にしても…今もあるんだよな、オーストラリアと言うか、イギリス連邦下に総督って。
次号 対処を間違うと更に悪くなる事例(アメリカ)
9月15日 オーストラリア キャンベラ 首相府
「……わかった…何処まで出来るかわからんが…何とかしよう」
関係省庁からの電話連絡に対応し終えたジョン・カーティン首相はそう言って受話器を元に戻す。
「また、ヤンキーから購入した武器が輸送船共々沈みましたかな? いや、ヤンキーへの補給品の方ですかな?」
ニヤニヤと笑いながらカーティン首相にそう言ったのは先程やって来た『オーストラリア総督』の初代ゴーリー男爵アレグザンダー・ホア・リヴェン准将。
オーストラリアは自治領の為、総督自体は内政等には関わらないがイギリス連邦を構成する一国の為、オーストラリア軍の指揮権と『国王陛下の代理人』として、首相の任免、法案等の裁可や軍事・外交的な問題解決の為の行動(首相への詰問等)を行える権限をオーストラリア総督は持っていた。
「…こうなっても、イギリス本国はオーストラリア軍…最低限、海軍艦艇のオーストラリア帰還を許さない気ですか?」
「ほう…その必要がありますかな? 襲われているのはヤンキーの船だ。我々イギリスやオーストラリア、その他の国の船は襲われておりませんよ…まあ、ニュージーランド以東の航行を『危険』として、禁止しているのもありますがな」
「だ、だが…いつ、日本がその矛先を我々に…」
「『我々』? 何を仰っているのですかな? 日本が襲うとしたら、ヤンキーと『手を組んだ痴れ者』でしょう? 勝手に本国や他の連邦構成国を巻き込まないで頂きたい」
カーティン首相の言にリヴェン総督は『笑っていない笑顔』で丁寧に反論する。
「そもそも、こうなったのは『貴方方』が東ティモールを襲ったからだ。そこで謝罪でもすれば何とかなったかもしれないものを、ヤンキーと肩を組んで事態を悪化させたのだ…しかも、本土や委託領にヤンキーの部隊駐留を許し、自分達が使いもしない武器を購入し、それをアメリカ船が輸送している…日本でなくても、近海での軍事行動の口実にするには充分過ぎる状況ですな」
「で、では、本国は何もしない、と?」
「いやいや、していますよ。本国の助言やニュージーランドの安全も無視した結果、東洋艦隊を含めた巡回艦隊がこうして居るではありませんか」
皮肉をのせた口調で話すリヴェン総督。
「で、オーストラリア自治政府は何をしておりますかな? 東ティモールを占拠した『義勇兵』の捜索・逮捕も、それに関連する調査も一向に進展しておりませんが? また、ウェストミンスターで公聴会でも開き、オーストラリアの恥を晒しますかな? 別件の件も含めて」
「べ、別件?」
カーティン首相の反応にリヴェン総督は楽しそうに笑みを浮かべる。
「えぇ、今日来た理由の1つですが…アメリカ軍憲兵による日本人・日系人移送事件で日本が押収した命令書、並びに指示書のコピーが政府と国王陛下に届きました」
これを聞いたカーティン首相の顔が真っ青になる。
「ほう…どうやら、何かご存知の様だが…まあ、後で訊きましょう…命令書には『日本人・日系人をオーストラリアへ移送せよ』とあったので、関連するであろう『指示書』を読みましたら…『前回同様、チャイニーズ(中国)系犯罪者としてオーストラリア側に引き渡せ』と書いてありました。さて、カーティン首相…これはどう言う事ですかな? 『前回同様』となると、一回は『この形式での引き渡し』が行われている事になりますが?」
総督の言葉と問いにガタガタ震えながら、言葉を絞り出す。
「さ、流石に…こ、個々の犯罪者の引き渡しとなれば、首相の私でも把握は…」
「ほう…単独ならいざ知らず、10人以上の外国人犯罪者の引き渡しを知らない、と…官憲機関の怠慢ですかな?」
「さ、さぁ…ひ、必要とあれば、ちょ、調査しますが…」
「いえ、どうやら、自治政府は東ティモールやヤンキーの件で忙しい御様子…総督権限を使い、此方で調査します」
リヴェン総督の言葉に思わずカーティン首相は立ち上がる。
「おや、何か困りますかな? なにせ、これは重要な外交問題だ。不法占拠しているヤンキーが権限も無く拘束したフランス領下の日本人や日系人をチャイニーズ系と偽って、更に犯罪者としてオーストラリア官憲に引き渡した…『邦人の奪還保護』の名目で軍事行動をおこされても文句は言えない案件ですからな」
目が笑っていないどころか、絶対零度の視線をカーティン首相に向けるリヴェン総督。
「カーティン首相…本国は来たるべき反攻作戦の為、エジプトなどで緒戦で壊滅した戦力の立て直しを行なっております。故にインド以東の『後方地域の安全確保』は必須事項…だからこそ、本国は日英同盟の復活による、安全確保を選択しました」
一度言葉を区切る総督
「ですが…東ティモールの件は日英同盟瓦解の可能性すらあった。それを日本側が押し留まり、冷静に対処出来たのは…日本の義理堅さもさることながら、アドミラル・プリンス・マツシマミヤが日英両国で作り上げた信頼からだ。故に本国も冷静に対処出来た…もし、今回の件がハッキリした場合、本国が貴方か、マツシマミヤ殿下かと問われれば…スッパリと殿下を取るでしょうな」
この時、カーティン首相は自分の計算が狂ってるどころか、崩壊している事に気付いた。
実際、彼の中ではアメリカの事は置いとくとして、東ティモールの件は本国議会にも居る白人至上主義者達の存在で上手く流し、日本に対しても誤魔化せると計算していた。
だが、フィンランド湾やウェーク島沖で見せた勝利とその人気は劣勢下のイギリスにはエリザベス王女と対を成す存在であり、それもあって東ティモールの案件は『無視出来る案件』ではなく、イギリス議会すら突き動かし、ニューカレドニアなどの案件に対して、『日本への偏重』を生み出す結果となっていた。
「さて…自治政府がヤンキーから何と言われたのか…まあ、勝利したら日本の国連委託領を渡すとか言われたのでしょうが…知りませんが…これ以上は本国政府を含めた連邦構成国の安全保障を脅かしかねない…だから、とっと手を引け」
『こっちが本件で本音だ』と言いたげにジロリと鋭い視線でカーティン首相を睨むリヴェン総督。
「…本国は…オーストラリアを守る気はないのですか?」
「オーストラリア本土侵攻があるとお考えですかな? それとて、本国が日本を抑えているから…と思わんのですかな?」
『最終警告も兼ねている』と言わんばかりのリヴェン総督の言葉にカーティン首相は『そんな筈は無い! 白人が黄色の猿に負ける訳が無い!』と現実逃避の様な事を内心で言い聞かせる。
だが、そんなカーティン首相の現実逃避など霞む程、現状は動いていた。
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