けませんか?」
「何を話すつもりだ?」
「ええ、あまりしたくはありませんでしたが、これから鎮守府の主幹メンバーを集い、サンプル採取に賛同してくれる方をあと九人ほど集めようと思います」
「本当に話すのか? おそらくこの件が終わったら、明石は薬品を製作出来なくなるが」
「良いんですよ〜。医学のノウハウは頭に納めてますから何処でも作れますもん。まあ、趣味で作ってたら思わず熱が入っちゃっただけですしー」
趣味で若返る様な恐ろしい薬品を作るのは止めて欲しい。
それより、もしかしたら大井達が使っていた媚薬や性欲増進剤を作ったのは、この明石では無かろうか。これは確認しなければ。
「明石よ、まさかとは思うが……媚薬などは作ってないだろうな?」
「えっ、作ってますよ。当たり前じゃないですか〜」
「……大井に提供しているだろ?」
「あっ、はい! 大井さんが所望してましたからねぇ〜」
なるほど、奇怪な薬物の正体は掴めた。
「はあ……まあ良い」
「んっ? まさか媚薬ってていと——」
「さあ明石、一刻も早く主幹を集うのだ!」
「あっ……はい! では行ってきまーす!」
明石は言及しなかったが、私が大井と関係を持っていた事にも勘付いている筈だ。
「ふうん……提督は大井さんからも好かれているんだ。ちょっと意外だな」
私を抱く時雨の力が強い。怒っているのだろうか。
「ま、まあ……色々あってだな」
「でも、いいんだ。皆が提督を愛しているのなら、僕も気兼ねなく提督を愛せるから」
首を後ろへ振ると、爽やかに微笑む時雨の顔が見えた。
「時雨、私は皆を想っているぞ」
「うん、知ってる。そろそろ仕事に戻る?」
「ああ、頼むぞ」
「任せて。確かここは——」
それから三十分間みっちり仕事をした私は時雨に提督室を任せ、二つ隣にある会議室前まで誰にも顔を合わせず赴くと、一人で待っていた明石に出会う。
「提督、皆さんが可愛い提督のお姿を見たいとお待ちかねですよぉ〜」
嬉しそうに笑う明石がどんな説明をしたか大体予想出来る。
「では、失礼するぞ」
「どうぞ〜!」
明石に案内されながら中に入ると、そこには約二十名の戦艦と正規空母級の艦娘達と、主幹では無い筈の大鯨がこじんまりと席に座っていたのだ。
その艦娘達が、やたら熱い眼差しを私に向けてくる。
「Oh……本当に幼くなってるデース……」
「これは……素晴らしい現象ですねー」
とくに金剛と霧島が、幼い私の姿に見惚れている様だ。
「か——可愛い!!」
長門がそう大きく声を張り上げた瞬間、艦娘達が驚嘆しながら彼女に注目し、彼女の隣に座る陸奥だけは笑っていた。
「な……なんでもない! さあ明石、早く理由を話せ!」
「お任せくださーい」
必死に取り繕う長門の怒声を聞いた艦娘達は真剣な様子で明石に注目する。
その間に私は、演説台の裏に置いてあるミカン箱の上に立つ。
それから明石は、今回どうして私が子供になってしまったのかという経緯と、私が元に戻る為には例のサンプル採取が必要である旨を、とても生々しく説明してくれた。
「——とまあ、こんな所ですね。皆さん、何か質問はありますか?」
「明石……ちょっといい?」
大鯨がやたら顔を赤らめながら、震える手を挙げる。
「いいよー」
「えと……処女膜を破るって事は……そのぉ……可愛らしい提督と繋がらなくちゃいけない……って事、なんだよね?」
「その通り! 皆さんもお聞きの通り、提督が貫いてくれるご褒美付きです!」
質問の答えを聞いていた長門や瑞鶴等の一部を除く艦娘達が、感嘆の声を上げた。
「うん……それは嬉しいんだけど、提督に失礼だし……ちょっぴり怖いよぉ……」
「安心してよ。提督は絶対に怒らないし、とても優しくなさってくれるから〜」
「うん……だったら賛成したい……なぁ」
私も大鯨と繋がりたい。
寧ろ、ここにいる全員と繋がりたいのが本音だ。
「さあ、他には有りませんか?」
「Hey!」
金剛が力強く手を挙げる。
「はい、どうぞ」
「提督とは、本番意外の行為もありデスカー?」
「どんな行為をするつもりです?」
「うーん、ソーデスネー……」
ほとんどの者が興味津々に金剛へ耳を傾けているが、比叡だけは力強く塞ぎ何かを呟いている。
「おっぱいで○ンチン弄ぶとかー、アナルを舐めるとかー……Oh!! 尿道責めは是非ともやってみたいデース!」
あまりにも過激な性的行為の内容を聞き、ほとんどの者が顔を真っ赤に染める。
「ああー、そういう行為は……当人に任せます」
「オッケー! んふふっ、キュートな提督と出来るなんて、とっても楽しみデース!」
大胆な金剛の答えを聞いた私は単装砲を勃たせてしまうが、これは生理現象のせいだ。
「明石さん、いいかしら?」
「ちょっ——翔鶴姉!?」
「はい、どうぞー」
やたら驚く瑞鶴を置いて、翔鶴は質問を続ける。
「あの、私も含めて皆さんが提督と愛し合いたいと思う気持ちは大変伝わったのですが、どのような頻度で行うのでしょうか?」
「そうですねー。提督の要望だと早くサンプルを集めたいとの事ですので、一日二回で、おおよそ五日間は行おうと思いますが」
流石にそこまで急かす必要は無いのだが、早く元に戻りたいのは事実なので喜んで受け入れなければ。
「いくら若々しいお体とは言え、流石にそれでは提督の体が持ちません」
「確かに……。本番行為を入れて少なくとも、一日四回は搾り取られるわけですもんねぇ〜」
まあ、今の若々しい私なら耐えられる自信が有りそうだが、変な事を口にすれば完璧に搾り取られる可能性もあるので黙っておこう。
「ですから、ルールを決めませんか?」
「ほほぉ、翔鶴さんは何かお考えなんですかー?」
「はい、提督の体調を考えた結果ですが……一日一人を絶対とし、本番外の行為は一回だけに済ませるのが良いと思います。あまりにも求めすぎては、提督が勃起不全に陥る危険性も有りますし」
翔鶴の最もらしい説明を聞き、金剛を除く艦娘達は納得した表情で頷いていた。
「私も賛成です」
「私も、五航戦の子に従うのは癪だけど赤城さんと同じく賛成するわ」
「ちょっと、一言余計よ!」
赤城と加賀も納得して挙手する中、瑞鶴が加賀にのみ噛み付く。
「私から一つ皆に聞きたいのだが、いいか?」
「はい、長門さんどうぞー」
「この中で既に処女では無い者はいないか? いたら正直に答えて欲しい」
そんな質問されても誰も手を挙げないと思っていた私だが、加賀だけが正直に挙手した。
「ごめんなさい。既に提督から愛の証を頂いております」
全員が驚いた表情で、加賀に注目する。
「加賀さん!?」
「ちょっとあんた、抜けがけしてたの!?」
中でも赤城と瑞鶴が、一番驚いている。
「ええ、そうよ。提督とのあの一時は、今でも鮮明に覚えてるわ」
「ああ……加賀さんが羨ましい……」
「赤城さんは提督を心から愛しているから精一杯お詫びするけれど……あなたは提督をそこまで愛しているの?」
加賀の鋭い視線が、瑞鶴を睨み付ける。
「うっ……あ、当たり前よ! 何か悪いっ!? 私だって女なんだからね!!」
「ふふっ、瑞鶴ったら可愛いんだから」
「あ、やめ……翔鶴姉っ、そんなに頭撫でないでよぉー!」
翔鶴から優しく頭を撫でられる複雑な表情の瑞鶴に、加賀を除く艦娘達が穏やかな視線を送っていた。
「そう。だったらいいの、ごめんなさいね」
「ふ、ふんっ……。あんたこそ今回は残念だったわね……」
「ええ、そうね。幼い提督に甘えさせたかったわ」
話が落ち着くと、四人とも自動的に席へ座った。
「明石、そろそろ誰がサンプルを取るのか決めてくれないか?」
「はい、長門さん。では……快くサンプル採取に賛同してくれる方は手を挙げてくださーい」
挙手を求める明石に対し、堂々とした金剛が即座に手を挙げたすぐ後、長門と陸奥と翔鶴は自然に、加賀を除く他の艦娘達は恥じらいながら、それぞれ同時に手を挙げてくれた。
「満場一致ですかー。いの一番に手を挙げてくれた金剛さんは決まりですが、他の方は話し合うかジャンケンで公平に決めてください」
「イエーイ! やったデース!」
金剛が嬉しそうに両手を伸ばす中、全員が真剣に話し合い、それでも決まらず平等にジャンケンをしていた。
そうして公平に決まった九人を明石が発表し始める。
「ええとですねー。金剛さん、扶桑さん、陸奥さん、長門さん、山城さん、霧島さん、瑞鶴さん、榛名さん、赤城さんの九人に呼び掛けた順番で手伝って頂きますが、皆さん本当に異存は有りませんかー?」
「依存はありません……」
「大丈夫です……」
ジャンケンと話し合いの結果に不服は無かったのか反対する者は居なかったが、翔鶴と大鯨は他の者より一層落ち込んでおり、妙に申し訳なくなる。
「では最後に提督へ確認しますが、この結果でよろしいでしょうか?」
「ああ、勿論良いが……こんな事に付き合わせてしまって本当にすまない」
「いいえ、そんな事は有りませんっ」
「私も、扶桑姉様に同意、しときます……」
山城の言い方に若干引っ掛かる箇所は有ったが、他の皆は基本的に喜んでくれており、妙に安心してしまう。
「それでは皆さん、貴重な時間を頂きありがとうございます。最後になりますが、この件は他の方達には内緒にしておいて下さいね」
艦娘達が真剣な顔で頷いた。
「では皆さん、解散してください」
艦娘達が私に一礼しながら会議室を出て行く中、長門と陸奥と大鯨の三人が、私の前に立ち止まる。
「提督、貴方も散々な目に遭ってばかりだな」
「ふふっ、少しだけ同情するわ」
「いや、私は別に構わぬよ……最後に丸く治ればな」
「本当に心の広いお方だ。では私達も持ち場に戻るよ」
「提督、三日後にはたっぷり可愛がってあげますから、よろしくね♪」
積極的な陸奥に対し、私は一歩引いてしまう。
「あ、ああ……頼むぞ」
「おい陸奥、提督を困らせるな。これは遊びじゃないんだぞ?」
「やんっ、そんなに強く引っ張らないでよぉ」
「提督、陸奥が失礼したな」
「気にするな」
「もぉ……じゃあね、提督〜!」
長門は陸奥の腕を引っ張りながら、会議室を出て行った。
「あの、提督……?」
「おお、大鯨か。どうしたのだ?」
「はい。実は明石に頼まれて提督の制服を仕立てておりまして……今日の夜にはお届けしますっ」
「折角の休暇を潰してしまい、本当にすまないな」
謝る私に対し、大鯨は慌ただしく両手を振る。
「い、いえいえ良いんです! わたしこういうのっ、大好きですから!」
「ならば良いのだ——」
私は大鯨の頭を撫でようと手を上げたのだが、思ったよりもぎりぎりだったので滑稽に撫でてしまう。
「ぐう……ぎりぎりとは」
「あっ、しゃがみますよぉ……ふふっ!」
大鯨が屈んだおかげで余裕で撫でられたのだが、とても虚しい。
「はあ……自分が情けない」
「ううんっ、今の提督はとっても可愛いお姿ですけどぉ……でもっ、大らかさは同じだと頭を撫でられて分かりました!」
「そうか、ありがとうな大鯨!」
私は思わず破顔する。
「はうっ——あの、提督ぅ……」
「そんなにモジモジして、どうしたのだ?」
「ええとぉ……私も提督の頭を撫でたいです!」
「んっ? ああ、好きにすると良い」
「わあっ……失礼します!」
大鯨は私と目線を合わせたまま、頭を優しく撫でてくれる。
「ううーん……可愛いです〜」
「そ、そうか。それなら良かった」
「はーぁ……本当に残念です」
頭を撫でながらも、大鯨はどこか空しい声を上げた。
「サンプルの件か?」
「はい……本当でしたら提督と……したいです」
「そうか……申し訳ないな」
「いえ、提督は悪く有りません! ですが先輩達の強すぎる愛情には到底敵いませんしぃ……」
「……大鯨は大人の私と子供の私、どちらが好きなのだ?」
「えっ!?」
質問が唐突過ぎたのか、大鯨は驚愕していた。
「ええとぉ……どちらも大好きな提督ですから、選べません……」
「そうか、ならばこの件が片付いたら……いや、なんでもない」
大鯨の可愛いさを前にして危うく、もっと見境いの無い男になる所だった。
「ふふっ……やっぱり提督は優しいです!」
「いや、そんな事は……」
「大丈夫です。別の機会が訪れましたら、提督が誰かとお付き合いしていない限り、嫌でも私からお誘いしますからっ!」
「大鯨……ありがとう!」
私の考えを察してくれて。
「いいえ、では戻りますねっ」
「ああ、制服を頼んだぞ?」
「お任せ下さい!」
はしゃぐ大鯨が出て行った事で広い会議室には誰もおらず、静寂が訪れていた。
「さて、私も戻るか」
時雨が待っている提督室へ。
「時雨、ただいま戻ったぞ」
「あっ、提督お帰り。会議はどんな感じだったの?」
提督室に入ると、少し顔を緩ませる時雨が歓迎してくれた。
「ああ、何やら生々しい言葉が飛び交っていたよ」
「そうなんだ。主幹の皆は強かだから、優しい提督なら搾り取られそうだね」
「時雨、お前も強くなったなあ……」
昔はもっと落ち着いていた筈なのだが、経験すると人は変わるのだろうか。
「ふふっ、提督のおかげだよ……もしかして、下品なのは嫌いかな?」
「いや、大歓迎だ!」
「良かった……もしも不快だったらきちんと言ってね? ちゃんと自重するから」
「構わないさ。では仕事の手伝いを頼むぞ?」
「任せてよ」
再び時雨の膝を借りた私は彼女の補佐を受けながら執務に励む。
するとあっという間に夜九時頃を迎え、ドアがコンコンと音を鳴らす。
「提督、僕が開けるから座って待ってて?」
「頼む」
時雨が軽い私の両脇を手で抱えながら立ち上がり、私を座らせてからドアの前へ移動して扉を開けた。
「失礼しま……あっ、時雨ちゃん」
「大鯨だったんだ。入って良いよ」
「うん、失礼するねっ」
急ぎめに入って来た大鯨の両手には、子供服の様な白い制服と綺麗に折り畳まれたものが乗っていた。
いや、よく見ると小さなブリーフとティーシャツも制服に挟まれてある。
「提督、こちらが例の制服と下着になります」
「大鯨、もう完成したのか!」
「はいっ、よろしければ着替えさせてあげましょうか?」
まるで幼な子の気分を味わえる台詞である。
「いや、これでも一人で着替えられるから大丈夫だ」
「ご、ごめんなさい! わたしったら、つい……。では、お受け取りください」
「ああ、それでは着替えるから、時雨と大鯨は少し外にいなさい」
そう言っても二人は出る事なく、何故か二人で見合ってから一度だけ力強く頷き、着替えようとする私を見つめていた。
「提督、ごめんね」
「あの、わたし達の事は空気だと思って着替えて下さいっ」
「むう……まさか着替える姿を見るつもりか?」
二人とも正直者なのか、何度も頷いていた。
「まあ良い……だが、私が後ろを向く……」
そう言うと大鯨が涙目になるので、そのまま着替えるしかない。
「分かった! 勝手に見ていなさい!」
「うんっ」
「はいっ、ゆっくりお願いします!」
もはやヤケクソ気味にダボダボの制服と下着を脱ぎ捨てた私は全裸になり、彼女達の要望に応えてゆっくりと着替えを始める。
「ふうん……今はまだ小さくて可愛いんだね」
「でも、すごく大きくなるんだって……明石が言ってたよ?」
二人がこそこそと話しているが、丸聞こえなのだが。
「二人とも静かに見ててくれ。恥ずかしくて死にそうだ……」
「あっ、聞こえてたんだ」
「ご、ごめんなさい!」
なんだかいつも以上に恥ずかしく、自然と涙が溢れ出てくる。
「あっ、提督泣かないでっ」
「わ、わたし達が悪かったから泣かないでー!」
「こ、こら二人とも! まだパンツしか履いてないから抱き締めるな!」
おかげで彼女達の柔らかい部位が惜しみなく全身へ当たるのだから堪らない。
そもそも私が大人だと言う事を、二人は忘れているのではなかろうか。
「あっ、大きくなってる……」
「ほっ、本当に大きい……子供なのに」
「み、見ないでくれ! 頼むから!」
急いで二人から離れた私が、膨らんだ股間を両手で必死に隠していると、突如ドアが強めに開く。
「提督よ、今回の件で少し話が……あ?」
「あっ——」
「な、長門さん!?」
入って来た長門は股間を隠すほぼ全裸の私と、抱き締めようとする時雨達を目の当たりにし、なんとも言えない表情を浮かべていた。
「ほお……これが提督の趣味なのか」
「違う!」
「そうだよ長門、提督は悪くないんだ」
「その通りですっ。魔が差したわたし達が悪いんです!」
二人が目を逸らしている内に、私は素早くシャツを着て、制服を着付けた。
「なるほどな、だがおかげで決定した」
「何がだい?」
「やはり今の提督のままでは、この鎮守府を歩かせられないとな」
長門に対し、二人は訝しげな顔を向ける。
「長門さん、それでは話が違い——」
「——提督をどこかに閉じ込めるつもりなの? そんなの許さないから」
時雨は大鯨の話を断ち切ってまで長門に噛み付く。
しかし、長門は首を横に振った。
「流石に私も、そこまで失礼はできないさ」
「うん、それならいいんだ」
「だが提督に上申したい事がある」
「ああ、出来る限りの事はするから言ってくれ」
「——現時点から元の姿に戻るまでの間、貴方には子供の振りをして貰いたい」
長門の考えを読み、私は納得して頷く。
「なるほど……そのぐらいなら容易い事だ」
「提督、是非ともお願いする。それに伴う補足を二点ほど聞いて欲しい」
「ああ、是非とも聞こう」
「まずは一点目だが、あの会議室にいた者と時雨以外には、絶対に正体を明かさない事」
「分かった」
「そして二点目……貴方は執務を一旦止め、鎮守府の見回りをする等して自由に過ごして頂きたい」
「なんとっ、それで鎮守府は回るのか?」
二点目について少し納得いかず、思わずそう意見してしまう。
「安心しろ。少し大変だが主幹の皆で協力して提督の兼務をし、鎮守府を回してみせるさ。それでも足りない時は、素直に貴方の知恵を借りよう」
それならば問題無いと考え、私は頷いた。
「分かった……長門達には迷惑を掛けるが甘えるよ。では、よろしく頼むぞ?」
「任せてくれ。あと、今の提督が鎮守府を歩いても誰も不審に思わない様に、皆には提督の甥っ子がしばらく遊びに来ていると伝えておくから、何か質問されたらその体で答えて欲しい」
どこまでも長門は気の利く娘だ。
「ああ、何から何まですまないな」
「気にするな……時雨も話は聞いていると思うが、他言無用だぞ?」
「うん、提督の為だから従うよ」
「いい返事だ。では残りの一時間半は時雨に託し、私は帰るとするよ」
長門は終始落ち着いたまま、部屋を出て行く。
「あっ、わたしも帰ります……提督、先ほどは暴走してしまって本当にすみません!」
「まあ気にする……ううん、気にしなくていいよー!」
「ふああっ……!? か、可愛い〜!!」
だいぶ前に卯月に実践した幼少時代の真似は、彼女の様に艦娘達が恐れるだろうから敢えてせず、多少元気で大人しめの少年風を装った。
しかし、それがまずかったのか大鯨が我を忘れて抱き着いて来たのだ。
「は、離してー!」
「提督……僕も抱かせてよっ」
「時雨、お前もか?」
もはや逃げる隙の無い私は二人が満足するまで抱き締められ、だからと言って早く元の姿に戻る為にも抜く事も出来ず、モヤモヤした気持ちを抱えたまま明日を迎える事になる。