タグにあるとおり、基本セイバールートです。
さて、朝起きてトイレをすませ、顔を洗ったら朝食じゃ。むしゃむしゃとパンを食べる。朝はブレックファーストだ。叔父夫婦は共働きだからな。朝は俺とおばさんで用意する。今頃師匠は……「学校に明の他には魔術師はいないってば」、とかアーチャーとやり取りしている頃だな。ふむ、そして学校では……とにかく登校してみるか。
ちなみに俺は十年前の悪夢なんて見ないぞ。十年前に悪夢を見まくる日々が続いてむかむかしたので、自分に催眠暗示をかけて大火災の悪夢は一切見ないようにしたのだ。
登校して校門をくぐったら気配を感じた。結界だ。しめしめ。原作通り……っと。また頭の計画表に丸をつける。間桐のサーヴァントは間違いなくライダー(メドゥーサ)だってことだ。この結界も重要なポイントだ。このライダーが張った結界、夜にこれを消そうとして、アーチャーとランサーが激突するのだ。
しかし俺はそこに居合わせてはいけない。原作が狂うからな。衛宮が死ななかったりサーヴァントの激突が変わったりしたら目も当てられない。適当な用事を作って放課後は席を外そう――。
§
放課後なう。師匠とは昼に話したが、放課後どうしても外せない用事があると言っておいた。なので結界破りには付き合わない。すまない、と謝っておいた。その言葉通り俺は学校から離れた場所にいた。俺はキャスターが使う遠見の魔術で学校の様子をうかがう。
時間が経つのが遅い。イヤホンを耳に突っ込んで時間を潰す。退屈は最強の敵だよ。そうこうしているうちに夜の帳が下りて、時刻は八時になり学校の屋上に師匠が出てきた。霊体化しているがアーチャーも一緒だろう。さあ、出て来い!
……キター! ランサーが屋上に登場した。姿も見知ったあの青いピッチリツナギの男だ。アイルランドの光の御子だ。ランサーが槍を取り出した、と思ったら瞬時に突いてみせやがった! 師匠はギリギリ横に大きく跳躍して難を逃れている。師匠は魔術を使って体を浮かせると、屋上から飛び降りた!
着地の衝撃をアーチャーが消す。ナイスコンビプレイ。そのまま校庭まで走り抜ける。百メートルを七秒足らずで駆け抜けた脚力は、しかし無駄に終わった。ランサーが先回りしている。さすが敏捷性最強。速さには自信アリってか? そして相対した師匠とランサーの間にアーチャーが具現化する。彼の手には一振りの短剣。剣製しやがったな。
そして打ち合いが始まった。神速の突き、ランサーのそれをアーチャーがかろうじて弾く。それの繰り返し。だが槍術三倍段、剣と槍では間合いが違いすぎる。剣を持つアーチャーは負けるぞ。その俺の予想通り、アーチャーの持つ中華風の剣が大きく弾かれて彼の手を離れる。そこに急所狙いの三段突き――!! しかし、それは失敗に終わる。アーチャーの手には再び剣が握られていた。しかも双つ。左右対称の二刀が彼の身を守る。
「おーおーおお」
初めて生(魔術を通しているが)で見る英霊同士の殺し合いに、俺は感嘆の声を上げた。師匠はアーチャーの後方で固まっている。無理もない。あの現場にいるのだ。そりゃあ固まりもするという話だ。事前にゲームで見たことがある俺でも息を飲むような激しいやりあい。腰を抜かさないだけ上等というところか。
攻めあぐねたランサーが一旦距離をとる。そして少しばかり会話を交わしたと思ったら、
――――!!!
空気が凍った。見ているこちらまで伝わるそれは、まぎれもなくランサーの殺気。本気で魔槍を放つつもりだ。宝具を解放するか。しかしこのタイミングで、
はぁっ。
間抜けにも音(息)を立てやがった第三者がいた。チィッと舌打ちし、ランサーが逃げたその人物を追った。人物が逃げた校舎内に視点を移す。その中で行われた凶行を見て、俺はキャスターに転移の魔術を指示するのだった。
§
あの場に居合わせた生徒――顔を見た――は衛宮だった。ここまで全て原作通り、この後に俺が動く。俺という異物を介在させてもらうぜ。
俺とキャスターは今、師匠の家の前に来ていた。ここで待っていれば、衛宮の命を助けた師匠が戻って来るはず。
「おかえり、師匠」
「明……」
酷く疲れた顔の師匠を出迎える。実際に疲労しているのだろう。言葉は最小限に洋館の中に入った。師匠はソファーに腰を下ろす。その上でアーチャーの帰還を待つ。再度動くには彼の言葉が必要だった。いや、俺でも肩代わりできるけど、時間の関係上やってはいけないのだ。
「――と、いけないいけない、切り替えなくちゃね」
そう言って顔を上げる師匠はタフだ。俺ならそんな簡単に切り替えなどできないだろうな。俺は卑怯な転生者。知識だけの頭でっかちである。
「明、私達ね……」
「大丈夫、状況は大体把握している」
「え?」
「結界を張ったマスターとサーヴァントに出くわす可能性もあったから、師匠達のことは遠見の魔術で見張っていたよ。戦闘、お疲れ様。その後の救命治療もね」
「……アンタねぇ。見てたんなら、た・す・け・に・き・な・さ・い・よ!!」
襟首をぐいと掴まれて糾弾される。本当にやばそうなら転移して助けに行こうとしたんだってば。そうしているうちに時間は夜の十一時を回った。アーチャーがやっと帰ってきた。
「お帰りなさい。首尾はどう?」
アーチャーはすまなそうに頭を下げると、逃げたランサーを見失ったことを告げた。そして話は聖杯への願いに移る。アーチャーはまだ己のマスターのそれを確認していなかったようだ。
「願い? そんなの別にないけど」
あっけらかんとした口調で師匠が言い捨てる。アーチャーはあっけにとられた表情だ。
「叶える願いがないとはどういうことだ……!」
「ただ勝つ為だけに戦うのよ。ちなみに明も同じ。こいつの場合は聖杯戦争の被害を抑えたいっていうのが願いといえば願いね」
「ま、ね。俺は前回の聖杯戦争の被害者だから」
俺の経歴について軽く触れておく。アーチャーはやはり不審そうに俺を見ていた。
「――って、ちょっと待った」
師匠が声を上げる。気づいたか。ランサーはアーチャーとの戦いより目撃者を消すことを優先した。つまり、死にぞこなった衛宮を、
「放っておくわけないじゃない!」
さて、ここで俺とキャスターの番だ。キャスターの転移で一気に衛宮の屋敷まで飛ぶ――!
§
午前零時。夜の中、俺達は衛宮の武家屋敷を訪れていた。と、
「師匠、ちょっと待った。屋敷から変な魔力の流れを感じる。これはもしかすると……」
師匠が突っ込んでセイバーの召喚前に割って入らないようにする。
「……何? 何があるって言うの!? ランサーの気配は既にあるのよ!」
「だから待ってくれ。ランサー以外に魔力が感じられるんだよ」
「ランサー以外に――?」
話している間に、カアァ! と太陽が現れたような白光が迸る。屋敷の中、蔵だ。
(召喚――された!)
遂に現れた。最後のサーヴァント、セイバー。ブリテンの騎士王。ランサーが逃げてゆく……。逃げるランサーは放っておく。それより今は七番目に呼び出されたサーヴァント、セイバーの方が重要だ。
「まずい、師匠、キャスター、後ろに下がれ! アーチャーは前に出てくれ!」
催眠で指示を出す。アーチャーが一番前にでた。衛宮、頼むから令呪使って止めたりすんなよ! アーチャーめがけてセイバーが飛び込みつつ斬りつける! アーチャーは一太刀、体を斬られた。
「!? アーチャー、消えて!!」
師匠が令呪を使ってアーチャーを消す。よし! そこで、次に前に出ている俺はセイバーに背中を向ける。すげぇ怖い。
「ちょっと待ったーーー!!!」
背中を見せて両手を上げた俺に戸惑う気配。ちなみに待て、という言葉で暗示をかけた。じゃないと冗談じゃなく斬られる。
「降参! 降参する!! 俺達は君とは戦わない。だから剣を下ろしてくれないか!」
必死に叫ぶ。一応キャスターがいてくれるが、問答無用で切り殺されたら敵わん。
――止まって、いた。時間も、動きも、ピタリとその位置を変えない。師匠も止まってくれている。
「俺はキャスターのマスターだ。そっちにいるのが、アーチャーのマスター、そして俺のサーヴァント、キャスターだ。だけど俺達は君とは戦わない。降参だ。俺達は、ちょっとした事情で多分君のマスターになった少年、衛宮のことを助けに来たんだ」
情けない体勢で、急いでまくし立てる。これで師匠が十年間で溜め込んだ十の宝石のうち一つを消費することもない。何より背中を向けているのが効いているのだろう。剣士なら背中を向けている丸腰の相手を斬ることは抵抗があるはずだ、というのが俺の読み。とくにセイバー(アーサー王)はな。
「どういうつもりだ。……助けに、だと?」
「そろそろ前を向いてもいいかな、君と君のマスターに話をしたいんだ」
くるりと前を向く。この時点で目標は達成されたようなもんだ。セイバーは俺の知識通りの姿をしていた。よしよし。金砂の髪に翠の目。青い服に銀の鎧。そんで手に持っているのは風で見えなくした剣。間違いなくアーサー王だ。それにしても凄い美少女だな。
「や、止めろセイバー」
息も絶え絶えという風に――実際に息絶えた奴なんだから笑えない――屋敷から少年が出てきた。暗くて姿がはっきりと見えないが、衛宮で間違いないだろう。
「……止めろ、頼むから止めてくれセイバー」
「何故止めるのですかシロウ」
そのまま問答が始まる。
「だから、マスターとかなんとか俺にはさっぱりなんだ。まず説明してくれ」
衛宮が参ったとばかりにセイバーを制する。セイバーは戦いに望まない主を少しばかり睨むようにして静かに見つめた。
「順序が違うだろう。説明してくれるなら聞くから、そんなことは止めてくれ」
セイバーはなおも納得いかなげだ。だがここまで進めば後はスムーズにことが運ぶだろう。
「……つまり貴方は敵であろうが、傷つけるなと? そのような言葉には従えません。それでも止めたいなら令呪を使って私を縛りなさい」
うわぁ。カチンコチンやぞこのセイバー。
「? いやそうじゃなくて、女の子が剣なんて振り回すもんじゃないよ。怪我をしているなら尚更。――とにかく、女の子なんだからそういうのはダメだっ!」
何を血迷ったことを言っているのだろうこのど阿呆は。その女の子が戦ってくれて命が助かったというのに。
「何を血迷ったことを言っているのだろうこのど阿呆は、その女の子が戦ってくれたから命が助かったんじゃないか。お前馬鹿か?」
口に出していた。前世でゲームをしている時から癇に障っていたんだよな、こいつの腐れフェミニストぶりには。
「え――?」
「ヘロー衛宮。俺だよ。同じ学校の佐藤明だ」
ってそういえば師匠がだいぶ静かだな。それなりに心に想っていた相手で、先ほど命を救った奴で、今も殺されそうなところを助けようとしていたのが魔術師だった。更にマスターになりやがってセイバーを召喚しやがったからな。動揺しているのか?
「……佐藤、佐藤ってお前……あ」
そこでようやく俺達の姿に気づいたらしい。セイバーしか目に入っとらんかったのかこの男は。
「で、いい加減剣を収めて欲しいんだけど?」
師匠再起動。その言葉に、剣に力を込めるセイバー。だから止めろっての。主の意向ガン無視やなこの娘。
「諦めなさい。敵を目前にして下げる剣はありません」
「貴女のマスターは止めろと言っているのに? へー、セイバーともあろうサーヴァントが主に逆らうんだ?」
「師匠。無駄な挑発はしないでくれ。セイバー、俺達に交戦の意思はないんだ。善良な意思に従ってさっきのランサーに襲われることがわかっていた君の主、衛宮を助けにきただけなんだ。だから君には大変申し訳ないが、剣を収めてくれると嬉しい」
セイバーはその師匠と俺の言葉に、やっと剣を下げてくれた。うわ、この娘歯軋りしたぞ。すげぇ性格ぅ。ま、まあとにかく殺気は消えてくれたようだ。
「お、お前遠坂!? それに佐藤も……なんで!?」
「こんばんは、衛宮くん」
にっこりと笑う師匠。
「こんばんは衛宮」
「あ、いや、その、だから」
「まあネタばらしするとだ、この遠坂凛も俺も魔術師なんだよ、衛宮。とはいえこっちも驚いているけどな。お前さんも魔術師だったなんて」
「まったくね。とりあえず、話は中でしましょ。どうせ何も解ってないでしょ衛宮くんは」
ずんずん門へ歩いていく師匠。アクティブだぜ。さて、俺も行こうかね――。
§
ずずいっと前に進んでいく師匠の傍ら、セイバーを警戒しながら歩く。可愛いなぁ。金髪に青の服、銀の鎧が恐ろしく似合っている。ちらちらと見ていたら警戒された。
「……何か? キャスターのマスター」
眼光が鋭すぎますお嬢さん!
「いや、セイバーのサーヴァントって最強の存在だと聞いていたんでね。こんなに可愛い女の子だとは思わなかったんだよ」
その俺の言葉に、きょとん、とするセイバー。自分が可愛いと言われるなんて想像の範囲外なのだろう。しかし俺もいい性格をしている。マスターのいるすぐ傍でサーヴァントを口説くなんてな。
「あ、衛宮くん、そこが居間かしら?」
貴女は貴女でゴーイングマイウェイですね師匠! 暗くなっていた部屋の明りが点けられる。ちらと見えた時計は午前一時を回っている。
「うわ寒い! なによ、窓が壊れているじゃない」
「仕方ないだろ、ランサーって奴に襲われてたんだ。家が壊れることなんて一々考えていられなかったんだよ」
「へえ、ってことはセイバーを召喚するまで一人でランサーと戦っていたのか。凄いな衛宮」
衛宮は一方的にやられただけ、というが実際こいつはとんでもない。あるルートだと最強のサーヴァント相手に勝つからなこいつ。
「――明」
師匠が顎をしゃくる。窓ガラスを直せということだろう。へいへい。
「セット」
ガラスの破片で指先を切り、窓ガラスに血をこぼす。粉々に砕けていたガラスは組み合わさって元通りの姿になった。まあこれくらいはね。十年も正規の魔術を習っていればできて当然だ。
「佐藤、今の――」
「ちょっとしたデモンストレーションってところかな。大人しく話し合いを選択してくれたお礼だよ。まあ俺がやらなくてもそっちで直せたんだろうが、魔力の無駄だからな」
衛宮にはできないと知っていてしれっとそんなことを言ってみる。
「――いや、凄いぞ佐藤。俺にはそんなことできないからな。直してくれて感謝だ」
「はあ?」
師匠がピタリと動きを止める。
「ちょっと待ちなさい衛宮くん。貴方自分の工房も管理できない半人前なの!?」
「……? いや、工房なんてないぞ俺」
馬鹿。その後師匠は五大要素の扱いやパスの作り方についても確認した。しかし衛宮から出てくる言葉は全て「非」だった。師匠が黙り込む。
「やめてくれよ修羅場とか。師匠は美人なだけに黙り込むと迫力が凄いんだからさ」
俺がそう言うと、師匠ははぁーっと息を吐いた。そして魔術について確認する。強化の魔術が使える、というかそれだけ、と言う衛宮に落胆する師匠。
「なんだってこんな奴にセイバーが呼び出されるのよ。まったく」
「それは違うぞ師匠。仮に衛宮が凄い魔術師であろうが、考えられないほどへぼだろうが、既に六体のサーヴァントは呼び出されていて席が空いていなかったんだから、サーヴァントを呼び出せば自動的にセイバーになるんだよ」
俺の言葉に、まあ仕方ないか。と肩をすくめる師匠。そして説明が始まった。マスターに選ばれたこと。令呪のこと。令呪がなくなれば殺されること。聖杯戦争という殺し合いに巻き込まれたこと。どんな願いをも叶える万能の杯。聖杯を奪い合う殺し合い。それが聖杯戦争である。七騎のサーヴァントが殺し合い、自分以外の六騎を倒す。すると聖杯が顕現して霊体であるサーヴァントが聖杯を手にする。
「もう貴方は巻き込まれているのよ衛宮くん。殺されかけたんじゃなくて殺された貴方なら解るでしょ」
だから微妙に挑発すんなっての。そんなにセイバーを呼び出されたことが不満なのかい。そうして俺達の会話をサーヴァント二人は黙って聞いている。セイバーも主に説明がなされるならばと沈黙を保っている。師匠の話は続く。サーヴァント、過去の英霊について。マスター(人間の魔術師)と同じく聖杯に叶えたい願いがあるから召喚に応じた過去の英雄、それがサーヴァントだ。サーヴァントは強力な存在なので、基本的にマスターは役立たずでサーヴァント同士で戦わせる必要がある。話を切り上げてセイバーに話を振る師匠。
「セイバー、貴方はマスターとしての心得がない魔術師見習いに呼び出されたのよ」
「確かに。私は万全の状態ではありません。シロウには私を実体化させる魔力がない。霊体に戻ることも魔力の回復も難しいでしょう」
敵と中立の間にいるような俺達に、素直に自分の状態を話すセイバー。やはり誠実な人物なのだろう。
「……驚いたわ。そこまで酷いこともだけど、貴女が正直に話してくれるなんて」
「セイバーは素直な人なんだね。……しかし、魔力の回復なら心配しなくてもいいんじゃないかな。今は敵未満って感じの俺がだけど、あてはあるし」
俺がそう言うと、興味深そうに俺を見てくるセイバー。その間高潔なセイバーを得られなかった師匠が衛宮をへっぽことか言っている。
「さて、話がまとまったところだし。そろそろ行きましょうか」
そう言って、聖杯戦争を良く知る監督役がいる教会に移動しようとする。
「隣町だから急げば夜明けまでには帰ってこれるぞ。明日は日曜だし夜遅くなっても大丈夫だろう?」
「シロウ。私は彼女と彼に賛成です。貴方は知識がなさすぎる。契約した私としては、貴方に強くなってもらわなければ困るのです」
行き先は隣町の言峰教会だ。さて行きますかね。
§
夜の町を歩く。体は鍛えてあるので片道一時間の道行きでも平気だ。魔術師は体も資本だからね。俺達は最低限の準備だけして移動していた。最低限とは、血まみれになっていた衛宮の着替えと、霊体化できないセイバーに大き目の雨合羽をかぶせることだったが。セイバーと師匠は知らぬ間に話をするくらいの中になっている。さすが女子やで。衛宮はといえば無駄に女子二人を意識してつかつか歩いてやがる。この童貞坊やが。
おっと忘れていた。衛宮に催眠をかけなければ。雑談するフリをして……。
聖杯戦争から降りてはいけない!
よし、これで教会の中で戦いを放棄するBadEndその一は回避された。外人墓地を通る。予定通りならここで戦う可能性もあるよな。まあセイバールートならそうはならないけど。だが油断は禁物だ。俺の知識通りに世界が動く保証などないのだから。
「この上が教会よ」
そして教会に辿り着いたが、
「シロウ、私はここに残ります」
セイバーが申し立ててきた。かつての敵である言峰とは会いたくないのだろう。セイバーは第四次聖杯戦争でもセイバーとして呼び出された人物だ。そして言峰神父は第四次聖杯戦争に参加していたマスターだ。
「俺も残るよ。言峰さんとはあまり会いたくないからね」
教会内での会話なんて俺には必要ないからな。カットだカット。
「セイバー。この先のことなんだけど……」
かなり警戒されているが、半端な笑顔など作らずに真顔で話しかける。セイバーには誠意を尽くす方が信用してもらえるだろう。
「今の俺達は敵になる前の段階と言っていいだろうが、逆の可能性もあると思うんだ。つまり、味方になる」
「……味方?」
「そう、俺はさ、聖杯に願いなんてないんだ。ただ十年前に起きた第四次聖杯戦争で被災してね。だから今回の聖杯戦争では、一般人に被害を出させない為にマスターになったんだ」
「…………」
第四次の大火災について、それなりに関わっている彼女だからこそ信用してもらえるはず。このセイバー、アーサー王は第四次聖杯戦争でもセイバーを務め、火災が起きる直前、直後? まあとにかくそこら辺に関与したからな。
「だから、俺には聖杯に願いなんてない。自分が勝ち残ろうという気持ちもない。そして俺のサーヴァントであるキャスターにも聖杯に願うような願いなんてないんだ。だから、俺と偶然戦争に巻き込まれただけの衛宮は同盟できると思うんだ」
「同盟…………しかし、貴方は凛の……」
「うん、師匠とも同盟を結んでいるよ。戦争が始まる前からね。だからつまり、同盟と言うのは俺と師匠と衛宮、三者で同盟を結ぼうってことだよ」
「!?」
いきなり言い出されたことに驚くセイバー。
「俺の考えはこうだ。まず三者で同盟を組み、他の四騎のサーヴァントを各個撃破する。三体一だがこれも戦争。卑怯とは言わせない。そして四体のサーヴァントを倒したら、勝ち残りたいセイバーと師匠・アーチャーが戦う。勝った方が勝ち残りに興味のないキャスターを倒して消滅させ、ジ・エンドだ。これが俺の腹案だよ」
「…………………………」
セイバーは考え込んでいる。これはセイバーにとってかなり条件のいい申し出のはずだ。今のセイバーは胸をランサーの槍で穿たれ負傷している。それを回復しつつ他六騎のサーヴァントを倒すより、四騎のサーヴァントを三体一で各個撃破し、最後にアーチャーと決着をつける方が楽だ。上手くいけば簡単に聖杯を手に入れられるのだ。
「ま、詳しい話は君のマスターである衛宮と明日辺りにでもゆっくり話そうと思う。ただ、キャスターのマスターである俺はこういう考えだと伝えておきたかったんだ。良ければ考えてみてくれ」
……よし、そんじゃ話も終わったことだし目を合わせて催眠をかけますかね。
日が進むごとに俺のことが好きになる!
はい催眠完了。この内容、日が進むごとにってのは既に中学生の時に実験済みだ。相手は一ヶ月経たない内に俺に告白してきた。聖杯戦争は大体約二週間。これなら「普通に好き」ってぐらいには、好きになってくれるだろう。ちなみに実験した女の子は告白を断って好意を消滅する催眠をかけたから大丈夫だよ。
そうして待つこと十数分。衛宮と師匠が出てきた。
「行きましょう。町に戻るまでは一緒でしょ。私達」
言ってさっさかと歩いていく師匠。追いかける。師匠は既に衛宮を敵とみなしているのだろう。彼とセイバーから距離をとっている。俺はそんな師匠と衛宮を繋ぐ掛け橋だ。さて、それじゃ覚悟を決めますかね。
と、歩いて帰る途中に
交差点に着いた。それぞれの家に続く坂道の交差点だ。
「ここでお別れね。義理は果たしたし、これ以上共にいても面倒でしょ。きっぱり別れて明日からは敵同士よ」
「師匠、それなんだが――」
俺が同盟の話を切り出そうとした時だった。
「――ねえ、お話は終わり?」
幼い声が響く。来たなイリヤ! 俺はキャスターを具現化させ、いつでも動けるよう臨戦体勢になった。奴には無意味だが心構えというやつだ。
「バーサーカー」
師匠が呟く。そこには、声の通り幼い容姿の女の子と、巨躯の大男がいた。バーサーカーのサーヴァント。絶望的な死の気配が周囲を取り巻く。
「こんばんは、お兄ちゃん」
会うのは二度目だね、などとにこやかに話すイリヤ。こっちはそんな余裕ね―っての。生身で対峙したバーサーカーは文字通りの化け物だった。
「――――や、ば。あいつ、桁違いよ」
師匠も身構えながらそう言う。だがその背中は絶望を映し出していた。
「ふふ、サーヴァントが二体もいるなんて面倒がなくていいわ。二匹いっしょに潰してあげる」
楽しげに呟く。
「師匠、どうする。二対一だぞ。顔見せ程度に戦うか、本気で潰し会うか、一目散に逃げるか。俺としては最低限の情報収集はしたい。どうせいずれは戦う相手なんだ。二体いて有利なうちに戦っておきたい」
俺が意見を具申する。
「……くっ、そう、ね。ここで逃げてちゃ女がすたるわ。頼むわよ明!」
――と、イリヤはスカートの裾を持ち上げ、戦いの場にふさわしくないほど行儀良くお辞儀をした。
「初めまして、私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えばわかるでしょ?」
当然、知っている。聖杯戦争を始めた、始まりの御三家。アインツベルン・遠坂・マキリ。その内のアインツベルンのマスターが彼女だ。体を固めた師匠に気を良くしたのか、笑みを浮かべながら、
「じゃあ殺すね。やっちゃえバーサーカー」
命令しやがった。それとほぼ同時にバーサーカーが跳躍してこちらにくる。
「――シロウ、下がってください……!」
セイバーが駈ける。この面子ならセイバーが前衛、キャスターが後衛を務めるのが理想的だ。
そして暴風が吹き荒れた。バーサーカーの持つ斧剣と、セイバーの不可視の剣が激突する。武威のぶつけ合いは、セイバーの敗北で終わる。
ざざざざ。
セイバーは受け止めた剣ごとこちらに押し戻された。そこに再びの攻撃。バーサーカーは手を休めない。俺と師匠プラスキャスターは機会をうかがっている。クソッ、大剣をもっているのになんてスピードだ。セイバーを上回ってやがるぞ。狂人であるバーサーカーに技巧はない。だというのに最優のセイバーを一方的に打ち据える。
「――――逃げろ」
衛宮が呟く。弱気になるの早いな。ま、無理もないか。俺のように切り札があるわけじゃなし。剣戟でセイバーの体が浮いた。敵の大剣を防ぎきれなかったか。地面に叩きつけられる前に、身を翻して着地した。
「……ぅ、っ……!」
だけど胸には紅がにじむ。やはりランサーの槍撃は確実に彼女にダメージを与えていた。追撃を行うバーサーカー、だがそこに、師匠の魔術と俺、そしてキャスターの魔術が突き刺さった! だが無意味っ! バーサーカーの体は無傷だ。セイバーのレジスト能力と違い、単純に効いていない。やっぱわかっていたけど反則だろアレ!?
「ぐぅぅっ! なんてデタラメな体してんのよ、こいつ!」
それでも師匠とキャスターは手を休めずに魔術を放つ。だが敵は意に介さずセイバーへ向かう。
「だめだ、逃げろセイバー……!」
衛宮が叫ぶ。だが彼女は聞いちゃいなかった。敵うはずのない敵めがけて突進する――!
「あっ!」
しかし、彼女は再び攻撃によって宙を舞っていた。その胸から鮮血が散る。もはや動くのが無理な体で、彼女は立ちあがった。
(これが、セイバー。これが、英霊)
その剛毅な意思には感嘆するしかない。だが――、
「あは、勝てる訳ないじゃない。わたしのバーサーカーはギリシャ最大の英雄なんだから」
驚くほどあっさりと、敵は正体をバラしてくれた。
「ヘラクレス……! 馬鹿な!」
俺は驚いたフリをする。佐藤明が知っていてはおかしい知識だからな。俺達程度に使役できる英雄とは格が違うと言い捨てるイリヤ。実際ヘラクレスの前ではメディアはまず役に立たない。かなりの深手、負傷しているセイバーも今は敵わないだろう。
そこで、隣にいた衛宮が動く気配がした。このままでは奴は原作通り特攻するだろう。だから、
「戻れ! ここまで戻るんだセイバー!!」
催眠を、かける! セイバーはその言葉を聞いて最後の力を振り絞り、後方の俺達の所まで跳躍した。よし、逃げるぞ。
「キャスター、転移!」
その俺の言葉と共に、俺達は逃げ出した――。
後書き
主人公の心理描写、モノローグは意図して薄くしてあります。なんでこいつこんな行動してるの? ということが多々あると思いますが、仕様です。理由は、あまり内心を語らせると先の展開などがバレるからです。ネタバレは厳禁。これ重要。