(予想外だけど、史実通りで)
⋯⋯故に文字数がオリジナルより倍増してます。
(約5700字)
次号 現地打ち合わせ
7月20日 ニューカレドニア島 ヌメア(ヌーメア) 日本領事館
現在でもフランスの海外領土(当時は植民地)でもあるニューカレドニアはニューカレドニア島とロイヤルティ諸島からなっており、ニッケルの産出地でもある。
そして、ニューカレドニア島の政庁所在地であるヌメア(ヌーメア)には日本領事館が1940年に開設されていた。
この当時、ニューカレドニアは自由フランス側の領土であり、史実では日米開戦と同時に日本領事館は封鎖され、領事館員を含めた在地日本人は逮捕・拘束されていた。
しかし、この世界では日本も自由フランスを認めており、また、自由フランスも『日米戦には中立を維持し、関与しない』と言う方針もあって、領事館は封鎖されてはいなかった。
だが、この日からは『史実と同じ』になってしまう。
この日、アメリカ軍の白星マークが描かれたトラックを含んだ複数の車両が領事館前までやって来ると、完全武装の兵士達を展開させ、無理矢理領事館内へと入ってきた。
「こ、これはいったいなんだ!?」
領事の山下芳郎は乱暴に入ってきたアメリカ兵達に問うと、1人の将校が出て来た。
「本日より、ニューカレドニアはアメリカ軍管理下におかれる事になった。よって、交戦国の日本領事館は封鎖。日本人並びに関係者を拘束する」
「なっ!? 馬鹿な! そんな話は聞いていない! 自由フランス側に確認を…」
「既に自由フランス側は了承済みだ! 先ずは貴方方を拘束する。行け!」
そう言うと将校は引き連れて来た兵士達に命じ、目の前の山下領事ら領事館員らを拘束し始めた。
……その後、アメリカ軍はMP(憲兵)も動員し、在地日本人並びにニッケル鉱山労働者として移住した日本人移民と日系人らを次々に拘束していった。
また、アメリカ軍は港や飛行場などの軍事的重要地点を『確保』し始めたのだが、ここでフランス憲兵隊分遣隊や植民地管理担当者が事のおかしさに気付き、フランス国民委員会(自由フランス政府)へと通報、何も知らなかったフランス国民委員会は事態を知り驚愕する事となる。
そして、ド・ゴールら首脳陣からのアメリカ政府への問い合わせと関係各所への確認からとんでもない事が発覚する。
それはフランス国民委員会の立場(亡命政府である事)をアメリカが利用し、自由フランス軍へのレンドリースの数量増加の交換条件として、ニューカレドニアを『寄港地』とする事を要求していた。
これをフランス国民委員会も承認(更に日本側も知っていたが、自由フランス側の立場を考え、下手に介入はしていなかった)したのだが、なんと『寄港地としての承認』を『アメリカの管理下に置く承認』の承認書にすげ替えられていた。
無論、こんな『騙し』に自由フランスは抗議したが、アメリカは相手にしなかった。
(後に判明したのだが、この件にルーズベルト大統領は『本国を落とされた負け犬の吠え声など知らん』と言って無視した)
結果、ブチキレたフランス国民委員会は全てを公表、『大日本帝国政府は我々に最大限の配慮をしてくれた。だが、自由と平等、民主主義を標榜するアメリカ合衆国は我々を騙し、我々を格下と嘲笑した!』とコメントした。
結果、一挙にアメリカとフランス国民委員会の関係は悪化し、更にこの件はヴィシーフランス国内でも報道され、ヴィシーフランス国民の対米感情悪化に繋がった。
……なお、この事はアメリカ太平洋艦隊は知らず、直後に詳細を知ったニミッツ大将は『東ティモールの件に続いて、大統領のせいで祖国はここまで堕ちたのか!!』と天を仰ぎながら絶叫した。
8月6日 ガダルカナル島上空
「中佐、そろそろ目標上空です」
「おう、アメリカのあんちゃん達にバレてそうか?」
「いえ、今のところ、我々以外には何も飛んでいません」
野中中佐搭乗の連山一番機はB17に似た塗装を施し、トラック諸島からガダルカナル島へと向かっていた。
「にしても、こんな辺鄙な場所へ偵察飛行とは…上に何か考えがあるんでしょうか?」
「我々神す雷隊がトラック方面に移動になったのも関係するだろうが…まあ、間違い無く、ニューカレドニアの件は関連してるだろうな」
同乗の副官の問いに野中中佐は途中から苦い顔をしながら答える。
。
そして、それを聞いた副官ら搭乗員全員の表情も苦かったり、憤怒を感じさせるものであった。
『隊長! 目標の島に滑走路!』
「おう、そっちに行く」
機内無線から胴体下部銃座員の報告が聞こえ、野中中佐は返事をすると移動する。
そして、銃座員の指差す先を見ると明らかにジャングルが開墾され、真っ直ぐに延びる滑走路があった。
「なるほどな、飛行場を造っていたのか…しかも、もう一つ滑走路を造るつもりか、開墾作業中だな…他にも数カ所開墾してるが…何かの施設用だな」
飛行場の存在を確認した野中中佐は写真撮影を指示、数度旋回し、撮影を終えると引き上げていった。
1時間後 横須賀鎮守府 会議室
「先程、偵察に出ていたトラックの航空隊がソロモン諸島にアメリカ軍の飛行場を発見した。どうやら、先月の件を発端に敵が本格的に動き始めた様だ」
緊急招集に集まった第二機動艦隊の諸将(+エーディット&レナータ)が居る前で角田中将がさっそく事に入る。
「アメリカ軍はオーストラリア委託領パプアニューギニアに展開し、我が方の米豪遮断作戦の阻止、並びに戦力損耗を狙っているのだろう。これについて…滝崎大佐、説明を頼む」
「はい…ですが、先にニューカレドニアの件を予測出来なかった事をここで皆様に謝罪致します」
開口一番に滝崎はそう言って頭を下げる。
「いやいや、森羅万象を操る神でも無いのにそれを見抜けとは過大だろうに」
「東ティモールの件も、今回の件も、幾ら負けが込んでいるとは言え、度を越す行為を平気でしているアメリカに問題があるのだ。自分を自虐悲観する事も無かろう」
「貴官の責任感の高さは評価するが、何でもかんでも背負い過ぎると潰れるぞ。それにそれならニューカレドニアの臣民を助けなくて責を取るのが筋と言うものだ」
謝罪に対して森・城島・西村少将がそう言って滝崎をフォローする。
そして、松島宮はわざとらしく咳払いをした。
「滝崎大佐、話の腰が折れてるぞ」
「すみません、殿下。では、本筋に戻ります。敵がフランス領ニューカレドニアを『占拠』したのは南太平洋への拠点確保、並びに防衛線の『不安定要素の除去』が考えられます」
そう言ってオーストラリア周辺略図でパプアニューギニアとニューカレドニアを指し棒で指しながら説明する。
「オーストラリア以西は東ティモールを含めイギリス・オランダなどの中立国の領域、以東はパプアニューギニアとノーフォーク島がオーストラリア領、ニューカレドニアがフランス領、ニュージーランドがあり、前提としてアメリカ〜オーストラリア間の連絡補給線はオーストラリア領しか使えず、我が方の米豪遮断作戦はその『オーストラリア領』を奪取、或いは無力化する事でアメリカ側とを断ち切る事でした」
「が、その『オーストラリア領』であるパプアニューギニアとノーフォーク島の間にフランス領ニューカレドニアが存在していた。故に『不安定要素』除去も兼ねてアメリカが奪取した、と言う事だね?」
小畑長左衛門少将の問いに滝崎は頷き、話を進める。
「はい、MO作戦のシドニー湾攻撃に続き、この近辺での我が方の潜水艦による通商補給路破壊はかなりの効果を与えています。特に『オーストラリアが購入した』とするアメリカ製兵器、並びにオーストラリア本土、並びに攻撃目標たるパプアニューギニア周辺に展開するアメリカ軍は本国からの補給が滞り、オーストラリア本土に展開するアメリカ陸軍航空隊はイギリス軍に燃料の融通を打診しても、『勝手にやって来た居候が何を言っているんだ』と拒否されている現状です」
それを聞いて、その場にいる面々が苦笑する。
「つまり、オーストラリア領に展開するアメリカ軍は本土と島々にある航空戦力を使って日本側の米豪遮断作戦を阻止する構えなんだな?」
「海上戦力が枯渇している以上、まだ損耗の少ない陸軍航空隊や余力のある海軍、並びに海兵隊航空戦力を島々に分散配備し、我が方が攻勢を開始した場合、集中・波状投入し、戦力損耗を狙う。先のミッドウェー海戦での対応策を飛行場が造成出来る島が多数ある事に注目し、応用してきたと思われます。そして、今回の航空偵察により、この方針で間違い無い事が確認出来ました」
エーディットの質問に答えながら滝崎は説明をする。
「ありがとう、滝崎大佐。聞いた通り、アメリカはいよいよ追い詰められ、窮鼠猫噛むに近い状態での事だ。我々がやる事は変わらんとは言え、ニューカレドニアの邦人の事もあるとは言え、滝崎大佐の様に責を感じて焦ると足元を掬われる可能性も留意してほしい」
「はーい! そのTopo(トポ 鼠)がGatto(ガット 猫)を噛むについてなんだけど、アメリカがニュージーランドを占拠するって可能性はないの?」
角田中将の言葉の後、レナータが陽気な声で質問し、周りが(その可能性とこのポヤポヤ娘がそんな事を思い付いた事に)驚く。
「やる筈⋯いや、否定出来んな」
「あぁ、2度ある事は3度あるしな」
「うむ、2度もした以上、躊躇いがないかもしれん」
「帝都空襲と言う博打をやろうとしたんだ、他国領土の占拠なんぞ簡単だからな」
「それどころか、『やって当然』とばかりに平然としているからな」
「それについてはどうなのかね? 司令部や軍令部は何か言っておらんのかね、滝崎大佐?」
列席していた参謀達が頷き合い、その内の1人が滝崎に訊いてきた。
「ニューカレドニアの件でイギリスが非難と抗議をしたのは皆さんご存知ですね? 実はあの直後、イギリスは駐英アメリカ大使をチャーチル卿が呼び付け、『これ以上、イギリス連合王国、並びに連合国に属する諸国の領土、並びに権益等を侵害すれば、我ら連合国はレンドリースを含めた貿易関係の契約・条約等を直ちに打ち切る』と釘を刺したそうです。なお、この『警告』は駐米イギリス大使から各アメリカ報道機関に『イギリス政府からの勧告』としてアメリカ国内に報道されております」
この話に又もや場がざわめいた。
「『レンドリースを止める』か⋯イギリスや連合国も国の興亡に関わる事だぞ」
「あぁ、イギリスはまだ余裕があるが、フランスや各中小国には滅びに等しい決断だ」
「フランスは当事者だから納得はするだろが、ポーランドやノルウェーは承認したのか? と言うか、それはアメリカに影響があるのか?」
そんな意見がチラホラ出始め、自然と視線が滝崎へ向く。
「⋯実はこの状況下でのルーズベルト大統領への支持理由の『大きな最後の砦』がこの『レンドリース』関連です。レンドリース法により、軍需物資の需要が生まれ、利益が出ている為に『支持している』人間もおります。ですが、それがアメリカ政府の『失態』で失われた場合⋯間違い無く、ルーズベルト大統領の支持率は一桁台、下手をしたら、各業界がデモ隊を組んでホワイトハウスに乗り込み、大統領へ直接自主辞任を要求する事態になるかもしれません」
この滝崎の言葉に誰もが沈黙する。
何せ、1年前まで誰がそんな事を予測していただろうか? 滝崎すら、自分で事をやり、情報を収集・分析し、出された結果の現状に『予想以上だった』と松島宮に漏らす程だったからだ。
「イギリスがそう言う、と言うなら、目に見える形でも動いているのかね?」
空気を変える為か、木村少将が自慢のカイゼル髭を弄りながら訊いてきた。
「はい。先日、松島宮殿下が軍令部へ参上しましたが、その際、東洋艦隊のトム・フィリップス大将が訪日され、『オーストラリア、並びにニュージーランドの連合王国臣民の動揺を解消する為、東洋艦隊がオーストラリア方面へ巡回する事になった』と事前通告の為に大将自ら足を運んでくれた様です」
「と言いつつ、本当はアメリカへの牽制、と言う事だな?」
「はい。なお、その際の『巡回艦隊』は東洋艦隊のプリンス・オブ・ウェールズ、レパルス、軽空母ハーミスの他、後方での訓練として派遣された戦艦ロドニー、ウォースパイト、ヴァリアント、空母アーク・ロイヤル、ヴィクトリアス、軽巡洋艦シェルフィールドなどを加えた陣容となります」
滝崎が語った陣容に面々が別の意味でざわめきだす。
「戦艦5隻に空母3隻の陣容か⋯流石イギリスだな」
「うむ、しかも、ウォースパイトやヴァリアントだけでなく、ロドニーがいると言うのも、イギリスの本気度が伺えるな」
「散々荒らされて来たからな。イギリスの密かな怒りも遂に怒髪天になったと言う事か」
その様な面々の囁きに滝崎は更に驚くべき事を言った。
「なお、これは非公式で『あくまでもそうなった場合』の話ですが⋯もし、アメリカがニュージーランドを占拠するなどの『侵害行為』をした場合、『松島宮殿下の旗の下に集い、共同戦線を張る用意がある』との事です」
ニヤリと笑いながら言った『爆弾発言』に聞いた面々達も次第に『悪い笑み』を浮かべる。
「イギリスの腹の内も解ったところでだ⋯今のところ、敵の方針等の情報共有も出来た様でもあるし、連合艦隊司令部からの命令を伝える」
角田中将の言葉に空気が変わり、皆真剣な表情になる。
「『米軍の動きが確認出来た為、米豪遮断作戦の再実施を下令する。第二機動艦隊は現地に進出し、米軍の企図を打破せよ』以上だ。第二機動艦隊は1時間後にトラックへ出航。トラックにて最新情報を現地部隊と確認後、米豪遮断作戦に取り掛かる。各艦各員の奮励努力に期待する」
角田中将の締めの言葉に諸将らは敬礼で応えた。
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