(…当然だよな)
つーか、これ、『アイ・シャル・リターン』でなく、『アイ・ユーターン(私は戻された)』か…?
次号 駄弁り会
2月3日 コレヒドール島 アメリカ軍司令部
この日、コレヒドール島要塞の地下にある司令部は朝から揺れていた。
バターン半島を確保した日本軍はコレヒドール島要塞、並びにフォート・ドラム(コンクリート戦艦)の攻略に取り掛かった。
重砲の移動はもとより、陸軍航空隊は要塞への空爆を毎日実施し、徐々にダメージを与えていった。
そして、重砲の移動・設置が完了したこの日に日本軍はバターン半島からの砲撃を開始した。
「…現状は?」
「良くはありません。せめてもの救いは、敵艦隊から戦艦や重巡洋艦が居なくなった事です」
マッカーサーの問いにサザーランド少将は苦い顔で答える。
先のバターン半島攻略で艦砲射撃を実施した伊勢と日向、更に第三艦隊の第五戦隊(妙高・那智・羽黒)も弾薬補充の為に台湾へと帰還した。
これにより、海軍部隊はマニラ湾封鎖の第二水雷戦隊のみとなり、今回のコレヒドール島要塞攻略には参加していない。
「些細な違いでしかないな…だが、ほぼ、運命は決したも同然だろう」
マッカーサー大将の言葉にサザーランド少将の顔が曇る。
そう、幾ら抵抗しても、フィリピンの他の各島々の戦力はたかが知れているし、その最高司令部であるコレヒドール島がこの状態である。
その先は……言わなくても解る事だった。
同じ頃 バターン半島南端 日本軍観測所
「中々固いですね」
「まあ、海軍さんの戦艦とも戦う為に整備した要塞だ。簡単には崩れんだろう」
副官の呟きに隣に居た北島中将が答える。
北島驥子雄中将はその軍歴を砲兵士官として始めてから、重砲兵隊と要塞への配属が多く、更に第一次大戦の青島要塞攻略にも参加し、重砲兵運用と要塞攻守戦の第一人者であった。
よって、今回のコレヒドール要塞攻略(史実でも参加&香港攻略にも関わった)には、実は開戦前のフィリピン攻略作戦立案時から参加、特にコレヒドール島要塞攻略の為に熱心に情報を収集・プランを立案していた。(これは相手をアメリカに絞ったが故に出来た)
また、その後も捕虜のアメリカ・フィリピン軍将兵への尋問、並びに現地航空偵察(自分自ら観察)等によるコレヒドール島要塞への情報収集は怠ってはいなかった。
「だが、流石の自慢の要塞でも、空爆には脆い。まあ、建設が始まったのが日露戦争前、幾ら改修しても、素の設計に航空攻撃が想定されていない以上、限界はあるだろう」
同種同世代の要塞である青島要塞攻略を参加していた北島中将はここに注目し、面子に拘らず陸軍航空隊へ大規模空爆を依頼した。
実際、陸からの重砲、空からの爆撃の二重奏はコレヒドール要塞やフォート・ドラムからの反撃を困難にしていた。
直接の破壊・破損は無くても、爆撃の振動による照準のズレ、又は着弾観測が不可能であるのは、様々な精度の塊である砲兵にとっては致命的と言える事であった。
そして、空爆はこれまで毎日2回、今日に関しては更に回数を増やし、今日中にはほぼ決着を付けるつもりで空爆を実施していた。
「今までの敗戦、更にこの砲空爆…将兵には精神的にも辛いぞ」
ニヤリと笑いながら呟く北島中将。
要塞司令に就いて事もある彼からすれば、『この状態で籠る将兵の心情』が手に取る様に解る。
この時の不幸は『重砲と要塞のスペシャリスト』が始めから攻略部隊首脳陣の中に居て、更に潤沢な物資と準備が行えた事だったと言っていい。
そんな中、何かを捉えたのか彼の視線が細くなる。
次の瞬間、コレヒドール要塞の一角で大爆発がおき、黒煙がモウモウと上がった。
「上の観測機から報告! 我が方の砲撃命中後、大爆発! 要塞弾薬庫に命中した模様!!」
興奮した通信士官が報告する。
それと同時に砲兵隊だけでなく、様子を見ていた他の日本軍将兵から万歳をはじめとした歓声があがる。
「うむ、どうやら、流れは完全に我らへ来ているな。砲撃を続けよ! 重砲兵隊の技量を敵味方に見せ付けてやれ!!」
北島中将の発破に砲兵達は意気揚々と砲撃を続けた。
その日の夕方 コレヒドール島 司令部
「……被害は?」
『出来れば聞きたく無い』と言いたげな表情でマッカーサーはサザーランド少将に問う。
「本日の砲空爆の被害は甚大です。特に敵の10インチクラスの重砲の直撃で弾薬庫が吹き飛びました。火砲も破壊・破損で大半が使い物になりません。フォート・ドラムは砲塔破壊こそありませんが、空爆により主砲塔やその砲身が破損…また、人員の士気がガタ落ちです。これ以上の抵抗は難しいかと」
苦い表情で答えるサザーランド少将。
更にこれに付け加えるなら、ラジオ放送用のアンテナなども吹っ飛んでおり、既にコレヒドール要塞からのラジオ放送は不可能になっていた。
こうなれば、待つ未来は…降伏しかない。
「……総参謀長や大統領からの命令に従い、今夜脱出する。脱出後はミンダナオ島へ向かう」
絞り出す様にマッカーサーは言った。
その夜 午後11時頃
マッカーサーはウェインライト少将に事後を託し、家族とアメリカ軍首脳陣、更にケソン大統領らフィリピン自治政府首脳陣を連れ、複数のPTボート(魚雷艇)でコレヒドール島を離れた。
この時、フィリピンには6隻のPTボートがあり、マッカーサー達が乗るPT41の他にPT31〜35があり、この5隻にフィリピン自治政府首脳陣らが分乗するものと護衛するものに分かれていた。
そして、夜の闇に紛れてルソン島沿岸部沿いで南下しようとした時、突如周囲が明るくなった。
「な、なんだ!?」
「照明弾です! くそ、敵機がいたのか!!」
マッカーサーの問いに上空を見たサザーランド少将が悪態を吐きながら答える。
実際、数機の水上機が飛び回り、次々と照明弾を落としていた。
これに各PTボートが搭載機銃を上空目掛けて撃ちまくるが、襲撃者は別にいた。
「こ、高速艇接近!!」
「くそ! 敵の魚雷艇が張ってたか!!」
水兵の報告に艇長が苦々しく悪態を吐く。
マッカーサー達のPTボート達に向かい、雷洋型魚雷艇の9号〜16号艇の8隻が猛スピードで接近してくる。
「艇長!?」
「とりあえず、各々で逃げます! 固まっていては逆に捕まります!」
サザーランド少将の問いに艇長が答える。
確かに艇長の判断は間違ってはいなかっただろう…この場にいたのが『魚雷艇と水上機』だけなら…。
「て、艇長! 前方!!」
「な、なに!?」
そんな彼らの前に現れたのは駆逐艦をはじめとした艦艇群。
マニラ湾封鎖を行い、マッカーサーの脱出を読んで待ち構えていた第二水雷戦隊の猛者達。
旗艦神通をはじめとした艦艇から探照灯が灯され、一番前にいた雪風の主砲が威嚇の為に吼える。
威嚇射撃はマッカーサー達の乗るPT41の横に着弾し、水柱の水がマッカーサーらを濡らす。
更に雪風は自らの探照灯をPT41に機銃と共に向けていた。
「…何故だ…何故、我々の行動がわかった…」
呆然としながら呟くマッカーサー。
無論、脱出ルートなど滝崎が教えていたからなのだが、マッカーサー達にそんな事が解る訳がなかった。
………この後、マッカーサーの脱出失敗を近場故に目撃したコレヒドール島要塞は1時間程後に降伏した。
翌5日7時頃、マッカーサー大将の代理として、サザーランド少将がアメリカ軍に、ケソン大統領はフィリピン軍に対して、フィリピン内の全軍に戦闘終結を宣言し、投降を呼び掛け、組織的抵抗は終了した。
但し、ゲリラ化した部隊や武装解除等々で約1ヶ月程掛かるのだが、史実よりも早く平定された。
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