※この作品はR-18です。

stay nightでエロSS   作:月影57令

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前書き
 原作登場人物の死亡があります。ご注意下さい。





2月5日

 また朝がやってきた。聖杯戦争の朝だ。ああ気が重い。だが頑張らねばな。頑張って原作通りにするぞー! おー! と気合を入れて起きる。

 

 

 

「悪いわね桜、私バター駄目なの。そっちのジャムを頂戴」

 

「そうなんですか。遠坂先輩、甘いものが好きじゃないような口ぶりでしたけど」

 

「まさか、そんな女子はいないわよ」

 

「セイバーは良く食べるなぁ、小さな体して男並みじゃないか?」

 

「? そうでしょうか。私は平均だと思いますが」

 

 中々に姦しい食卓である。衛宮の奴は沈黙しているが。藤村先生が来なかったが、昨夜のショックが大きかったということだろう。食事の後片付けは衛宮、君に任せた。

 

「それでは私も失礼します。何かあれば言って下さい」

 

「じゃあなセイバー。衛宮のことは任せてくれ」

 

「はい、シロウを頼みます明」

 

 そう言って引っ込んでいくセイバー。TVのニュースは今日も安穏としたものだった。原作と違ってキャスターが俺の支配下だからな。ガス漏れ事故のニュース(魔術で精気を吸われた一般人のごまかし)などは流れないのだ。

 

 今日も三人で登校する。桜は弓道部の朝練があるので先に出た。門をくぐると違和感が、これにも慣れてきたな。

 

「……本当だな。外と中じゃ空気が違うぞ。甘い蜜みたいな空気だ」

 

「へえ、士郎はそう感じるんだ。……貴方、魔力感知は下手だけど、そういうのには敏感なのかもね」

 

 ふうん、と師匠は何やら考えこむ。

 

「まあとにかく、学校の生徒を巻き込みたくないのは三人一緒なんだ。ならやることは一つだろ」

 

「……わかってるよ。この結界を張ったマスターを探し出してそいつをなんとかする。結界を解かないって言うんなら、倒すだけだ」

 

 衛宮、本音が透けているぞ。「解かないって言うんなら」ってことは、問答無用で倒すのではなく、その前に会話なりなんなりをしようってつもりだろ? 残念だが俺も師匠もそんな悠長な気持ちではない。見つけたら即殺するつもりだ。

 

「じゃ、私は結界を張った奴を捜してみるわ。士郎は不審な場所をチェックしといて。貴方はそういう特異点を探すのに向いてそうだし。明は魔力感知とキャスターでなんとかなるか見てちょうだい」

 

 そう言って別れる。まずは午前中の授業か。今日の午後は……あれだな。よし、と。俺は頭の中に行動計画表を細かくチェックした。

 

 昼休みである。俺の記憶が確かなら、この時間に間桐慎二が衛宮に接触する可能性がある。マスターと名乗ってな。俺はその場所――弓道場前を見張った。…………やはり、か。間桐が出てきて結界の基点を探していた衛宮に話しかけた。よし、この記憶通りってことはやっぱ基本はセイバールートのようだな。しめしめ。そうこうしていると、二人は学校を出た。午後の授業をさぼって間桐の家で話をするはず。んでライダーの姿も視認するはずだ。俺は念のためキャスターを単独行動させて後をつけていくよう指示した。

 

 間桐は魔術師の家系、つーか聖杯戦争の御三家が一つ、マキリだ。今頃衛宮はその説明を受けていることだろう。きっと簡単に桜は魔術に関係ないって言葉に引っかかるんだろうなぁ。家の人間なのに魔術に関係ない訳ないだろスカタン。桜も立派な魔術師だよ。ライダーの本来のマスターでもある。まったく気の抜けた奴だ。

 

 さて、俺の方で行うことは今は何もないな。午後の授業を粛々と受けるとしよう――。

 

 

     §

 

 

 藤村先生が姦しい夕食を終えて桜と外に出た。戦争の時間じゃぜ。衛宮から話があると切り出された。

 

「他のマスターの話だ。聞いて欲しいことがある」

 

 何だ? 衛宮の奴やけにセイバーを気にしているようだが。

 

「シロウ、話があるのでは?」

 

「――ああ。そうだな。率直にいうと、今日の午後、ライダーとそのマスターに会ってきた」

 

「知ってる」

 

 空気が変わる。二人が目を剥いた。

 

「な! ライダーのマスターに会ってきたですって! 明! アンタも知ってるってどういうことよ!」

 

「そんな馬鹿な! 一人で敵のマスターと会うなど、自分の安全をなんと考えているのですか!」

 

 二人に糾弾されてやんの。やーい考えなし。

 

「落ち着け二人とも、俺は午後の授業を抜け出して学校の外に出た衛宮をキャスターに追尾させたから知っているんだ。でも詳しい話はわからないからまずは衛宮の話を聞こう。セイバーも、衛宮の馬鹿が簡単に敵に会ってきたのは問題だけど、今はこうして無事なんだから矛を収めてくれ」

 

「え? キャスター、ついて来てたのか!?」

 

「あのなぁ。同盟を何だと思ってるんだこのバカチンが。セイバーからもくれぐれもよろしく頼むと言われているのに、一人になんてさせる訳ないだろーが」

 

 当然のことながらキャスターに気づいてなかったのか衛宮。これが暗殺者(アサシン)だったら終わってるぞ。

 

「私は怒ってなどいませんっ。シロウの浅はかな行動に呆れているだけです」

 

「右に同じ。ま、終わったことをあれこれ言ってもしょうがないわ。それで、どういうことなの士郎」

 

 明かに怒っていますという風体で睨む師匠とセイバー。こいつの危機管理能力がガバガバなことなんて、最初の夜、学校に残っていたことでわかるだろうに。

 

「会ったのは、話し合いをするっていうから付き合ったんだ。別に戦闘した訳じゃない」

 

「見りゃわかるわよ。で、ライダーのマスターはどんな奴なの」

 

「どんな奴って、慎二だよ。話しかけられて、間桐の家まで行ったんだ」

 

「な――慎二って、本当にあの慎二!?」

 

 俺は共通知識のないセイバーに慎二のことを説明してやる。間桐家の長男、桜の(義理の)兄。衛宮の友人。

 

「……とにかく、ライダーは慎二に従っていたし、聖杯戦争も知っていた。間桐の家は由緒正しい魔術師の家系なんだって?」

 

 それは、とか間桐の子供に魔術回路はつかないはず、とか師匠はぶつぶつ言っている。イレギュラーに弱いなぁ。衛宮は自分と同じようなケースで魔力もないから探索に引っかからないと言った。

 

「ああもう、それじゃ私の行動はあいつに筒抜けだったんだ、ばか」

 

 さすがの師匠である(ポカの遠坂)。

 

「私のミスね。知っていたら結界なんて張らせることもなかったのに」

 

「いや、学校の結界は慎二じゃないぞ。あいつが言うには、学校にはもう一人マスターがいるんだと」

 

「……衛宮。お前まさか結界を張っていないっていう間桐の言葉を信じているのか?」

 

「いやぁ、そこまでお人よしじゃない。半分の確率で慎二の仕業だと思ってるよ」

 

「……ま、いいわ。それで慎二と何を話したのよ」

 

「手を組まないか、だとさ。あいつも戦うつもりはないらしい。だから顔見知りの俺と協力したいって風だった」

 

 それは嘘だ。しかしこれで嘘も含めて三人も戦いたくないマスターがいることになる。……今回の聖杯戦争は酷いなぁ。

 

「まさか士郎、貴方」

 

「いや、断った。俺はもう遠坂と佐藤の仲間だし、返事するにしても二人に話を通さないと駄目だろ」

 

「そうか。それはそれで正しかったと思うぞ、なあ師匠」

 

 ん、まあね。などとごにょごにょ言っている。真っ直ぐな衛宮に当てられたな。

 

「とりあえずそんなとこだ。あと、ライダーについては……」

 

 ふむふむ。見た限りそこまで強力じゃないと。バーサーカーはもちろんランサーより威圧感がない、か。しかしライダーの真価は宝具にある。

 

「油断は禁物です、シロウ」

 

「そうだぞへっぽこ(衛宮)。お前は特に実力のないマスターなんだから油断なんてもっての他だ」

 

「う――。た、確かに。でも、どこの英雄かはわからなかったけど。ランサーとかバーサーカーはいかにも英雄って感じだろ? けどライダーにはそれがなくて、どこか普通のサーヴァントとは違う気がした」

 

「ふぅん。理屈だけならわかるわよ。サーヴァントは結構似たもの同士で呼び出されるのよ。つまり清廉な人物がマスターなら、それに近い霊核をした英霊が召喚される。逆に言えば、悪徳な人間が英霊を呼び出せば、同じような英霊が現れるわ。士郎がライダーに感じたことって多分それよ。歪んだマスターは、時として英雄じゃなくて英霊に近いだけの怨霊を呼び出してしまうものよ」

 

 師匠はこう説明しているが、怨霊のようなサーヴァント――俗に言う反英雄――が出現しだしたのは。第三次のあるサーヴァントが原因だ。それまでは正しい英雄しか呼び出されていなかったはず。

 

「まあライダーについてはそれだけ。最後にもう一つ、これが一番重要かも知れない。なんでも、ライダーの話じゃ柳洞寺にもマスターがいるらしい。この話、三人はどう思う?」

 

 それはキャスターが反則で呼び出したアサシン(偽)である。まあそのことは師匠にも秘密にしているから誰も知らないんだけどね。

 

「どんなマスターか知らないけど、辺鄙なところに陣取ったものね」

 

「――いえ、シロウの話は信憑性が高い。あの寺院は押さえると有利になる場所です」

 

「? セイバー、あの寺院って――柳洞寺のこと知ってるのか? まだ案内してないぞ、俺」

 

「忘れたのですかシロウ。私は前回も聖杯戦争に参加しています。この町のことは熟知していますし、あの寺院が落ちた霊脈ということも知っています」

 

「――落ちた霊脈!? ちょっと待ってセイバー。それって遠坂の家のことよ!? なんだって一つの土地に霊脈の中心点が二つあるのよ!」

 

「……それはわかりませんが。とにかくあの寺院は魔術師にとって神殿とも言える土地です。この地域の命脈が流れる場所と聞きました」

 

「ようするに霊的に優れた土地ってことだろ? そんなのある意味当然じゃないか。そうでもない場所に寺なんて建てないぞ」

 

「だな、衛宮の言うことは正しい」

 

「でも、それなら何だって他のマスターは手中に収めないのかしら」

 

「凛、あの山にはマスターにとって都合の悪い結界が張られているのです。あの山には自然霊以外を排除する法術が働いています。サーヴァントにとっては文字通り鬼門なのです」

 

 鬼門なんて言葉も知っているのか、サーヴァントって。

 

「それじゃあ、どうやって柳洞寺のマスターはサーヴァントを維持しているの?」

 

「寺院の中に入ってしまえば結界はありません。結界は外来の者を拒むだけの物。それ以上の能力はありません。寺に続く参道にだけは結界が張られていないと聞きました。正門のみ、サーヴァントを律する力が働いていないのです」

 

 ふむぅ、と頷く師匠。よしよし、この流れなら……。

 

「――では結論を。マスターがいると判明したのですから、とるべき手段は一つだけです」

 

 セイバーの言いたいことは簡単だ。敵の居場所が判明したのなら、後は攻め込むだけ、と言いたいのだろう。しかし――――。

 

 柳洞寺には行くな!

 

 と、衛宮に催眠をかけさせてもらう。悪いが孤立してもらうぞセイバー。

 

「私はパス。どうにも罠っぽいし、正直それだけの情報じゃ動けないわ。相手の陣地に行くならせめてどんなサーヴァントか判明するまで待つべきね。……アーチャーも回復してないしね」

 

 師匠は反対。まあそれも道理だろう、自分のサーヴァントであるアーチャーが療養中なのだから。

 

「それではシロウ、私達だけで寺院に赴きましょう」

 

 いや、俺の意見も聞いてくれよ。アレ? 俺師匠の付属品とか思われているの?

 

「――――いや、俺も遠坂に賛成だ。まだ手を出さない方がいい」

 

 衛宮も反対。やったぜ催眠。

 

「貴方まで戦わないと言うのか……!? バカな、今まで体を休めていたのは何の為だというのです! 敵の所在が判明したのなら、撃って出るのが戦いというものです!」

 

 セイバーは戦いたい、と。

 

「それはわかっているよセイバー。だけど待つんだ。柳洞寺にいるマスターが用意周到な奴なら罠を張っているだろう。そこに無策で飛び込むのは自殺行為だよ」

 

「そのような危険は当然承知の上です! 初めから無傷の勝利など得られるとは思っていません。敵の罠が肉を切っても、この首を渡さなければ戦えます。どのような深手を負おうとマスターさえ倒せればいいのではないですか!」

 

 猪武者だなぁ。その後も戦いは控えているんだぜ。しかも貴女魔力供給されてないでしょ。ただひたすら魔力を消費するだけの状態なんだから、避けられる戦いは避けるべきだろ。

 

「な――んなバカな話があるか! 怪我をしてもいいだなんて。危険だと知って行くのはいい、けど特攻なんて馬鹿げたことはさせられない」

 

 そうだな。柳洞寺にはマスターとサーヴァントがいる、と思われている。んで、寺に続く道はただ一本だけ、なら何かしらの罠があってしかるべき(ないけど)。作戦もなしに挑むのはあまりに危険だ。いくらセイバーが強くても魔力とマスターという枷がある。無理して戦うべき場面ではない。

 

 きっと今の衛宮は、頭の中で、血を噴き出しているバーサーカー戦のセイバーを思い出しているのだろう。正義の味方マンであるこいつには言っても無駄である。

 

「……はぁ。何を言うかと思えば。いいですかマスター、サーヴァントは傷を負う者。それを恐れて戦いを避けるなど、私のマスターには許しません」

 

 私のマスターには許しません。私のマスターには許しません! 凄い言葉だ。とても従う者、サーヴァントの発言とは思えん。

 

「――ああ、許されなくて結構だよ。セイバーが無理をするなら止めるからな。……それが嫌なら体を万全の状態にしろってんだ。まだ傷が治りきっていないだろ、お前」

 

「戦闘に弊害はありません。傷を理由にして戦いを先延ばしにするなど、そのような気遣いは不要です」

 

 頑固だな。ここら辺で折れると理想的な主従関係なのだが。

 

「――っ」

 

 衛宮も処置なし、という顔をしている。

 

「ああそうかよ。だけど簡単に認められるか。この間だってセイバーはバーサーカーにやられただろ!? 無茶して戦って、俺もお前も共倒れ、なんて真似をするつもりか!? 冗談じゃない。俺はあんなセイバーを見るなんて二度とごめんだっ」

 

「私への気遣いは不要です。そんな弱腰では困ります。マスター」

 

 お互い折れるってことを知らんのか。

 

「弱腰で悪かったな。とにかく、こちらから仕掛けることはまだしない。俺達は戦える状態じゃない。こんなんでやられたら、元も子もないからな。いいか! こっちから戦いに赴くのはお前の傷が治ってからだ。万全の状態になったら戦いも考慮する。それに文句があるなら、さっさと俺以外に契約してくれる他のマスターでも見つけろ」

 

「――わかり、ました。マスターがそう言うのでしたら」

 

「……そろそろいいかな? 俺とキャスターが完全に蚊帳の外におかれているようだけど」

 

 その言葉に二人がこちらを向く。

 

「俺としては師匠と衛宮に賛成だけど、戦いたい、自分の本分に立ちかえりたいというセイバーの気持ちもわかる。できれば戦う意思を見せているセイバーには戦ってもらえばいいじゃないかとも思うが、マスターである衛宮が反対しているんだ。無理はさせられない。とりあえず、俺とキャスターで斥候を務めるから、その結果がわかってからまた改めて話をしよう」

 

 俺はそれなりにセイバーの意思を尊重するような言葉を吐いた。それで話し合いは終わった。

 

 

     §

 

 

 時刻は夜中。眠ってはいない。この流れならセイバーは……。…………………………やはり、家を抜けだしたな。柳洞寺に行ったか。俺はキャスターの魔術でそれを感知すると。土蔵で眠る衛宮の元に行った。おし、寝ているな。瞳を閉じているから目では催眠をかけられない。だが俺には発声式の催眠がある。聴覚でとらえたらかかる、という能力なので、寝ていても一方的に催眠をかけることが可能なのだ。

 

「そのままずっと眠り続けろ。但し誰かに体を揺すられたら即起きるように」

 

 これでよし。衛宮は原作のようにセイバーを追いかけることはできなくなった。それでは暗躍のターンだ。遠見の魔術で柳洞寺の下にセイバーが到着したのを見た。俺はキャスターに指示を出し、俺とキャスターを転移させる。同じく柳洞寺の下にな。もちろんセイバーに見つからないようある程度離れて、だが。

 

 再び遠見の魔術だ。寺の階段を上がった山門付近に視点を置く。と、出てきた。キャスターがマスターとなって呼び出した偽アサシンだ。うーむ、またまたサーヴァント同士の戦いを見てしまった。マスターの中でもかなりの戦闘遭遇率だぞ、俺。

 

「秘剣――――燕返し」

 

 偽アサシンが秘剣を振るう。死ぬなよ、セイバー、と。回避したな。さすがだ。

 

「……なるほど。確かに、手加減が許される相手ではないようだ」

 

 セイバーが覚悟を決める。よし、このタイミングだな。俺は階段を駆け登った。上で大気が震えている。剣の仮初めの鞘として機能していた風を解き放つのだ。尋常でない風圧が上からやってくる。く、この――。

 

(風王結界、解除したか)

 

 それに間に合うよう駆け出す。待っていろ、セイバー。あまりの風圧に飛ばされそうになる。キャスタ―に風除けをしてもらおう。……よし、だいぶ楽に進めるようになった。だが油断するな、ここには奴も来ているはず――。

 

 そう思った途端に短刀が飛んできた。心構えをしていたので何とか避けられたが。やっぱりいやがったなライダー!

 

「こそこそと隠れていないで出てきたらどうだ!」

 

 声を上げ、上段の二人にも存在を知らせる。と、風がやんだ。

 

「ここまでだ、セイバー。その秘剣、盗み見る輩がいるぞ」

 

 着物の男――俺がキャスターに命じて呼び出させた偽アサシン――は言った。

 

「このまま続ければ、我らの勝負後、生き残った方に恥知らずが襲いかかる。それとも、お前の秘剣を見るだけが目的か。……どちらにせよあまり気分の良い話ではないな」

 

 そしてそのまま階段を上り始める。

 

「――――待て! 決着をつけず退くつもりか、アサシンっ!」

 

「山門を超える輩は私が許さん。だが、生憎と私の役目はそれだけ。帰るというのであらば止める気はない。そこに隠れているたわけは別だが、な」

 

 偽アサシンはつかつかと石段を上がっていく。

 

「良い場面で邪魔が入った。そなたにとっては良かったであろうがな」

 

「くっ――――」

 

 セイバーはさぞかし無念だろう。だが今は飲み込んでもらわなければ困るのだ。セイバー自身、この場での戦闘は不利だと感じているのだろう。剣を下げた。

 

「迎えも来ているようではないか。盗み見の輩が小僧に標的を変える前に立ち去るがいい」

 

 そして偽アサシンの姿は消える。ナイスフォロー。

 

「――――――」

 

 セイバーは立ち尽くしている。まずい。俺は急いで階段を上ると、セイバーに近づいた。と、彼女を守っていた鎧が消える。無防備な青い衣だけになった彼女は倒れ込んだ。慌てて抱きとめる。セイバーは気を失っていた。

 

(魔力の使いすぎか。ま、当然だな)

 

 そう思いながらも原作通り、自分の思い通りにことが進んでニヤリとする。さて、ではやりますかね。

 

 

     §

 

 

 俺はキャスターに命じて転移した。間桐家の目の前に。柳洞寺にいたライダーが戻ってこないうちにかたをつける。俺は絶対催眠をセイバーにかけた。

 

「催眠状態になれ。目覚めろ」

 

 セイバーはぱちくりと目を開いた。だが意識はない。催眠状態だからな。次は……と。

 

「俺が合図したら宝具、エクスカリバーを目の前の屋敷に向けて放て」

 

 これで準備完了。俺はセイバーの背後から腹を両手で支えるようにした。

 

「キャスター、この家の上空二十メートルに俺達三人を浮遊魔術で浮かせろ」

 

 次の瞬間、俺と催眠状態のセイバーとキャスターは間桐邸の上空浮いていた。間桐家には結界も張られたりしているだろうが、神代の魔術師であるキャスターには無意味。そして上空二十メートルの地点で止まる。――よし。

 

「セイバー、宝具を放て」

 

 ――そう、最低の命令を下した。

 

「――――約束された勝利の剣(エクスカリバー)――――!!!」

 

 上空から間桐邸に向けてセイバーの宝具が炸裂した。間桐邸が暴力的な光の渦に飲み込まれていく――。圧倒的なまでの光の斬撃。それがエクスカリバーだ。上空からの放射なので、他の人家に影響はでない、縦に深く穴が掘られるだけだ。

 

「セイバー、宝具をしまえ。キャスター、お前はここに残って生存者の有無を確認しろ、生きている存在がいたら問答無用で殺せ。それが終わったら衛宮家の俺の部屋に転移してこい、じゃあ俺達二人を衛宮家のセイバーの部屋に転移させろ」

 

 一気に命令を下す。と、景色が変わってセイバーの部屋になった。俺はセイバーを布団に寝かせると、催眠状態を解除し、自分の部屋に戻った。キャスターが来るのを待つ。少し経って、キャスターが無言で部屋に現れた。

 

「生存者は?」

 

「いませんでした」

 

 よし! よし! よし! これで間桐臓硯、間桐慎二、間桐桜は死んだ! 厄介なあの一家が死んだのだ。そのうち魔力切れでライダーも消え去るだろう。これで俺の計画は半分以上達成された、

 

 残るサーヴァントはバーサーカーとランサーの二体、プラス八体目のあいつだけだ。ほぼ目標は達成できたようなもんだ。……いや、油断はすまい。ほんのちょっとでも気を緩めれば死ぬ。そう思っていた方がいい。

 

 俺は衛宮を起こしに土蔵へ歩き出した。

 

 

     §

 

 

 衛宮と師匠、セイバーが居間にいます。あ、シャレじゃないぞ。

 

「――どういうことだ?」

 

 疑問を呈す衛宮。

 

「――――」

 

 下を向くセイバー。

 

「一番事情がわかっている俺から説明させてもらうな」

 

 そして説明する。セイバーが屋敷を抜け出し、一人で柳洞寺に向かった。それをキャスターのおかげで察知した俺は取るものも取らず、転移でセイバーの元に駈けつけた。そしたらアサシン(偽)と戦闘しており、そこにもう一体隠れたサーヴァントがいた為戦闘は中断。戦闘の終わりに宝具を使用しかけたセイバーは一気に膨大な魔力を使おうとして、気絶した。俺はまたキャスターの転移で衛宮家に戻ったという訳だ。

 

「という訳だ」

 

 間桐邸の破壊には気づいていないようなので、あちらについては何も喋らない。つーか仮に気づいていたとしても知らぬ存ぜぬで通すつもりだったけどね。きっと今頃間桐家の周辺は大騒ぎになっていることだろう。

 

「セイバー! お前な、自分が何をしたかわかっているのか!?」

 

 衛宮は憤慨している。無理もないな、勝手に単独行動を取った挙句気絶して、協力関係にあるとはいえ自分以外の男に運んでもらったんだから。セイバーは当然自分の体におきた異変に気づいている。宝具を使用する寸前で気絶したのに、宝具を使用したのと同じくらい魔力が減っているんだからな。だが催眠状態と気絶にあった彼女は自分がエクスカリバーを使用した記憶がない。混乱しているのだろうな。

 

「わからない訳はないでしょう。私は敵の元に赴き、アサシンのサーヴァントと戦闘を行った。その際、私達の戦いを監視していた第三のサーヴァントに気づいて戦いを中断。それが私が行ったことです」

 

「……っ! だから、そうじゃなくて。~~!! どうして戦ったのかってことだ!!」

 

「……また、それですか。サーヴァントが戦うのは当たり前です。マスターこそ、何故私に戦うなと言うのですか」

 

 混乱しているだろうに、それをおくびにも出さない。ここら辺は王様の面目躍如ってところかな。

 

「いや、だけど、それは――」

 

 言葉に詰まる衛宮。セイバーに戦うなという方が矛盾しているのだ。これは衛宮に分が悪い。

 

「私の方こそ聞きたいですね。シロウは戦いを嫌っているようですが、生き残る気はあるのですか? 貴方の方針に従っているだけでは、他のマスターに倒されるのを待つだけではないですか」

 

 剛毅だねぇ。これ、俺が悪いマスターだったら二人に契約破棄させて俺のサーヴァントにさせることができるんじゃないか? そう思うほど今の衛宮とセイバーは意見が合っていない。

 

「違うぞ。俺は戦うのを嫌ってるんじゃない。――その、女の子が傷つくのは駄目だ。そんなの男として見逃せない。だから、お前に戦わせるくらいなら、俺が自分で戦う」

 

 その衛宮の言葉に、

 

「馬鹿じゃねーの?」

 

「なっ、私が女だから戦わせないと……!?」

 

 俺とセイバーが同時に喋った。

 

「ああ、すまん。つい本音が漏れた。俺は邪魔しないからどうぞ二人で話し合ってくれ」

 

「……正気ですか!? サーヴァントはマスターを守護する者です。私達が戦闘で傷つくのは当然なのです。その為に呼び出されたモノにすぎない! サーヴァントに性別なぞ関係ありません。そもそも武人である私を女扱いとは何事ですか! 訂正して下さい、シロウ……!」

 

 目つきがきついよセイバー。しかし衛宮の腐れフェミニストっぷりには辟易するな。

 

「誰が訂正なんてするものか! そりゃあセイバーは強いかもだけど、それでも女の子だろ! つまんないことにこだわるなバカ!」

 

「ワハハハッ」

 

 笑いが漏れた。

 

「す、すまん。ツボった。くくく、つまんないことにこだわっているのはどっちだっつーのこの馬鹿」

 

「明の言う通りです。つまらないことにこだわっているのは貴方だ……! 女性に守護されるのは嫌だとでも言うつもりですか!? この身は既に英霊。性別など些末事だ!」

 

「些末なものかっ! ああ、もう。とにかく俺が嫌なんだ! 大体自分の代わりに戦わせるってのが間違いだったんだ。俺はそんなの――くそっ。とにかくセイバーは戦うな。喧嘩は俺の役割なんだから戦いは俺がやる。それなら文句はないだろ。セイバーの言う通り戦うって言ってるんだから」

 

 特大の馬鹿がいた。こいつ女性の警察官とかSPとか自衛官の人を最大限侮辱してるって気づいているのかね? いや、女性差別だって立派な一つの思想だけど、こいつはそれをろくに自覚していないからたちが悪い。

 

「馬鹿は死んでも治らないって言うけどホントだな。ランサーに二回も殺されかけた癖に自分が戦うとか絵空事を言うなんて。悪いけどお前は全サーヴァント中最弱のキャスターにすら勝てないよ」

 

 言う。思いっきり馬鹿にするように。

 

「……そんなの、やってみなくちゃわからない! あの時は何の準備もなかっただけだ。今ならやりようによっては寝首をかくことぐらいできる!」

 

 ――その時、本気でキャスターに命じさせて殺してやろうかと思った――。

 

 いやいや、物騒な思考はやめろ。こいつは生かさないと駄目なんだ。

 

「笑止です。シロウの守りなど紙も同然です。貴方はサーヴァントを侮っている。人間が英霊を打倒しようなどと、何を思いあがっているのですか」

 

 にらみ合う二人。と、師匠が口を挟んだ。

 

「違うわセイバー。士郎は侮っている訳じゃない。誤解しちゃうといけないから口を挟ませてもらうわね。ようするにね、そいつは純粋に貴女が傷を負うのを嫌がっているのよ。どうしてかはわからないけど」

 

 ちらり、と衛宮に視線を送る師匠。

 

「ようするに、衛宮はセイバーが大切で大切でたまらないんだよ」

 

「っ――そ、そんなことないぞ……! 俺は別に大切なんて言ってないっ!」

 

 照れるなよ。そこで照れると話がややこしくなる。

 

「嘘ね。だって貴方、自分がサーヴァントに勝てないのはわかってるんでしょ。それでも戦うって言うのは自分よりセイバーが大事ってことじゃない」

 

 だよなぁ。

 

「え――――?」

 

 セイバーが目をしばたたかせる。

 

「だから無理でも戦う。勝てないとわかっていながらね。その結果が自分の死でも構わないんでしょ。何故ならアンタの中では自分より他人の方が大切だから」

 

 的確に衛宮を見抜く師匠。

 

「そういうことよ。わかるでしょセイバー。だから本気で、自分が戦うって言ってるの」

 

「――シロウ。貴方が戦うことは認めます。ですが、それならば私にも考えがある」

 

「な、なんだよ」

 

「剣の鍛錬です。私は貴方に剣を教える。それを認めるのなら、私もシロウの意見を認めます」

 

 甘いなぁセイバーは。百本勝負して一本でも取れたら衛宮の言うことを聞く、逆に百本全部負けたら衛宮はセイバーの言うことを聞く、とかってすればいいのに。

 

「ちょ、ま、待て」

 

 慌てる衛宮。

 

「うん、そうよ。士郎に剣を教えるなんて心の贅肉よセイバー。そんな気休めでサーヴァントに太刀打ちできる訳ないじゃない」

 

「それは当然です。ですが、本当の違い、戦いというものを知らないよりはマシでしょう。あとはシロウ本人の覚悟に賭けるだけですが、実戦とはそういうものです。向かない者には、何を教えても無駄です」

 

「ふーん、そっか」

 

「はい。ですからできる限りシロウには戦闘による死を体験させるのです。慣れてもらうのです」

 

 物騒だなぁ。

 

「ちょ、ちょっと待て、俺はいいなんて一言も――」

 

「セイバーが妥協案を出したんだから文句言うなよ衛宮。それが嫌なら自分の方から妥協案を出せ。そうでないかぎりお前のそれはセイバーに自分のエゴを押しつけているだけだぞ」

 

「あ――う」

 

「私は魔術講座にしましょう。セイバーが体を鍛えるなら、私は知識を育てる。……ま、最初からそういう約束だったしね。明日から本格的にやりましょう」

 

「お願いします、凛」

 

「それじゃ今日のところは解散ってことで、みんな休もうぜ。特にセイバーはな」

 

「はい――あ」

 

 ん? セイバーが少し慌ててこちらを向いた。

 

「明、すみません。助かりました。柳洞寺まで来てもらい。ありがとうございます」

 

「……気にしなくていいよセイバー。俺達は仲間だろ。セイバー一人じゃ危険と思ったから急いで駈けつけたんだ。大事がなくて良かった」

 

「…………ありがとうございます」

 

 魔力がごっそりなくなっていることに気づいているだろうに、セイバーはただ、俺にそう言うのだった。

 






後書き
 原作通りとは何だったのか()
 
 魔力がなくなっていることに気づいているセイバー。しかし原因はわかりません。普通に考えれば気を失っている間に何かされたと思うでしょうが、助けてくれた相手にそう追求できるものではないでしょう。もしかしたら召喚の不具合に絡んでいるとでも思うかも知れません。まあそれも、間桐邸の悲劇を知るまででしょうが。

 そしてやはり私にはゲス主人公しか書けないようです。ピュアボーイ? それって美味しいの?
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