先に注意しておきます。このSS(主人公)は間桐家に厳しいです。彼ら、特に間桐桜が好きな人は読むのをやめた方がいいと思います。
注意! 今日二回目の更新です! 今日初めてこの作品に気がついた人は、前話のプロローグから読んでね!
――あれから、十年の月日が流れた――
あっというまの十年は語るに値しない。何故なら退屈な日常と化したそれは物語ではないからだ。とりあえず、遠坂に魔術を習うのは成功したと言っておこう。彼女の兄弟子である言峰の教導も多分にあったが、俺はとりあえず一人前の魔術師……見習いになっていた。なんというか、こう、自分で自分のことを魔術師と呼ぶのは恥ずかしいものがあるのよ。見習いで充分だ。
で、俺はできるだけ原作を壊さないように行動した。具体的には未来のマスターである遠坂凛や言峰綺礼、衛宮士郎、間桐桜、間藤慎二、間桐臓硯といったメンバーを殺したり催眠の支配下に置いたりはしなかった。俺の目標は彼らを殺したり排除することじゃない。聖杯が悪い用途で使用されないようにすることだ。原作前に彼らを排除してしまったら、外から来た在野の魔術師がマスターになる可能性が出て来る。原作知識が通用しないリアルガチな聖杯戦争なんてしたくないのだ。だから原作通りにし、原作通りに主人公の衛宮を導き、だいたい原作通りにマスターとサーヴァントには退場してもらう。それが俺の目的。だから、聖杯戦争が始まったら、絶対催眠を使って暗躍する。ただしそれまでの間と、戦争の最中に絶対催眠がバレてはいけない。絶対催眠は強力な力だが、俺は人の身なのだ、催眠の効果範囲外から狙撃でもされたら俺は死ぬ。俺が絶対の催眠能力を持つという情報は極力漏れないようにしなければ。
そして俺は今、
「……私を、抱いて下さい」
秀麗な美女の前にいた。
§
柳洞寺、という寺がある。由緒正しい寺だ。この町の霊地でもある。そこに、聖杯戦争開始一ヶ月前付近、雨が降りしきる夜。それが条件だった。だから張っていたのだ、その条件に見合う時に。それは言うほど苦ではなかった。雨の降る夜という限定した条件があるのだ。その時だけ現場に居合わせればいい。――そこに、
「ハア――ハア、ハ――」
雑木林の中を、彼女はさまよっていた。紫の衣に血の跡が痛々しく、手には契約破りの短刀を携え、真っ白な手足は冬の雨に打たれて寒々しい。倒れ込むようにして歩く。泥に汚れ、呼吸は乱れ、助けを求める手がとても可哀相だった。サーヴァントである彼女は魔力によって自己を存在せしめている。それも枯渇していた。理由は知っている。彼女は魔力を受け取るべきマスターを自らの手で殺害したのだ。裏切りの魔女。その呼び名に相応しく。自由を得た代わりに一人山の中で消えようとしていた。
「ハ――アハ、アハハハ――」
乾いた笑いを漏らす彼女。自分の体がもたないことと、マスターの寝首をかいたことを笑っているのだろう。あるいは、そんなマスターでも繋がりがあることで支えられていた事実すら笑っていたのかも知れない。
彼女のマスターは、俺の記憶が正しければ正規の魔術師。三十代の男で、戦争をする気概がないのに勝利を夢見ている夢想家だ。他のマスター達の自滅を待つだけの男。彼は彼女を信用せず、それどころか罵倒した。他のサーヴァントに圧倒的に劣る彼女を。馬鹿な男だ。優劣など戦争においては大したファクター足り得ない。重要なのは「いかに使うか」だ。上手く使えば最弱も最強になる。とにかくそんな駄目なマスターに彼女は見切りをつけ、男の自尊心を満たすよう振る舞った。結果、どうでもいいことに令呪を使用してしまった。……本当に愚かな男だ。どうでもいいことに三つの令呪を使用し、その瞬間彼女によって殺された。
「っ――く、あ――」
しかし彼女は誤った。サーヴァントはマスターからの魔力供給で存在する。だが、それは魔力だけの話ではなかったのだ。サーヴァントは現在の”人間”と繋がりを持ち、この時代で存在することを許される。つまり――マスターを失うということは、外側に強制送還されるということなのだ。
更に最悪なことに、マスターである愚かな男はある呪いを残していた。男は、自分より優れた魔術師である彼女を認めなかった。ゆえに彼女の魔力を、常に自分以下の量に制限していやがったのだ。人間の魔力量で英霊を留めてなどおけない。本来なら、マスターを失った状態でも二日間は活動できたのに。だが今は、存在しているだけで砂時計の砂が落ちるように魔力が零れ落ちていった。……恐らく、もってあと数分。このまま次のマスターと契約できなければ彼女は消えてしまう。
「ア――ハア、ハ――」
……悔しいだろうなぁ。しかも、このあとに会うのが俺ときてる。最悪だ。彼女はいつだってそうだった。いつだって不当に扱われ、いつだって誰かの道具にされた。誰にも理解されずに。……いや、彼女の人生について考えるのはやめよう。俺は蹂躙する側なのだから。
「は――はは、あ、は――。あ――ぁ――」
――そう、こうやって俺が、本来出会うべき人物を遠ざけ、出会いを演出するのだから。がさり、と林を分けて出る。
「――――」
彼女は目前の俺を睨んだ。こんな山林に、まさか人がいるとは思ってもみなかったのだろう。
「あんた、大丈夫か?」
俺は腰から下を返り血で染めた女に話しかけた。彼女は気を失った。慌てて体を支える。
「っと」
そのまま、山の上にある寺へと足を運んだ。寺の部屋を勝手に借りる。出会った寺の人にはみな催眠をかけて見逃してもらった。
「大丈夫か? 起きたようですね。事情は話せますか?」
部屋で介抱し、気づいた彼女に問い掛ける。彼女は呆然と俺を見つめた。
「迷惑なら帰ればいい。忘れろと言うなら忘れますよ」
俺は彼女を許容する言葉を吐いた。
「……私を、抱いて下さい」
「………………抱く必要は無いでしょう。俺は魔術師ですからね。マスターを失ったサーヴァントさん」
言って、腕にある令呪を見せる。
「――――」
そして、俺は契約の言葉を放った。彼女はそれを受け入れた。
§
こうして俺はキャスターのサーヴァント、メディアを手に入れた。彼女には「催眠状態になれ」と催眠をかけたので、俺が命令を下さない限り反応しない。完全に奴隷のような扱いだ。酷いことは自覚している。しかし俺の計画には必要なことだ。彼女には運が悪かったと思って諦めてもらおう。これでUBWルートは潰れたようなもんだ。彼女はUBWのキーパーソンだからな。もう一人の人物、師匠が召喚するアーチャーに対しても衛宮士郎を殺さないように催眠をかければ、UBWルートは完全に潰れる。あとはHFルートだな、こっちはあのサーヴァントに催眠をかけて潰してもらうつもりだ。俺の望みはセイバールートだ。そのルートにする為に、この身を砕こう――。
後書き
このSSで最も可哀相な扱いかもしれないキャスターさん。最初は彼女とのエロも書くつもりでした。……馬鹿ですね。魔術師がマスターになれば性交しなくていいことに気づいてなかったのです。馬鹿ですね。