夜更けだというのに、ミドルード城下の教会にはまだ明かりが灯っていた。燭台の上に灯された蝋燭の明かりは、頼りないものであるが、非常に高価で貴重なものだ。室内には三人の女、ベラとエステル、そしてエイダが思い思いの顔をして座っている。
窓辺に腰掛けているのはベラであり、窓を少し開けて外を眺めている。換気か、はたまた外の景色を眺めているように見えるが、どちらも違う。彼女は、外の闇に向けて話しかけていた。
「……そんなところかしら。それじゃ、局長によろしくね」
教会の窓は蝋燭の明かりを仄かに反射し、ベラの丸みを帯びた女性的な顔つきを映し出している。その姿は、森で見せた胸甲付きの衣服ではなく、平時の尼僧服に戻っている。彼女は、誰もいないはずの闇に向けて先ほどから語りかけていた。その声は小さく、ともすれば独り言であるかのような囁き声であったが、彼女は今明らかに誰かの応答を待つ顔つきをしていた。
一瞬、ほんの少しだが、窓の外で闇が蠢いたような感覚が伝わってくる。ベラはそれで満足したのか、わずかに開いていた窓を閉め、室内に座る二人の同僚を見据えた。窓の外では、闇が揺らめくような雰囲気を残し、何者かがその場を離れていった。
エイダは、彼女らしい豪快さで、神父からあてがわれた一室にあるベッドを独占している。そこには後ほど女三人が寝ることになるなどお構いなしで体を広げて贅沢に空間を使う彼女は、腕で頭を支えながらエステルをじっと見ていた。視線の先にいるエステルは、先ほどから蝋燭の明かりをじっと見つめたままだ。彼女は視線こそ蝋燭に向けているが、それを本当に見ているわけではないことは明らかで、その様子にベラは癖になったため息を一つ吐いて彼女の隣、空いていたもう一つの椅子に腰掛けた。
「まだ気にしているの?」
問われたエステルの顔つきは暗い。
「『先生』の教育が厳しすぎるからしょげてるんだろ?」
猫のように目を細め、エイダがエステルを挑発する。エステルはきっとエイダを睨むが、それ以上のことはしなかった。
「全く……落ち込んでる暇があったら鍛錬するか、現状を推理するなりしていなさい」
その言葉にエステルは、先ほどから両手で抱えていた自らの刀をぎゅっと引き寄せる。
「……お叱りが効き過ぎたな」
エイダは頬杖をついたまま、今度はその細めた目をベラに向ける。ベラは一瞬、怯んだような顔つきをしたが、一つ咳払いをして取り繕う。もっとも、エイダはベラをたじろがせたことだけで十分おもしろかったらしく、くつくつと喉を鳴らして笑っていた。
二人のそんなやりとりが聞こえているのかいないのか、エステルはまだ刀を両手で抱えて蝋燭を見据えている。
エステルが落ち込んでいる理由は、魔族二匹をベラがあっさりと片付けた後、ベラがエステルを叱り飛ばしたことが原因だ。魔族相手にいつまでも苦戦していたエステルの未熟さをひとしきり責めたあと、エステルからの報告で彼女が夜盗から情報を得ることなく皆殺しにしたことを聞き、ベラはきつくエステルを叱り飛ばしたのだ。
エステルにとって、ベラは自らの同僚であり、師でもあった。この仕事、つまり彼女らの裏の顔であり真実の顔である特務機関「BESTOWERS」の一員としての資質を磨くために、彼女はこれまでベラを目標として鍛錬を重ねてきたのだ。その戦闘力は、法皇や皇帝などが側に置く近衛兵などとは比べものにならないほどのものであり、魔族に対抗できる唯一の単体が彼女らである。
しかし、魔族も泣き出す特務機関の一員が、今は叱られて落ち込んでいるのだからなんとも締まりがない。ベラは熱心にエステルを教育するし、彼女の指導は公正で信頼できるものだった。だからこそ、そのベラにこっぴどく叱られたことをエステルは引きずっているのだった。
エステルにとって久方ぶりに師匠から大目玉を喰らったことになる。彼女は今、自分が右も左もわからない素人時代に戻ってしまったような心境に陥っていた。
だがしかし、ここにきてようやく、彼女が持つ生来の負けん気が蘇ってきた。大目玉を食らったことは非常に由々しきことではあるが、今は聖務中。彼女とて使命を持つ人間なのだ。いつまでも落ち込んではいられない。
(……踏ん張れ、私)
心の中で自らを鼓舞し、なんとかエステルは顔を上げ、背筋を伸ばした。まだふとした拍子に正座させられながら小一時間ベラに怒られた記憶が蘇るが、なんとかそれを心の奥底に仕舞い込む。それに、困ったようでいて、若干苛立ちの籠もった目でエステルを見下げているベラの前でいつまでもうじうじと悩み続けている事の方が、彼女にとっては恐ろしいことだった。
「ごめんなさい、私、もう大丈夫です」
ベラはエステルのその言葉に大きく頷くと、もうその話題には触れず、咳払いを一つして場を仕切り直して切り出した。
「……で、あそこに魔族が出てくるとは思わなかったけど、一体どういうことだと思う?」
聖務の話題だ。エイダもへらへらと笑っていた顔を少し引き締めてその話題に臨む。頬杖は相変わらずだったが。
「そりゃあ、誰かが仕向けたんだろうさ。あたしらを邪魔に思ってる連中と言ったら、ラスプーチンしかいないんじゃないんか? 密偵の買収に失敗したから、殺しちゃった、とか?」
「だとすると、ラスプーチンってのは相当な愚か者ってことになるわね。密偵を殺しても何の解決にもならないし、教会の機嫌を損ねるだけよ。彼と話したけど、頭の悪そうな男じゃなかったわね」
二人は互いに視線を交わす。そこにエステルが割ってはいった。
「奴も魔族で、典型的な教会嫌いだったんじゃない?」
エステルの言葉に、ベラは少し考える。列島に残された魔族達は、教会を忌み嫌っている。教会が彼ら魔族を人扱いせず、邪悪な存在として蔑み、列島から絶滅させることを公言している状態では、それも仕方ないことだが。そして魔族の大半は、教会の教えに従って魔族を差別する列島の人間達全員を憎みきっているのだ。
「……でも、ラスプーチンが魔族で教会を憎んでいるなら、よくボルジア家に入り込めたわね。ボルジア家のお姫様に見事に取り入って、今や実質ボルジアを牛耳ろうとしている狡猾な魔族が、嫌いだからって理由だけで聖職者を殺そうとするとは思わないわね。第一、フードで顔を隠してはいたけど、彼の肌は白い列島系のものだったのよ? ……でも、変ね。聖職者、それも女三人を殺すだけなら、魔族が出てこなくて十分でしょ。夜盗を使う。それだけで十分なはずなのに、なぜ魔族が出てきたのかしら?」
ベラの言葉は、二人に問いかけているようで、自らにも問いかけていた。言葉を出しながら、彼女自身で自らの推理を補完していっているのだ。そして、その言葉をエイダが継ぐ。
「……まるで、私たちがBESTOWERSの執行官だと予想してたみたいだな」
二人と同じく考え込んでいたエステルが、はっと顔を上げた。
「そういえば、私が戦った魔族。私が執行官だとわかって、『やはり貴様らか』って言ってた……」
ベラは深く頷き、エステルの言葉に続けた。
「……それで決まりね。彼らは、BESTOWERSの存在を知っていた。だからこそミドルード城下で聖務を執行されることを阻止するために、私たちに魔族を差し向けた、というところかしら」
BESTOWERS機関は、その存在を公にしていない。また、魔族を根絶することを使命とする彼らは、徹底的な殲滅主義者だ。目撃者をそのままにして返すことなどはしない。そのため、彼らの存在を知っている人間達というのは、列島に数えるほどしかいないはずなのだ。
「で、その魔族達は一体何を企んでいるのさ。ラスプーチンとやらも、白肌の癖に魔族と繋がりがあるなんて、何者なんだよ」
エイダの言う『白肌』とは、列島人の総称だ。魔族は大陸系の人間であるため、その肌は褐色だ。個人差こそあるが、列島の人間達の肌が色を抜いたように白いことと比較して、区別されている。エイダもベラも、エステルも、その肌は同じく白い。勿論、列島には大陸より渡ってきた人間がいて、彼らは魔族ではないが肌は褐色だ。褐色の肌を持っているからといって魔族というわけではないが、列島ではそれだけで差別の対象となる。
「さあ……もしかすると、アナスタシア殿下を傀儡にしようとしているラスプーチン自体が、魔族の傀儡なのかもしれないわね。彼らが何を企んでいるのか正確にはわからないけど、アナスタシア殿下に取り入ってるところを見れば、ボルジア家を乗っ取ろうとしているってのが一番わかりやすい推理かしら?」
蝋燭の炎が弱々しく翳る。そろそろ蝋燭が尽きようとしているのだ。室内の影がその濃度を増す。そして、三人の空気も、緊迫したものに変わる。
「では、ボルジア家での暗殺事件も……」
エステルが切り出した言葉を、今度はベラが継いだ。
「ほぼ間違いなく、彼らが絡んでいるでしょうね。ボルジア家の家督継承には、法皇庁は勿論、クーパ家と皇帝も首を突っ込むかもしれないから、彼らの思惑はそう簡単には実現できないだろうけど……それでも、これが大きな危機であることは間違いないわ」
今まで、魔族が列島で構築できた組織は、魔族自体で構成される小さな共同体程度のものだった。それらは、辺境の小さな村だったり、場合によっては都市一つを牛耳ることはあったが、諸侯の領邦、つまりは国一つ全てを魔族がコントロールしたことは未だかつてないことだ。そして、今それが現実に起きようとしている。これは、列島の平和に考えるまでもなく悪影響を与えることだろう。
ベッドに寝転がっていたエイダが、器用な身のこなしで立ち上がる。
「ハッ、面白くなってきたぜ」
本来の闘争的な精神を燃やすエイダと対照的に、ベラは深い思案の海へと再び沈んでいる。そしてエステルは、その手にじっとりと手汗が浮かんでくるのを感じていた。彼女も、正確から言えばエイダに近い。だが、まだエイダほど経験豊富ではない彼女は、経験したことのないほど大きな事件に関わっていることを自覚して、その薄い胸の鼓動を早くするのだった。
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ボルジア家で、今や唯一絶対の象徴である「血」を受け継ぐ人間は、アナスタシアのみである。そんな彼女の私室に置かれた豪奢な椅子に座る不気味な男は、傍らに立つ巨漢の報告を黙って聞いていた。
「……ムラトとアリーが、森の奥で発見されました。アリーは胸に突き傷。ムラトは首の骨が砕かれていました」
巨漢は相変わらず、室内であるというのに兜を装着したままだ。対する灰色の外套を纏うラスプーチンは、その報告に対して感慨もなく頷く。彼は退屈そうに自らの髪を弄くっている。
「ふうん……じゃ、やっぱりあの三人は執行官だったわけだ。あーあ、厄介だねえアルバーメフ? 奴ら、勢いに乗ってここに乗り込んでくるんじゃないの? 僕はあんまり肉体労働が好きじゃあないんだ。ホントなら、アナスタシアの相手をするのにだって給料が欲しいくらいだよ」
男の冗談とも本気とも判断しにくい言葉に、アルバーメフは応えない。彼は、ただ短く、彼の意志を伝える。
「執行官が相手なら楽な戦いにはならないでしょう。奴らが来るのなら、某は全身全霊で立ち向かうのみ……」
その言葉は、彼の見た目通り、武人らしい無骨だが闘争的なエネルギーを感じさせるものだった。彼とは対照的な灰色の男は、その言葉に軽い笑いで返すだけだ。アルバーメフは、もう用件は済んだとばかりに、一礼すると私室を出て行ってしまう。
「……堅物だなあ。混ざっていけばいいのに」
ラスプーチンの視線の先、豪奢な天蓋付きのベッドには、アナスタシア姫と二人の男、ボルジア家の重臣である貴族がいた。今晩は、この二人の相手をするのがアナスタシアの役目だ。アナスタシアは、その華奢な体を、男達の欲望のまま縛り上げられている。
革製の袋に、アナスタシアの両腕はすっぽりと嵌められ、外側から縄でしっかりと腕が抜けないように縛られているのだ。うつぶせの状態で、ほぼ真上に腕を伸ばして、天蓋に繋がれた紐と革製の袋はつながっている。相当苦しい体勢だろう。
二人の男は、そんな少女をいたぶり、蹂躙している。一人の男は後ろからアナスタシアを貫き、もう一人は彼女の口に自身の欲望の象徴を突き立てていた。彼らの欲望は留まることを知らず、すでに何度の精がアナスタシアに向けて放たれたのかわからぬほどだ。室内には濃密な男とアナスタシアの性の香りが充満しており、それが媚薬となって男とアナスタシアの色欲を誘惑する。
男の放った精は、アナスタシアを汚していた。背中、尻、そして顔、髪にまでかかった男達の精液によって、アナスタシアはその高貴な体を汚されていた。腕を縛り上げられ、抵抗もできぬままに本来なら格下であるはずの男の肉棒を咥えるアナスタシアの目は、弱々しく男に奉仕をする奴隷のものだった。
男はその征服欲を満たし、今や自らの奴隷であるボルジア家の次期当主候補の喉奥へ、またも精を放つ。
「んっ! んぶうう!」
喉の奥から歯の間にまで白濁の液は飛び散る。男は自らの肉棒を引き抜くと、命令を下す優越感を湛える目で高貴なる姫君に命令する。
「口を開けろ」
少女は、秘部を突き立てるもう一本の肉棒から得る快感に耐えながら、従順に口を開いた。綺麗な歯並びをした口の中に、男の放った精液がある。少女の舌がそれを掬い、舌に集めていく。そこまでして、彼女は上目遣いで次の命令を待っていた。
「飲め」
その言葉を聞き、少女が喉を鳴らして男の欲望を飲み込んでいく。目をつむり、その味を最大限に感じられるようにしながらだ。全てを飲み下すと、彼女は目を開いて男を見上げる。
「アナスタシアのお口……は、気持ちよかったで……しょうか? ご主人……様ァ……ンアッ!」
媚びきった表情で男を見合えるアナスタシアには、名家たるボルジア家の気品は見あたらない。そこにいるのは、性の虜となった一匹の雌犬だった。男はその答えに満足したのか、後ろからアナスタシアを貫く男へ目配せする。それだけで男はなにがしたいのかわかったのか、アナスタシアの腰を掴むと、ひょいと簡単に彼女を持ち上げた。
重力が加わり、一段と深く肉棒がアナスタシアの秘部に突き刺さったことで、彼女が嬌声を上げる。甘く甲高いそれは、彼女がこの行為を愉しみきっていることの証左だ。
後ろの男に抱きかかえられる体勢になったアナスタシアに、欲望をはき出したばかりだというのにもう怒張している肉棒を携えた男が近づく。アナスタシアのアナルには、木製の「蓋」がしてあり、男はそれを迷うことなく引き抜いた。
「アアアア! それいやぁぁ。ンアっ……だめぇ……」
アナスタシアはアナルを塞いでいた栓を抜き放たれ、強い快楽を引き出された。そして、彼女のアナルからは文字通り堰を切ったように白濁の液体がこぼれ落ちていく。
「あああ……出て行くの……熱いのがぁ……ああ……」
自らが放った欲望が彼女のアナルからこぼれ落ちている最中なのも構わず、男はアナルに肉棒を突き立てた。本来なら異物であるはずの肉棒だが、アナスタシアの開発されきった体は、それを苦もなく飲み込んでいく。
「おお、おかげで締まりが良くなったわ」
後ろからアナスタシアを責める男が悦びの声を上げた。そして快楽をより貪ろうと、腰の動きを激しいものにする。アナスタシアはその責めに従順に反応し、甘い声を上げながら体を痙攣させる。アナルを責める男も、乱暴に彼女の中をかき回すが、彼女にはそれすらも快楽の甘い痺れとなって襲いかかってくるようで、今や弓なりに体を仰け反らして快感に身を委ねている。
「らめぇぇ! ああ……イクのっ。またイクの……ああ……死んじゃう! これだめええええ!」
繰り広げられる痴態を眺めるラスプーチンの瞳は、何の感情も映し出していない。彼はため息を吐き、退屈さを紛らわすために今日出会った三人の女、執行官であろう三人の女を思い浮かべた。金髪で豊満な胸を持つ女、無駄な肉が無く最高のプロポーションと流れる赤髪を持つ女、まだ幼さが残る体つきだが、猫っ毛と気の強そうな目つきを持つ小柄な女。どれもラスプーチンにとっては、女とは言えぬ。彼女らは『雌』だった。ラスプーチンにとって、どんな女も、彼を一時的に愉しませるための道具に過ぎない。
(執行官か……面倒な存在だけど……)
男達がまたアナスタシアに精を放った。少女の細い体は、許容量の限界に近いほどの精液を体内に放たれても、快楽を生み出してしまう。少女は一際高い声を上げて絶叫すると、ぐったりとして男の胸に体を預ける。
「えっ……また中で大きくなって……いやぁ! ああ……あっ……あっ……」
高貴な身分のアナスタシアを好き勝手蹂躙できることに興奮する男達は、その欲望を枯らすことなく肉棒へと送る。アナスタシアはほんの少しの休憩すら与えられずに、再び快楽の海へと引きずり込まれていく。
ラスプーチンは、すでにその少女に飽ききっていることを随分前から自覚していた。彼にとって、墜ちきって開発されきった少女は、もうなんの興奮を覚えさせる存在でも無くなっている。彼は髪を弄ぶ指を止めると、私室の窓から見える月を眺めた。見事な三日月は、男に新たな決意を与えた。
(でも、あれだったら、しばらくは遊べそうかな?)
執行官達を好きに蹂躙する光景が頭をよぎる。魔族にさえ匹敵するという執行官を叩きつぶし、徹底的に調教するのだ。なんと、甘美な想像であろうか。
「んああ! ふんっ……ぁぁ……あひっ!」
蹂躙されるアナスタシアを執行官に見立ててその想像を膨らませるラスプーチンの股間は、はち切れんばかりに怒張した欲望が屹立していた。