……まあ、まさか、オーストラリアの件が長くなって、4800字以上になるとは思ってなかったんですけどね。
次号 貴方は何をしに日本近海に?
3月29日 イギリス ロンドン ウェストミンスター宮殿
ウェストミンスター宮殿はイギリスの観光的象徴の1つである時計塔『ビック・ベン』が併設されたイギリスの国会議事堂である。
そして、この日、議事堂内は殺気立っていた。
議会中央部に対になる形で並べられた机と椅子、そこに座っている日本・ポルトガル大使とオランダ亡命政府代表者、対になる形で座り、議会内の全殺気を受ける事になり、今にも失神しそうなオーストラリア自治政府からの説明担当者。
「…つまり、東ティモールの一件はオーストラリア正規軍はもちろん、自治政府も関係は無く、日本の軍事的脅威からオーストラリアを守る為、民間人が自主的に作った民兵主体の義勇兵達がディリとその周辺を占拠した、と?」
今回の『東ティモール占拠事件委員会』の委員長兼司会進行役の議員が念押しとばかりに確認する。
「は、はい。現在、オーストラリア自治政府はその民兵達の洗い出し、並びに捜索・逮捕を実施中です」
冷や汗ダラダラで返答する担当者。
その様子に吉田大使は同情するしかなかった。
何故なら、この担当者はオーストラリア自治政府から一通りの『回答』は貰っていても、『事実』までは知らされていない可能性の方が高い。
故にこの後の展開次第では…文字通り泡食う事態になり得るからだ。
「ちょっと待ってほしい。その『日本の軍事的脅威』とはどう言う事かね? それが解らなければ、オランダ側も納得出来んでしょう?」
「まったくですな。特に我々は本国をナチスドイツに占領されている。西ティモールを含めた極東領土は貴重な外貨取得地であり、生命線だ。その違いを説明されん事には、我が国としては安心出来ませんな」
駐英ポルトガル大使の問いにオランダ政府代表者が同調する。
「そ、それに関しましては…その、『日本の国営企業進出は東ティモールの軍事拠点化の為であり、航空職員や機材はその為の尖兵、並びにスパイとその機材である』と言う事で…」
「ふざけるな!」
『まあ、あり得ない話ではない』と『言い分』の筋には内心納得している吉田大使に対して、ポルトガル大使が机を叩きながら吼えた。
「大日本航空の空路開設と進出はオーストラリアにも説明し、了解を得た話だぞ! そもそも、大戦開始でイギリスも極東地域の民間空路を大日本航空に代替し、それはオランダも承認し、その恩恵はオーストラリアを含め、我々が受けているじゃないか! 何故、その話を今頃になって蒸し返され、更にはディリを含めた東ティモールを武力占拠されねばならんのだ! しかも、そちら側の空爆で、通信施設が破壊されているんだ! これで死傷者が出ていれば、この場でオーストラリアに最後通告をしていてもおかしくないんだぞ!!」
「まあまあ、オランダ大使。落ち着きましょう」
ヒートアップしたオランダ大使を吉田大使が落ち着かせようと割って入る。
「Mr.ヨシダ! オーストラリア側の言い分を受け入れるつもりか!?」
「いやいや、無論、そんな気はないよ。だが、先程の言い分は占拠した連中の言い分であって、彼にその怒りをぶつけるのは筋違いでは無いのかね? それを含めて、穏便に解決しようとする場なのである訳だしね」
「……そうだな。済まなかった」
吉田大使の言葉に、言いたい事を吐き出した為か、クールダウンしたオランダ大使が謝罪する。
「さて、そちらの言い分はわかりました。無論、理解はするが、受け入れるつもりはありませんがね。さて、では、もう少し突っ込んだ話をしましょう。実は現場対応にあたった部隊、並びにイギリス軍側の情報から、その『オーストラリア人義勇兵隊』で無い可能性があるのだが…貴方は何か聞いておりますかな?」
吉田大使の言葉に一瞬呆気に取られるも、言葉の意味を理解して、慌てる担当者。
「そ、それはどう言う事でしょうか? 自治政府は何も…」
「でしょうな。現地での聴取では空爆だけでなく、輸送船による人員輸送、複数の駆逐艦による威嚇射撃も実施されている。オーストラリア海軍がイギリス海軍指揮下で動いている状況から考えても、さて、『複数の駆逐艦を持つ義勇兵』とはなんでしょうかな? また、一部を除けば『アメリカ訛りの兵隊』が多かったとする証言も多い。これは不当に拘束・監禁された大日本航空職員だけでなく、現地オランダ人からも聞かれた事ですが?」
吉田大使の言葉に担当者の顔が死刑宣告を受けたかの様に真っ青になる。
「更に、これは同行していた外国軍観戦武官が好事家であるが故に気付いた事なのですが、現地に故障が理由で遺棄されたモーターバイクがレンドリースでも『まだオーストラリアに供給されていない』可能性があった物らしいのですが…そちらについては如何に?」
「ふむ、ならば、私からもよろしいかな?」
吉田大使の追及に便乗するかの様にオランダ政府代表者が声をあげる。
「実は我々も独自に西ティモールで目撃者がいないか探していたのですが…その『空爆』した爆撃機がアメリカの機体の可能性がありましてね」
「と言いますと?」
オランダ代表者の言葉に委員長のイギリス議員が続きを促す。
「私も航空機、特に軍用機に詳しくはありませんが、アメリカからレンドリース予定の機体を含めた幾つかの機体写真を試しに見せましたら、アメリカの艦上爆撃機に似ているらしいのですよ。確か、イギリス海軍にもレンドリース予定だった筈ですが…さてはて、何故にこれ程までに『アメリカ』関連の物が出てくるんでしょうかね?」
『偶然巻き込まれたのだから、少しでもマウントを取って利益のお溢れを貰いたい』オランダ代表者の思惑は別として、彼の言葉に場は騒然となる。
「…それが本当なら、我が国は『アメリカ』から不当な攻撃を受けた事になりますな。しかも、『オーストラリア義勇兵』と偽られた形で。で、どうなのかね、ん? 我が国を侮辱するつもりかね?」
最後の一押しとばかりのポルトガル大使の殺気立った睨み入りの言葉に担当者が遂に限界を迎え、『プツン』という音と共に失神し、倒れ込む。
こうして、この日の『委員会』は担当者の失神による病院搬送で中止となった。
だが……これで終われば、まだ『色んな意味』で傷は浅かったのかもしれない。
この『委員会』がラジオの生放送で流れていた為に、オーストラリアとアメリカが反応した。
オーストラリアは『日本が東ティモールをポルトガルから借用・拠点化する疑いがあり、その場合の軍事的脅威があったのは明白である。行為はともかく、『義勇兵』達の行動は仕方なかった』とし、『日本政府から、『オーストラリア周辺での軍事行動を一切行わない』との確約が得られない限り、日本に対して国防上の警戒は続けざるおえない』と声明を出した。
これに続き、アメリカは『オーストラリア義勇兵の行動とオーストラリア自治政府の声明を支持する』とし、『場合によってはオーストラリアへ独自に支援を行う』との声明を出した。
無論、委員会での後のこの2つの声明は『アメリカ・オーストラリアがこの件で結託している』事の左証にしかならず、ますます両国の立場を追い込む事にしかならないのだが……まだ、両国政府は気付いていなかった。
3月31日 呉軍港 戦艦大和艦内 長官公室
「念の為に策定していた『米豪遮断作戦』の実施が確定した。まさか、こんな形で『史実通り』になるとは思わなかったがね」
少々…いや、かなり呆れ気味に堀長官が滝崎と松島宮に言った。
「まあ、それは仕方無いかと。何方にしろ、『裏切った』オーストラリアを放置は出来ませんからね」
「確かにな。にしても、まさか、あの状態であんな声明を出すか? あんな形であんな声明を出せば、明らかに誰もが『結託してる』と疑うに決まっているだろう?」
滝崎の言葉に松島宮が同意しながら疑問を口にする。
「多分、色々と擬装したのに、『実行犯が実はアメリカでした』なんて疑いとその証拠を掴まれているなんて思ってなかったんだろう。しかも、本来は無関係なオランダにも証拠の一端を掴まれていたなんてさ。故に最初に設定していた『自国防衛の為に動いた義勇兵を擁護するオーストラリア』と『その擁護を支持し、支援する正義のアメリカ』って形を無理矢理でも押し通そうとしたんだろうね。完全に逆効果になりつつあるけど」
「滝崎君の言う通りでしょうね。まあ、故に我々の目をオーストラリアに向けさせ、太平洋から気を逸らす為の策でもあるのでしょうけど」
「その言い草ですと…裏が取れましたか?」
松島宮の問いに堀長官が頷く。
「不確実が1つ、確実が3つルートからきました。不確実なものはアメリカ政界繋がりから『大統領周辺から近々『日本に強烈な一撃をくれてやる事がおきる』と示唆された』との話。確実なものはアメリカ政府筋から国民党政府へ内々に『アメリカ人パイロットを保護したら、日本に黙って引き渡してほしい』と打診があった事。なお、打診は速攻で拒否したそうですが」
「それは…後者に関しては『何を今更』な話ですな。今まで散々、国民党政府を無視する形で干渉してきたと言うのに」
それはそれで呆れる滝崎。
「まったくですね。後の『確実』な話ですが、サンフランシスコからB25を載せた空母ホーネットを確認しました。現地サンフランシスコはメキシコ側の諜報筋、海上は『補給の為に足を延ばした』カナダ海軍の哨戒艦艇からの報告です。なお、サンフランシスコでは『B25をハワイかオーストラリアへ輸送する為』と」
「それは史実でもホーネット乗組員が噂していた内容ですね。まあ、現状であれば、充分に誤魔化すにはうってつけですが」
「ちなみに、その監視の方は?」
「メキシコ諜報筋が継続的に、カナダの方は定期的になりますが、出港すれば、何方かに必ず引っ掛かります。そちらは問題ないでしょう」
松島宮の問いに堀長官が答える。
「では、我々も本土防衛に?」
「あぁ、予定上、ギリギリだが、ドーリットル空襲を阻止した後でも、米豪遮断作戦には間に合う。第一機動部隊なども居るが、数が多いに越した事はない。ドタバタになるが、頼む」
「「了解です」」
2人は堀長官へ敬礼しながら返事をした。
数時間後 横須賀 加賀艦内会議室
「…以上、ドタバタな事になるが、我々は本土防衛と米豪遮断作戦に参加する事になる」
第四艦隊の幹部(各艦艦長以上・小園中佐等部隊長)が集まり、今後の事を話し終えた松島宮がそう言って閉めた。
「本土空襲は解らなくもありません。アメリカなら、それくらいはやるでしょうが…ですが、双発爆撃機による、空母発艦からの片道爆撃とは思い切っておりますな」
皆を代弁するかの様に松田艦長が言った。
「むかしこつ、山本総長が空母から陸攻を飛ばせんかとこけー(考え)ておりましたからな。アメリカがこけーん訳はないじゃっ」
「趣旨は違うけど、母国に戦略爆撃の論文出した将官もいるし、今のアメリカならやりそうね」
松田艦長の言葉に神中佐とレナータが『考えない人はいないでしょう』と言いたげに言う。
「国内に厭戦反戦機運が漂うアメリカとしては、大博打と言え、やらない事は無いでしょう。先日の声明も逆効果気味である事を考えれば、尚更宣伝効果の高い作戦を実行する事は確実です」
補足するかの様に滝崎が発言する。
「まあ、状況を考えれば、流石に完成体の双発爆撃機を飛行甲板に載せて、『オーストラリアかハワイに行きます』と言われて素直に信じるか、と言われたら、私は素直に信じる気にはならんな」
苦笑いを浮かべながらエーディットが言う。
「兎にも角にもだ、アメリカの意図・意思関係なく、帝都並びに本土空襲は防がなければならん。飛び立った直後ならまだしも、下手に逃すと何をやるかわからん。それこそ、帝都や各都市の下町が木造住宅である事を利用し、焼夷弾をばら撒く可能性もある。そうなっては幾ら全機撃墜し、皇居への爆撃を阻止しても『敗北』と言ってよい。その事を胸に、準備出来次第、警戒哨戒を実施する。範囲等々の詳細は後で通知するので、各艦準備を開始せよ。以上、解散」
次号へ
ご意見ご感想をお待ちしております。
本作品ヒロイン(3人)とのR18シーンの有無
-
有り
-
無し