色々と史実ネタやらオリジナルネタも入れてます。
(そもそも、この話自体、リメイクオリジナル。オリジナルを知ってる方々、申し訳ありません)
次号 コレヒドール島とマッカーサー。
1月20日 フィリピン パリハン 夕刻
バターン半島北東部にあるパリハンには日本軍前線司令部が置かれていた。
そして、その司令部にはフィリピン攻略軍の面々が集っていた。
「ふむ…やはり、バターン半島の防衛線は堅いか」
各所からの偵察結果に攻略を任された山下奉文大将は何とも言えなさそうに呟く。
「元々、マッカーサーの方針が『バターン半島とコレヒドール島要塞での遅延持久防衛』でしたから、事前に作られていた以上、堅いのは仕方無いかと」
攻略部隊の一角である台湾軍を率いる本間雅晴中将の言葉に皆が頷く。
「ですが、何時までもこのまま、と言う訳にはいきません。下手に攻略が長引くのは不味いですな」
参謀の1人である栗林忠道少将の言葉に面々は苦い表情を浮かべる。
「期間に制限は無いし、今のところ、重砲の弾もある。重砲で集中射撃、並びに空爆を数日間実施して、1度攻勢に出てみてはどうか?」
重砲部隊を率いる北島 驥子雄(きたしま きねお)中将が具申する。
「北部防衛線はそれで抜けるかもしれません。ですが、中部の第2防衛線で足止めをされる事は確実ですな」
「それにここで下手に弾薬を消費するのも不味い。幾ら期間が無いとは言え、逆に長引き過ぎるのも考えものです」
その具申に本間中将と栗林少将が答える。
既に幾度もやったやり取りであるが故に、堂々巡りな会話となってしまう。
では、何故、史実よりも戦力を投入し、史実よりもタイムスケジュールに余裕が有るにも関わらず(アメリカ軍も史実よりそれなりに増強されているとは言え)、こうも余裕がない様な状態に陥っているのか?
それは……『史実通りな日数がかかっている事』と『アメリカ国内への反応』の2点だ。
但し、『史実通りな日数がかかっている事』はスケジュールがない以上、『本来なら気にする事』ではない。
では、何故、それを気にするのか? この理由が2点目の『アメリカ国内への反応』である。
開戦から負け戦ばかりのアメリカ政府にとって、上陸から1ヶ月経過しても陥落していないフィリピンは格好の宣伝材料であり、実際、アメリカ国内での報道はアメリカ国民に『受け』はよかった。(それが国民の反応として支持率になるかは別として)
故にマッカーサーはコレヒドール島要塞のラジオ設備を使い、それを宣伝しており、下手な攻略戦長期化はアメリカ国民のこの戦争に対する『意識』を変える可能性もあり、無為に長引くのは了承していなかった。(ただ、後々にこの『宣伝』がアメリカ政府…と言うより、ルーズベルトの首を絞める結果になるのだが)
よって、フィリピン攻略軍首脳陣としては、何かしらの攻略の『きっかけ』を探っていた。
だが……その『きっかけ』は意外な形で、しかも、『ぽっと出』で出てくる事になる。
その日の夜 バターン半島東部 東部第1防衛線
若林東一(わかばやしとういち)中尉率いる将校斥候(直率一個分隊)は夕方から潜伏し、夜の帳が下りきってから行動を開始した。
バターン半島の封鎖が完了し、部隊が配置されてから主に夜間での将校斥候を行ってきた若林中尉は既に防衛線の歩哨の死角や哨戒線の孔を把握しており、この夜、行動をおこす事にしていた。
そもそも、上官より『もし、機会があると判断すれば、防衛線奪取の行動をおこしてもよい』と事前の下知を受けていた若林中尉は一個分隊を率いて、その『隙』を突きながら、1時間程で防衛線の後方まで突破した。
「よし、睨んだ通りだ。しかも、敵兵の士気も落ちてる、今が好機だな」
「はい。直ぐに伝令を出して、中隊に…」
その軍曹の言葉を若林中尉は右手を出して止めると同時に、中尉自ら警戒態勢に入る。
それはいつの間にか周囲が包囲されていたからだ。
が、その包囲してる部隊も何処か鈍い…まるで敵か味方か解らないとばかりに。
「ワー、シー、リップンラー」
そんな中、若林中尉は支那駐在経験もある為か、滑らかな発音で事前に伝えられた『合言葉』を発する。
それは台湾語で『私は日本人です』だった。
「総員、収めろ。すまない、友軍がまさか分隊規模で敵防衛線を突破するとは思っていなかったのでな」
明らかな日本語で周囲に伝えながら、擬装した1人の将校が出て来た。
「かまいません。これは将校斥候に乗じた単独行動なので…第228連隊第10中隊長、若林東一中尉です」
「台湾軍所属独立高砂族遊撃隊の安藤輝三中尉です。この西部防衛線での潜伏遊撃中です」
「高砂族隊か…事前潜入しているとは聞いていたが、敵中のど真ん中で会うとは…」
互いに友軍と解り、双方の指揮官が話を始める。
「我々も攻勢開始の報は受けていなかったので…となると、これは若林中尉の独断と?」
「上官の連隊長からは事前に下知を貰っていましたので…我々は今から中隊による防衛線奪取を開始する予定です」
「わかりました、我々遊撃隊も協力します。我々もどうにかして、防衛線を崩そうとしておりましたが、こうして突破した友軍と合流出来ました。この防衛線司令部も掌握しています。道案内を致しましょう」
「ありがたい、遊撃隊の力を借りれば百人力だ。お願いします」
……こうして、敵中での偶然の合流により、事は動き始めた。
2時間後 パリハン 攻略軍司令部
「なに!? 僅か一個中隊で防衛線の大半を、しかも無抵抗で確保しただと!?」
攻勢の素案協議中に入って来た報告に思わず山下大将が叫んだ。
「…どうやら、ウチ(台湾軍)へ増強部隊として送られた38師団所属の228連隊麾下の中隊長が今までの将校斥候で見付けた『孔』から敵防衛線を突破、後続の支隊(中隊)主力を使い、高砂族遊撃隊の協力を得て、防衛線の確保を続けている様です。なお、この動きは連隊長の下知があったとの事です」
配下部隊の為、本間中将が掻い摘んで説明する。
「うーむ…つまり、連隊長の独断専行か…本来なら、軍法会議だ、何だと騒ぐ事になるのだが…」
「そもそも、我々には攻略の方針すら組み立てられていなかった状態ですからな…何をもって『独断専行』の根拠と致しましょうかね」
山下大将の呟きに栗林少将が苦笑いをうかべながら答える。
「それよりもです、この状況をどうしますか? まさか、今更撤収しろ、とは言いませんよね?」
本間中将が確認するかの様に問う。
「いや、流石に…」
「若林支隊より報告! 敵防衛線司令部を奪取・占領しました!!」
答えようとする山下大将を遮るかの様に当直の士官が後押しするかの様な報告を入れる。
「…工兵隊を敵防衛線に展開、障害物を除去し、進撃路を確保せよ。それまでは若林支隊を中心に歩兵部隊は自転車で南部へ南下し、敵の圧迫を続けてくれ。それと…」
……こうして、山下大将は指示を出した。
そして……
翌21日 朝 バターン半島西部
「…時間です」
「うむ…全重砲兵隊、撃て!!」
士官の報告に北島中将は指揮下の重砲兵隊に砲撃を開始する。
更に海上からは展開していた伊勢、日向らの海上封鎖部隊が西部防衛線に艦砲射撃を浴びせる。
更に更に陸軍航空隊が防衛線に集中空爆を開始する。
急遽決まった西部防衛線に対する攻撃であったものの、重砲部隊も、陸軍航空隊も、更に古賀中将ら海軍も早急に対応していた。
これにはアメリカ・フィリピン軍は堪らなかった。今までの小競り合いとは比較にならない火力の展開に兵士達はただ防衛線に籠もって、ジッと耐えるしかなかった。
数分後 コレヒドール島要塞 アメリカ軍司令部
「バターン半島西部第1防衛線が日本軍の集中攻撃を受けております!」
朝早くからの報告にマッカーサーは驚愕に顔が固まる。
「どれくらいの規模だ!?」
「敵の重砲による集中射撃と空爆、並びに海上から戦艦らの艦艇による艦砲射撃が行われているとの事です!」
サザーランド少将の問いに担当士官が答える。
「…待て、東部はどうした? 東部の第一防衛線は何もないのか?」
「確認します!」
マッカーサー大将の疑問に担当士官が近場の電話を取ると東部第1防衛線へと繋げる。
「東部第1防衛線本部、こちら、コレヒドール島要塞司令部! 西部防衛線で攻勢が開始された! そちらの状況は!?」
『…こちら、『東部日本軍前線司令部』。コレヒドール島要塞司令部で間違いないか?』
一拍遅れての返答に担当士官は怒声をあげる。
「おい! こんな時にふざけるな!! 貴様、名前と階級を言え!!」
『なるほど、間違いないな。私は日本帝国陸軍、台湾軍司令官の本間雅晴中将だ。マッカーサー大将は近場に居るかね?』
スピーカーを通じて流れる通話先の声に室内に居た誰もが固まる。
担当士官など、返答も忘れ、出た相手が敵の将官である事に混乱していた。
『なら、伝えてほしい。我々日本軍は昨晩の内に東部第1防衛線を奪取し、南部の第2防衛線へと南下している。故に西部第1防衛線を集中攻撃しているのだが…バターン半島を奪取される前に降伏する事をお勧めする』
イギリスへの駐在経験のある本間中将のイギリス訛りの英語による降伏勧告が流れる。
その時、別の電話が鳴り響き、担当士官が思わず取った。
『こ、こちら東部第2防衛線! に、日本軍の大軍が此方に接近・攻撃を開始している! どうなっているんだ!? 西部への攻撃は本当か!? 東部第1防衛線はどうなっている!? まさか、抜かれたのか!? 具体的な情報と指示をくれ!!』
自らも混乱しそうなのを必死に抑えながら報告と指示要請を出す第2防衛線の担当者。
だが、マッカーサー大将以下、コレヒドール島要塞司令部もいま発生している事態が急展開過ぎて、認識と思考が追い付いていなかった。
そして、これがバターン半島の運命を決定づける事となった。
西部第一防衛線で最初に崩壊したのは沿岸部だった
一番大きかったのは海軍からの艦砲射撃で、駆逐艦クラスでさえ、12.7センチの重砲クラスの弾なのに巡洋艦や戦艦が要塞砲クラスの弾を連続で撃ち込んでくる訳なのだから、撃たれる方には堪らなかった。
更に西部防衛線での潜伏遊撃を担当していた野中四郎中尉の高砂族遊撃隊が『東部の防衛線は崩壊した。日本軍が後方に回り込んでいる』と流言を流布した為、防衛線の兵士達に混乱が拡がり、士気が崩壊、次々と持ち場を放棄し、撤退しはじめた。
これを捉えた西部攻略部隊は放棄された防衛線を次々に確保していき、追撃を開始した。
この崩壊の連鎖は留まる事をしらず、バターン半島中部の東部第2防衛線が日本軍の突発的な攻撃に耐えきれず短時間で陥落、半島南端に向かう部隊と半島を横断・西進する部隊の二手に分かれ、戦果拡大を開始した。
これにより、1月23日午後にはバターン半島南端に日章旗が掲げられ、これに前後して、バターン半島のアメリカ・フィリピン軍部隊は次々と降伏、バターン半島は日本軍の手に落ちた。
こうして、いよいよ最後の拠点、コレヒドール島要塞攻略に日本軍は取り掛かる事になった。
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