その日。プレシア・テスタロッサの魔導端末に、一通のメールが届いた。
送信先の分からない音声メッセージに困惑したプレシアだったが、その内容を見て驚き、恐怖した。流れてくる声は、落ち着いた中年男性といった感じで、特に音声加工されてはいない。しかし、そのくたびれた声から聞き取れたのは、大魔導師プレシアに対する、極めて効果的な脅迫であった。
『単刀直入に言おう。私はプロジェクトFについて、また君が所有しているアリシア・テスタロッサのクローンについて全てを知っている』
プレシアの一人娘、アリシア・テスタロッサの代わりとしてのクローン――今では『出来損ない』として道具に育て上げているフェイト――を作る時、プレシアが一番苦慮したのが、機密保持であった。幾つもの『材料』を法に触れるような場所で入手しなければならないし、人道的に おいても、ミッドチルダの法においても、人間のクローンというのは禁忌である。だから、わざわざ自分の家に、プロジェクトFの研究所を模した作業場まで作り上げたのだ。
しかし、このメッセージはそれら必死の工作が全くの無意味であることを証明していた。この事実を晒されたら、プレシア・テスタロッサという個人と、その願望――愛娘アリシア・テスタロッサの蘇生――は潰えてしまう。胸が震え、長年の研究で標準以上に痩せた身体も同じく震えている。顔からは汗が吹き出していた。
続くメッセージにはこう書かれていた。
『それに、君が何を望んでいるのか、どのような方法でそれを果たそうとしているのかも、ある程度察しているつもりだ』
プレシアの震えは更に大きくなった。開きっぱなしになっている口から、自分の耳でも聞こえないほど小さいうめき声が出たと感じた。自分が何処で漏らしたのか、メールの主が何処でそれを知ったのかはわからないが。こいつは自分の考えている『方法』をも予測しているというのだ。
しかし、次の言葉は以外なものだった。
『だが、それを為すのは君の自由で、私の干渉する所ではない』
この文面を読んで、プレシアの頭にあった恐怖の一部が困惑へと変わった。
自分のやることには干渉しない、だと?勿論、その言葉を、そして今まで聞いたことを、額面通りにそのまま信じるわけにはいかないだろう。
が、もしこれらが全て本当だったとして、こいつは何故自分に脅迫じみたメッセージを送ってきたのだろうか?理屈を考えると、どうにも解せない所が多い。愉快犯かもしれないが、引退した研究者である自分一人をおののかせてみせて、一体どんな楽しみがあるのか?兎に角、プレシアは続きを見ようと指を走らせた。その指は少し前と違って、それほど震えてはいなかった。
『このメールで私が提案するのは以下の2つだ。
一つ、君が所有するクローンを私に提供すること。
一つ、クローンの代替として、私が君に戦力を提供すること。
それほど悪い条件とも思えないが、どうだろうか?返答はこれから言うアドレスに文書で送ること。先ずは君が乗るか乗らないか、その後に委細を決めるとしよう……』
そして、この条件を見た時に、プレシアはますますこの男の目的を予測できなくなった。写し身として出来損ないの、たがが魔法が使える程度のクローンに、こいつは何の用があるのだ?
自分の知識の大半を与えたリニスに育てられて、デバイスと自身の使い魔を持っているから、魔導師としてはまあ使えるだろう。しかし、この庭園と自分の家しか世界を知らず、しかも『生まれ』てからまだ三年も経っていないのだ。人格形成には、多少問題があると見ていい。
そしてそれは――成熟したメンタリティの欠如は――魔導師の戦いに於いて決定的な弱点となる。マルチタスクの猥雑さに振り回されず、しっかりとした術式を構成するには、心の強さが重要なファクターとなるのだ。
「彼女はもう立派な一人前」とリニスは言うが、その辺りをどうにかしない限り、技術は一人前でも、魔導師としてはそう呼べないだろうとプレシアは思っていた。しかし、リニスにメンタル育成の能力が無いということではない。プレシアがリニスを無意識に操作することで、敢えて健全な精神を育てないようにしているのだ。
それは何故か。
プレシアが欲しいのは『自分に唯々諾々と従う道具』であるからだ。自分で考え、自分で行動する魔導師は、プレシアの行動が禁忌だとわかれば、歯向かう可能性があるのではないか、ということである。フェイトには、プレシアを母親だと信じこませる、暖かく優しい記憶が刷り込まれてある。それがフェイトの心の拠り所になり、母に付いてくる雛鳥のように、プレシアの思う通りに働いてくれるのだ。
何しろ、『管理局と相対する』という最悪のケースを考えると、こちらには手駒が足りない。プレシア自身は大魔導師だが、病魔に蝕まれていて、表立って動けはしない。傀儡兵は信頼出来るが、動きが単調すぎるし、管理局の魔導師と対抗するには数が必要である。今の手持ちでは本拠地の防衛で手一杯だろう。だから、ある程度の弱体化を考慮しても、これが現段階で最善の方法である、とプレシアは考えていた。
が、この男の提案には、プレシアの現状を大きく好転させる可能性があった。男が何を用意しているかは知らないが、交渉の基本を知らない馬鹿でないならば、こちらにおいて、今のフェイトより安定した戦力を出すだろう。しかし、男はフェイトに何を求めているのか?幼い身体を、愛玩用にでもしつけるつもりなのだろうか。だとしたら相当な俗物だ。
(とはいえ、一度話を聞いてみる価値はあるみたいね)
信頼こそ出来ないが、提案が魅力的ならば、応じる利益はあるかもしれない。
プレシアはメッセージを保存し、男の語ったアドレスに、詳細を聞くメッセージを書き始めた。
***
それから、何週間か過ぎたある日。
フェイト・テスタロッサは日課の魔法訓練の終わりに、思いがけない物を見た。
いつも研究室に引きこもっていた母が、この日はフェイトのいる外の草原まで足を運んでいたのだ。傍らにリニスを連れて、プレシアはフェイトのところまで歩いて行く。しかしプレシアが数歩歩く前に、フェイトの方からプレシアに駆け寄っていた。
「母さん!」
感極まってプレシアに抱きつく。そんなフェイトを、プレシアは何も言わずに受け止めた。その光景を見たリニスは、(ああ、ようやくプレシアも素直になったのか)と涙腺を緩めた。リニスは、未だプレシアの真実を知らなかった。 だから、この光景を『研究熱心で不器用な母親が、初めて娘と向き合った』記念すべき場面だと思っていたのだ。
一方のプレシアは、抱きついたフェイトの身体の温かみを感じ、言い様のない吐き気を覚えていた。
……こんな紛い物が! アリシアの肉と皮を被った、出来損ないの人形が、一つの生命として熱を宿している!……
今すぐこの小さい悪魔を突き放したかった。突き放して、今まで溜まってきた恨みと憎しみを解き放ちたかった。だが、今は我慢しなければいけない。こんな気持ち悪い人形と付き合うのも、あと半日の辛抱だ。
「……フェイト」
クローン製造プロジェクト『F.A.T.E.』。そこから付けられた忌み名を呼ぶのに、プレシアがどれだけの忍耐を必要にしたのか。その言葉にどれだけの負の感情が篭っていたのか。ただの子供と山猫には、察することが出来なかった。
「フェイト。貴方に会わせたい人がいるの。ついて来なさい」
「はい、母さん」
一も二もなく返答し、すぐさまプレシアの三歩後を付いてくるフェイトに、プレシアはますます憎しみを募らせた。これで、意味もなく自分の母に逆らうのなら、プレシアとしても容赦なく、その憎しみを叩きつけられたのだが。
しかし、フェイトは世間一般で言う『良い子』であり、なにより母思いだった。それが、プレシアの心にこびりついた少ない良心を傷つけ、そして余計に憎しみを倍加させたのだ。
リニスに出かける用意をしろと命じ、自分から離れさせたプレシアが行くのは、かつてフェイトを作り出した実験場だった。フェイトにとっては、自分が初めて目覚めた場所だ。少しだけ懐かしさを覚えるも、ここまでくるとフェイトも疑問を覚えた。
――重い怪我が治って、自分は目覚めたはずなのに。今更どうして、こんな所に来る必要があるのか?
しかし。フェイトは言い出せないでいた。フェイトにとって、自分の母親の言うことは神託であり、為す事を邪魔するのは神への冒涜と同義であったからだ。プレシアはフェイトをベッドに寝かせ、そのまま装置を使って眠らせようとする。 事ここにいたって、ようやくフェイトは一言だけプレシアに問うた。
「母さん、何をするの」
プレシアは、いつもと全く同じ、冷たい声でこう答えた。
「遠い所にお出かけするのだから、身体に何かあると悪いでしょう? だから、念の為に、ね」
――遠い所って、どこ。
そう問いかける前に、フェイトの意識は闇に閉ざされた。
***
向こうから伝えられた転送座標を入力し、プレシアが飛んだ場所は、よくある談話室のような所だった。しかし、そこに待っているはずの男の姿がない。嵌められたか、と一瞬警戒するプレシアだったが、背後から聞こえるドアの開閉音を聞いて、抜きかけた鞭状のデバイスを懐にしまった。
「お待たせした。こちらも用意をする必要があったのでね」
男は、声から想像される外見より若干若く見えた。髪は適度にまとまっており、さっぱりとして、綺麗な青色のスーツが清潔な印象を感じさせる。中肉中背で、そこまで目立たないが、少しやり手のビジネスマンといった風貌だ。座ってくれ、と男は勧め、プレシアも応じてソファに座った。男は灰皿大の丸い機械を取り出し――恐らくこれが男のデバイスらしい――資料を投影させた。
プレシアが操作して見たところ、それは或る機械群の仕様書であり、どうやら戦闘用の装備を有しているらしかった。
「これは、ある戦闘メカの試作品だ。名前はないが、私はこれをガジェット・ドローンと仮称している」
男はさらに語る。この試作品を、プレシアに提供すること。さらに条件として、実戦データを開発先に送ってほしいこと。それさえ守れば如何様に使っても構わない、ということ。プレシアは落胆した。この男が出すのはこれだけなのか。只の戦闘メカなら、傀儡兵だけでも十分であるというのに。
その意を男に伝えると、男は笑って否定した。
「何もこれだけではない。この機械の真価は、機械自身のスペックではなく、他の所にある」
そして、男はデバイスを操作し、もう一つの資料をプレシアに見せた。
『アンチマギリンクフィールド』。効果範囲内の魔力結合を解いて魔法を無効化するAAAランクの高位防御魔法である。これの発生装置が、ガジェットドローンには搭載されているというのだ。魔力結合の解除。
これが従来の魔導師においていかなる脅威となるか、自身も魔導師であるプレシアにははっきりと理解できた。攻撃魔法はもちろん、飛行や防御、機動や移動に関する魔法も妨害されるのだ。しかも、最大クラスの濃度で展開できれば、Aクラス以上の魔導師ですら容易く無力化出来る。上手く使えば、一戦局どころか、これまでの魔導戦闘の有様を大きく変えることが出来る技術だった。
技術的にまだ未完成ではあり、満足できず不便な点もあるかもしれない、と男は付け加えた。しかし、プレシアにとって、これならば代替として十分使えるものだった。さらに、その納入数も驚くべきものだった。男は、たった一人の子供の魔導師の代わりに、地上型と空中型を合わせて100体以上のガジェットを用意すると提案したのだ。
「無論、アフターサービスもさせてもらおう。修理はこちらの工場で行うし……」
男の長い答弁を尻目に、プレシアの頭の中にある電卓は、冷徹な答を出した――出来損ないの人形よりも、この機械は役に立ちそうだと。こうしてプレシアは、クローンとはいえ、自分の子供を売ることになった。心の奥底に『娘』への情愛を失うこと無く。
ガジェットの受け渡し場所、データの送り先などはとんとん拍子に決まっていった。そして、プレシアが条件を果たす番が来たのである。
「交渉成立だな。では、早速ですまないが、彼女を寄越してくれ」
「いいわ。リニスに合図を送って、こっちに転送させましょう」
数秒後、談話室に、黒い余所行きの服をきたフェイトが転送されてきた。その場の冷たい雰囲気に、子猫のように怯えたが、視界にプレシアを見つけると、ほっと安堵の息を吐いた。プレシアがフェイトに近寄る。これでこの人形の世話も終わる。プレシアは胸の支えが取れるような気持ちを抱いていた。
「フェイト」
「はい、母さん」
「リニスから荷物は受け取ったわね」
「ここに全部あるよ、母さん。アルフも後から来るみたい」
どうやら、リニスは命令通り、何も疑うこと無くフェイトを送り出したようだった。今頃は、嫌がるアルフを風呂に入れて、清潔にしていることだろう。プレシアはフェイトの手を引き、男に向きあわせた。
「さあ、貴方の『お父さん』にご挨拶なさい、フェイト」
その言い方に、男は多少驚いたらしく、眉を潜ませ、訝しげにこちらを見た。
「こんにちは。フェイト・テスタロッサです」
プレシアはフェイトの記憶を操作して、この男を『父親』として認識させたのだ。どうせ、この男もフェイトを人形のように操るのだろう。ならば、こうしてフェイトの依存先になった方が便利であろうという、思惑だった。
【私なりの『アフターサービス』ですわ】
プレシアはほくそ笑み、男に念話した。男もそれを受け取ったらしく、苦笑して応対した。
「フェイトはどうしてお父さんの元へ行くのかしら?」
「母さんの研究が忙しくって、邪魔をしないようにです」
【誰かに売り飛ばすなり、そういう不都合があるならまた記憶を操作しても構わないわよ】
【いや、これでいい】
そう返した男は、驚きから覚めて、にっこり笑顔を浮かべてフェイトに応対した。どうやら、『アフターサービス』を受け入れたようだった。
「始めまして。カイトだ。これからよろしくな」
「父さんって呼んでいいですか、カイトさん?」
「いいとも」
カイトが手を伸ばし、フェイトがそれを受け取った。これでフェイトは、プレシアの手から解き放たれ――さらに束縛されることになった。
「ではプレシア。私はこれで」
「ええ、さよなら」
【二度と会うこともないだろうが、貴方の旅路に幸運を】
【貴方なんかに言われなくとも、辿り着いてみせるわ】
男はフェイトの手を引き、談話室から出る。それを見届けたプレシアは、満足と肩の荷が下りた快感を覚えつつ転送魔法を構築し始めた。
……もうリニスを保持する必要も無くなった。またアリシアと二人きり。二人きりで挑むのだ。悲しい出来事に、こんなはずじゃなかったことに……
プレシアは転移を完了し、談話室は無人になった。
***
「此処が、今日からフェイトの暮らす場所だよ」
フェイトが案内されたのは、アイボリー色の壁紙が引かれた、フローリングの子供部屋だった。
とにかく沢山の物が置いてあった。黒に黄色のアクセントの布団があるベッド。大きい勉強机。分厚い魔導書と絵本とがごちゃ混ぜになっている本棚。おもちゃ箱には、男の子用の玩具と女の子用の玩具の両方が一杯に詰まっている。
どうにも奇妙な部屋だった。
「何が好きかも分からないからね、適当にたくさん買っちゃったよ」
たはは、と笑って頭をかくカイトを見て、フェイトは、心に熱い物が湧いて、それが喉奥から出かかっているように感じた。
……優しい。この人は優しいんだ。思い出にある母さんみたいに。そして、ここでアルフと一緒に、父さんと一緒に、暮らすんだ。母さんと離れるのは寂しいけど、でもきっと、また、会えるから……
「どうしたんだ、フェイト、泣いてるじゃないか」
そう言われて、フェイトは始めて自分の涙に気づいた。よく見ると、鼻水まで出てきている。フェイトは、ごめんなさいと謝った。涙で部屋を汚して、父親に迷惑をかけてしまったからだ。もしかしたら、叩かれるかもしれない。フェイトは覚悟したが、だが、カイトはフェイトの予想を超えた行動をした。フェイトをぎゅっと抱きしめたのだ。その堅い胸が、フェイトの顔に当たって、カイトの心臓の音がフェイトの耳に聞こえてきた。すると、フェイトの心はますます熱くなって、涙も鼻水も枯れること無く出てきてしまうのだ。
「ご、め、ん゛、な、さ、いぃぃぃ」
「いいよフェイト、お前の気が済むまで泣くんだ」
フェイトの涙は、真夏の夕立のように激しく、そしてそれが止んだ後に、爽やかなものを残す涙だった。泣き止んだ後も、フェイトはずっと抱きしめられていたかった。この幸せに全てをゆだねて、溶けてしまいたかった。
「フェイト。幸せかい」
「はい、とても、とても」
「じゃあ、俺の目を見るんだ」
上げられたフェイトの顔からは、幸せと喜びがにじみ出ていて。それを見たカイトは――
――とても酷く、興奮した。
***
――ピチャ、チュ、チュプ。
ベッドにあぐらをかいて座っているカイト。その股ぐらには……いきり立った一物を、一生懸命に舐めているフェイトがいた。まだ幼い女が、男の前で跪き、口淫にふけっている。とてつもなく背徳的な光景が、明るい子供部屋で行われている。その事実から吹き出す生暖かく影の濃い臭気が部屋に充満し、カイトは勿論、自分のやっていることが何か、まだよく分かっていないフェイトにさえも、ほんの少しだけ興奮を覚えさせていた。
「んむっ、ん、ちゅ、ちゅっ、れろっ」
時には亀頭を唇でついばみ、次は淫棒を舌で舐める。それは、まだ手探り状態と言うべきたどたどしい奉仕。しかし、フェイトの目は、全力で魔導の訓練をしている時のように真剣そのものであった。
……これをすれば、お父さんが喜んでくれる。お父さんが喜んでくれれば、私も嬉しい……
フェイトの頭の中は、この二文節の理論だけで埋め尽くされていた。
「いいよ、フェイト、いい、とてもいいよ」
口程には快感を感じていないカイトだが、フェイトの懸命な様子に、限りなく興奮していた。快楽神経をシャットアウトしていても、その仕草だけで射精出来るほどだ。
「フェイトは、誰の子供なんだ」
カイトは、優しく問いかける。フェイトは、少しだけ虚ろになった目を、カイトに向けて、応答した。
「ん、んぶ、んちゅっ」
【父さんの、子供です】
「お母さんは、いるのか」
【父さんだけ。私の大切な人は、父さん。父さん、父さん、とうさんっっ】
あの時。幸せの絶頂にいたフェイトは、カイトの目が妖しく藍色に光っていたことも、その目の中に丸いミッド式魔法陣が展開されていたことにも気づかなかった。フェイトはその光を脳髄で受け取り、限界まで駆動していた機械が、オーバーヒートでぷつんと動きを止めるように、意識を閉じた。そして、カイトはフェイトの意識を、やわらかい紙粘土をこねるように容易く弄ったのだ。
カイト・フォレスターはレアスキルを持っている。「意識操作」とカイト自身が名付けたそれは、目を合わせた人間の意識と記憶を操作できるものであった。一見反則じみた能力のように思える。しかし、この能力にも不便な所があって、対象にする者の心理が、自分の内面へのカイトの干渉を許すほどカイトに寄っていないと効果がないのだ。それこそ、対象がカイトを自分の親か家族か恋人のように思わない限りは、発動しない。諜報や謀略には、まず役に立たないだろう。
だが、一度能力を発動できればしめたもので、対象の趣味嗜好から主義主張まで、自分の思い通りに操作できる。
その点において、あの『アフターサービス』は便利だった。お陰でフェイトは時間を掛けること無くカイトを『父親』だと認めてくれた。そして自分の言う『娘は父親に奉仕をする必要がある』という言葉を受け取って、今のようにカイトの性器をフェラチオしているのだ。
「ちゅ、じゅる、れろ、れろ」
【父さん、気持ちいい? 気持ちいい?】
フェイトの念話には、「気持ちよくなってほしい」という真心と「気持ちよく無かったらどうしよう」という不安、そして、2つが相混ぜになった「気持ちよくなってください」という懇願の感情が溢れている。それは、カイトの保護欲と欲情を同時に満たし、彼の脳にガツン、と響く麻薬だった。
「あぁ、フェイト……いくよっ」
それがとどめになった。カイトは自分の白い欲望を、容赦なくフェイトの顔に噴きかけた。
「きゃっ!……これ、なに?」
「これはね、精液と言うんだ。男の人は、気持ちよくなったらこれが出るんだ」
「そうなの? じゃあ、私、父さんを気持ちよく出来たんだ!」
汚液を顔に掛けられ、人としての尊厳を踏みにじられながらも、それに気づく素振りすら見せずフェイトは微笑む。フェイトの、この責務に対する忠実さと、親類に抱く愛情は、カイトが以前『見た』フェイト・テスタロッサと全く違う所の無い物であった。
実のところ、カイトは若き日のプレシア・テスタロッサにもアリシア・テスタロッサにも会ったことは無かったし、プロジェクトFに関わっていた訳でも無かった。
しかし、カイトは『知っていた』。プレシアの野望と、フェイトの献身を。そして、その結果として訪れる事件と、その顛末も。
前世の記憶。ふとしたことからそれを思い出したカイトは、その中で、彼女を含めた三人の少女に関する想いに触れた。
高町なのは。
フェイト・テスタロッサ。
八神はやて。
カイトの前世は、この三人の女性にかなり懸想していたようだ。そのイメージは鮮烈に刷り込まれていて、前世の魂を継いでいるカイトも、勿論彼女らに魅了された。ただ、大きく違っている所がある。カイトの前世では、彼女らが創作物であり『非実在』の存在であったことに対し、カイトのいる世界『ミッドチルダ』では、彼女らが『実在』の存在であったことだ。
そしてカイトは、三人を自分の物にしようと決心した。前世で叶わなかった恋を、想いを、この人生で叶えてやろうと、野心を抱いた。カイトにとって幸運だったのは、彼が自分の前世に気づいたのが、ミッドチルダの暦で新暦の52年だったことだ。彼女らが登場するにはまだ10年以上時間があった。その間に、彼女らを迎え入れる方法と、その舞台を整えることが出来るのだ。また、創作物としての三人の物語を覚えていて、この世界の裏にある事件と策謀を知ることが出来た。最も、所詮は創作物なので細かい点についてあやふやであったが、そこは自前で調べてしまえばいい。
時間と知識、その二つを武器にして、彼は邁進した。三人の女神を『自分だけのもの』にするために。
(その結果がこれだ。まずは一人、こっちに迎えることが出来た)
【父さん?】
【いや、なんでもないよフェイト。それより、もう一回頼む】
【うんっ!私、頑張るからね】
そしてフェイトは、カイトのものになった。能力も問題なく機能している。プレシアが今更フェイトを返せとも言わないだろう。
……しかし全てはまだ、始まったばかりだ。これからなのだ。更に奮闘しなければならない時が訪れ、そして幸せに満ち溢れた時が始まる……
【父さん、笑ってる。気持ちいいの?】
【うん、とても気持ちがいい。そして、幸せなんだ】
【そう。私も、とても幸せだよ】
……まあ、今はこれだけでいい……
金色の幼い女神が、自分『だけに』笑顔を向け、心を預けてくれている。その事実は、カイトにとってこれ以上ないほどに満足すべき結果だった。
第一話です。
ここから三話使ってフェイトを落としていきます。