カタカタとトレーの上の食器が少しだけ音を立てながら、マドカが歩く。
乗っているのはスープとパン、オムレツとサラダの軽食だが、いずれも丁寧に作られたものであることは見た目からもわかり、漂ういい匂いをかげば誰もが腹を鳴らすだろう。
ここはファントム・タスクの秘密基地の一つ。
そしてこの軽食はマドカの手作り。決して調理器具が充実しているとは言えない中で、マドカが頑張って用意した一品だ。
しかし、ファントム・タスクの構成員の中でこれを食する栄誉を賜った者はいない。もし手を伸ばしでもすれば腕ごと切り落とされ、一口でも食べてしまえば命はないだろう。
織斑マドカとはそういう少女で、彼女がこの料理を用意した相手とはマドカにとってそれだけの存在だ。
皿の上を乱さぬよう丁寧に、しかしスープが冷めないよう足早に。二つを両立させてマドカが向かうのは、施設の地下にある一室。
ここに来るたび、マドカは胸が高鳴る。逸る気持ちは確かにあるのに、扉を開ける前には深呼吸をしなければ心臓が飛び出しそうになる。
だから今日もいつもと同じようにそっと息を吸って、吐く。そして扉に手をかけて、笑顔とともに室内へ。
「さあ、食事の時間だ。待たせたな――真宏」
部屋の中はごくありふれたものだった。
机があり、ベッドがあり、クローゼットがある。
「……ぅ、ぁ」
ただし窓がなく、扉の鍵は外側にしかなく、部屋の住人たる真宏は首輪から伸びる鎖につながれ、憔悴しきった表情で部屋の隅に横たわっていることが、狂気にも似た異常としてそこにあった。
「寝ていたのか? ふふふ、ここに来てから寝坊ばかりだな。それでもいいぞ、お前の世話は全て私がしてやるからな。さあ、まずは食事だ。起きられるか?」
真宏の虚ろな表情に頓着することなく、優しい笑顔でその身を起こすマドカ。かいがいしく体を支えながらトレーを置いた机の前に座らせ、自分も隣に寄り添う姿は恋人を労わるようであるが、真宏が動くたびにかちゃりかちゃりと音を立てる首輪から伸びた鎖がそれら全てが決して自然なものではないのだと雄弁に語っていた。
「ほら真宏、食べさせてやろう。あーん」
「……」
スープをすくい、真宏の口元に持っていくマドカ。
真宏の表情は死んでいるというのに、構わず笑顔のマドカはどこか空恐ろしくさえある。唇にスプーンが触れても口を開かない真宏と、変わらず笑うマドカ。そのままの沈黙は数秒続く。
そして。
「……ふふふ、釣れないな、真宏。だが私は知っているぞ。お前はこの食事を食べる。……そうでないと、毒が回って死ぬからなぁ?」
うっとりと蕩けるようなマドカの笑顔。ねっとりと絡みつく毒のように甘い声。真宏の生殺与奪は自分の手の中にあるのだと知っているマドカは焦らない。
真宏は、ファントム・タスクに捕らわれの身となっている。
あれこれあった戦いの結果こうして虜囚としてISを取り上げられ、基地の一室に幽閉されている。
その世話をしているのがマドカだった。
部屋の中身はさほど広くはないが生活するのに困らない程度に物はそろっていて、食事も出る。拷問もされない。自傷できないよう常に監視の目があることとを除けばニート生活を満喫できる程度の扱いはされている。
しかし当然、それだけではない。
ファントム・タスクは真宏の行動と命を縛る枷をつけている。
「お前の体に投与されたナノマシンは、この料理に混ぜた一時解毒薬を定期的に摂取しなければ暴走して命を奪う。私の体にも入っているからな、お揃いだぞ? さあ、食べろ」
そう、真宏はいまや、ファントム・タスクを離れては生きていけない体にされている。
完全除去の方法こそあるが、こうして捕えている間にファントム・タスクが真宏にそんなものを施すわけもなく、なぜかマドカが手料理に混ぜているらしい一時的にナノマシンの活動を抑制する薬がなくては一日ともたずに命が尽きる。
「……ぁ、ん」
「そうだ、それでいい。私は知っているぞ、真宏。お前は高潔な死よりも、屈辱に耐えてでも仲間を信じて生き延びることを選ぶ。……だから、助けが来るまでお前はずっと私のものだ」
このやり取りも、既に何日繰り返されたか。
真宏の両手は自由だが、マドカは必ず全ての食事を自らの手で真宏に食べさせた。毒によっていつでも殺せるようにするだけでは飽き足りず、その命すら自分が支えているのだと言わんばかりに。
微笑むマドカの顔を見て、幸せそうだと思う者はどれだけいるだろうか。
間違いなく、大多数の人間はその目に潜む深い闇に恐怖を覚えるに違いあるまい。
「……別、に」
「ん?」
「……マドカの料理を食べることを、屈辱だと思ったことはない」
「……!」
しかし、そんな姿こそ真宏は悲しかった。
目の前やたら近くにあるこの顔は、真宏が敬愛する千冬ととてもよく似ている。よもや赤の他人ではないだろう。一体どんな事情が千冬とマドカを、一夏を引き裂いたのか。
そんな事情がなければ、マドカはこんなにも悲しくなるような表情をすることもなく、一夏と同じように仲良く過ごせたのではないか。そう思うと、辛い。
マドカが作ってくれる手料理は真宏から見ればまだまだ拙いものだったが、日に日に良くなっていっている。この少女は決して邪悪でも狂っているのでもない、ただ何かが欠けてしまっているだけなのだと、そう思えた。
思えたのだが。
「ん、ふ……んくうううぅぅぅぅぅ~~~~~~~っ!!!!」
「ま、マドカ!?」
突如くぐもった悲鳴を上げるマドカに、さすがに真宏も戸惑った。
体を丸め、自分の体を抱きしめるようにして長く尾を引く声と震える体。虜囚の身でありながら思わずマドカを案じて体を支えてしまうが、軽く肌に触れただけでマドカの震えがひときわ大きくなった。
「はーっ、はーっ……」
「ど、どうしたんだ……?」
しばらく断続的にビクンビクンと大きく震えたのち、マドカは落ち着いてきた。それでも荒い息を吐いている姿に、元からそして根っから異常でヤンデレ気味な幽閉の下手人とはいえさすがに心配になってきたが、マドカがなぜこんな状態になったのかはすぐにわかった。
最後に一度大きく深呼吸をして、俯いていた顔を上げたマドカの表情は。
「ふふふ……ひどい奴だな、真宏。言葉だけで、私をイかせるなんて」
「っ!」
ぽろぽろと両目から零れる涙に光る瞳。
必死に噛んでいろいろな衝動を抑えた結果、血のように赤くなった唇。
真宏の顔を叩くような勢いでマドカの全身から立ち上る、毒にも似た抗いがたい、色気。
真宏にかけられた言葉一つでマドカが絶頂したことは、じゅくじゅくとマドカが座る椅子を湿らせる愛液が証明していた。
「食事くらいはゆっくりしたかったんだが……もう限界だ。スるぞ、真宏!」
「ぐぅ!?」
そしてマドカは獣になった。
真宏につけられた首輪から伸びる鎖を掴み、無理矢理引いてベッドに押し倒す。本調子の真宏であればせめて抵抗くらいはできたであろうが、長引く監禁生活による悪い意味での慣れとマドカの変貌ぶりが反応を鈍らせた。
結果、ベッドへ仰向けに引き倒された真宏はすぐさま馬乗りになって来たマドカに重心を抑えられ、身をよじる程度のことしかできない有様だった。
すでに両手は余った鎖で縛られ、どこをどう絡めたのか家具に掛けて引かれ、頭上に掲げさせられていた。
下腹に乗ったマドカの下半身が熱い。しかしそれは肌を焼くことはなく、中心から滴る愛液の伝える熱さは真宏にまで伝染するようだった。
狂気に駆られた、悪の秘密結社のIS操縦者。
千冬によく似た顔形をしながら、孤独に生きてきた悲しい少女。
なのだが、いま自分を見下ろすその目には情欲しかない。
組み伏せた獲物を骨の髄までしゃぶりつくしてやろうという獣の欲。
ああ、またか、と真宏は思う。
ファントム・タスクに捕まってから何日経ったのかは既に正しく把握しきれていないが、少なくともその日数よりもマドカと肌を重ねた回数の方が多いことだけは確かだ。
「まずは、口でしてもらおうか」
「んぶうううううう!?」
そして今日は、真宏の顔に容赦なくその尻を乗せてきた。口と鼻をじっとりと濡れた下着の感触が覆う。目の前に迫る、マドカの一番大切な場所。ぐりぐりと押し付けられて、スカートの中に籠った甘い匂いが脳まで満たし、息をするだけで体の中がマドカの色に塗り替えられていくようだった。
「ん……れる、ちゅ、じゅるるるる!」
「ぁあん♡ そうだ、いいぞ真宏♡ 舌、舌を入れてくれ♡ ……きゃんっ! そうだ、もっと奥までぇ!」
こうなってしまえば、真宏も自分を抑えられない。
じゅくじゅくと愛液滴る膣穴に舌を入れ、襞をかき分けて奉仕する。下着の布の上からクリトリスを強く吸い、陰唇を甘噛みすると、マドカは嬉しそうに体を震わせ、太ももで真宏の顔を挟み、両手で髪をぐしゃぐしゃとかき回してくる。これも、愛情表現の一種なのだろうか。
思えば、初日からレイプのような勢いで犯された。
その次は徹底的にこちらを労わりながら何時間も挿入し続け、一度も抜かずに膣奥へ繰り返し射精させられた。
その次はマドカがイくたびに腕や肩、首に噛みつかれ、いまもうっすらと跡が残っている。
情緒不安定なマドカに、しかし常に求められ続ける。それが真宏のファントム・タスクでの日々だった。
決して望んだわけではない。だがそれでもマドカの顔は千冬に似ていて、豊満とは言えないが均整の取れた裸体は美しく、奉仕は荒々しくも的確だ。
そして、何よりも。
「んっ、はぁ……ぁん! ふふふ、私も、お前も、薬が効いてきたらしいな? ほら、もうこんなに硬ぁい」
「くうぅぅ!?」
興奮を促す薬品とやらが、使われているらしい。
最初のころは普通にしていたのだが、中々どうしてガッツリ系性欲を持つマドカが想い人を籠の鳥状態にして冷静になれようはずもなく、使える手はすべて使うとばかりにファントム・タスクの非合法的なルートも使って手に入れた精力剤や媚薬の類に手を出すのにそう時間はかからなかった。
結果、真宏の股間は痛みすら感じるほどに反り上がっている。
最大にまで膨張したときのサイズは、おそらく薬を使われる前より大きくなっているだろう。血管が浮き出る凶悪な反りをした肉塊が蹂躙すべき女の柔肉を求めて滾っている。
そんなところに白魚の細指を絡められては、真宏の理性が溶けてなくなってしまう。
もう口奉仕は十分に堪能したのか、マドカは真宏の顔から離れ、添い寝のようにすり寄っていく。そして5本の指がそれぞれの軌跡を描き、肉棒の先端から根本へゆっくりと這って行く。
何もかも忘れて腰を突き出したくなる衝動は薬によって底上げされた分も大きいだろうが、紛れもなく真宏の中から湧いたものだ。
「ふふふ、かわいい。ちゅっ」
「んむふ、れちゅうぅ……」
マドカは更に体を摺り寄せ、ゆっくりと肉棒を擦ってくる。正直これだけで射精しそうになるのだが、マドカの力加減と抑え込みは絶妙で、どうしてもイけない。
キスまでもが優しく、真宏は監禁されているという境遇を忘れそうになる。眼前でちょっとよどんだ目をしたこの女の子は自分の恋人なのではないかと、そんな錯覚に襲われる。
「はぁ……♡ いまにも射精しそうだな。こうなると、もう女を犯さずには収まらないだろう? さあ、スるぞ。お前が犯していいのは、私だけだからな♡」
その錯覚に浸れたら、と思わないでもない。
夢の世界に誘うのが現実を忘れたマドカの瞳なら、決して逃がさないと雄弁に語り現実に引き戻すのもまた、マドカの目の奥の闇なのだが。
さっきまでの丁寧な愛撫はどこへやら。
真宏の服の前を開きながら跨り、肉の切っ先を自分の秘裂に突き付ける。少し腰を前後させて、愛液をなすりつけながら場所を整える。
くぷり、と少しだけ先端が埋まる感触。見下ろしてくるマドカの目がうっとりと孤を描き、真宏の胸に諦めが湧く。
ああ、また今日も犯されるのか、と。
同時に、薬とそして真宏自身に由来する、確かな興奮も感じながら。
「は、はああああぁぁぁぁぁぁ!! んんんん~~~~~~~~~~~~~!!!」
「んっくぅ!? い、いきなり奥まではキツいぞ、マドカ!?」
「仕方ないだろ、真宏ぉ。こんなに大きくて、熱くて、気持ち、んっ! いいんだ。我慢なんて、できるわけない♡」
繋がったまま、体を倒して肌を重ねてくるマドカ。情緒も何もなく、獣欲に導かれてのセックス第一の行為であるため服の脱ぎ方は中途半端だ。下着も脱がず、ずらしてハメている。
だがマドカは肌が触れ合うことを好む。互いの服の前を開け、胸と胸を、腹と腹を合わせると狂気に満ちた表情が安心したように少しだけ緩む。
それはもしかして、マドカはこうなってからようやく人の肌の温かさを知ることができたからではないか。そんな想像が脳裏をよぎると、抵抗の気力が萎えて媚薬によって煮えたぎる性欲が鎌首をもたげた。
ぐりぐりと腰をひねり、ざわめく膣襞で竿をいじめながら、しかしマドカの両手はそっと真宏の頬を包み、ゆっくりと顔を近づけ、キスをする。
唇をこすり合わせ、ついばみ、軽く舐める。
まるで、愛し方を知らないかのように、おずおずと。
そんなことをされると、かわいく思えて仕方がない。
薬の作用であることは自覚しているが、それでも少しはこの少女のことを好ましく思う部分が自分の中にあるのだと信じて。
まあ、何度もがっつり犯しに来る子が今更そんな初心な理由でこういうことをしてくるわけねーよなとわかってはいるのだが。
「んちゅ、はぁ……♡ 真宏とのキスはいいな。だが、しばらくお預けだ。……もう、私が我慢できない。もらうぞ、お前の精液。孕ませる気で射精しろ。いいな?」
「ま、マドカ……」
真宏の胸に手をついて体を起こしたマドカが、再び見下ろしてくる。舌なめずりをして、足に力を込めたのがわかる。短く浅い呼吸を繰り返しながら、紅潮した顔と正気を失う寸前の目。
そして何より、真宏自身の内側で荒れ狂う衝動。もう止まらない、止まれないだろうという予感が確信と呼べるほどのものとなる。
じゅぷぷぷぷ、と引き抜くときには大きな音がする。マドカの膣襞が放したくないと縋りついてくるせいで、めくれ上がった粘膜の色が鮮やかだ。
「ふーっ、ふーっ……! さあ、イくぞ。このまま腰を落としたらもう射精するまで絶対に止まらない。絶対に抜かない。いいな?」
「あ……あぁ……!」
「その表情……! そそる、そそるぞ真宏! さあ、はじめよう……か!」
「ぐううううううぅぅぅぅ!?」
「ああああああああああああああああ! いいいいいいいいいい! イく! 奥でイくうううううう!?」
マドカが足の踏ん張りをやめた。
重力がその体を引いた。
抜けそうになっていた肉棒は温かく、ぬかるみ、しかし愛おしく全方位から締め付ける膣肉を一気にかき分け、その先端が襞とは異なる感触にキスをされ、マドカが絶頂した。
締め付けが一気に強くなり、真宏の心臓は爆発寸前に鼓動を早め。
「あぐうううううううううううううう!?」
びゅうううううううううう~~~~~~~!! びゅる、びゅるるるるるる!
沈むマドカの腰を迎え撃つように、勝手に反った体がぶつかる子宮を突き上げる。
ちかちかと明滅すらし始めた視界は意識が落ちる寸前で、最後に見たものは。
「あ、ぁが……あへ、ひぁ、ん! 出てる、しきゅう、いっぱいに……真宏ぉ♡」
真宏の顔の左右に手を突き体を支え、だらしなく緩みきった幸せそうな顔で膣内射精を堪能する、マドカの顔だった。
そして。
ちくり。
「痛っ! ……ま、マド、カ……?」
「ん? これか。なに、心配するな。ただの媚薬だ。……食事に混ぜたのよりだいぶ濃いから、最高にキマるだろうがな」
首筋に感じた痛みと、いつの間にかマドカの手に握られていた注射器。全ては注入しなかったのだろう、注射器の中には残りの液体と薬の成分の抽出元である黄金立方体が輝いていた。
その事実にゾっとする。すでに一服盛られる程度のことは日常の一部となりつつあるが、マドカは今なんと言った。
媚薬だと、濃いと言っていた。
経口摂取ですら、既にマドカを犯したくてたまらないほどの興奮を必死に抑えているというのに、こんなことをされたら。
ドクン。
まともな思考はそこで途絶えた。心臓が妙に強く鼓動を打って。
「ぁ、あ……ああああああああああああああああああ!?」
「きゃあ♡」
そこから先、しばらく真宏の記憶はない。
意識が闇に落ちるわけではない。
だが体の内から燃え上がる炎だけが、真宏の体を動かした。
◇◆◇
「――ぁぁぁあああああああああ!!! ……ぁ、あ?」
「んぶううううううううう!!!?」
信じられないほど大きな自分の叫び声で意識を取り戻した。
下半身から広がる脱力の衝動と、無意識に力が込められて自分の意思では動かせない両手。
状況を把握するのには数秒を要した。意識の断絶と、最高に気持ちのいい射精の最中に物事を考えられる人間などいない。真宏もその例に漏れるものではないからだ。
「ま、マドカ……!」
「んぐぉえ、む、ふーっ、んくっ、んくっ、ぢゅうううううう!」
「くぁ!? そ、そんなに吸われたら……!?」
真宏がいまいるのは、当然監禁されている部屋の中。
しかしベッドの上ではない。部屋の隅の壁際で、真宏は立っている。
首輪と鎖は付いたままだが、鎖が絡まっていた両手は自由だ。きっとマドカが途中で外したのだろう。
ちなみにそのマドカは、足元にいた。
壁にもたれるように座っているので、ちょうど頭の位置は真宏の腰のあたり。
そして今まさに真宏の両手で頭をがっしりと捕まれ、口に肉棒を根元まで突きこまれ、喉奥に無理矢理射精されている真っ最中だった。
「はーっ、はーっ、んぶぉあ……ふふふ、正気に戻ったようだな、真宏。……犯し返されるのも、よかったぞ♡」
「ま、また俺は、こんなことを……!」
ようやく射精直後の痙攣その他が収まり、体の自由が戻った真宏。これ以上マドカに負担をかけないようにゆっくりと口内からいまだ萎えずにいる肉棒を引き抜くと、マドカは口元から涎と飲み切れなかった精液を滴らせながら、それでも笑ってみせた。
真宏はまだ体が自由にならない。というより、本能が体を動かしている。マドカの口から抜いてなお射精が止まらない肉棒をマドカの顔に押し付け、精液で汚す。ぐりぐりと頬に、額にこすりつけ、白濁にまみれさせていくのが止まらず、それが無性に気持ちいいことに嫌悪感しかわかなかった。
媚薬が効きすぎて居たようだ。真宏は記憶を失う程に理性を消し飛ばし、マドカと散々に交わっていたのだろう。
マドカの顔の有様を見れば、その事実は明らかだ。強引なイラマチオをしていた今さっき以前にも、何度も口奉仕をさせたらしい。千冬に似て整った美貌が精液で汚されている。髪にまで付着した粘液は、マドカの口を使ったのが一度や二度ではないことを物語っていた。
当然、下半身の有様もひどい。
力なく投げ出された両足は腿からつま先まで二人の体液まみれで、見ている間にも膣からこぽりと精液がこぼれ、水たまりのようになっている精液だまりにまた1滴精液が追加された。何度射精したのか、見当もつかないほどの肉欲の証拠がそこにあった。
「ふふふふふ、やはり薬はいいな。私が犯すだけではなく、真宏も私を犯してくれる。ギラギラした目で私の体を貪ってくるのも、私がどんなに悲鳴を上げても構うことなくこの体をただ射精するための道具のように扱われるのも、お前がしてくれるなら最高に幸せだ」
「ぁ、あぁ……!」
媚薬を使ったのも、それで真宏を獣に変えたのもマドカ自身が望んでのことだ。
だが結果として、自らの手でマドカをこうまで汚したことは変わりない。その事実が真宏を苛む。頭を抱え、苦悩の叫びをあげることしかできなくさせる。
そして。
「……んふ♡」
その様こそが、マドカの望むものでもある。
真宏はこれまでの人生を平穏に生きてきた。天涯孤独だったり、どういう行政の手抜かりか年齢一桁のころからほぼ一人暮らしをかましたりと普通とはとても言えない境遇ではあるが、当人はごくごく普通に生きてきたと思っている。
一夏のような友人がいた。千冬のような恩人がいた。IS学園に入学してからは同年代の女の子に囲まれ、一夏ほどではないがいわゆる青春と呼んでいい人生を歩んできた。
そんな男が、今は自分のことだけを考えている。
ファントム・タスクが捕えてこの基地に監禁して以来、真宏と会った人間はマドカだけ。真宏に触れた女はマドカだけ。真宏が食べたものは全てマドカが用意した。
愛しいと思った男はマドカの全てで、今は真宏にとって自分が全てだ。
マドカに盛られた、受け入れざるを得なかった薬のせいでマドカを犯したことを悔いるのではなく、乱暴に扱ってしまったマドカの身を案じて頭を抱えている。そのことが嬉しく愛しくたまらない。
それはもう、苦悩する真宏の様を見ているだけで新たな愛液が零れるほどに。
「ま・ひ・ろ♡」
「マドカ……うわあ!?」
マドカの足腰はほとんど力が入らない。だから床を這うようにして近づき、しなだれかかって押し倒す。今日最初にシたときと同じマドカが上の状態で、しかしもはや二人の体を覆う布は1枚もなく、互いの太ももが、腹が、胸が、そして顔を寄せれば頬と頬がこすれ合う。
これまでの行為で昂った体はそれだけでも軽くイきそうになるが、マドカは必死に耐えながら真宏に縋りつく。体力が尽きかけているのはお互い様。そのうえ心が折れかけている真宏に、もはや抵抗の余地などない。マドカのなすがままだ。
だから、鼻がこすれるようなほどに顔を近づけ、真宏の目をのぞき込む。
「真宏」
「ま、マドカ……?」
「……好きだ、真宏」
「!」
何を言おう、と考えているわけではない。ただ、想いがそのまま言葉になる。それだけで、真宏の顔が赤くなる。すでに取り返しがつかないほどに爛れた肉体関係にあるというのに、いまだその心は堕ちていない。
そのことが、マドカはとても嬉しい。
それでこそ堕とす価値がある。
それでこそ、愛して愛されたくなるのだから。
「目を背けないでくれ、真宏。こうしてお前の顔を覗き込むと、お前の瞳の中に私が映る。私だけが映る。そのことが、この上なく嬉しいんだ」
「あ、あ……」
そう言うと、真宏の目が磁石のようにマドカに吸い寄せられ、逃げられなくなる。真宏の瞳に映るマドカは笑っている。ただし、どこか狂ったように。だがそれに気付けるということは、真宏がこんな自分からすら逃げずにいてくれているという何よりの証。
「真宏。……ん」
「……ちゅ」
唇を尖らせれば、何も言わなくともキスをしてくれる。
薬の効果はまだ切れていない。優しいキスは次第にどちらからともなく舌を絡める濃密なものへと変わり、マドカの臍を犯すように無意識に腰を揺らしてくる真宏から先走りが滴っている。
「ぷは。……まだ、出来るな?」
「もう無理だ、と言って聞いてくれたことはないだろう」
「ふふふ、それもそうか。……じゃあ、またお前を犯すとしよう。そうすれば、そのあと真宏からもう一度犯してもらえるかもしれないからな。……さあ、今度はこっちだ」
「!? ま、待てマドカ! お前そっちは……!」
「あぁ、さっきもずっと前しか使ってくれなかったから、私のアナルが寂しがっているんだ。こっちも、お前の精液でいっぱいにしてくれよ、『私の』真宏」
マドカの体は、どこもかしこも真宏専用だ。
膣内は真宏の感じる場所を的確に締め上げ、腸内もまたぴっちりと根元まで受け入れ、入り口でキツく締め上げ射精を促す快楽器官。そうなるように、これまでの交わりで体を慣らしてきた。
真宏はマドカのもので、マドカは真宏のもの。そうなることがマドカの幸せで、真宏の幸せにもしてみせる。
女の情は深く、マドカの愛は暗い。
今日の肉悦もまた、終わらない。
「ふ……んんんおおおおおおおおお! いいいいイグ! イグううううう♡♡」
「あああああ、マドカあああああ!?」
今度は前と違って時間をかけて。
ぐりぐりと腰をひねってねじ込むようにして尻穴の中へといざなうマドカ。尻肉が真宏の腰をぐにりと圧迫するまでの間に3度絶頂して、一方真宏はそのたびにキツくなる締め付けと、下腹を濡らす熱い愛液の刺激に全て耐えた。
それはつまり、これからの射精が濃く、熱くなるということで。
「はは、ははははは! あはははははははは!!」
「や、やめ、そんなに激しくされたら、あああああああ!?」
じゅぷ、じゅぱっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ!
激しく上下する腰に合わせて絡みつき、引き剥がされ、また包み込むマドカの腸粘膜が搾りつくす真宏の肉棒の熱さが、マドカの心の奥の冷たさを、いまだけは忘れさせていく。
「なあ、真宏。『愛してる』と言ってくれ。今だけでいいからぁ♡」
「な、何を……!」
「一度でいいんだ。私のことを、愛してると。私はお前の女だと。言ってくれるなら、私の全てをやろう。このまま何度でも射精していいぞ。お前の子供も産んでやる。だから、な?」
ぱくぱくと口を開いては閉じる真宏。
それが言葉を言うべきか言わないべきか迷っているのか、マドカの尻穴の締め付けに震えているのかは、わからない。
だがもし本当にそう言ってもらえたら、マドカは実際に全てを差し出すだろう。
真宏の望む全てを成して、マドカが望む全てを叶えてもらう。二人が本当に一つになる。そうできると、少なくともマドカは信じている。
アナルセックスはやめない。やめられるわけがない。真宏の答えを聞くより先にイきまくりそうだ。
だがそれでも、この言葉だけは聞きたい。
マドカがそう願い、自分だけを映す真宏の瞳を見つめ続け。
「……」
迷い、とまどい、それでも決意とともに真宏が答えを返そうと、口を開き。
◇◆◇
「……………………………………………………………………………………………………」
マドカは、目覚めた。
過去最悪に爽快で、過去最高に死にたくなる、人生史上間違いなく初めての寝覚めだった。
マドカは夢を見た。その内容は覚えている。
くっきりばっちりしっかりねっとり覚えている。目を閉じればすぐに目蓋の裏で夢の記憶を再生できそうだ。というか夢のくせに目覚めても全く忘れられる気がしない。そして、体には夢の中で受けた感触が残っているような気さえした。
肌の上を這いまわる指の硬さと熱さ。胸を、尻に沈む手。唾液の甘い味も、耳元でうなりを上げる鼻息も、いまもすぐそばにあるような気がするほどに。
最後に戸惑いながら、しかしはっきりと告げられた言葉は、今この耳元で言われたかのように、現実と区別のつかない幻聴となってリピートされて。
「……ぅう、うううううううううううううう!!!」
その一つ一つが致命傷。
マドカは布団をかぶってうずくまり、その日一日ベッドから出ることすらなく。
「真宏、か。……よし、殺そう」
翌朝いろんな葛藤を振り切ったマドカは、なんかもうあの男を殺すしかないという結論に達していましたとさ。
ただし、耳まで真っ赤な、乙女の顔で。