あ、明日には。明日にはエロありますから、それまで待ってつかぁさい。
朝だ。また朝がやってきた。最低の殺人犯にも朝はやってくるんだな。俺はそんなことを思っていた。普通なら間桐桜がやってくる時間。しかし彼女はやって来ない。俺が殺したから。
§
普通に大騒ぎになっていた。そりゃそうだろう。隣の家とか衝撃だけでも凄いことになっているんだ。夜中の内に警察や消防が出動する大騒ぎになる。そして、
「た、大変大変! 士郎! 桜ちゃん家が――」
藤村先生が飛び込んできて、露見することとなったのである。
「――――」
衛宮は呆然としている。師匠もだ。当然だろう、友人と大切な後輩を失った衛宮。自分の妹を失った師匠。呆然として当然だ。目の前の間桐邸を見れば生存が絶望的なのは明らかだからな。
「一体何が起きたんだろうな。一番確率が高いのが、ライダーのマスターである間桐慎二を狙ったサーヴァントの仕業だろうな。マスターにこれだけのことは無理だろう。だとすると可能性があるのはバーサーカーとランサーか。俺達で三体、アサシンはセイバーと戦闘を行って柳洞寺にいた。ライダーは間桐邸にいてやられた。残るはバーサーカーとランサーだ。しかしあのサーヴァント達にこれだけの破壊を一瞬で行えるかと言うと……」
俺はしれっとそんなことを口に出す。
「なんで――なんで」
呟く師匠。
「…………」
無言で顔色をなくし、怒りにまみれている衛宮。サーヴァントの仕業だとしたら、マスターでも魔術師でもない(と思い込んでいる)桜が殺されたことに憤っているのだろう。正しい反応だよ。
「セイバーはどう思う?」
俺は衛宮の護衛として一緒に来ていた。セイバーに話を振ってみる。
「……………………」
こちらも呆然としている。恐らく目の前にある破壊の爪跡と、自分の減っている魔力から最悪の想像をしているのだろう。そしてそれは当たっている。
「………………………………明、私は…………」
「ん?」
何も知りませんよーという顔で聞き返す。
「私に、何か……何か、しましたか?」
「? 質問の意図がよくわからないな。なんでセイバーに何かしたかって話になっているんだ?」
「それは……」
魔力が減っているから、とは言いにくいのだろう。減ったのは偽アサシンとの戦いで宝具を解放しようとして気絶した後だから、何かされたとしたらその時だ。しかも体を運んだのはキャスター。絡め手を得意とする魔術師のサーヴァントだ。だが俺達は仲間としての善意でセイバーを助けた、はずなのだ。追求しにくいのだろう。
「…………実は、昨日、アサシンの前で宝具を使用して、気を失った後に気づいた時、自分の魔力が大幅に減っていることに気づいたのです」
「魔力が減っている。そりゃあ、宝具を使用したんならそれが原因じゃないか?」
「違うのです。私――私は、宝具を使用していません。その直前で止めたのです。だから魔力が失われるはずがないのです」
「ふーむ、そりゃつまり、気絶している間そばにいた俺とキャスターを疑っているって訳かい?」
そう言うとセイバーは落ち着かない雰囲気になった。
「すみません。私も疑いたくはないのです。しかし他に思いつく可能性がありません」
「うーん、そう言われてもなぁ。俺が知る限りキャスターに他人の――特にサーヴァントの――魔力を奪う魔術なんてないぞ。キャスターって言っても万能じゃないんだ。使える魔術と使えない魔術がある。そして俺だけど………………うん、セイバーにならいいか。俺の魔術の起源、方向性だけど、『譲渡』なんだよ」
俺の秘密をちょっとだけ話す。
「譲渡、ですか」
「うん。自分の魔力を他人に分け与えること、それが俺の起源。だから戦争前に師匠とパスを繋いだりしたしね。……とにかく、そういうことだから、俺は人にあげるの専門なんだよ。人から魔力を奪う魔術なんて習得してない」
キャスターや師匠に魔力をあげたいからこの起源にしたのだ。
「…………そう、ですか」
「セイバーが魔力を失ったってんならそれは大問題だな。でもそれはそれとして、目の前のこれも大問題だよ。こんな一般人が大勢いる街中で、恐らく魔術でこれだけの破壊を行った奴、とても許されることじゃない。特に、後輩を、恐らくだけど殺された衛宮と師匠はショックだろうな。俺はそこまで間桐と親しかった訳じゃないから、そんなにショックではないけどさ。……一般人に被害が出ていたら、俺ももっと義憤にかられていただろうけど、殺されたのはマスターと魔術師の家だからなぁ」
「違うっ!! 桜はっ、桜は違うんだ!!」
拳を握り締めて大声を張り上げる衛宮。俺の声が聞こえたのだろう。ここで落ち着けとか言ったらぶん殴られるだろうなぁ。
「間桐桜は違ったのか!? だったら、一般人に犠牲が出たってことか……」
「桜は――桜は魔術とは関係ない。かんけい、ないんだ…………」
そう言って崩れ落ちる衛宮。俺は肩を貸してやった。
「とりあえず、引き上げよう。ここで俺達にできることは何もない。ホントは魔術の痕跡とかを調べたいけど、警察や消防がわんさかいるところでそれはできない。監督役の言峰さんにでも調査は任せよう」
そう言って、引き上げた。
§
俺が作った食事をもくもくと食べるセイバー。さすがに空気が重いことはわかっているようだ。
「衛宮、師匠、食べないともたないぞ。それに放置していたら痛む。とりあえず今は無理にでも体を動かして食べてくれ」
朝食の用意をしている時に藤村先生が来たから、料理は完成していなかったのだ。それを俺が引き継いで作った。
「…………」
「…………」
のろのろ、と体を動かす二人。良かった。食べてくれるようだな。しかし、
「すまないなセイバー。しばらくは俺が食事を作ることになりそうだ」
「? 何故、謝るのですか?」
「俺の料理の腕なんてこの二人には遠く及ばないんだよ。だから、まずい飯を食わせてごめんってことだ」
「そんなことはありません。この食事はとても美味しい」
「それは、この朝食の準備をしたのが衛宮だからだよ。昼食からは俺が一から作ることになるからきっとグレードダウンするぞ」
学校? とても行ける状態じゃないので、藤村先生に伝えて休ませてもらった。
「それでも構いません。食べられるのであれば」
……さいですか。さすが腹ペコ王。
「ところで、さっき言っていた魔力を大幅に失ったって話だけど」
その話題を振るとあからさまに憂鬱な表情になった。きっと自分の失われた魔力と間桐邸お惨状から、あれはもしかして自分が関係しているのでは? ……いや、自分は気を失っていたのだからそんなはずはない! しかしキャスターが……しかし明は何もやってないと……。って感じに葛藤しているのだろう。だが彼女が真実に辿り着くことはない。実はさっきの会話の時に目を合わせて、俺の言葉はできる限り信じろ! と命じておいたからな。
「それが本当だとしたら厄介な話だな。……単刀直入に聞くけど、戦闘の方はどうなんだ。バーサーカーと打ち合えたり、宝具をもう一回使用したりできるのか?」
「………………今の状態では、とてもあのバーサーカーとは打ち合えません。宝具も、もう一回すら使用できないでしょう」
正確に自分の現状を話すセイバー。ある程度は信用されてきたみたいだ。
「そっか、なら、あの手を実行に移すしかないかもな」
「あの手?」
「セイバーの魔力を回復させる手段だよ」
「――! そ、そんなものがあるのですか!?」
意気込んでくるセイバー。
「ああ、まあ確率で言えば100%成功する確実かつ安全な手段だよ。だけど詳しい話は二人がショックから立ち直ってからにしてくれないか?」
「……わかりました」
もそもそと食べている二人を間において、俺達はそんな会話を交わしていた。
§
剣道場で正座する。衛宮家の道場だ。これから昨日の夜話したセイバーと衛宮の鍛錬が始まる。セイバーの方が渋ったが、
「いつまでも落ち込んでいる暇はないだろ。ランサーかバーサーカーか、どっちかわからないがあんなことを行うサーヴァントとマスターがいるってわかったんだ。聖杯戦争の途中なんだ、一日だって無駄にできないだろ」
と言って納得させた。まだぼーっとしている衛宮は無理矢理立たせた移動させた。俺がやっておいてなんだが、一人の死で全ての活動を止める訳にはいかない。まずは打倒バーサーカーである。
俺は準備の為の雑巾がけを行った。そして、試合が、始まった。
一方的に衛宮がボコられてるだけです。本当にありがとうございました! 見ているだけでも体が痛くなるような試合が繰り広げられた。
「……これぐらいでいいでしょう。今のシロウには酷というものです」
「確かにな。これ以上やっても結果は変わらないだろうから。そんで、衛宮さんよ。サーヴァントと打ち合って何かわかったかい?」
衛宮はぜはぜは言いながら道場に倒れ込んでいる。
「…………敵わない奴には絶対に敵わない、ってことがわかった」
「そうかそうか、それは良かったな。これに懲りたらサーヴァントに勝てるとか赤ん坊の産毛ほども思うんじゃねーぞ」
そう言いながら汗を拭ってやる。男の汗なんか拭いたくないが、セイバーにやらせるのもそれはそれで嫌だ。目の前でイチャラブなんて見せられてたまるか。
正午になったので鍛錬を中止する。衛宮は自分を取り戻しつつあるようで、材料を買いに行くと言い出した。良かった。まだ完全ではないだろうし、これからも悪夢にうなされたりはあるかもしれないが、立ち直る兆候が見えて。いつまでも沈んでいるようだったら催眠で強制的に躁状態にでもしてやろうかと思っていたのだ。それ以外にも、今日の昼は奴に外出して貰う必要があった。今日の昼はイリヤと出会う日なのだ。誰にも邪魔されず、できうる限り一般人に被害が出ないようにバーサーカーと戦うといったら、やはりアインツベルンの城がいいだろう。だからイリヤ関係についても原作通りにさせる予定である。
「師匠。今大丈夫か」
「……明……」
俺は師匠の部屋を訪れていた。午前中はセイバーとの鍛錬、午後は師匠との魔術講座と分けていたのだ。なので、午前中は部屋に入れて盛大に落ち込ませていたという訳。
「午後から、昨夜言っていた衛宮への魔術講座をしてもらう予定だけど……大丈夫か」
「ごめん。今ちょっと落ちてるわ。午後の講座までにはなんとか持ちなおすから」
さすが、強い。
「本当に無理だったら無理って言っていいんだぞ? ……それにしても、師匠がそんなに間桐桜と仲がいいとは思わなかったな」
彼女の弟子であるだけの俺は、桜が師匠の実の妹だとは知らないのだ。ゆえにそのように対応しなければならない。
「桜は……桜はね……」
まさか、言うのか?
「…………ごめん。なんでもない」
「……そうか」
とりあえず。魔術講座をやらせてみよう。後は様子を見て催眠をかけるかどうか決めよう。
§
衛宮は首尾良くイリヤと会ってきたらしい。何かあったか、と聞くとあからさまに目を泳がせやがった。昼食を衛宮が作り、四人で食べる。そして午後から魔術講座が始まった。俺は邪魔にならないよう居間でまったりとTVを見ていた。セイバーは魔力が目減りしないように寝ている。ちなみにお風呂でばったりは起こらなかった。衛宮が買い物に出ている間にセイバーが風呂を使ったからだ。
夜になり夕食も作ってもらい食べる。どうやらルーチンをこなすことで本来の自分を取り戻そうとしているらしい。食事が終わり、藤村先生が帰ったので魔術の話をする。藤村先生は衛宮を慰めていたな。
「……それで、魔術講座はどんな感じだったんだ?」
「基本的なことを教えただけよ。思ったより士郎が素人だったからね。明日は念入りに準備してやるつもり」
「…………」
衛宮は戦々恐々としている。しかし誰も間桐のことは話さない。どうやらタブーになったようだ。恐らくバーサーカーとランサーに対峙した時にでも聞くことにはなるだろうがな。しかし真相は闇の中だ。
夜になると、なんとか回復したアーチャーが衛宮家を訪れた。衛宮にアドバイスなんだか皮肉なんだかわからないことを言って、屋根の上に移動し見張りを行ってくれた。まあ攻めてくる勢力なんて無……いや、いた。一人だけ、八人目のあいつが。あいつの行動だけは読めないからな。せいぜい油断しないでいよう。
それはそれとして、やはり二人には桜(慎二)の死は大ダメージになったようだ。師匠はたった一人残った家族を失ったのだ。衛宮は後輩を、そして正義の味方という自分の理想を守れなかった。後者は特に効くだろうな。あいつぶっ壊れ正義マンだから。目の前の、助けたいと思う相手こそを助けられなかった。それはあいつにとってどれだけの衝撃なのだろうか。そんなことを思いつつ、床についた。
後書き
本編中に書いているように、桜と慎二の死は士郎にとってこの上ないダメージになったでしょう。しかしそれを詳しく描写するつもりはありません。このSSはあくまで主人公の物語ですからね。
お風呂でばったりイベント。何故か昔から苦手です。特に男の方に嫌悪感を抱きます。なのでこのSSではさせませんでした。