エディス《6の咎柱》 作:井浦
特別何になりたい理由でもなく、
之から何かをするという野望も持ち合わせてはない
〝つまらない人間〟
あからさまに俺は普通何ですって振舞ってるけど、
〝何か〟特別な事が起きないかと馬鹿みたいに信じてる。
面白い〝何か〟を期待して今日もまた生きてる
都会の街並み、高層ビルに囲まれた街よりも少し離れ。
田舎という訳でもなく、だからといって都会でもない、そこそこ緑と建物がある普通の街。
高層ビルが並ばない街に容赦なく照り出す陽は、アスファルトに熱を帯びさせるのに充分で裸足で歩くとしたらきっと火傷する。その暑さを待ちわびたとばかりに鳴き止まない蝉の合唱は想像絶する程五月蝿い。
「あっづー………」
炎天下ともいう真夏日に運悪く、体を冷やすドリンクが冷蔵庫から切れていて自動販売機へと向かう少年。
宮上鳴(みやがみ なる)、フリーターで生計を立てる19歳の若い少年。久しぶりのバイト休日に怠慢していたいと思った矢先、まさかの冷蔵庫にドリンクがない。なんて自体。
外に出て5分も経たずに根をあげている。
「なんでこんなに馬鹿暑いんだよ……」
自動販売機は近くにないし、と舌打ち。
鳴の家から自動販売機までの距離は10分。往復もすれば30分程はかかりするも、一刻も行かない距離でもこの暑さではどうも長く感じるらしい。
若しくは暑さあまりにダラダラと歩いているせいで、本当に何時もより長く時間をかけてるかもしれない。
「あれ、鳴じゃん!ひっさしぶり!!」
この暑さにも関わらず元気のいい声に眉潜めつつ、下に向けていた目の矢先を前へと移し直す。
「……あ、海斗じゃん」
「本当1年ぶり、元気にしてたか?」
海斗。彼は鳴の高校時代の友達であり、今は大学生を満喫している。その証拠に海斗の身に纏う制服は新品の時より少し色褪せ、使っているカバンは教材等がたくさん入っているのであろう。カバンから悲鳴が聞こえそうなぐらい膨れている。
「はは、フリーターを満喫してるとこ。海斗は相変わらず勉強とかで忙しいわけ?」
「明日には小テストがあってさ。今から大学の友達と勉強しにいくとこ」
じゃっ!と軽い挨拶だけを済まして海斗はアッサリと走り去って行ってしまった。
そんな友人を暫く鳴は見つめる。別に寂しくはない、鳴自身が選んだ道と海斗の選んだ道が違っただけなのだから。
自分はフリーター、海斗は大学生。
海斗は社会教師になる事が夢らしく、その為に大学の難しい勉強を一生懸命にやっているらしい。
大学生とは鳴が想像する以上に忙しく、だから会って話す機会もほとんど無い。それがどうとかではないが、ふと鳴は考えてしまう。
――自分は今なにをしているのだろう
何の目標もなく、生きれるだけの収入があればいい。特別なりたいものも、叶えたいものもない。だから行きたい大学や専門学校もなく、それよりは収入を得た方が賢い。鳴は結論してたからこそ、今の生活に不満はないはず……
けれど時折見かける友人を見ては、ふと先程の事を思い出しては羨めしい気持ちが仄かにあがる。
「おっと………コーラ買うんだった」
干渉に浸るものの炎天下。ふと我に帰れば本来の目的を思い出し、足早に自動販売機のある道へと歩いた。
とはいえ元からそこ迄距離はないため、足早に歩けばもう曲がり角を過ぎれば自動販売機はすぐそこ。
その曲がり角を曲がろうとした時、常に下目線で歩いていたのが仇となり曲がり角から出てきた青年とぶつかりそうになった。ギリギリ青年の方が1歩足を踏み込むの遅らせた為ぶつからなかったらしい。
「うわわ!すみません!」
咄嗟に鳴は謝りながら漸く視線をあげる。其処にいたのは日本人とは思えない、しかし少し茶の混じった金髪を腰まで長くなびかせた頭1個分背の高い青年。謝りつつも目を疑い「こんな人もいるんだ」とつい関心そうにじっと見ていた
「………なに」
「…あ、すみません」
生気のないような無心な隻眼がジトリと見下ろされ、低めの声が耳に響く。思わず謝りながら1つだけ会釈をする。
鮮やかな緑色の瞳はまるで鳴がそこにいないように、その先を見通すような視線に鳴は視線を逸らしながら「えっと、俺はコレで」と呟き青年の横を通り過ぎた先、その先にはやっとで目的の自動販売機。
ほっと安堵をしながら小銭を入れてコーラのボタンを押す。何を思ってかその鳴の行動をずっと青年はみており、少し不気味とさえ思ってしまったのは失礼と承知。
「それ…………なに?」
「―――えっ?」
「それ」
いきなり声をかけられたと思えば青年の指が指すのはコーラの缶。思わず二度見しつつ更に怪しさは増すばかり。
まさかコーラの分からない人間がいるとは思いもしなかった鳴であった。
「コーラ、だけど」
「―――ふーん」
聞いといてソレかよ!!!!
思わず心中でツッコミながら缶を持つ手に力が入りパキッと音が鳴ったのは気にしない。しかしまさか聞いておいて反応はいまいち、というか〝どうでもよさげな〟態度。
ダメだ、さっさと帰ろう。そう結論づいて鳴はまた青年の隣を横切ろうとした時―――
爆発音みたいな、現実味のない音が五月蝿く
蝉の鳴き声さえ消した。
バキッ、ビキッ
「…………はっ?」
思わず間の抜けた声をあげる。何故か鳴は、先程まで不気味と思っていた青年の肩に担がれて、先程まで居た場所は地割れのように割れて煙だっている。その様子からして〝今さっき起きた出来事〟と割り切らずにはいられない。
「何が起こって………」
「ギャハッ!普段だらけてるつーのに、こういうのは上手いなぁローゼ」
煙だつ其処から声がし目線を移せば、微かに煙の晴れた所から現れたのは鮮やかな青い髪をした、まるでヤクザを思わせるような雑な口調と顔を隠すようにサングラスをかけている。青年………いや、少年というべきな中性的な声をしている。ローゼと呼ばれた青年は気だるそうに首を傾げながら「痛そうだし」と呑気に答える。
その答えを聞いてもう一度割れたアスファルトを鳴はみる。冷静に考えてもコレは〝痛い〟ですむ衝撃じゃないと口角が釣り上がりひくつく。
「その様子だと、〝まだ〟契約はしてねーようだナァ?俺様に大人しく喰われとけ」
「……それは、困る」
鳴を何故か抱えたままのローゼは、青い髪の少年とは真反対の方向へとそのダルそうな見た目から想像し得ない速さで駆け出した。人間では到底有り得ない、その速さで…
「ちょっ!?ま、何で俺も逃げなきゃなんだよ!!!」
関係ないでしょと青年に視線をやるも視線を向けられる事はなく
「あの場に置いていたら、……アンタ喰われてるよ」
とさも当たり前にいう。先程から何を〝喰う〟〝喰われる〟等話しているのやら、鳴には到底思いつかない。聞いてもないのにローゼは呆気なくその答えを口にする。
「………俺達、悪魔は人肉好むし」
「―――――はい?」
何とも現実味もなく、想像しえない答え。
口を呆気て開けていてはローゼは〝口、閉じてないと切れるよ〟と忠告しては本人の応答有無問わずに更に早いスピードで駆け出していった時鳴は心の中で絶叫したとか。
続.