街灯が一定間隔で照らす道。
月明りは雲に隠され、風は冷たく襟元を襲う。
こんな日は、誰であろうと家路を急ぐ。それはこの夜道を一人で歩く彼女にとっても例外ではない。カツカツと規則正しく、しかしペースが速いとは言えず、ヒールがアスファルトを叩く音をさせながら家へと向かう。
スーツの上にコートを羽織り、若干疲れた表情を張りつかせている彼女の名前は、織斑千冬。
かつてISの世界大会モンド・グロッソにて総合優勝を果たした、世界屈指の有名人である。
ISが世界中を引っ掻き回した結果、開発者である篠ノ之束の数少ない友人であり、何の因果か束と対当たりうる資質も持ち合わせていた千冬はなんやかんやでISにも深くかかわり、今も忙しい日々を送っている。
今日は、特に疲れた。世界のお偉方との会議が組まれ、海千山千の化け物じみた年寄相手の会合など、本来千冬の得意とするところではない。刀の一本も持ち込めればもっと楽に済んだものを、とは意味のない繰り言だ。
なんやかやと注文や難癖をつけてくるのをかわすのも楽なことではなかった。それでも、立場と能力、肩書と名声。いずれをとっても千冬以外にこの仕事を出来る者はいないので、まだしばらくこういったことが続きそうだった。
だから、今日は酒でも飲むかと千冬は考える。
ある理由から自宅以外で酒は飲まないと固く誓っているのだが、だからこそ家の中くらいはゆっくりしよう。
そう考えながらくたびれた足に喝を入れて家路を急ぎ。
「……あ。そういえば、酒は切れてるんだった」
絶望的なことを、思い出す。
そうだ、酒は前の休みに全て飲んでしまったのだった。ビールもワインもない。いつぞや束が持ってきた束お気に入りの焼酎も飲みきった。家に帰っても、酒はない。
そう意識した途端膝から崩れ落ちそうになるが、なんとか耐える。
今いる位置は、家までの間に商店の類が一軒もない住宅街の中。今から駅のあたりまで引き返して仕入れてくるかとも思ったが、もはやそんな気力もなかった。
「はぁ……仕方ない。今日は早く寝よう」
結果、千冬は諦めざるを得なかった。
なんかもうどうしようもなくダメな独身女性のオーラが漂っているが、オフの千冬は元からこんなものだ。
出来る女であるのは表向き。家のこと、自分のこととなると途端に女子力が枯渇するのが、織斑千冬の生き様である。
それでも何とか歩き続け、家に帰り着く。
酒がないならいっそみりんでも……などと極めてダメな方向に頭が働くのを感じながらも何とか鍵を出して扉を開け……ようとして。
千冬が手をかけるより先に、扉がひとりでに開いて行き。
「お帰りなさい、千冬さん」
笑顔の真宏が出迎えてくれた。
「……また、来たのか」
「はい、そろそろ千冬さんがお仕事忙しくなる時期かなと思って。ほらほら、寒いですから早く入ってください」
真宏には、家の合鍵を渡している。
千冬ではなく、一夏が。
なんやかんやあって既に結婚して家を出ている一夏が、生活能力に不安のありすぎる千冬を新居に引き取って一緒に暮らすか、頑張って家事を仕込んで一人暮らししてもらうかで悩みに悩んだ末、出した結論が「真宏に頼る」というものだった。
その結果、こうして真宏はたまに織斑家を訪れて、千冬が散らかした部屋を掃除し、溜まった洗濯物を洗い、食事の用意をしてくれている。
正直なところ、千冬にとってこれほどありがたいものもない。恥ずかしながら生活能力の欠如は自他ともに認めるところ。今日も、真宏が来ていなければこのまま適当に着替えて適当にカップ麺でも食べて風呂はシャワーで済ませて眠ってしまうところだった。
「お風呂湧いてますからどうぞ。出てくるころには食事も出来上がってますから、ゆっくり温まってきてくださいね」
「あ、ああ……」
それが、この通り。
玄関まで漂ってくるいい匂いは以前真宏が来てくれた日から今日まで織斑家で感じた覚えはなく、放り込まれた洗面所に用意されていたバスタオルはふわふわだった。仕事で疲れがしみ込んだ体にこんなことをされると、ありがたくて泣きたくなってくる。
自分には、真宏にこんな風にしてもらう資格などないのに。
幸せの波が引いた後、千冬の胸の中にはそう呟く棘が刺さっているように感じられた。
◇◆◇
「あ、千冬さん。ちょうどよかった、もうすぐご飯の用意できますから、座って待っててください」
「む……」
リビングに入ると、そこは夢世界だった。
体を洗い、湯船につかって体を温め、髪を乾かす。すると、不思議なことに温かい食事の準備が万端整っている。上げ膳据え膳の極致、ここにあり。
食卓に並ぶのは、贅沢でこそないものの千冬にとってはちょっとしたご馳走と言っていいものばかり。真宏得意の出汁巻き卵に、大根の味噌汁。漬物各種はおそらく真宏のお手製で、ご飯も進むが酒も進む一品だ。
さらにはからあげやらハンバーグやら、なんか男の子が好きそうなものがどかどかと。ちなみにいずれも千冬の好物だ。
「さ、食べましょう千冬さん」
「ああ……」
これだけでも十分すぎるほどに幸せな、ほっとするメニュー。
だがそこに、真宏はさらにもう一つ加えてみせる。
「それから、お酒もどうぞ。お燗つけておきましたよ」
「っ……!」
それが、ほっかりと適温に燗をつけられた酒。
徳利からすら漂う香りが、千冬の肺の中までたっぷりと満たす。あれはきっと、極上だ。酒と肴がくすぐる千冬の勘がそう叫ぶ。
「お酒のあとに食べたくなったらご飯も用意してますよ。おにぎりでもお茶漬けでも、なんなりと」
ふと台所を見れば、コンロの上に土鍋が一つ。
おそらく、あれで米を炊いてくれたのだろう。炊飯器もあるのに、わざわざ。土鍋で炊いたご飯が一味違うことは真宏が教えてくれた。そして無駄に対抗心を燃やした一夏もたまにやってくれていたのだったか。
隙を生じぬ二段構えに、早くも千冬の喉が鳴る。
だが、この酒に口をつけるわけにはいかない。
千冬はもう人前で、特に真宏の前で酒は飲まないと決めたのだ。
だからそう、たとえ目の前に置かれても。
「千冬さん」
「……」
……置かれても。
「めしあがれ♪」
しふくううぅぅ。
その日その夜織斑家のリビングで、なんかそんな声が漏れたとか漏れなかったとか。
◇◆◇
「ふふふふふ……いい気分だな。最高に『ハイ』ってやつだ」
「いい感じに出来上がってますね千冬さん」
現時点での千冬の飲酒量、既に日本酒3合。
ぽやぽやと茹った頭でソファにくったりと腰かけ、真宏に酌をさせている。
すぐ横に侍らせた真宏にもたれかかりながら注がれる飲む酒の味。世に美酒は数あれど、これほど美味く飲めることもそうはあるまいと思う。
「ああ、いい。遥かにいい。……だが、お前はいいのか、真宏」
「何がです、千冬さん?」
だがそれは、背徳の味だ。
本来千冬が味わうことは許されない。
「その……今もこうして家に来てくれているが……私のことが、怖くないのか」
「何をいまさら」
なぜならば。
「別に、酔った勢いで俺のことを逆レイプしたことなんて気にしなくていいんですよ?」
「あからさまに言うな!?」
初代ブリュンヒルデ、織斑千冬。
初体験は弟の親友への逆レイプでした。
そう、あれは一夏の結婚式の夜。
大方の予想を裏切らず、一夏は姉より早く結婚した。
いい式だった。
新郎新婦たちはみんな幸せそうで、招待された客も笑顔で祝福していた。彼らのこれからの日々の未来に、幸多からんことを誰もが願った。
まあ花嫁が5人いたり、さらにこの後も何人か嫁を増やす予定であるということは規格外に過ぎたのだが。
あと、式の最中に結婚行進曲が流れている間、教会の外でサイバーっぽい雰囲気の恐竜のような何かがずっとボクシングをしていたが、あれはなんの演出だったのだろう。
ともあれ、その日から一夏は家を出た。当然のことだ。夫婦水入らず、新居での生活をするのは道理に適ったこと。
だからこれからは、千冬がこの家に一人で暮らすことになる……はずだった。
「こんばんは、千冬さん。せっかくです、一夏の思い出話でもしながら飲みましょう」
その夜、しれっと真宏が現れるまでは。
真宏が用意した肴をつまみながら酒を飲み、一夏との思い出を語らいながら杯を重ねた。
楽しかった思い出、嬉しかったこと、思わず笑ってしまうような失敗も、真宏と二人で話せば尽きることなく湧いてきた。
楽しいひと時であったことは間違いない。
だが、たった二人の家族として過ごしてきた一夏がこの場にいないことが寂しかったのもまた事実。いつもそばにあった温もりがないのだと自覚して、しかし隣には別の温もりがあることに気付き。
その結果。
「ぅあ……千冬……さん……」
「……ハッ!?」
気付いた時には、半裸の真宏の上にまたがって繋がっていたのでしたとさ!
酒のせいでうっすらとしか記憶は残っていないのだが、それでも断片的な記憶はある。
優しく甲斐甲斐しく、世話を焼いてくれる真宏がとても愛おしく見えたこと。
酒の力も手伝ってついついいつも以上に絡んでしまい、調子に乗って目の前にある真宏の耳を甘噛みしてみて、そこで一回理性が飛んだことなどなど。
その後は時系列もあいまいな、いくつかのシーンが千冬の記憶に残っている。
真宏を床に押し倒し、シャツを引きちぎった時に飛んだボタンの数。ちょっと酒臭かったファーストキスの味。片手で真宏の両手をまとめて掴んで身動きを取れなくしてから舌で首筋を舐めた感触。
騎乗位で、体術も応用して体重をかけて真宏を逃げられないようにして、搾り取った回数は何度だったか。抜かずの膣内射精5回から先は覚えていない。
途中で乳首がじんじんと切なく疼いてきたので真宏の頭を抱きしめるようにしてしゃぶらせ、あまりの気持ちよさに小一時間抱きしめ続けてしまったりもしたような。苦しかったのだろう、時折息継ぎをするように無理矢理離す顔に浮かべる表情がかわいすぎて、ますます強く抱きしめてしまったのは若気の至り。
つまり、千冬は初体験から真宏を騎乗位で思い切り犯してしまった。
そして戸惑いながら見上げてくる真宏の表情に、どうしようもなく劣情を掻き立てられた。
結果、気付いた時には既に朝になっていて、夜通しヤりまくっていたことに気付いたのは全てが終わった後だった。
千冬はそのとき、かなり本気で死のうと思った。
剣の師である箒の父親、篠ノ之柳韻から授かった短刀を持ち出し、腹を切る寸前まで行った。
しかし千冬自身一晩中真宏の上で腰を振りまくったうえに膣内は真宏の形にされてしまっていたので腰砕けで、同じく足腰立たなくなっていた真宏が縋りついて止めたこともあり、なんとか思いとどまった。
だが、千冬が真宏を犯してしまったのは間違いのない事実。
どんなに謝っても足りることではなく、せめて真宏の前から姿を消すことしか償いの方法はない。
……と、千冬は思っていたのだが。
「こんばんは、千冬さん。今日も夕飯作りに来ましたよ」
その翌日、真宏はさっそくまた織斑家にやって来た。
前日のあれこれが残る部屋を片付け、夕食を用意してくれて、さらにしばらくは千冬一人でもなんとかなるように保存の効く料理を大量に作って冷凍していってくれた。どこの通い夫かというような甲斐甲斐しさだ。
その日から、千冬と真宏のこの関係は続いている。
多忙で毎日決まった時間に家に帰れるわけではない千冬だが、それでも家がそれなりに片付いて、温かい手料理を食べられるのはこうして通ってくれる真宏がいればこそ。どれだけ感謝しても足りず、そんな真宏を襲ってしまい、その後もなんやかんやでたまにそういう関係になってしまっていることに関しては、もはや本気で命をもって償う他ないのではないかと思えてきた今日この頃。
今も千冬の隣には真宏がいる。
控えめに指先で摘まんだ真宏の袖は、逃げようとしていない。それだけが、千冬にとっての救いだった。
「何度も言ったでしょう? 別にイヤじゃなかったって。……まあ予想してなかったのは事実ですが」
「うぅぅ……」
千冬はもう、まともに真宏の顔を見ることができない。真宏の肩に顔をうずめて隠し、唸り声を上げる。
お分かりいただけるだろうか。罪悪感とかいろいろ感じているが、既にずぶずぶに甘えきっているこの有様。
「ほら、顔を上げてください。綺麗な顔が台無しですよ?」
「……」
だから、そっと頬に手を添えられるだけで千冬は抵抗できなくなる。
見上げたそこには、優しく微笑む真宏の顔。味も柔らかさも知っている唇。この期に及んでごくりと喉が鳴ってしまう自分が悲しく、しかしどんどん近づけられる真宏の顔から逃れる術はなく。
「んっ」
「んんぅ……」
重ねられた唇の感触に、背骨の中まで震えが走った。
「ん、んんー……ふぅ……んっ。ぷは、は……ぁ」
舌を絡めることはしなかった。そんなことをすれば、それだけでイってしまっていただろうから。
ただそれだけでも、千冬の中にある何かのスイッチが入った。真宏の首に腕を絡め、存分に唇の感触を味わうキス。気づけば千冬は真宏の体をまたいでのしかかり、真上から真宏を貪っていた。
「真宏……真宏ぉ……」
「はい、わかってます。千冬さんのおっぱい、一杯気持ちよくしてあげます」
キスを終え、千冬は自ら服のボタンを開いて胸を出す。
さっきから胸の奥の鼓動と疼きが止まらない。言葉すらまともに出ないほど興奮していたが、真宏は正しく理解してくれる。千冬の胸へと手を伸ばし……寸前で軌道を変え、わき腹を撫でた。
「んくぅ!? ま、真宏、何を……」
「準備、です。メインディッシュは最後のお楽しみにしないと、ね?」
そう言って、わき腹を撫でさする。千冬の腹筋の形を確かめるように、あるいは背中にまで手を回して背筋をマッサージするように。服の裾から手を入れて、めくり上げるようにして触っていく。いわゆる性感帯と呼ばれるようなところには一切触れない、ただのスキンシップだ。
しかし。
「んっ! は、ぁ……はーっ、はーっ……! あぁ、真宏……なんだ、これは、ぁ……!」
「気持ちよくなってくれました? 嬉しいです」
真宏の指先が触れた場所が、燃えるように熱かった。
わき腹をそっとなぞり、背骨を上って肩甲骨を掌で包む。そのまま抱き寄せられて全身を包まれると喉の奥から小さな悲鳴が漏れて、鎖骨に口付けられたときは死ぬかと思った。
ソファに腰かける真宏の顔の両脇に手を突いて覆いかぶさる千冬だが、完全に真宏に支配されている。
「ふ、うぅぅ……ふうぅぅ……!」
「ああ、ダメですよそんなに唇を噛んじゃ。血が出ちゃいます。……まあ、そうなったらなったで俺が舐めて治してあげますけどね。こんな風に。れろれろ」
「んーーっ!?」
唸り声が高々と響く。
情けない声を上げないようにと唇を噛んでいたのが見とがめられ、真宏に唇を舐められてしまった。ちろちろと唇を端から端までなぞるのはキスというよりも子犬か何かが懐いてくるようで、可愛いなこの野郎と思い切り抱きしめてごろごろ辺りを転げまわりたくなるのだが、さわさわむにむにと二の腕を撫でまわされるのがぞわぞわくるほど気持ちよくて力が入らなかったのが惜しくてならない。
「真宏ぉ……もう、焦らすなぁ……!」
「我慢、できないですか?」
「……っ」
だから、千冬から真宏にさせることはできない。必然的に、真宏にしてもらうよう頼むしかなかった。半ば涙目になりながらの懇願。しかしこの男はたまにこれすらスルーしてくる鬼畜外道だ。
今日も、人差し指一本で千冬のみぞおちから下乳をなぞり上げ、乳首をくいと押し上げながら聞いてくる。もはや千冬はそれだけでビリビリとした痺れに襲われて、頷くだけでも必死だった。
早く、早く。その手で、口で。私の胸を。限界だ。
言葉にならない千冬のその言葉、気付けない真宏では決してなく、それでもあえてさらに我慢させる無慈悲な鞭と、望み通りにしてあげる飴を持ち合わせた鬼でもある。
「じゃあ……えいっ」
「くっひいいいいいぃ!?」
そして今日選んだのは、飴。両の乳首を親指と人差し指で、潰れんばかりにつまみ上げた。
待ち望んだ場所への、強すぎる刺激に千冬の喉は悲鳴を上げる。背筋を反らせ、汗の雫を飛ばしながら痛みを感じても決して体を離しはせず、真宏が摘まんだ乳首を胸ごと引っ張るのも嫌がらなかった。
「はい、次は口でしますよー……じゅるるるるる!」
「ぁん! ああ、それ……それぇ……! もっと吸え、しゃぶれえ!」
そしてお次は、とばかりに真宏は攻め手を変えた。
さくらんぼでも食べるかのように千冬の尖りきった乳首を舌で絡め取って口の中に誘い、たっぷりと唾液をつけて吸い上げる。乳輪の粒を舌でなぞり、逃げられないよう前歯で甘噛みしながら先端を舌で押し潰し、もう片方の胸は容赦なく指を食いこませる勢いで強く握る。
「あぁああ……いい、いいぞ真宏ぉ……♪」
そこまでされて、千冬は蕩けた。
普段の引き締まった表情はどこへやら、顔中うっとりと弛緩しきった表情を浮かべ、自分の胸を吸う真宏の頭を撫でる。
ついでに千冬の太ももは真宏の太ももを挟み、腰を小刻みに前後に揺すっている。くちゅくちゅという水音は、決して真宏の口だけから出ているのではない。
おそらく、ブリュンヒルデたる織斑千冬のファンが見たら言葉を失くすだろう。この顔を見ることができるのは世界でただ一人、真宏だけなのだが。
「ありがとうございます、千冬さん。……じゃあ、もっとしますね♪」
「えっ」
そして向上心に溢れるこの男は、千冬にさらなる痴態を晒させることもいとわない。
ぐるんと逆転する上下。いかに千冬とはいえ、情事の最中に力が抜けているタイミングであれば真宏程度の体術でもひっくり返すのは容易なこと。先ほどまでとは逆に、真宏が千冬の体に覆いかぶさった。
「待て、おい待て。こういう体勢になるとお前はロクなことをしな……ひゃあぁ!? 待て、どこを舐めている!?」
「どこってそりゃ、千冬さんの脇を。こういう変なところ舐められるの、好きでしたよね? れえー」
「誰がそんなところなど……ふあああぁ!?」
「説得力皆無です本当にありがとうございました」
そして狙うのは、千冬の脇。ぐいと腕を持ち上げ、露わになった脇のくぼみにぺったりと舌を押し付け、ぞろりと舐め上げる。
千冬は、抵抗の出来ないその感触に力の抜けた喘ぎを上げる。何度か体を重ねるうち、上から下まで全身余すところなく真宏に把握されてしまった千冬の泣き所の一つが、これだ。脇を舐められて感じるなど、と思っても声が止まらない。目を閉じ、一心に自分の脇へ舌を這わせる真宏の姿に千冬の興奮は天井知らずに高まっていく。
「それから、こっちも好きですよね。最近あまりしてあげられなかったから、今日はたっぷり感じてください」
「ふひぃ!? へ、臍まで!?」
しかも、どうやら今日はフルコースらしい。両脇ともに汗一滴残さず舐めつくしたと思えば、今度の狙いは臍のすぼまり。ディープキスをするときのように舌を伸ばし、臍の皺の中まで真宏の舌がくすぐった。
「は、ぁ……んっ! ふぅー……ふぅー……、真宏ぉ……」
「ぺろ、ちゅ。ぐちゅぐちゅ……なんですか、千冬さん?」
声をかけても、にっこりとほほ笑みを返してすぐまた舌での愛撫を再開する。むずがゆいような、真宏にしてもらわなければ決して味わえないその感覚に千冬は眩暈がするような心地良さを覚える。
「どうして、そんな変なところばかり……っ」
「その方が、千冬さんが気持ち良くなってくれるからですよ。素直になれない人を好きになると苦労します。ちゅっ」
「っ! っひいいいいいぃぃ!?」
そして問いかけに答え、最後に真宏がキスしたことで、千冬の腰が絶頂に跳ねた。まだ秘所は一度も触られていないにも関わらず。
真宏がしたのは、ただのキス。しかし場所が問題だった。
ヘソの下、下腹部。なんてことのない肌の上。だがそこは、女の中心。子宮の真上だ。
真宏が、子宮に、キスをした。
間を遮る皮膚も筋肉も関係なく、真宏はそうした。そういう意味があるのだと千冬の心と体と子宮が理解して、歓喜に魂までもが震えあがるようだった。
そして、その結果から思い知らされる。
先ほど真宏があっさりと千冬のことを好きだと言ったのと同じくらい、千冬もまた真宏のことを……。
天井からリビングを照らす黄金立方体の光を浴びながら千冬は自分の本心を思い知らされ。
「……ん?」
見慣れたはずの家の風景の中に、絶対にありえないものを見た気がして少しだけ冷静になり。
「さて、それじゃあそろそろ本番を……」
「わあああ!? 待て、待て真宏!」
しかし、いつの間にか千冬の足を広げてその中心へと顔を近づけていた真宏のせいで、すぐに意識を引き戻されるのであった。
◇◆◇
「セーフです……!」
同時刻、どこかで冷や汗をかきまくりながらそんなことを呟いた少女がいたとか、いなかったとか。
◇◆◇
「……俺の顔を太ももで挟んで、どうしたんです千冬さん。ご褒美ですか? めっちゃ気持ちいいんですけど」
「あ、ああそうだ。お前は太ももが好きだったろう?」
「太ももというか、千冬さんが好きです。おっぱいもお尻も太もももお腹も脇もへそも全部」
「そういうことを平然と言うな!?」
シュールな絵面だった。
千冬の太ももに顔を挟まれ、にっちもさっちもいかなくなっている真宏の図。
余分な脂肪など一片もなく、それでいて柔らかい筋肉がたっぷりと詰まった極上の太ももの間に真宏の顔があった。
見た目こそマヌケだが、千冬の太ももの間とはすなわち天国へ続く扉がある約束の地である。真宏もきょとんとしたあとはうっとりと頬ずりして感触を楽しんでいる。
千冬は、それを見てほっと胸を撫で下ろす。
これまでさんざんあちらこちらを弄り回されたのだ。この上さらに舌でされでもしたら、どんな痴態を晒すことになるのかわかったものではない。ただでさえ、真宏は上手い。というか、千冬の弱点を的確に責めてくる。腰を抱えられて逃げることもできないようにされ、歓喜のち懇願の叫びを上げさせられたことも一度や二度ではない。
だから、こうしてやり過ごすのが何よりだ。このまま真宏がうっとりしているうちに何とか呼吸を整え、ひっくり返して今度は千冬が責める体勢に持ち込めればワンチャンある。
あるのだが、甘い。
真宏からのあれこれを封じるなら、手が届かない距離まで遠ざけるか両手両足口に至るまで、全てを封じるべきだった。
「……ふぅ。千冬さんの太もも、たっぷり堪能させてもらいました。それじゃ、ここからは俺のターンですね。お礼しますから、足広げてください。れー」
「舌を伸ばすな!? い、息を吹きかけるなぁ!」
たとえば、往生際の悪いこれらの所業。真宏があと少し舌を伸ばせばクリトリスまで届きそうで、千冬はドキドキが止まらない。あの舌が敏感な核に触れてしまえば、もはや逃れようはないのだから。
息を吹きかけられるだけでもじゅくじゅくと奥から熱い雫が溢れてくるのが感じられる。本当にされてしまえば、抵抗の余地などないだろう。
そんな考えはしかし、全て真宏の掌の上だった。
ここまでの真宏のアクションは本命から気を逸らすための囮に過ぎない。本気で千冬を気持ちよくすると決めたときの真宏は手段を選ばず、また千冬自身の言葉も無視して、千冬が一番感じることを情け容赦なく実行する。
だから、そう。
狙うは最大の弱点。
「……えいっ」
「ん? ……ふにゃああああぁぁぁ!?」
真宏が一声かけた瞬間、千冬の足から力が抜けた。
腰からつま先へ、ビリビリと走った震えは快感の電流。その電流が走った後、腰から下の力が抜け、真宏の顔を挟んでいた太ももまでもが運命を共にする。
あとに残ったのは、ソファに腰かけはしたなく足を全開に開いた千冬と、その中心で花開き、愛液の涙を流す秘所。
そして、真宏の親指が縁をぐいぐいと押してマッサージする、千冬のアナルが遮るものなく晒された。
「ま、まひろ……ぉ、おみゃえぇ……!」
「呂律も回らなくなってますね千冬さん。まったく、相変わらずアナルが弱いんだから」
「くっひいいいぃ!?」
抗議は喘ぎ声に変えられてしまった。アナルの周りを押し込んでいた指が、わずかだが穴の中に入り込んできたせいだ。真宏の指に広げられる括約筋が、それだけで千冬の行動を支配する。
「それじゃあ、そろそろこっちも。さっきは味わえなかった分、たっぷりさせてもらいますね、千冬さん。……じゅるるるるるるっ!」
「――――――っひ!?」
その運命からは、もはや逃れられない。
いよいよ真宏が口付けて、舌で膣内の襞と遊ぶようになると、決定的だ。
背を反らし、口を大きく開け、舌を突きだす。
腰は震え、足はつま先までピンと伸びて、ソファの端を掴む指に込められた力は強い。
だが、喉から声は出ない。もはや、そんな余裕すらなくなっていた。
散々に焦らされた弱点への舌と指での刺激。千冬をして狂乱させるに余りある快感が全身を駆け抜ける。
汗に濡れた肢体は輝きを放たんばかりで、それでも千冬の頭の中は、表情は。
「は、ぁ……あああぁぁぁ……んんっ! ……あひっ♪」
真宏が与えてくれる喜びに蕩けていた。
「じゅる、じゅっ、じゅううぅ、んんー、んむっ、れぇ~」
「あっ、ひっ、んん! かふ……はっ、はぁん!? し、舌が……深いぃぃ! 奥まで舐めるなぁ!」
真宏は色々な方法を試した。
舌を可能な限り奥まで入れてかき回すこと、入り口を浅く何度も舌先で穿り返すこと、クリトリスへの刺激、愛液を全て啜り取るようなバキューム。
ちゃっかり中指を根元までねじ込んだ尻穴は特にお気に入りらしくキュンキュンと切なく締め付けてくるが、それはいつものことなので気にせず責める。
アナルを責められると千冬はもう一切の抵抗ができなくなり、我慢も無意味となって全てが真宏の前に晒される。
その可愛い反応を見ながら真宏が検討をつけた今日一番の狙い目は。
「やっぱり、クリですね。ここをいっぱいいじめてあげます」
「はーっ……はーっ……す、少し、は……優しく……」
「カリっ」
「んああああああああっ!?」
既に皮から出た陰核を軽く、本当に軽く歯で挟む。
それだけで千冬は、絶頂を極めた。
千冬は、泣きそうになる。
両足の間、掌で隠せる程度の狭い場所を自由にされるだけで、全身余すところなく痴態を晒す羽目になる。
そのことがたまらなく恥ずかしく……そう感じてしまうことさえ快感の一助となるのだから、この体は本当にどうしようもない。歓喜の涙を流しながら、千冬は真宏が尖らせた舌先でクリトリスを押し込むようにする愛撫で、また軽くイくのだった。
◇◆◇
「はあ、ふう」
「は……ひ……くふ、んっ……」
長く、丁寧な愛撫にさすがの真宏も疲れたようだ。千冬の愛液に濡れた口で息をつきながら、目の前でひくひくと震える千冬の秘部を眺めている。
何度もイかされたせいで、刺激されていない今もじゅくじゅくと愛液をこぼす千冬。絶頂の余韻に浸っているのか、それともいまだ戻ってこれないのか、忘我の表情を見上げてもうかがい知ることはできない。
ただはっきりしているのは、今が真宏にとって一番の好機であるということだけだ。
「千冬さん」
「ぅあ……真宏……?」
真宏が自分を呼ぶ声に、千冬は少しだけ意識を取り戻す。いつになく、真剣な響きを感じたからだ。これまでの人生でも真宏の本気のシリアス声など聞いたことはほとんどない。
だからきっと、何か大事なことを言おうとしているのだろうと耳を傾けようとして。
「……なぜ、私の足を開く」
「それはまあ、ねえ?」
真宏の手によって膝を持ち上げられ、M字開脚させられている自分に気が付いた。
さっきまで顔を埋められて徹底的に愛されていた場所なのでいまさらという気もするが、この体勢は大分恥ずかしい。
しかも、真宏の肉棒がくちゅくちゅとこすり付けられている。
そういえば真宏はまだ一度も射精していない、と唐突に思い出す。自分は何度もされたのに不公平ではないか。そんな不満とも申し訳なさともつかない感情も相まって、千冬は少しだけ正気を取り戻す。その最中も、擦りつけられる度に軽く声を上げてはいるのだが。
しかしなぜだろう、千冬は何となく嫌な予感を覚える。
確かにこの体を真宏の自由にさせてしまうと毎回とんでもない痴態を晒す羽目になるのだが、誰にも言えない奥底の本音では決して嫌っていない。真宏にされるのと同じくらいの頻度で、千冬もまた真宏を好き放題貪っているのも理由の一つだが。
それでも何故か今日だけは、このまま素直に体を許してはいけない気がした。
今日だけは。
「っ!? ま、待て真宏!」
「えっ、どうしたんです?」
そう、今日だけは。
日を改めてならなんとでもなる。だが今日だけはダメだ。
今日という日。
危険日、であった。
「……だから、待ってくれ。もちろんこれで終わりとは言わない。口でも胸でもしてやる。だがこのままするのは……」
千冬は、素直に説明した。
今日セックスしたら孕むかもしれない、などと真宏に言うのは拷問じみた羞恥を覚えたが、なんか最近そういう恥ずかしいのもちょっと気持ち良くなってきた気がするので問題ない。
いまだビンビンに固くなっている真宏を前にお預けをさせるのはかわいそうとも思うが、仕方がない。これは自分のためではなく、なにより真宏のためなのだから。せめて償いにセックス以外なら真宏が望むことをかなえてやろうという覚悟を決める。
「……そうですか、今日は危険日だったんですね」
「ああ、そうだ。忘れていたことは済まないと思う。だが、今日は……な?」
千冬の頬を撫でながら、真宏が言う。
どれだけやめてくれと懇願しても飄々と流してさらに激しく愛撫して来るような、いつもの様子とは違う。ことが事だけに、真剣な顔だ。これならわかってくれるだろう。
……そう、思っていたのに。
「……ごめんなさい、千冬さんっ!」
「は? ……んっくううぅう!? あ、挿入ってる……! かはっ、な、なぜ……? あんっ!」
真宏はそのまま、一気に腰を叩き付けて千冬の中へと挿入した。
千冬が拒んでいたのは、理性でのこと。
体は十分に解きほぐされて、真宏を受け入れる準備は万端。それどころか一番いいところでお預けをされていたせいもあって、乱暴な腰使いで荒々しく入ってきた真宏を熱くぬかるむ襞で丁重にもてなした。
千冬と真宏の腰が密着し、真宏の先端から根本までがちょうど千冬の入口から最奥までを埋め尽くす。ぴったりと真宏に密着した膣内はその形を教え、真宏自身が千冬の感触に悦んでびくびくと震えているのがわかる。
それこそ、すぐにも射精しそうなほどに。
危険日の、この瞬間までため込んでいた真宏の精液で満たされれば妊娠してしまうだろう、子宮が熱い。
「や、やめるんだ真宏……ひあ!? な、中でぐりぐりするなああ!?」
少しも離れたくない、とばかりに真宏が腰をさらに押し付けてくる。既に最奥までぴったりと埋め尽くされた千冬の子宮口までぐにぐにと刺激され、千冬は抵抗も忘れて狂乱した。
やめさせなければいけないという思いは確かにある。だがそれ以上に、胸の中の愛しさが千冬の体を支配した。
「ねえ、千冬さん」
「ま、真宏……?」
何度も膣内を打ち付けてしばらく。真宏はようやく動きを緩めた。
そして千冬の手を取る。掌を重ねあわせ、指を組む。
いわゆる、恋人つなぎ。
千冬の両手に自分の両手を重ね、全身を触れあわせながらまっすぐ正面から瞳の奥、心の底までを覗き込むようにして、これまでの生涯でもほとんど見たことがないほど真剣に、本気で。
「もし、これで千冬さんが妊娠したら……責任、取らせてくれますか?」
「!?!?!?」
真宏はこの日、千冬にプロポーズをした。
「な、何を言って……!」
「誤魔化さないでください。逆レイプの負い目とかそういうのも全部忘れてください。千冬さんが俺のことをどう思ってるか、それだけが知りたいんです」
逃げ道はなかった。
本気の告白に本音の答えを得るまで、真宏は千冬を離さないだろう。強く、しかし決して千冬を痛がらせない力で祈るように、縋るように手を握ってくるのが何よりの証拠だ。
真宏は、強い。千冬はそのことを思い知らされる。
自分のように逃げたり、躊躇ったりしない。自分の心に正直に、勇気を持って踏み出してきた。踏み出してくれた。
その行動と好意に対して、千冬はどうこたえるべきか。自分の中に確かにある応えとどう向き合うべきか。
なんだかんだでヘタレな千冬は迷い、目を逸らし。
「……っ! 千冬さん!」
「かふっ!? なっ、待て真宏……んっ! い、今は動くなぁ!」
「待ちません。もう我慢なんてできないし……千冬さんが素直になってくれないんなら、俺が素直にしてみせます! ほら、ここを強くされるのが好きなんでしょう!?」
「ひああああっ!? あひっ、あひぃん!? そ、そこは……だめだ、イク! イクうううぅ!」
結果、どうあっても千冬の答えを聞くつもりの真宏からのお仕置きを受ける羽目になった。
真宏はもはや千冬の弱点を知り尽くしている。どこをされると腰砕けになるか、どんな風に動けば表情が蕩けるか。そしてどこを責められると素直になってしまうかも、全て。
「はぁっ、はぁっ……んんんー!? や、やめろ……まだイったばかりなんだ、少しは休ませ……ひいいぃん!?」
「ダメです。千冬さんが、答えてくれるまで、イかせるのをやめない!」
千冬の思考が、絶頂するたび白く塗りつぶされる。
初代ブリュンヒルデという立場も、ISのことも、千冬が関わる割と真剣に世界の命運にかかわることも、全て。
綺麗に吹き飛んだそのあとに残るのは、目の前にいる男の顔のみ。
ついこの間まで幼さが残っていると思っていたのに、今ではすっかり立派な男の顔だ。
そんな男の気持ちが伝わってくる。
好きです。愛しています。千冬さんが欲しい。その代り、俺の全部をあげるから。
冥利に尽きると言うほかない、まっすぐな感情だ。
では、自分はどうか。
真宏をどう思っている。これからの人生を、真宏とはどんな距離でいたいと思うか。
今と同じような、つかず離れずの関係か。少しずつでも離れていくのか。それとも。
答えなど、とっくに決まっていた。
今更離れられるわけがない。
全てのしがらみを置き捨てた今、千冬が純粋に願う物。
真宏との距離。
ただの1㎝ですら遠すぎる、ずっとずっと一緒にいられる一つの距離だ。
「千冬さん! 千冬さんっ!」
真宏も絶頂が近い。
必死に千冬の名を呼びながら、しかしその目には不安の色もある。
真宏は破天荒だが優しさも持ち合わせた男だ。千冬が拒絶するならば、たとえ心が引き裂かれそうなほどに辛くともこのまま身を引くだろう。
神上真宏はそういう男だ。
だからこそ一夏の友となり、千冬の弟分となり……今、織斑千冬の最も愛しい人になったのだ。
「……いいぞ、真宏。私に、膣内射精しろ。お前の子供を産む。私を、孕ませてくれ……!」
「……千冬さん!」
千冬は、真宏を抱きしめた。両腕を真宏の背中に回してきつく抱きしめ、両足で真宏の腰を抱え込んで。
――びゅるるるるるっ! びゅぐ、びゅうううぅぅぅ……
「っはああああああああああああ!?」
子宮で弾けるその熱さに、千冬は歓喜の叫びを長く長く響かせた。
◇◆◇
「はぁ、はぁ……千冬さん、好きです。大好きです」
「言うな。……もう、全部わかってる」
射精が終わっても、二人はつながったまま、抱き合ったまま離れずにいた。
事後の倦怠感に包まれた睦言は囁くように。しかし今は、これまでと違って全てが通じ合っている。真宏の気持ちも、千冬の想いも、どちらも互いに余すところなく伝わって、果たされたのだから。
「……今更ですけど、こんな形のプロポーズですみません。今度改めて、夜景の見えるレストランとかでしますから」
「気にするな、真宏。状況がどうこう言うなら、私もほら、その……初めにお前を、な? だからその辺はおあいこでいいだろう」
くすくすと笑いあう二人の間に、不要な距離感はもはやない。つながる体と同じように、いつまでも離れないという誓いが二人を繋ぐ。
「……じゃあおあいこついでに。ベッド行きません?」
「まだ硬いまま、か。……し、仕方ない。相手をしてやろう」
そしてつながり過ぎたせいで収まりがつかなくなり、場所を変えての2回戦目となるのであった。
「おいこら真宏。な、なぜこんな抱え方で運ぶ!?」
「お姫様だっこ、ですね。千冬さんは俺にとってのお姫様ですから」
「っ!」
お姫様。
女王か女帝かはたまたイケメンか。同性からも異性からもそんな扱いばかり受けてきた千冬だけに、そんな風に言われた経験はなく、抵抗の仕方もわからないままただの一言で顔を真っ赤に染めるという醜態をさらした。
ソファでの交わりのあと、ベッドに行くと決めるや真宏はすぐに千冬をお姫様だっこで抱え上げた。初めて尽くしの夜に、千冬はもうされるがままだ。
服は全てリビングで脱ぎ散らかしたため、今の千冬は真宏の腕の中で一糸まとわぬ裸体を縮こまらせている。腕で胸を抱えるようにして隠してこそいるが、むっちりとした乳肉がふにゅりと歪み、どう見てもただの裸よりエロい。
「……真宏、尻に熱くて硬いものが当たってるぞ」
「当ててんです」
それはもう、ベッドまで我慢しきれるか不安なくらいに。
「ダメだ。次はベッドでする。……だから、これで我慢しろ。んっ」
「んんぅ……っ。千冬さんからしてくれるキスの味は、また格別ですね」
「黙れ。ちゅ、れる、んっ。……らにをしへる、もっろ、舌をからめろ……んー」
「歩きながらだと難しいんですよ。でも、頑張ります。むちゅ」
しかしそこは飴と鞭の見せどころ。
眼前にニンジンをぶら下げられた馬のごとく、千冬はキスで真宏を巧みに操った。
その口付けの熱の入れようを傍から見れば、単純に千冬が夢中になっているだけという説もあろうが。
そんなこんなで、道中の半分くらいはキスをしながら寝室へとたどり着き、真宏は千冬をベッドに横たえた。
「んっ……」
シーツの上でけだるげに身をよじる千冬。細く、しなやかに。そしてしっかりと肉のついた千冬の肢体は汗に濡れ、匂い立つような色気があるように真宏の目には映る。しかも、この人は自分の思いを受け入れてくれた。亭主面など生涯できる気すらしないが、二人は事実上そういう関係と言っていい。そう思うと、これまでの時以上になんというかこう、滾るものが真宏の胸に湧いてくる。
「……真宏」
「はい、千冬さん」
そして千冬は、真宏に向かって手を伸ばす。
仕切り直しての行為、今度こそは精一杯優しくしようと真宏も千冬の手を取ろうとし。
するり、と。
まるで霞に手を入れたかのように千冬の手が真宏の手をすり抜け。
手首を掴んでくる千冬の指にきゅっと力が入ったような気がして。
次の瞬間、真宏の視界に映る全ての物は一方向に流れる残像に溶けて消えた。
「へ?」
「ふふふ、真宏ぉ……」
そして気づいた時には、真宏がベッドに仰向けになっていた。
何を言っているかわからねーと思うが、などとボケる暇もない。腹のあたりに感じるむっちりたっぷりした感触は見なくてもわかる千冬の太もも。最近見慣れつつある織斑家の天井から視線を下すと、そこには真宏の体をまたいで腹のあたりに腰を下ろす千冬がいた。
しゅる、ばさり。
千冬が髪を束ねていた紐をほどき、長い髪をかきあげ流した。薄暗い部屋の中でもなお艶やかな黒髪が、朱のさした白磁の肌とコントラストを描く。
美しい、と思った。
汗に濡れ、部屋のうっすらした光に照らされる千冬の体はまるで輝くようだった。ぶっちゃけ真宏の目には女神に見える。
だが、その目。
普段の鋭く怜悧な目も、真宏や一夏に向ける優しい眼差しも、真宏しか知らない蕩けた様も知っている、千冬の目。
それがいま、爛々と輝いている。舌舐めずりをしながらうっとりと、しかし真宏からは決して逸らさない。連想されるのは、獣のそれ。
(あ、これ俺を逆レしたときのやつだ)
そして、攻守が完全に逆転したんだなと思い知る。
どういう力加減か、重いなどとは思わないのになぜか全く動かせない胴体の状態を鑑みるに、その予想は間違っていないだろう。
「さっきまでは散々してくれたからな。今度は私の番だ。……今夜は眠れると思うなよ?」
「……望むところです」
ぐりぐり、と硬く天を突く肉棒に尻肉押し付け、体を倒して豊かな胸を真宏の胸板でこねてくる千冬に、真宏は精一杯の強がりを返す。
千冬は攻められると弱いが、攻めに回ると真宏に反撃を許さないレベルの肉食獣と化す。
せめて、枯れ果てないようにしよう。こういうときでも千冬さんを満足させられるようになろう。真宏はそう覚悟を決めて、喉笛に食らいつくような勢いのキスを受け入れた。
◇◆◇
「あっ、ん! はぁん! ……いい、いいぞ真宏! 何度しても萎えないなんてな! 5回目なのに、子宮を突かれるぅ!」
「ち、千冬さんがすっごく締めるからですよ! 気持ちよくて何度でもできそうです! ……あぁ、またイく!」
「いいぞ、射精せ! 私に膣内射精しろぉ!」
騎乗位の千冬は、やたらと生き生きしていた。
真宏の胸板に手を置き、時折乳首を指や舌でいじめながら腰を振る。抜け出る寸前まで腰を上げ、そこから叩き付けるように落として子宮口をズンと打ち上げるのが千冬の好みであるようだ。
この日、真宏はさらに3回騎乗位で搾られることになる。
◇◆◇
「それじゃあ、行きますよ」
「あ、ああ、来い。……んっ、んんん~~~! くっ、ん、……ほおおおお!?」
「千冬さん、お尻の穴締めすぎですよ。動けなくなっちゃいます。……そうすると、こうやって子宮の裏をぐりぐりするしかなくなりますよ?」
「くっひいいぃん!? そ、そこはダメだ! イク、すぐイく! イって……子宮から真宏の精液出るううぅ!?」
その後、さすがに疲れた千冬に代わって真宏が奉仕することになった。
四つん這いになって掲げられた千冬の尻の、後ろの穴を本格的に。指と舌でされただけでは満足できない、千冬の一番の弱点。
腸内から子宮を擦り上げられると、それだけで千冬の体は弛緩してしまう。
さっきまで自分を絞り尽くす勢いで襲っていた女性の屈服しきった有様、真宏にとっては大変気持ちよくさせ甲斐のある光景だった。
「大丈夫ですよ、千冬さん。もし出ちゃったらまたたっぷり注いであげますから。だから、思いっきり感じてください。……ちゅっ」
「へあぁ~……っ!」
千冬のトロ顔に真宏も心底興奮し、覆いかぶさって全身を抱きしめる。胸は千冬好みの痛いくらいの強さで揉み、うなじにキスを。腹の上から子宮を撫でて、愛情の全てを注ぎ込む。
アナルの感触に絶頂は近く、しかし一度の射精で収まるとは、とても思えない真宏なのであった。
◇◆◇
「さっきはよくも……んちゅ、やってくれたな……じゅるる、んっ。そんなお前にはお仕置きだ。ふんっ」
「くあぁ!? す、すごい乳圧……! 千冬さんのパイズリ、気持ちよすぎます!」
ベッドに腰掛ける真宏の足の間に、床に膝をつく千冬が体を割り込ませている。
何度したのか数え切れず、色々な体液で濡れた真宏の肉棒は今、千冬の胸の谷間にあった。パイズリ、というやつだ。柔らかくも張りがあり、それでいてねっとりと吸い付くように強欲な乳肉が千冬の手で寄せられ、真宏を挟んでいる。
むぎゅむぎゅと両側から押し付け、互い違いに擦り上げ、はみ出た先端は千冬の舌に晒される。
年上美女が嬉々としてするパイズリ奉仕。男の夢とロマンが形になったようで、真宏は為すすべなく喜びの声を上げた。
「ふふふ……さっきは胸の中に射精させてやったから、今度は思い切り飛ばしてみせろ。私に、かけていいんだぞ?」
「はい、イきます千冬さん! 俺の精液色になってください! ……あぁ、イクぅ!」
「んんっ! はあぁ、熱い……!」
びゅう、びゅるるう。千冬の両胸の圧力に搾られるようにして、真宏の精液が一直線に吹き上がる。
重力に従い、放物線を描いて落下したその先に待ち受けるのは、嬉々とした笑みを浮かべて受け止める千冬の顔面。真宏は自分の精液にまみれる千冬の顔を見て、朝までに二人とも満足できるのかという一抹の不安を覚えるのだった。
結局この夜、二人は一睡もすることなく互いを貪り合う。
しかしその心には少しの後悔もなく、眠りに落ちる、というかIS操縦者として鍛え抜いた体力を無駄に使い切って意識が落ちるその時は、硬く手を繋いでいたという。
◇◆◇
――パチン、パチン
「……ん?」
千冬の意識が、ゆっくりと浮上する。
目覚めるきっかけとなったのは、足元のあたりから聞こえる音。決して大きいわけではなく、定期的に、パチンパチンと。そして、足が少しくすぐったいような感触。
うっすらと目を開けると、その原因はすぐに知れた。真宏だ。
そしてすぐに、思い出す。そうだ、真宏に足の爪を切ってもらっていたのだった、と。
「……真宏」
「はい、千冬さん。……って、寝てたんですか? ダメですよ、爪切ってる途中なんですから。これが終わったらちゃんとベッドで寝ましょうね」
深爪しないように注意して、丁寧にやすりもかけながら言う。さすがの真宏でも人の爪を切ることには慣れていないのか、少しだけぎこちなく、千冬にくすぐったさを感じさせるのだがその程度はまあご愛嬌だろう。
ソファに腰かけた千冬、その足元で爪を切る真宏。これはこれで、幸せな光景なのだろうとも思う。
「そこまで気を使うな。私は病人ではないんだぞ」
「いいんです。ある意味病人より体を大事にしなきゃいけないんですから。ね?」
「むう……」
最近、真宏は終始こんな調子だった。千冬が重い荷物を持とうとすれば真宏が持ち、立って歩こうとすれば支えようとしてくる。気恥ずかしいが、ありがたいことは間違いない。どれも一人で出来ることではあるのだが、今だけは真宏に甘えておくのが正解だろう。
なぜならば。
「んっ」
「千冬さん?」
「今、蹴られたな」
「え、本当ですか!?」
千冬は今、身重なのだから。
ゆったりとしたワンピース状の服の腹部をふっくらと持ち上げるているのは、千冬が新たな命を宿している証。さすがの初代ブリュンヒルデであっても初めてのことばかりで戸惑うことも多かったが、その都度真宏が、このお腹の中の子の父であり、千冬の夫である真宏が支えてくれたから何とか乗り越えてこれた。
お腹が大きくなると一人で足の爪が切れなくなるなど、千冬は初めて知った。そのことを相談するや真宏が嬉々として爪切りまでしてくれるようになったのは、嬉しいやら恥ずかしいやら。子供が生まれてくる前から千冬とまとめて面倒を見る気でいるのはイクメンというやつなのか、それとも早すぎる親バカなのか。千冬にはまだ判断がつかない。
だが、それでも一つだけはっきりしていることがある。
「わー……なんか、すごいな。お腹、触ってみてもいいですか」
「ああ、もちろん」
恐る恐る千冬のお腹を撫でる真宏の手に、自分の手を重ねる千冬。
温かい手だ。この手が自分に優しさと安らぎをくれた。そして今、新たな命も。
「……真宏」
「なんです、千冬さん?」
思いが胸に満ち、優しい笑顔と偽りのない言葉として、あふれ出る。
「ありがとう、真宏。愛している」
千冬は今、幸せだ。
◇◆◇
「…………………………………………」
千冬の意識が、ゆっくりと浮上する。
しかし今度は爪を切る音はなく、見慣れた天井、慣れたベッドの上で。
「……」
目だけを動かし、様子を伺う。
部屋の様子に変わりはない。IS学園1年生寮の寮長室だ。時刻はいつも起きる時間より少し早い。どんな夢を見たかはっきりくっきりしっかりばっちり覚えていること以外は、普通の朝と、何も変わらない。
「……………………」
だから千冬は無言のままむくりと起き上がる。
そして、そのまま静かに両手で顔を覆い。
「覚えていろ……っ!」
誰にともなく怨嗟の声を上げた。
そんなことを言いつつも、手にも髪にも隠されないその耳は、真っ赤に染まっていたのだが。
◇◆◇
「ふぅ……。割と本気で死ぬかと思いましたが、その価値はありました」
その日その時どこかの場所で、額の汗をぬぐいながら満足げにそんなことを呟く少女がいたことを、誰も知らない。