なお、事例自体は史実でもありました。
次号 対応します
2月11日 ワシントンDC ホワイトハウス内 大統領執務室
「クソ! どいつもこいつも五月蝿い連中ばかりだ!!」
そう悪態を吐くルーズベルト。
これまでの敗戦にフィリピン陥落・マッカーサーらアメリカ極東軍首脳陣が捕虜になった事、これに対する議会からの批判と国民支持率の更なる低下により、彼の機嫌はすこぶる悪かった。
「…大統領、例の件ですが…」
心情的にはこんな事を報告したく無い、と思いつつ、立場と仕事なので報告しようと声を掛けるハル国務長官。
「どうした? 何かあったのか?」
「いえ、先方からは予定通りに動くと返答が…」
「そうか! ジャップめ! お前達の天下もここまでだ!! せいぜい怯えて泣き叫ぶがいい!! フッハッハッハ!!!」
(…転職しようかな…とりあえず、辞めたい)
先程まで塞ぎ込んでいたのも何処へやら、一転して満足そうに笑うルーズベルト、その光景にハル国務長官はうんざりしながら、そんな事を考えていた。
2日後 2月13日 横須賀 山城艦内 滝崎居室
「うーん……何か引っ掛かるな…」
そう呟きながら、滝崎は椅子に座り、机に肘をつきながら右手で鉛筆をクルクルと回していた。
(気のせいかもしれないが、何か忘れている気がする……あー、これはあれだ、前のコンテナの1件と似てるやつだ……だが、なんだ? 何を忘れてる? 何が引っ掛かっているんだ??)
鉛筆をクルクル回すのに合わせるかの様に思考もグルグルさせる滝崎。
コンテナの1件(68話参照)みたいな、『勘違いor度忘れしてる』感覚があるのだが、その理由が解らない為、思考は堂々巡りをしている。
「砂糖入りのミルクティーです。どうぞ」
「あっ、どうも、ありがとうございます」
タイミング良く神鷹から出された紅茶を受け取り、礼を言いつつ、口をつける滝崎。(もちろん、神鷹の格好は御給仕mode)
「何かお悩みの様ですけど…?」
「あぁ、ちょっと、何か度忘れしてるな〜、とね。それが何か解らないのが困りものなんだが…そう言えば、エーディットとは仲良くなったかい?」
「はい。あの日から、エーディットさんの方から積極的に話してくれる様になりました」
「なるほど、それはよかった」
やはり、『モノ』は違うとは言え、祖国が同じである為か、身近な神鷹とは仲良くなれた様だ。
「まあ、私がこんな事を言うのもなんだが、エーディットとは仲良くしてほしい。レナータとは違って、堅物生真面目の仕事傾倒な人間だからね。そんな人間ほど、息抜きが重要になってくるからさ」
「Ja(はい)。あっ、噂をすれば…」
そう神鷹が言った直後、ドアがノックされた。
「滝崎大佐、松島宮殿下がお呼びだ。何でも火急の報せが入ったそうだ」
「わかった、今すぐ行くよ。じゃあ、頼むよ」
「わかりました。行ってらっしゃいませ」
エーディットの言葉に滝崎は返事をすると、神鷹に見送られながら部屋から出て行った。
暫くして 山城艦橋
「火急の報せ、とエーディットから聞きましたが、何があったんですか?」
艦橋に上がると松島宮や神中佐も既に居り、2人に訊く滝崎。
「先刻、駐日ポルトガル大使、並びに在ポルトガル日本大使両方から入ってきた情報、との事じゃっ」
神中佐の深刻そうな顔で渡された内容が書かれた紙を一読する。
「『ティモール島東部ポルトガル領東ティモールとの通信途絶。途絶前最後の通信は『オーストラリア軍機が飛来した』…!」
思わず顔を上げ、松島宮の顔を見る。
松島宮はもちろん、神中佐も苦い表情になる。
「…堀長官達からは?」
「ポルトガルと協議しなければならんから直ぐには動けんそうだ。しかし、直ぐに動ける様に準備する下知は貰った」
「だよな…わかった。神中佐、さっそく詰めましょう。木村少将に状況は?」
「概要は伝んちゅう(でんちゅう 伝えました)。今さっそく(いさっそく 今すぐ)おじゃる(来られる)との事じゃっ」
滝崎・松島宮・神中佐が顔を突き合わせてこれからの事を話している中、話に入れていないエーディットと、最初から居たにも関わらず、話の中身が解らないレナータ。
故にレナータがおずおずと手を挙げる。
「あ、あの〜、なんでポルトガル領の話なのに、日本に通達されて、日本が動く事になってるの?」
そのレナータの質問に松島宮達が顔を上げる。
「ポルトガル領東ティモールのディリには国営会社の『大日本航空』が国際路線を運航してじゃっど(ます)。そんでディリには関係者と無線誘導船などが有りじゃっど」
「つまり、東ティモールからの連絡が途絶えたと言う事は、『大日本航空の関係者にも何かあった』と考えるべきだ。であるが故にポルトガル政府は日本にも異変が起きたと報せた訳だ」
「なるほど、邦人保護の関連って訳ね」
神中佐と松島宮の解説にレナータが納得する。
そうであるが故に国際関係を把握しているエーディットはその問題の事の大きさに気付いた。
「待て待て待て! ポルトガルは独裁制だが、地元のヨーロッパでの戦争も、この日米の戦争に関しても中立の立場だ! その文面が正しければ、中立国の海外領土に軍事侵攻をした事になるのだぞ! しかも、『極東太平洋方面は中立である』と言った同盟国イギリス連邦傘下のオーストラリアがだ!! 宗主国の意向を無視しているだけでない!! 同盟国国民を襲ったとなれば、宗主国に反旗を翻してると言われてもおかしくないではありませんか!!!」
そのエーディットの言葉に艦橋に困惑した空気が拡がる。
そう、この一報を聞いた皆が思った事である、『何故、そんなハイリスクな行動をオーストラリアは起こしたのか?』と。
唯一人、その答えを知る人間がいた。
「間違いなく、アメリカの裏工作の結果だ。甘い言葉でオーストラリアを動かしたに違いない…くそ! アメリカはまだしも、もう少しオーストラリアの動きにも注意を払うべきだった!!」
自虐的な事を言いながら、滝崎は目の前の壁に思いっきり握り拳を打ち付ける。
その右手の握り拳は握り過ぎたのか、爪が食い込み、僅かながらも爪形の傷口から血が流れていた。
そんなキレた様子の滝崎を初めて見たレナータとエーディットは何も声を掛けれなかった。
その夜 山城艦内 エーディットの居室
仮の居室と言う事もあり、必要最低限の物しかないスッキリした部屋の中で部屋の主たるエーディットは1人物思いにふけっていた。
「…にしても、滝崎があんなに責任感が強いとは思わなかったな」
艦橋での1件で見た滝崎の姿に素直な感想が口から出た。
(いや、まあ、第四艦隊の担当範囲内だし、アメリカが何かしらの工作をする可能性を考えれば解らんでもない。だが、あれを予測するのは神の身でない人間には不可能に近い。何と言っても、『同盟国の連邦傘下自治領が宗主国を裏切る行為、しかも軍事行動をする』なんて、普通に下から数えた方が早い方の考慮事項だ)
そう内心で呟きながら天井に視線を向ける。
(だが、だ…だとしても、あの瞬間、あの様に自らの不甲斐無さを認められる者がこの世に何人居る? それこそ、反対に他人に責任を押し付けて逃げる奴なら、無数に出てくるが…少し感情が出過ぎてる面はあるが…まあ、それはいいだろう)
ドイツに居た時も、SSに居た時も聞いた事のある『反対の事例』とは対照的な滝崎が自分にキレていた事は『些細な事』として、埒外に追いやる。
(……あれ? そうなると、私は滝崎とは仕事の関係で『話』をした事はあっても、個人事を含んだ『会話』はしてない事に…しかも、何方かと言うと次席の神中佐と会話する事の方が……あー…あぁ…)
ドイツ贔屓な神中佐と会話する機会が多い事に気付き、何だか頭を抱えたくなったエーディット。
「あ、あのー…紅茶のお代わり、要りますか?」
「…すまない、シャル。頂こう」
そんな情けない姿を見ながら、出来る限り普段通りに声をかける神鷹とそれに気付いて気不味そうに答えるエーディット。
(エーディットは神鷹の元船名シャルンホルストから縮めて呼びやすい『シャル』と呼んでいる)
「はぁ…なぁ、シャル、もしかして、私の交友関係は薄いのか?」
「それはなんとも…まあ、レナータさんは置いとくしまして、滝崎さんが『生真面目人間だから気にしててね』と言う程となりますと…その可能性も…」
「……そうか、うん、その…なんだか、すまない」
神鷹の言葉に『もう少し交友関係に気に使おう』と考えるエーディットだった。
その頃 イギリス ロンドン 首相官邸
「わかっているだろうが、先に言わせて貰う。ティモールの件に我がイギリスは関わってはいないし、もちろん、オーストラリアの行動も支持しない」
不機嫌そうなチャーチル首相は葉巻を燻らせながら、開口一番に言った。
「もちろん、わかっていますよ。そんな事をしても、イギリス自身に得る物はありませんからな。にしても、元植民地と自治領植民地に散々困らされておりますね」
「まったくだ…故にポルトガルの抗議を受け、日本の行動には何も言わんよ。やり過ぎん限りはな」
吉田大使の言葉にチャーチルはわざとらしく両腕を広げながら言った。
「では、本国に伝えておきますよ。徹底的にオーストラリア軍を叩け、とね」
「あぁ…だが、『オーストラリア軍なのか』だがね」
「…と言うと?」
「いや、まだ内部調査中だ。オフレコで頼むよ」
ブルドッグ顔のチャーチル卿は何処か含みのある事を言うだけであった。
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