「行ってきなさい。お土産よろしく」
俺達を見送る師匠。くそ、楽しみやがって。しかし一度肌を合わせた相手だというのに、師匠は俺に対してさっぱりしすぎだと思うの。やっぱ弟子としてしか思われてないのかねぇ。……師匠には、俺の内心が見抜かれているかな。見抜かれているだろうなぁ。ちなみに衛宮にもちゃんと話は通してある。不満そうだったが、セイバーを楽しませたいんだ。というと大人しくなった。事後承諾ですまん。
「――それで? これからどうするのですか、明」
何とかセイバーは俺の言うことを聞いてくれました。最終手段として催眠も考えていたんだけどね。結局使わなかった。やはり俺を好きにならせる催眠がボディブローのように効いているのだろう。やったぜ催眠。
「とりあえず隣町に行く」
交差点からバスが出ているのだ。平日の朝九時は静かだ。道には人影がない。学校をズル休みしたがまあいいだろう。
「マスターなのですから、出歩く方がおかしいのです」
セイバーに苦言を呈される。おっしゃるとおり。普段よりピリピリしているな。それもそうか、マスターである衛宮と引き離しているのだから。悪い見方をすれば、こうやって引き離している間に、キャスターとアーチャーで衛宮を殺そうとしているとも考えられるからな。まあそう思われない程度には俺達は信頼関係を築いているはずだ。
バスに乗った。もう少し早ければ乗客は多いのだろうが、この時間は数えるほどしかいない。……セイバーは黙ったままだ。……綺麗だなぁ。横顔に見惚れる。新都駅前についた。にぎわっているな。
「……………………」
セイバーは不機嫌そうに翠の瞳を細めている。そりゃ仕方ない。無理言って連れ出しているのだ。嫌われていないだけマシ、か。
「セイバー。君はどこか行ってみたい所とかはあるか?」
「別に、これといって興味のある場所はありません」
やれやれ、一応プランは練っておいて良かった。
「……まさか、何の計画も立てていないのですか、明?」
「いや、ちゃんと計画はあるよ。ただセイバーの意向を聞いてみたかっただけ。とりあえず、この辺の店を見て回ろう」
「そうですか」
セイバーは休憩をとろうという考えは理解できます。とか言っている。お説教される前に行こう。
「聞いているのですか、明」
「聞こえている。まあ納得がいかないのは想定済みだよ。俺に連れてこられてつまらないとか、嫌がるのは当然だけど」
「え、いえ、その……そういうことではなく、私は、このような場合ではないと――」
「わかっているよ。でもきかない。俺は今日一日セイバーに付き合ってもらうんだ。こればっかりは曲げられないぞ」
多少強引だが押しとおす。セイバーは呆然としている。
「でも、言いたいことや不満があるなら聞くよ。その方が気兼ねせずに済む。俺とデートするのが嫌なら別の方法も考える」
いえ、その、ともごもごするセイバー。
「よし行こう」
セイバーの手をそっと握って歩き出す。
「あの、明! 不満などありませんが、手を掴む必要は……」
「俺がセイバーと手を繋ぎたいんだ。はぐれないようについてきてな」
「えっと、その、こんな状態は……」
セイバーの手を握ったまま、人ごみをさけて歩いていく。しばらく文句を言っていたセイバーだが、少し経つと観念してくれた。
昼までの二時間を簡素に語ろう。普段行かないような女性が喜びそうな店にも足を運んだ。ゲーセンでエアホッケーをしたりもした。ボロ負けしたが。俺のデートプランは無理せず楽しむ、だ。セイバーは元々そんなに興味がないのだから、強く押しつけるのは好ましくない。しかしそれでも少しぐらい楽しむ反応が見たいな、と思った。
「明、お昼の時間です」
さすが食欲魔人。食事時は妥協しないらしい。とりあえず小休止だ。気軽に食べられる店に行こう――。
「屋敷に帰りたいかい? セイバー」
「いえ、そのぅ……今日は緊張してしまい、普段より疲れます」
「ありゃ、それは申し訳ない。セイバーにも楽しんでもらおうと思ったのに」
「楽しむ……ですか、よくわかりません」
隊長! 敵の牙城が崩せません!
「とりあえずここでしばらく休憩だな」
きゅう、と音が鳴る。
「お腹減ってたのか、セイバー」
「……言わないで下さい」
赤面してうつむくセイバー。
「セイバーは可愛いなぁ」
「…………うぅ……酷い拷問です……」
簡単に昼飯をすませ、食後のコーヒーなどをすする。午後の予定は……と。おっと、予定ばかり気にして目の前の女の子を無視してはいけない。俺はセイバーに楽しんで欲しいのだ。俺と過ごす現世の楽しさを感じて欲しい。反応はつぶさに見ねば。
午後になってもやることはそう変わらない。思いつく店を冷やかしつつ歩く。セイバーは黙ってついてきてくれる。午前中ほどとげとげしくない。よくよく見れば怒っている表情とそうでない表情には差がある。足取りが軽い時もあったりと、そう悪くない感触だ。で、やってきた訳だ。
「こ、ここは……」
ぬいぐるみがいっぱいのお店だ。セイバーはふるふると肩を震わせている。
「せっかくだ、好きな動物とかはいるかい?」
「えと、その……獅子や豹などは愛らしいと思います……おかしいでしょうか?」
上目遣いでそんなことを言う。ぎゅっと手を握る。
「そんなことないよ。セイバーの好きなものを見て回ろうか」
セイバーを許容する言葉を吐く。
「明。……まさかとは思うのですが、貴方は自分が行きたくない場所を選んでいるのでは?」
俺は軽く笑って否定する。
「そんなことないよ。セイバーが楽しめそうな場所で、俺も行きたい場所を選んでいるよ。一緒に楽しめるようにね」
「そう、ですか」
「俺に気を使わなくていいんだよ、セイバー。今日はセイバーに楽しんでもらうのが目的なんだから」
「……私、が?」
うん、と頷いてやる。
「セイバーが楽しんでくれれば、俺は嬉しい。好きな人に楽しんでもらいたいってことだよ」
「――――」
ぽっと赤面するセイバー。
「な……なにを、馬鹿な。私はサーヴァントです。戦闘でない時だからといって、私を女性扱いすることはありません。サーヴァントとして扱って下さい」
「扱っているよ。衛宮はどうしても君を女の子扱いしてばかりで、サーヴァントとして扱っている部分は少ないかもだけど、俺はサーヴァントで女の子のセイバーに惚れたんだ。だからサーヴァント、かつ女の子として接しているよ」
そんな、とセイバー。
「女性扱いするのに対して、自分はサーヴァントだと主張するのも。自分はサーヴァントだと主張するのに女の子扱いするのも、どっちも変わらないよ。セイバーはサーヴァントで、同時に女の子だ。それが俺の意見。君が自分をサーヴァントだと主張するのは正しいことだけど、女の子であることを否定するのは間違っているぞ。でなきゃ魔力の補充している行為も認めないことになるからな」
「ぁ――う」
「まあ、そんな俺に対して頑なに君をサーヴァント扱いしたくないのが衛宮だけどな。あいつの頭の中では君は女の子ってだけなんだろうな」
「…………」
そうして、慣れないデートはあわただしく過ぎた。セイバーが数回笑顔を見せてくれたので、俺は満足だ。美少女の笑顔。無敵になった気分だ。
帰りは歩き。バスに乗ろうとしたらセイバーが歩こうと言ったのである。
前回の聖杯戦争で被害が出た川などを見つつ帰る。
「セイバー、今日、楽しめたかな」
「……そう、ですね。新鮮でないと言えば嘘になります」
「そうか。一回限りだけど、こうしてセイバーと出かけられて良かった」
「……はぁ。結局最後まで明の意図はわかりませんでした」
「だから何度も言っているだろ。好きな女の子と出かけたかった。楽しくなりたかった。一緒に、笑いたかったんだ」
まあ当然他の意図もあるけどね。
「…………とに」
「え?」
「本当に、私が好きなのですか」
セイバーは顔を真っ赤にしてうつむき、そう言った。
「ああ……好きだよ。セイバー」
俺はセイバーを抱きしめていた。
「なっ、なにを……」
「あんまりセイバーが可愛いから抱きしめたくなったんだ」
「そんな……」
そっと、優しく、抱きしめる。
「やめて――やめて下さい明。こんなところでは……」
「ん、ごめん」
嫌がるならやめる。
「…………」
セイバーはぽつんと言った感じで立っている。
「行こうか」
手を、繋いだ。
「……はい」
その手が、握り返される。
「――どこへ行く。勝手に我のものを持っていくな、小僧」
…………きたかぁ。五時間ぐらい誤差があるから八割くらいの確率で来ないと思っていたのに。
「明、後ろへ」
素早く体を入れ替えるセイバー。その身は既に武装している。
「待たせたなセイバー。迎えに来たぞ」
おおよそ人間らしい感情が見当たらない傲慢さでそう言い放った男。
「アーチャー」
八人目のサーヴァント。死がそこまで迫っていた。
「ふん、我が出向いてやったというのに、黙っているのは無礼であろう?」
「……明、なんとしても初めの一撃は防ぎます。その間に貴方だけでも離脱して下さい。それで精一杯です」
「一瞬の隙があればキャスターを呼ぶ。任せるぞ、セイバー」
まるでマスターとサーヴァントみたいな会話だな、と思った。こんな時になんてのんきな――。
「その様子ではまだ我に下る気はないようだな。理解に苦しむ」
「世迷言を、英霊となっても私は王。貴様の軍門には下りはしない!」
悠長に会話しているが、こっちにそんな余裕は毛筋ほどもない。一瞬の判断が生死を分かつ。しかしデートしたことは後悔していない。俺はセイバーと一緒にいたいのだ。
「もう一度だけ言うぞセイバー。我の物となれ。この世界で共に二度目の生を謳歌しようぞ」
「断る。貴様と共に生きるなど、気を違えてもありえません」
後退もせず真正面から受け止める。ギルガメッシュは笑っている。自分の思い通りにならないものを前にして楽しいのだろう。
「アーチャー、貴様は一体何が目的だ」
「目的、か。生憎この世全ての財は手に入れた身でな。望むモノなぞとうにない」
「聖杯を、求めていないだと――!」
「聖杯? 不老不死か、そんなものは蛇にくれてやった。――そうだな、再びこの世で君臨するのも悪くはない。それをたやすく行えるのであれば、聖杯の力も悪くない」
セイバーが斬りかかった――。だが、瞬間、相手も武装していた。
「――――よい。刃向かうことを許す」
そして死闘が始まった。不可視の剣は、奴の鎧に直撃する。鎧を叩き、削り、火花を散らす。奴は両手で頭を守っているだけだ。だが、奴は無傷だった。
「戯れはこれくらいにしようか。その肢体、ここで我に捧げろ」
その腕に、鍵が握られていた。次の瞬間男の手には剣が握られていた。また火花が散る。だが今度は剣と剣の衝突だった。
「最後だ。前回の決着をつけるとしよう。アーチャー」
セイバーは決める気だ。だが――。
「――――
奴の剣がセイバーの腕を切る。取り出されていた、剣。新しいものが。
「そんな、馬鹿な」
ギルガメッシュの周囲には、無数の柄が浮かんでいる。それが奴の宝具。十や二十ではきかない数の宝具の柄だ。まさに底無し。古今東西、あらゆる武器が浮かんでいた。
「ギルガメッシュ――人類最古の英雄王――」
呆然としたセイバーの声。それを奴は満足そうに受け止めた。
「いかにも」
それで腹が決まったのだろう。セイバーが風を解き、黄金の剣が現れる。俺はタイミングを計った。
「ふん。伝説の聖剣か。いいだろう」
王はそれを鷹揚に受け止めた。
「では、こちらもとっておきを出そう」
蔵の中から剣と呼ぶべきか迷う物体を引き出した。
「純粋な宝具の力比べ――――」
俺は目の前で起こる奇跡に目を見張った。
「
セイバーは臨界まで魔力を込めると、聖剣を解き放った!!
「
「キャスター、来い!!!」
瞬間、俺は二つ目の令呪を使いキャスターを呼び出した。
「
まったく同位の光が、激突する。しかし聖剣の光は一方的に破られた。奴の放った光がセイバーを包み込む――。
「転移!!」
俺の叫びと共に、俺達は消えた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「何とか……逃げられたな……」
衛宮邸、俺達は敗北して帰ったのだった――。
後書き
王様が来る可能性が低いのにデートした理由? まあ色々とあります。好きに想像して下さい(描写しろよ)。